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襲撃から一夜が明けたというのに、ベッドに横たわったまま苦しそうにうなされる蒼星石。

翠星石は、タオルで彼女の額に浮かぶ珠のような汗をふき取ってあげます。
恐らく、妹を心配するあまり一睡もしてないのでしょう。
目の充血は、涙だけが原因ではありません。

そんな疲れきった表情の翠星石へ……真紅は暖めたミルクを手渡しながら言いました。
「私が見ておいてあげるわ。あなたも少しは休んだらどうなの 」

「やです……蒼星石と一緒にいるです…… 」
翠星石は眠そうに目をこすりながらも、ふるふると首を横に振ります。
「全く……こんな時だからこそ
ため息を付き、それから真紅はそっと、蒼星石の傍を離れようとしない翠星石に毛布を差し出しました。

「……真紅は優しいですね…… 」
小さな声でそう言うと、翠星石は蒼星石の手を握ったまま、ベッドにもたれ掛かり静かに目を閉じました。



外では風が吹き始め、窓ガラスがカタカタと揺れる音だけが真紅の犬耳に聞こえてきます。

「……恐れていた事態が……ついに起こってしまったのね…… 」
真紅は誰に言うでもなく、小さくそう呟きました。




     ◇ ◇ ◇  け も み み ☆ も ー ど !  ◇ ◇ ◇ 



 
蒼星石に寄り添うように眠る翠星石と、その姿を見つめる真紅。

そんな彼女達の居る場所から少し離れた場所で……―――



「うふふふふ………本当に素敵 」
水銀燈は病院の給水所で、鏡に映った自分の姿を嬉しそうに眺めていました。

彼女が見つめるのは、自分の頭の上でピコピコ動く、蒼星石から奪い取った猫耳。

「こんなに可愛い姿見せられたら、めぐだって……ふふふ…… 」
 『水銀燈、素敵!あなたの可愛い姿をもっと見るために、手術を受けて長生きするわ!』
「なぁんて事に……ふふ…うふふふ…… 」

頭の上で猫耳をくるくるさせながら、水銀燈は幸せの予感に笑みを漏らしてしまいました。
ですが、鏡に映った自分のニヤニヤした顔を見て……小さく咳払いをします。

―――楽しそうにデレデレしちゃって……こんなの私らしくない。

自分にそう言い聞かせ、いつものように退屈そうな、「暇だから、仕方無しに見舞いに来てあげたわよ」といった表情を作ります。
それからもう一度、鏡で自分の姿を確認して……
水銀燈は冷たい病院の廊下を、めぐの居る病室へと歩き出しました。

いつもなら、歩くたびに靴音がカツカツ鳴るのですが、今日は何故か鳴りません。
水銀燈はすぐにそれに気づき……
「ふぅん……そう言えば、猫って足音しないって言うわねぇ……」
と思いましたが、それ以上は深く考えずに歩き続けます。

この時……自分が猫耳のせいで、猫の習性が身に付きつつある事に気付いていれば……あんな事には…… 



「水銀燈……その頭……どうしたの? 」

自分の姿を見るなりびっくりした顔でそう言ってきためぐに、水銀燈は内心ガッツポーズをとりました。
ですが、顔色一つ変えずに、いつもと同じような態度を心がけます。

「あなた、ずぅっと入院なんかしてるから、何にも知らないのねぇ?
 世間では今、コレが流行ってるのよぉ? 」

実際、獣耳っ子なんて一部のアレな人にしか流行ってません。
ですが、めぐは水銀燈の言葉をすっかり信じてしまいました。

「へぇ、そうなんだ……知らなかったな……でも、水銀燈が付けてると本当に可愛いわね 」
「そんな当たり前の事、お世辞にもなってないわよぉ? 」

何気ない雰囲気を装いながら、水銀燈はいつものように見舞い人用の椅子に手を伸ばします。
椅子を引き、座ろうとしたのですが……座れませんでした。

―――こんな冷たい椅子より……めぐが寝ているベッドの方が、暖かくて居心地が良さそう。

本能の叫びが、声なき声が、頭の上の猫耳を通して脳天を直撃したのです。


「どうしたの?水銀燈? 」
「………え? 」

めぐの声で、自分がじっとベッドを見つめていた事に気付いた水銀燈は……
「な…何でもないわよ……ただちょっと……椅子が汚れてて…… 」
ちょっと慌てながら、そう言いつくろいます。
  
そして、またしても水銀燈の言葉を真に受けためぐは、
本気なのか冗談なのか分からない笑みを浮べながら、ベッドの半分を空けながら言います。
「だったら、こっちに来たら? 」

水銀燈は……今までの人生で一番、頭をフル回転させながら考えます。
「……… 」
正直、暖かそうなベッドの誘惑は大きい。
「……… 」
かといって、このまま「それじゃあ……」なんてのは、どうも違う。

この身が裂かれるのではという程、悩みに悩んだ末に水銀燈が選んだ答えは……

「……汚れた椅子なんてまっぴら御免だし、そこまで言うなら……全く……仕方がないわねぇ…… 」
嫌々、といった表情を作りながら、めぐのベッドの半分に座る事でした。

一日中をベッドの中で過ごさざるを得ないめぐ。その暖かい布団。
水銀燈は思わずゴロゴロしたい衝動に駆られますが、そこはグッと堪えます。

―――そんな事をしたら、二人の関係の主導権を……めぐに持っていかれてしまう。

自分をキツク戒めながら、ベッドの上にちょこんと座ります。
それから、「今日はやけに冷えるわねぇ……」と言いながら、めぐの掛け布団を自分の方に引っ張りました。

「そうかな? 」
めぐはやけに機嫌を良くしながら、頭の上の猫耳を触ろうと手を伸ばしてきます。

その手をペシッと払いながら、水銀燈は……
―――予定通り、めぐは食い付いてきた。この作戦に間違いは無かった。でも……何かが違う気がするわねぇ……。

暖かいベッドの上でめぐに喉を撫でられながら、そう考えずにはいられませんでした。 


―※―※―※―※―


水銀燈が激しい葛藤の嵐を内心に吹き荒らしている頃……

巴は一人、学校からの帰り道を歩いていました。

背には竹刀。右手に学校の鞄。左手には、雛苺が大好きな苺大福。
今日の今日とて、大好きな雛苺に会いに行く気です。

―――きっと私の顔を見るなり、雛苺は見事な三段跳びで飛び付いてくるだろう。 

想像するだけでも、自然と笑みがこぼれ、優しい気持ちになれます。

そんな風に、雛苺の事を考えながら巴が道を歩いていると……

「おやおや。お嬢さん、そんなに急いで何処へ行こうというのですか?」

不意に、背後から声をかけられました。
変質者か!と、巴は背中の竹刀に手を伸ばしながら振り向きます。
ですが、声をかけてきた相手は……眼鏡をかけた男は、ニヤニヤと笑みを浮べたままこちらを見るだけです。

やっぱり変態だ。
巴がそう判断し、無視してさっさと帰ろうとした時です。

男は懐から一枚の名刺を取り出し、自己紹介を始めました。

「私は白崎と言います。仕事は……あえて一言で言うなら……そう、ロマン、ですかね 」
勝手に喋りながら、白崎は持っていた鞄を巴の前に広げ、その中身を見せてきます。
  
「……私、急いでますので 」
巴はそう言い、踵を返して立ち去ろうとし……目の端に、一つの手袋が目に留まりました。

その一瞬の仕草を見て取ったのか、白崎はその手袋……真っ白なクマの手みたいな手袋を手に取ります。
「ほう……これはお目が高い。
 これは不思議な手袋でして……――― 」

しつこく売り込みをしてくる怪しげな男に対し、心の底から早く逃げるべきだと警鐘を聞こえてきますが……
それ以上に、巴の脳裏には、一つの妄想が浮かんで仕方がありませんでした。


 シロクマ手袋を付けた雛苺が、可愛らしいポーズをとりながら……
 『トゥ・モ・エー!』


口元を押さえながら、巴は頬を赤らめ呼吸を荒くします。

「……やだ……雛苺…可愛い…… 」 




 

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