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真っ赤な服に、胸元の緑リボン。ふわふわの付いた赤い帽子を被った真紅は……
とある民家の子供部屋の窓に張り付いていた。

「……まあ、子供を想う親なら、これ位はするでしょうね」
窓の端、目立たぬ場所に付けられた防犯装置を睨みながら呟く。
やがて真紅は、背中に担いだ大きな袋から取り出したキラキラ光る粉を……防犯装置へとふりかけた。

真紅がかけたのはオーバーテクノロジーの産物、全ての機械を一時的に停止させる特殊なジャマー。

防犯装置が無効化されたことを確認すると、彼女は懐からパーティーで使うような大きなクラッカーを取り出す。
そして、三角錐のそれを窓に向けると……ポン!と引っ張った。

見た目に反して随分と控えめな音を立てたクラッカーは別にパーティー用ではない。
その証拠に、クラッカーを向けられていた窓には……
スプーンですくわれたアイスクリームのように、真ん丸い穴が空いていた。

真紅はガラスに空いた穴から手を入れ、かかっていた鍵を外すと、音も無く部屋へと侵入する。
「……サンタさんが来てあげたわよ……」
起こす訳にはいかないので、小声で。それでも一応、そう挨拶をしておく事にした。
何故なら……そうしないと、強盗にしか見えない侵入方法だから。

真紅はベッドの上で毛布に包まっている少年の枕元に、そっと車の模型を置いてあげる。

「メリークリスマス、ジュン……」
小さな声でそう言い、少年の髪をそっと撫でて……
真紅はスカートを翻しながら、入ってきた時と同様、窓から外へと出た。

部屋の中に残ったのは、何も気付かず眠る少年と、ピカピカのミニカー。
あと……丸く切られた窓から吹き込む隙間風だけ。
 


「さあ、次の子は誰かしら?」
真紅は楽しそうに言いながら自分専用のソリ……
オーバーテクノロジー満載の、バーニアで空を飛び、ミサイル等の武装を搭載し、人工知能を備え付け、
さらには全方位バリアーまで展開する最新式のソリの座席に腰掛けていた。

真紅の声に反応してサンタ支援AI・ホーリエが、世界中の子供の中から抽選を始める。
やがて、サンタから直接プレゼントを貰えるという幸運を手にした子供を、モニターに映し出した。

「こんどの子は……双子なのね」
真紅はモニターに移された二人の少女の姿を眺めながら期待に胸を膨らませる。
ま、実際には彼女の胸は限りなくまな板に近いのだが。


  ―※―※―※―※―


真紅は次にプレゼントを渡す相手の家へと向かい、ソリを走らせる。
あまりに高速で空を駆けるソリは、音速の壁を越え、周囲にソニックブームを巻き起こす!

これが地表スレスレなら、甚大な被害が予想される所だが……
あいにく彼女のソリは、成層圏ギリギリまで上昇している。
当然、オーバーテクノロジー満載のソリを阻むものは何も無く、彼女はまさに赤い彗星の如くに空を駆け抜けた。


やがて真紅の乗る最強のソリは高度を下げ……眼下には街の光が煌くのが見え始める。

「さあ!世界に夢を届けに行くわよ!」
彼女が声を上げると同時に、サンタ支援AI・ホーリエはソリを目標の家へと降下させ始めた。

 
  ―※―※―※―※―


『柴崎時計店』と書かれた看板を掲げた、店舗も兼ねた家の前で、真紅は大きな袋を背負いながら立っていた。

「出来れば今度は、もう少しスマートに行きたいわね……」
そう呟きながら、真紅は袋の中に手を入れる。
そして、彼女が手に取ったのは……プッチンプリンみたいな物体。

真紅はパッケージを空け、お皿に……ではなく、家の鍵穴の上に垂直にプリンの容器を押し付ける。
そして……容器の底についていたプッチン部分を、プチっと折った。

  ◇ ◇ ◇

その時、鍵穴では!
プッチン部分のスイッチを押された事により、プリン型ナノマシン集合体は活動を始めた!
ナノマシン(プリン)は、その柔らかな特性を利用し、小さな鍵穴に滑り込み……内部で錠を回転させる!

  ◇ ◇ ◇

『カチッ』と鍵が開いた音を確認すると、真紅は音も無く柴崎家に進入し……静かに、子供部屋へと進みだす。

見るからに古い家屋ではあるが、彼女は誓って足音など立てていない。
にもかかわらず……

「かーじゅーきー?」
寝巻き姿のお年寄りが、何かの気配でも察したのか、何か呟きながら廊下に顔を覗かせた!
 

(いけない!見つかった!?)
真紅は咄嗟に、背負った袋に手を伸ばし……
西部劇のガンマンが尻尾を巻いて逃げ出しそうな素早さで、老人の顔目掛けてスプレーを吹きかけた!

すると……
見る見る内に、老人の目は焦点を失い虚ろなものになる。

「貴方は何も見てないのだわ。ただ、夜中に目を覚まして、キッチンへと水を飲みに行こうとしただけ」
真紅は、虚ろな目をした老人に、一言一言、言い聞かせるように呟く。
老人は焦点の定まらぬ視線のままコクコク頷くと……フラフラとキッチンへ向かい歩き出す。

「……これじゃあ、サンタと言うよりSF映画に出てくるスパイね……」
真紅は呆れ声で呟くと、謎の薬が入っているスプレー缶を、背負った袋の中に放り込んだ。


それからは、特にトラブルも無く、真紅は柴崎家の二階……子供部屋の前に辿り着く。
そして、静かにフスマを空け……仲良く並んで眠る双子の枕元まで到着した。

まるで寄り添うように眠る、可愛らしい姉妹。
その姿に頬を緩ませ、真紅は袋からキラキラに光る如雨露と鋏を取り出すと、そっと二人の枕元に置いた。

さあ、次の子供の所へ。
夢を配るサンタとしての仕事を無事に終えた真紅は、そう考え部屋から出ようとする。
と……
不意に、背後から声をかけられた。

「サンタなの……?」

真紅はピタリと立ち止まり、静かに振り返る。
見ると、双子の髪の短い方……確か、蒼星石という名前の子が、目元をこすりながらこちらを見ていた。

「……ええ、そうよ」
真紅は短く答えると……
あまり記憶に残らないように……残ったとしても、夢と勘違いするように、さっさと部屋から出ようとする。
だが、そんな彼女の背中に、蒼星石はさらに声をかけた。

「だったらお願いがあるんだ。……この鋏も返すから……聞いてもらえないかな……?」

真紅は蒼星石のあまりに本気な言葉に……諦めたようにため息を付き、振り返らざるを得なくなってしまった。
そんな少女サンタに対し、蒼星石は横に眠る自分の姉を見ながら語りだす。

「……翠星石にはさ、夢があるんだ。ただ……その夢が突拍子も無いもので……
 姉さんったら、『いつか鞄に乗って空を飛びたい』って言うんだよ。
 だから……鞄は無理でも……
 せめて、その……サンタさんのソリで空を……出来れば、僕も一緒に…駄目かな……?」

真紅はため息を付きながら、蒼星石の問いかけに答えます。
「……もし、貴方の願いを聞き入れたとしても……そこで見たものは全て夢だったとしか記憶されないわ。
 それが……厳しい事を言うようだけど、サンタの掟なの。それでも構わないの?」

真紅は力強く頷く蒼星石の姿に……仕方なく、この双子を空のドライブに連れて行くことにしました。
ただ、そこで最後の……そして最大の問題が一つ。

普通はサンタのソリと言えば、7匹のトナカイが居て不思議な力で空を飛ぶ物。それが、皆の共通見解。
だが、真紅のソリはといえば……
オーバーテクノロジー満載で、脅威の科学力で空を駆け抜け、ホーミングミサイルをぶっ放すようなシロモノ。

「……私のソリは……貴方が考えている物とは、少しだけ違うけれかもしれないわよ?」
真紅には、消え入りそうな声でそう告げるのが精一杯だった。

 
  ―※―※―※―※―


蒼星石に起こされてすぐは、必死に妹の背中に捕まりながら震えているだけだった翠星石は……
目の前に立つ人物がサンタクロースだと知ると、途端に元気イッパイになっていた。

そして、科学を凌駕した科学を搭載したソリに乗ると……ついにテンションのメーターが振りきれた。

「凄いですぅ!最高ですぅ!」

音速を突破して空を突き抜けるソリの座席で、満面の笑みではしゃいでいる。
ちなみに、翠星石とは真紅を挟んで逆側に座る蒼星石は……先程から視線を泳がせっぱなしだ。

「流石はサンタクロースですぅ!こんな凄いマシンに乗ってるなんて、大したもんですよ!」
「……う…うん……サンタさん(?)の……ソリ(?)は凄いね……」

当のサンタクロース……真紅はと言うと……
何となくだが、蒼星石の言わんとしている事が分かる気がして……引き攣った愛想笑いを浮べるだけ。

翠星石は、そんな二人の事は気にする様子も無く、小さな手をうんっと伸ばして正面のパネルをつつきだした。

「勝手に触ったら危ないのだわ」
真紅はそう言い、悪戯好きな子供をたしなめるが……翠星石は不満そう。
そんな頬を膨らませた翠星石に免じて……真紅もちょっとだけ、サービスをしてやる事にした。

「ホーリエ。そうね……何でもいいわ。
 何かこの子達を楽しませる事が出来そうな物があれば、見せてあげなさい」
 
真紅の声に反応し、パネルは赤い点滅を繰り返す。
やがて……サンタ支援AI・ホーリエは、自らが最適と判断した行動を開始する。

『ウィィィン』と音を立て、ソリの前方が開き……そこから数メートルはありそうな長い筒がせり出てくる。
そして……パネルの点滅が徐々に早くなり……全てをなぎ払う、灼熱のメガ粒子砲が火を噴いた!

「………」
「………」
「おお!凄いですぅ!!」

成層圏ギリギリまで高度を上げていた為、メガ粒子砲は宇宙に一本の光の柱を描いただけなのだが……
ただ一人を除いては、とても沈痛な雰囲気が周囲を包んでいた……。


  ―※―※―※―※―


翠星石と蒼星石の二人を家まで送り、先述のスプレーを二人に吹きかけた真紅は……
ソリの座席に座りながら、まだ一言も発してなかった。

目の前に映し出されるパネルでは、サンタ支援AI・ホーリエがチカチカ瞬きながら彼女の指示を待っている。
やがて真紅は……バン!と両手でパネルの両端を掴みながら、彼女にしては珍しく大きな声を上げた。

「ホーリエ!貴方、何を考えているの!?本気で子供がメガ粒子砲を見て喜ぶだなんて思ったの!?」
 
主人であるサンタクロースに怒られ、支援AI・ホーリエは申し訳無さそうにチカチカ光る。
真紅はそれを見て、長いため息をつき……
それから、子をあやす親のような慈愛に満ちた目で、再びパネルに話しかけた。

「サンタの目的はね、子供達に夢を配る事なの。
 そして、貴方の使命は、そのサンタをサポートする事。決して戦闘が目的ではないのだわ」

支援AI・ホーリエは、理解したとでも言いたげにピカピカとパネルを光らせる。

「……良い子ね。
 さあ!次の子供が待つ町に……!」

真紅がそう言い、マニピュレータ内蔵の手綱を握り締めた瞬間。
『くぅ…』と切ない音を、彼女のお腹は鳴らした。

よく考えれば、ずっとサンタ活動に夢中になっていたので、ご飯を食べてない。

「……その前に屋敷に戻って、軽く食事でもとりましょうか」
お腹の音で寝ている子供を起こしてしまうなんて事は想像するのも恐ろしく……それに空腹では元気も出ない。
真紅は指令を変更すると、自らの屋敷の有る極地目指してソリを発進させた。

ソリは流星より速く空を駆ける。
その速度は、地球に存在するどんな物より速く……真紅はあっという間に、様々な国境を飛び越えていった。

やがて進む内に……ソリは彼女の屋敷の近くにある国の領空へと入っていく。
そこで真紅は思い出した。

行きしなに、この国の空軍に出くわした事。
無事に巻いたは良いが……また捕捉されてしまっては面倒だ。

支援AI・ホーリエに指示を出し、真紅はレーダーに捕らわれないよう高度をギリギリまで下げ……
地上に被害が出ないよう、速度もゆっくりしたものにする。

「たまにはこうして、観光気分で空を飛ぶのも悪くないわね……」
眼下に広がる豊かな森を眺めながら、夜空をソリでドライブ気分。

だが……そんな穏やかな状況も、長くは続かなかった。

『こちらファーザー1、国境を越えてきた敵機を肉眼で補足』
突然傍受した通信。
真紅が弾かれたように視線を上げると……

『こちらドール1。例の未確認飛行物体と確認いたしましたわ』
『……ドール2………同じ……』

並んで飛ぶ、白と薄紫の戦闘機。そして……それよりさらに高度を上げた先に、金色のカラーリングの機体。

「また軍隊?……全く、ついてないわね」
真紅は呆れたように呟きながら、さっさとご退場願うために手綱を握り直すが……
高度をギリギリまで下げていたのが災いした。

こんなに地表に近くては、急加速の際の衝撃波が大地をなぎ払ってしまう。
例え人里離れた森林地帯とはいえ……そこに住む数十、数百の小さな生命を奪う事になりかねない。
 

真紅が迷っている間にも、彼女を敵国の手の者かと思っている三機の戦闘機は攻撃を開始する!
ソリの性能なら、全速でなくとも避けられる攻撃だが……
目標を外した弾丸が地面を抉る事を考えると回避も出来ない。

「ホーリエ!全方位バリアー展開!」
真紅はそう指示を出すと……降り注ぐ全ての攻撃の全てを、全神経を集中させながら見切り……自ら当たりに行く!
弾丸とミサイルの雨は容赦無くサンタを乗せたソリへと降り注ぐ!

バリアーのお陰で、衝撃こそ伝わるもがソリはダメージを受けない。
だが……こんな無茶な事をしていては……いくらオーバーテクノロジーの産物とはいえ、長くは持たない。

「……どうすれば……」
自らの命か、森に住む幾百の命か。
真紅は豪雨のような爆撃を受けながら、選択を迫られる。

そして……

だが、その選択を下したのは、彼女ではなかった。

 
サンタ支援AI・ホーリエは、一瞬、何かを伝えるようにパネルを光らせると……
大きくソリ全体を震わせ、真紅を振り落とした!

「!!……ホーリエ!?」
空へと投げ出された真紅は、その手をソリへと伸ばすが……届かない。

「何をするの!?答えなさい!ホーリエ!」
必死に伸ばした手の、指と指の隙間から滑り落ちるように、ソリは遠ざかる。
「まさか……そんな……止めなさい!今すぐ私の所に戻りなさい!」
どんなに叫んでも、どんなに手を伸ばしても……支援AI・ホーリエは何も答えようとしない。

やがて、背負った袋からパラシュートが自動で開くと……真紅は重力に引かれるまま、森の中へと降り立った。

「ホーリエ!貴方の役目は……この真紅を支える事でしょう!なのに……!」
真紅は叫びながら、パラシュートの紐を外し、森の外へと走る。

そして森林を抜け、彼女が見たのは……
全身にミサイルを浴び、空中で破片も残さず爆発するソリと……閃光を放ち消え行く支援AI・ホーリエだった。

 

  ―※―※―※―※― 



三機の機体が空軍基地へと着陸する。
そして、その内の一機……黄金の機体から、一人の男が地面に降り立った。

同じように搭乗機から降りた二人の女性に、彼は歩み寄る。
「素晴らしい腕前だった、薔薇水晶。それに雪華綺晶も……」
「……はい……お父様……」
「我が国最高のパイロット・槐少佐に褒めていただけるだなんて、光栄ですわ」

互いの労をねぎらう言葉の後……
彼は数メートル離れた位置でこちらを見つめる、一人の眼鏡をかけた男へと足を向けた。

「……しかしどういう事だ、白崎……あれは本当に敵だったのか?あれは……あの姿は……まるで……」
整った顔に迷いの表情を浮べながら、槐は口を開く。

だが……白崎は指を一本立てその言葉を遮ると……
口の端に笑みを浮べ、小さな声で笑いながら答えた。

「クククッ……ええ、もちろん敵ですよ。『我々にとって』ね……」




 
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