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「……駄目……いけない……待ちなさい…………待って!ホーリエ!」
真紅は自分の声で夢から覚めた。
周囲を見渡し、いつの間にか自分が屋敷の自室のベッドまで戻っている事に気が付く。

「確か……私は……」
屋敷に戻る途中で、サンタのソリを敵機と勘違いした戦闘機に襲われ……
ソリに搭載されていた支援AI・ホーリエによって、無理やり脱出させられ……そして……

徐々にハッキリしていく記憶。
深い悲しみで心が締め付けられる感覚。

真紅は布団を強く握り締めながら……自らを盾にして空に散った大切な相棒を悼んだ。
暫く、彼女はベットから降りず、ただ一人で沈黙を貫いていた。

そして……

「起きてるかい、真紅……」
ノックの音と共に彼女の父が部屋に入ってくる。
いつもと同じように、背中から強力なライトを照らし、顔をぼやけさせた父が。

「お父様……ごめんなさい……お父様から頂いた大切なソリを……私は……」
「こちらも急いで駆けつけたのだが……間に合わなくってすまなかった」

たったそれだけの短い親子の会話が交わされた後、再び部屋の中には沈黙が舞い降りる。

真紅は暫く目を瞑り……そして、父に向けていた視線を窓の外へと向けた。
夕日が沈み始め、空は赤く染まり始めている。
 
「……お父様……今日はいつですか?」
真紅は窓の外を眺めながら、小さな声で尋ねる。
「25日だ。もうすぐ……クリスマスも終わってしまう……」
先代のサンタクロースでもあった彼女の父は、寂しそうな声で娘にそう答える。

だが、真紅は父の言葉を聞いた後……ベットから降り、部屋の外へと向かおうとした。

「……どこに行くんだい、真紅」
「お父様……クリスマスはまだ終わってはいません。
 それなら……例えソリは無くとも……私はサンタクロースとして最後まで……」

そう言い、父の横をすり抜けて部屋の外に出ようとした真紅の肩に、不意に手がぽんっと置かれた。


  ―※―※―※―※―


数多くのソリが……初代サンタクロースが使った不思議なソリから、科学の粋を集めたソリまで。
その全てが陳列されている屋敷の地下室で、真紅は父の後に続き歩いていた。

「お父様……ここは……」

真紅が何かを言おうとするが、父は振り向かず歩き続ける。
そして、自らが使っていたソリ……ステルス戦闘機型のソリの隣。
大きな布を被せてある、2メートル程の山の前で立ち止まった。

「ひょっとして……新しいソリを?」
真紅は父の横に並び、小さな山を見つめる。
だが……父は静かに首を横に振ると、真紅の頭を撫でながら口を開いた。
 

「サンタクロースに必要なのはソリだけかな?もう一つ……忘れてはいけないものがあるんじゃないのかな?」


真紅は、相変わらずライトの光で顔はよく見えないが、それでも楽しそうに微笑んでいる父の手を離れ……
一歩足を進め、何かを覆っていた大きな布をはがし取った。

「こ…これは……!」
彼女の目の前に現れたのは、未知の金属で覆われ、巨大な角を持ち、見るものを圧倒するトナカイ型ロボット。
見るとその鼻は赤くチカチカと点灯している。
「赤鼻のトナカイ……まさか!」

真紅は赤く光るトナカイの鼻へと手を伸ばす。
背後からは、父の声が聞こえてくる。

「……最後の瞬間にホーリエは自分のバックアップを僕に届けてたんだ。
 本当なら来年のクリスマス用にと思ってたから、無骨なデザインのままだけどね」

「ホーリエ!貴方、無事だったのね!」
真紅は金属製のトナカイの首に飛び付き、思わずそう叫ぶ。
サンタ支援AI・ホーリエも、主人の無事と再会を喜ぶように、トナカイの鼻でピカピカ赤く光らせた。

真紅は、真新しい赤の上着に腕を通す。胸元で緑色のリボンを結ぶ。ふわふわの付いた帽子をきゅっと被る。
そして自らの相棒、支援AI・ホーリエが搭載された機械のトナカイにまたがると……叫んだ。

「さあ!世界に……子供達に夢を届けに行くわよ!

声を受け、トナカイに内蔵された二基の縮退炉が稼動を始める。
あふれ出んばかりのエネルギーは、角の先端からもパチパチと電気となり弾ける。
主人の命を受けた支援AI・ホーリエが全方位バリアーを周囲に展開される。
そして……ヒヅメ型の噴射口から炎が迸り、トナカイは垂直飛行を開始する!

「遅れた分を取り戻さないといけないわね……急ぐわよ!」
その言葉と同時に、トナカイロボは雷光が如くの勢いで銀世界の空へと飛び立った。


  ―※―※―※―※―



所変わり、極地に近い場所に存在するとある国家の駐屯所。
戦闘機のパイロットである槐は、自らの娘とその友人を前に難しい表情をしていた。

「薔薇水晶……僕達が撃墜したあの謎の飛行物体。あれは……何だと思う?」
「…………」
彼の問いかけに、薔薇水晶は答える言葉を持たない。

「雪華綺晶、賢い君のことだ。あれが何なのか分かってるんじゃないのか?」
槐は質問の相手を、今度は娘からその友人へと変える。

だが……雪華綺晶は少し微笑みながら答えをはぐらかすだけだった。
「さあ?私にも知らない事はありますわ。でも……あれの正体は、きっと貴方が考える通りなのでしょう」

「僕の?」
槐は小さな声で、何かを考え込むように呟く。
(僕の考えている通りだとすれば……あれは……間違いなく、本物の……)
だが……
彼がそれ以上思索に耽る時間は無かった。
 
けたたましく鳴るサイレン。
何者かが国境を違法に越えて来たことを知らせる放送。
白崎がわざとらしく困った表情を作りながら、出撃を要請してくる。

「二度目だ。何か……確信に至るような証拠でも掴んでみせないとな……」
槐は呟きながら、自らの戦闘機に搭乗する。
隣の滑走路では、薄紫色のカラーリングが施された戦闘機に乗る薔薇水晶と、純白の機体に乗り込んだ雪華綺晶。
僕と彼女達なら、どんな相手でも……例え伝説のサンタクロースでも、捕らえてみせるだろう。

槐は少し複雑そうな表情を浮べた後……離陸の準備へと移った。



  ―※―※―※―※―



真紅は前回の教訓を生かし、トナカイの高度を上げて空を飛ぶ。
これでは当然のように見つかってしまうと支援AI・ホーリエも警告するが……
「彼らはサンタを撃墜したのよ?お仕置きが必要なのだわ!」
そう言い真紅は一歩も譲らない。

やがてトナカイロボは、真っ赤な鼻をピカピカさせながら、主人である少女に敵の襲来を知らせる。
空飛ぶトナカイの背に乗りながら、真紅も遥か遠くへ視線を向ける。

そして……特徴的なカラーリングのなされた三機の戦闘機が、編隊を組みながらこちらに向かってくるのが見えた。
 

「ホーリエ!今回は手加減抜きよ!かといって、ミサイルもメガ粒子砲も無しよ!」
真紅はトナカイの首にしがみ付きながら、自らが考えた作戦を支援AI・ホーリエへと伝える。
「出来ない?何を言ってるの?貴方それでも、この真紅の家来なの?いいからやってみなさい!」
支援AI・ホーリエは、困ったように鼻を光らせるが……やがて意を決したのか、動き出した。

今までとは全く異なり、攻撃が当たらないどころか肉眼で動きを追えない次元まで達した、真紅達の動き。

それを見せ付けられ、驚いている一機……薄紫の戦闘機の翼に、トナカイは『ゴー!ガシャン!』と取り付く。
そして、真紅はトナカイから降り、飛んでいる飛行機の翼の上を歩き……
背負った大きな袋から取り出したステッキを操縦席の上部を覆うガラスの根元に突き刺す。
よいしょ、とテコの原理で上蓋を外し……真紅は呆然とこちらを見る、眼帯をつけたパイロットへ話しかけた。

「ええっと……確か薔薇水晶ちゃんね……『ちゃん』付けされるには、ちょっと大きいけど。
 本当なら、子供にしかプレゼントはしないのだけど、特別に貴方にはこれをあげるわ」
そう言い、目をパチクリさせている薔薇水晶に、袋から取り出した大きなぬいぐるみを真紅は渡す。

そして……

「落とさないよう、しっかり持ってなさい」
そう言うとステッキの先で、操縦席の中に備えられている『緊急脱出』のボタンをポチっと押した。

大きなぬいぐるみを抱きしめながら、座席ごと空高くまで打ち上げられる薔薇水晶。
パラシュートでゆっくり降りていく彼女の姿を眺めながら……真紅は微笑んでトナカイの背中へとよじ登る。

「さあ、残るはあと二人ね」

 
  ―※―※―※―※―
 

幸せそうな表情でぬいぐるみを抱きしめながら、いきなり脱出装置を使った薔薇水晶。
「え?私にプレゼントを?まあ!こんなに沢山?本当にですか?ふふふ……………………え?」
との通信を最後に、苺の乗った巨大なホールケーキを抱えて脱出した雪華綺晶。

その光景をただ呆然と見つめていた槐は……声を震わせながら、小さな声で呟いた。

「まさか……あの少女は本物のサンタクロースだというのか……?」

いや、本当は心のどこかで確信していたのかもしれない。
だが……最早完全な大人である彼には……サンタの存在をそう簡単には信じ切れなかった。

「愛する娘の仇……刺し違えても貰い受ける……!」
薔薇水晶はちょうど、地上でぬいぐるみを片手に空戦を見つめているのだが……勢いづけるため、槐は叫ぶ。
そして、両翼に備えられたミサイルの発射ボタンを押し……
放たれたミサイルが、トナカイとその背に乗る少女に当たるかと言う瞬間!

不意にトナカイも、少女も、姿を消した!

槐は目を見開き……そして、パイロットとして一流以上の腕を持つ彼の動体視力は、空に漂う『それ』を見た。
「ホログラム発生装置……いや……飛び出す絵本だと!?」

騙されて立体映像を追いかけていた事に気付き、槐は今更ながらもレーダーと肉眼、全てを使い周囲を探る。
だが……空を飛ぶ物は自分以外に何も無い。
 
そんな訳は無い。どこかに居るはずだ。
槐は諦めずに周囲の索敵を続け……その時、戦闘機の無線に何者かが割り込んできた。

『本当なら、貴方にもプレゼントをと思ったのだけど……必要なさそうね。
 だって貴方には、あんなに可愛らしい娘が居るんですもの。
 子供の幸せな笑顔。これ以上に素敵なものは、どこにも……サンタの袋の中にすら存在しないわ。
 ……娘さんの笑顔を守るためにも、もう引き返しなさい』

槐はその通信を聞き……深いため息を付くと、操縦席の足元にヘルメットを投げ捨てた。
無性に外の新鮮な空気が吸いたい。無性に薔薇水晶を抱きしめてやりたい。
そう思い、彼は空へと視線を向ける。

彼が見たのは、月明かりを背景に長い一本の線を引きながら空を突き抜けるトナカイと、その背に乗る少女。

幻想的に舞い上がる奇跡の赤。サンタクロース。
「……美しい……」
無意識の呟きが、槐の口から漏れた。



  ―※―※―※―※―


 
「ふふ……少し遊びすぎたわね」
真紅は音速の壁をぶち破って飛ぶトナカイロボの背中で、楽しそうな笑みを浮べていた。

それから、すっと息を吸い込み……気分を真面目なものに入れ替える。

「これ以上はゆっくりしていられないわ!
 ホーリエ!ワープよ!……出来ない?そうね。流石にワープは無理があったわね」
真紅は握っていた手綱から手を放し、トナカイの首にしがみ付く。
「それなら、めいっぱい飛ばしなさい。でも……私を振り落としたりしたら、次こそは容赦しないわよ?」

トナカイは鼻をピカピカ赤く光らせると、音も…空気も…全てを遥か後方へと置き去りにする速さで空を駆ける!

やがて見え始めた街の明かりへと、一人と一機は吸い込まれるように消えていった。


  ―※―※―※―※―


「白崎……あの飛行物体はサンタクロースだ。僕達の敵になるような存在ではないよ」
薔薇水晶と雪華綺晶を連れ、基地へと帰還した槐は……
数多くのモニターの置かれたコントロールルームで、白崎と向かい合っていた。

「ほう、サンタ?これは奇妙な事をおっしゃる。
 サンタの存在という夢が現実なら、今こうして話しているのも、あるいは夢なのでしょうか。クックック……」
白崎はおどけたように両手を広げ、何が楽しいのか自身の言葉で肩を震わせる。

「言葉遊びをしている訳じゃない。彼女は本物のサンタクロースだ」
ふざけた態度で接してくる白崎に槐は苛立ちを感じながらも、それでも落ち着いた声で伝える。
 
だが……
小さく笑っていた白崎は不意に笑いを止めると……小さな声で呟きだした。
「サンタ。聖なる夜。クリスマス。………トリビァル!
 商業主義に踊らされ、まるで三月兎のように人は踊り狂う。
 これほど滑稽な芝居はありません!」
白崎の声は、終わりへ近づくほど大きく……そして狂気を帯び始める。

「……サンタクロースと知っていて、僕達に攻撃させたのか」
「おや?何か問題でも?サンタを撃墜した男。その称号には素晴らしい価値があるのです」
槐が何を言っても、白崎は役者のように両手を広げたまま戯言を続ける。

狂気に支配され、変わってしまった友人へと、槐は再び言葉を投げかけようとするが……
その時、二人の間に雪華綺晶が歩み出た。

「……可哀想。
 貴方が本当に憎くって殺したかったのは、サンタではなくクリスマスそのもの。
 でも……貴方の心は、本当は誰よりクリスマスに期待を寄せていた……」

雪華綺晶は白崎の目を真っ直ぐに見つめたまま、さらに言葉を紡ぐ。
「期待と絶望……夢と現実を何度も…何年もグルグルと繰り返して……貴方の心は歪んでしまった」


いつの間にかその表情から笑みを消した白崎は、雪華綺晶の言葉に耳を傾けていた。
そして……
「ほう。……しかし、それならまだ間に合うかもしれません。
 どうでしょう、美しいお嬢さん。私とダンスでも……」
その口の端に再び笑みを浮べると、自らの前に立つ雪華綺晶へと片手を差し出す。

その瞬間!
終始無言を貫いていた薔薇水晶は「……ざざむし」と呟きながら槐の背にしがみ付いた!
短めのスカートをはいている雪華綺晶は、もの凄く嫌そうな顔をしながらフトモモを両手で隠した!


言葉より露骨な態度で「NO!」と伝えられた白崎(ザザムシ)は……
目元を隠すように、片手で眼鏡を上げ……諦めと悲しみの混じった声で呟く。

「やはり……クリスマスなどという滑稽な茶番劇では……爆破オチが無難かと……」

その言葉の意味を計りかねた三人は、一瞬反応が遅れる。
その隙に……白崎は世界に破滅の炎を広げるスイッチへと手を伸ばしていた。



  ―※―※―※―※―



ベッドの上でスヤスヤ眠り、地震が来ても置きそうにない女の子の枕元に、真紅は苺詰め合わせを置いた。

「……小さな苺を欲しがるなんて、随分と独創的な子ね」
そう言い、相変わらず眠ったままのオディールの髪の毛をそっと撫でる。

そして真紅は入ってきた時と同様、窓から外へと抜け出し……
ヒヅメのバーニアで垂直飛行していたトナカイの背中に飛び乗った。

懐から時計を取り出し、時間を確認する。
「もうすぐクリスマスも終わってしまうわね……」
12時の所で重なり始めた針を見つめながら、真紅は少し寂しそうに呟いた。


『とても難しい仕事だが、とても遣り甲斐がある』
サンタの仕事を引き継ぐ前に父がそう言った理由が、今の彼女にはとても良く理解できた。


そして全てが終わった今になって、真紅は長い間自分が何も食べず……大好きな紅茶も飲んでない事を思い出した。

「さあ、帰りましょう。ホーリエ」
真紅の言葉で、トナカイが足から炎を噴き出しながら上昇する。

そして、極地近くにある屋敷へと帰還するため加速を始めようとした時……
サンタ支援AI・ホーリエは、一つの通信を傍受した。
迷わずスピーカーの電源を入れ、その内容を主人である真紅にも聞かせる。

「こちら……、基地……、聞こえてい………、核ミサイ……、サン……、応答をしてく……」
途切れ途切れではあるが、間違いなく例の戦闘機のパイロット……薔薇水晶の父の声。

真紅は何かただならぬ雰囲気を察し、その通信に答える。
「こちらサンタよ。どうかしたの?」

「ああ……やっと繋がった……よく聞いてほしい。
 基地の将校が反乱を起こして、今、君が居る街にむけ核ミサイルが発射されてしまった。
 既にその国へは退避を呼びかけてはあるが……恐らく……間に合わないだろう……」

「何ですって!?」
真紅はあまりの出来事に、口を押さえながら叫ぶ。

「犯人はもう捕らえてあるのだが……こちらにはもう、これ以上に止める手段は無い。
 ……本当にすまない。
 せめて……君だけでもその空域から急いで脱出して欲しい。
 サンタクロースは世界の希望だ。……こんな形で失う訳にはいかない」
 
「それで……私が逃げたとして……この街はどうなるの……?」

「……僕の誇りにかけても……全力で復興支援をすると……」
「ふざけないで!」

真紅は大きな声で槐の言葉を遮った。

「サンタは世界の希望?いいえ、それは間違いなのだわ。
 世界の希望はね……サンタでも、クリスマスの奇跡でもないわ。……子供達の夢に溢れた笑顔。
 それこそを、誰かは希望と呼ぶのよ!」

真紅は通信を切り、トナカイに向け声を張り上げる。
「ホーリエ!街に着弾する前に、私たちで何としても海の上で止めるのだわ!!」

主人の決意に応じるように、トナカイは鼻を赤く、力強く光らせる。

「サンタを信じてくれた子供達と……かっては子供だった全ての人の為に……行くわよ!」

脚部ブースターが炎を噴かせ、トナカイは空高くまで上っていく。
そして……人類の希望を詰め込んだ袋を背負い、空を突き抜ける真紅の姿は……幻想的な赤い一本の線に見えた。

雲が、風が、全てが、追い風となり彼女の背中を支える。
空往く鳥も、海に生きる魚も、人も。全ての生命の鼓動を感じながら、真紅は空を駆け抜ける。

そして……
太平洋の上空で止まった彼女は……禍々しい、世界に永遠の冬をもたらす悪魔の兵器の姿を見た。

真紅は目を瞑り……心を決める。
 

  ―※―※―※―※―

その頃、世界中のいたる所では……

  ―※―※―※―※―


隙間風が吹くボロアパートの一室で、金糸雀はみっちゃんと小さなケーキにロウソクを立てていた。

「ごめんね……借金がいっぱいで、クリスマス終わっての特売ケーキしか買えなかったけど……」
「そんな事ないかしら!カナにとっては、みっちゃんと一緒に過ごせるのが一番嬉しいクリスマスかしら!」
申し訳無さそうに呟くみっちゃんと、元気に答える金糸雀。

そして……金糸雀は窓の外、今にも降って来そうな星空を眺めながら、小さく呟いた。

「サンタさん……みっちゃんを助けてくれて……本当にありがとうございますかしら……」

  ◇ ◇ ◇

雛苺は、夕べ遅くまで剣道の練習をしていて風邪を引いてしまった巴の看病をしていた。
「そうだ!トモエ、ヒナが良い物あげるのよ!」
そう言い、横になった巴の枕元に、30キロはありそうな苺大福を引きずってきた。
「一緒に食べてお腹いっぱいになれば、きっと風邪なんてすぐに治っちゃうの!」

無邪気に笑う雛苺の姿に……巴も、風邪のせいではなく…こう、心が温かくなった気がした。

  ◇ ◇ ◇
 
仲良く隣りあって座りながら、翠星石と蒼星石はピカピカに光る如雨露と鋏の手入れをしていた。
そこでふと、翠星石が顔を上げる。

「そう言えば……変な事言ってるなんて思ったら駄目ですよ?
 昨日、不思議な夢を見たですぅ。なんだか、こう……とっても素敵な乗り物で、空をびゅーんと飛ぶ……」
「え?翠星石も?
 実は、僕もなんだ。……ふふ、何だか不思議だね。姉妹して同じ夢を見るなんて……」
「双子なので、不思議でも何でもないですぅ!夢の世界でも、翠星石と蒼星石は一緒なのですよ!」

そう言いじゃれついてきた翠星石と、ちょっと恥ずかしそうな笑顔を浮べる蒼星石。
仲の良さそうな姉妹の声が、時計店の外にまで響いていた。

  ◇ ◇ ◇

「ジュン君、いいなぁ……お姉ちゃん、何にも貰えなかったのに……」
「天然ボケの所にはサンタは来ないんだよ。お茶漬けのり」
棚に飾られた真新しいミニカーを見つめる姉と、そんな姉を見つめる弟。

「あーあ……お姉ちゃんも『敏腕女弁護士風スーツ』欲しかったな……」
残念そうにため息をつきながらそう言う姉に、ジュンは背中を向ける。
「何だよ……そんな物なら、僕でも作れるじゃないか……」

ぶっきらぼうにそう呟くジュンの背中を見ながら……
のりは、不器用だけととても優しい弟が居てくれた事を、両親と世界に感謝した。

  ◇ ◇ ◇

すやすや眠るオディールは、まだまだ夢の中。
でも……とっても可愛らしい苺の妖精さんと遊んでいる夢でも見ているのか、その寝顔はとても幸せそうだった。
 


  ―※―※―※―※―



真紅は閉じていた目をゆっくりと開き……空を砕きながら迫る核ミサイルを真っ直ぐに見つめた。

「皆が私を……サンタを信じてくれたように……私も、私のサンタを信じるわ……」

確かに、現在のサンタは彼女だが……
彼女にとってのサンタは、先代の…つまり、彼女の父に他ならない。

異常とも思えるオーバーテクノロジーを駆使し、それでいて、科学の雰囲気をぶち壊すギミックを詰め込んだ父。
そんな人物だからこそ……絶対にやってくれている。

真紅は空高く拳を突き上げ、そして、何の迷いも無い眼差しで、叫んだ。

「来なさい!!」



その時……遥か彼方の極地に存在する彼女の屋敷。
巨大な壁が揺れながら開き……黒、黄、緑、青、ピンク、白の6本の光が空目掛けて飛び出した!
それは、初代サンタクロースが従えていた7匹のトナカイを模したサンタ支援ロボ。
リーダー機である『赤鼻のトナカイ』と、主人である少女サンタ目掛けて、亜高速で空を突き抜ける!



真紅は、こちらに近づく光の矢を一瞥すると、支援AI・ホーリエに指示を出した。
「さあ!本気で行くわよ!」
 

同時に、支援AI・ホーリエ搭載の赤鼻のトナカイロボが、足のパーツを切り離す!
迫る6匹のトナカイロボも、空中で変形を繰り返しながらこちらに近づき……
二体がその体を左右の足へと変形させる!
緑と青の瞳のトナカイロボ二体が、両腕へと姿を変える!
白いトナカイが胴体部分へ、黒いトナカイが巨大な翼に変形!
そして……頭部に変形した赤く光り輝く支援AI・ホーリエ搭載機がそれらの上に降り立ち……
巨大ロボの全身は、熱と化学反応で白と赤の織り交ぜられた色になる!

究極にして至高のサンタ支援巨大ロボ『ALICE』が太平洋上に光臨した!


「nフィールドバリア展開!一気に押し返すのだわ!」
肩に乗った真紅の号令で、巨大ロボは全身に恒星爆破ですら防ぐバリアーを張り巡らせ、核兵器へと突き進む!

「ホーリエ!スーパー大車輪バーニング絆パンチよ!」
少女サンタの声に呼応するように、巨大ロボは固めた拳を核ミサイルの弾頭にぶつける!

拳の先に張り巡らせたバリアーと、ミサイルがぶつかり合い、摩擦で小さな空間に稲光が生じる。
だが……これほどのオーバーテクノロジーを搭載していても……一度放たれたミサイルは止まらない。

それどころか、ミサイルの圧倒的な質量により……流石の巨大ロボも、ジリジリと押され始める……。
 
「ホーリエ、周囲に張り巡らせたバリアーを解除なさい。
 そして……全てを持ってして、ここでミサイルを止めるのよ!」

真紅の指示に従い、ホーリエは持てる全てを、巨大ロボの腕へと送る!

核ミサイルが、バキバキと音を立てて砕け始める!
同時に、バリアーが解除された事により、周囲の熱風や衝撃波が真紅に襲い掛かる!



「……世界に……子供達に……夢を……!」





その日……宇宙からでも観測できる程の巨大な爆発が、太平洋上で確認された……。





 

  ―※―※―※―※― 



一年後……――― 


銀色の長い髪を揺らす、水銀燈という女性は一枚の写真を眺めていた。

『柿崎めぐ』
こんな年端もいかない子供が……心臓病の新薬と騙され、細菌兵器のモルモットにされようとしている。
その事実に……水銀燈は心の底から、怒りを感じていた。

だが……自分一人では、めぐを助ける事など出来る訳が無い。
それでも諦めきれない水銀燈は……細菌兵器の実験を行うビルの前に一人で立っていた。

玉砕覚悟で、単身突入するべきか?いや……それは、ただ死に急いでいるだけ。
迷いと焦燥感が、水銀燈の胸中に広がる。

その時不意に、ビルの中から一人の少女が現れた。

水銀燈は手近な場所に身を隠し、その少女……真っ赤な服を着て、ふわふわの付いた帽子を被った少女を観察する。
すると赤服の少女は、背負った大きな袋に手を入れると……
そこから「よいしょ」と、小さな女の子を……めぐを取り出した。

隠れたまま呆然とする水銀燈と、やっと袋から出れたといった表情のめぐ。
次の瞬間!
ビルは爆発を繰り返しながら崩壊を始める!

そして赤服の少女は、爆風でスカートを揺らしながら……燃え盛るビルを背景に、やわらかな笑顔を浮べた。 


「メリークリスマス」 






 
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