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「……あなたの知り合いかしら?水銀燈 」
真紅は、退路を塞ぐように立つ眼帯二人組みとの距離を計りながら……進路を塞ぐ水銀燈へと声をかけました。


「さぁ?……まぁ、あなたの事だから、どこかで恨みでもかったんでしょうけどねぇ? 」
水銀燈は相変わらず不敵な笑みを浮べながら、真っ直ぐに真紅と……その頭の上に生えた犬耳を見つめます。


「……どうも穏やかな感じじゃあないね…… 」
猫耳をピコピコさせて警戒しながら、蒼星石が小声で真紅に相談します。
「な…何か文句があるなら、ハッキリと言いやがれ!…ですぅ 」
威勢の良い事を言いながらも、真紅と蒼星石の陰に隠れて、しかも尻尾をクルクル丸めちゃいながらの翠星石。

完全に取り囲まれてしまった真紅たち三人。
正面に立つは、級友・水銀燈。背後から迫る、謎の二人組み。


張り詰めた空気が、刺すように冷たく吹き始めました……。




     ◇ ◇ ◇  け も み み ☆ も ー ど !  ◇ ◇ ◇


 

「……さて……この状況……真紅、君ならどうする……? 」
真紅に背中を預ける位置に蒼星石は自分の体を移動させ、強張った表情で呟きます。

「……水銀燈はともかくとして……あの二人組み……一体何が目的なのか、ね…… 」
冷静な表情のままですが、真紅の頬にも冷たい汗が流れます。

「……こんな時は……自己紹介から始めるですぅ 」
翠星石は真面目な表情で、実にのんきな事を言っています。

自己紹介……その単語が出た瞬間。
「それよ! 」
「それだ! 」
『ピコーン!』と聞こえそうな勢いで、真紅の犬耳を蒼星石の猫耳が立ちました。


真紅はパッと顔を上げると、二人組みの方へと振り返ります。
「私は真紅。で、この子は翠星石と蒼星石よ」
自分と、その後ろに立つ双子の紹介を始めました。

すると……
不敵な笑みを浮べて進んでいた二人の内の一人……
素敵なフトモモさん(仮)は立ち止まり、何やらポケットをゴソゴソし始めます。そして……
「申し遅れました。私はこういう者ですわ 」
そう言いながら、真紅たちに一枚の名刺を渡しました。

『私立探偵・きらきー事務所 所長 雪華綺晶』

真紅と蒼星石は「自分達とそう変わらない年頃なのに、社会の荒波にもまれて苦労してるんだなぁ」と思いました。
翠星石は「私立探偵とはよく聞きますが、逆に、公立探偵なんてのはあるのですかね?」と思いました。
 
ともあれ。

恐怖とは未知な部分があればこそのもの。
相手が誰なのか分かってきた事で、真紅たちは勢いを取り戻し始めました。

「それで……その私立探偵さんが、私たちに何か用なの? 」
真紅はキッと、強い眼差しで雪華綺晶を睨みつけます。

「そうですぅ!お前が私立探偵なら、こっちは公立(高校の生徒)ですぅ! 」
尻尾をピンと伸ばして威嚇し始めた翠星石。
また姉さんは一人で話をややこしくするなぁ、と苦笑いを浮かべ始めた蒼星石。

そんな彼女達に対し……雪華綺晶は柔らかな笑みを浮べながら、思いもよらぬ言葉を告げました。

「あなた達の、犬耳……私たちが回収して差し上げようと思いまして 」

「本当なの!? 」
思わず、真紅の声が大きくなります。
「ああ……この犬耳のせいで、一体どれだけの苦労をしてきた事か……
 これでやっと、晴れて普通の女の子に戻れるのね…… 」
しみじみと空を眺めながら、導かれるようにその足を雪華綺晶たちへと進めます。

「ええ、本当に外して差し上げますわ……この薔薇水晶ちゃんが…ね 」
雪華綺晶は笑みを浮べたまま、その視線を自らの傍らに立つ薔薇水晶へと向けます。

翠星石と蒼星石も、今まで外れなかった犬耳をどのように外すつもりだろう、と期待の視線を薔薇水晶に向けます。

 
そして、雪華綺晶たち二人の前に進み出た真紅が、期待に(ぺったんこな)胸をドキドキさせる中……
薔薇水晶は手を伸ばすと、真紅の頭の上でピコピコ動く犬耳を掴み……思いっきり引っ張りました!

「ちょ…ちょっと!痛い!痛いわ!待って頂戴!! 」

ギュー!と犬耳を引っ張られている真紅は、涙声で訴えかけます。
ですが薔薇水晶は、表情一つ変えずに犬耳を引っ張り続けます。

「待って!そんなに引っ張ると千切れてしまうのだわ! 」
必死にそう叫び続ける真紅に……
薔薇水晶は、やはり表情を変えず……ですが、小さな声で答えました。
「……そう……引き千切る…… 」

これはマズイ。そして、痛い。
本当に泣きそうになりながら真紅がどうすべきか考えていた時です。

「ほぁぁぁちゃーーーー! 」
翠星石が、それは素晴らしなドロップキックで助けに来てくれたではありませんか!
どれ位素晴らしいかと言うと、早すぎず遅すぎず、まるで正義の味方のようなタイミングでもあった事です。
これはもう、飛び出す時期を見計らっていたとしか思えません。

思わぬ伏兵の攻撃に、とっさに手を離してしまった薔薇水晶と、隙を突いて逃げる事に成功した真紅。

形勢は元の状態に戻ったようにも見えますが……相手の目的がハッキリした以上、油断は出来ません。
それに……

「ふふふ……あはははは!
 痛がってるあなたの顔、とぉってもブサイク。あははは……! 」
背後でお腹を抱えて笑っている水銀燈の存在も忘れてはいけません。
 

「……これは……かなりマズイようね…… 」
真紅は真っ赤に充血しちゃった犬耳を撫でながら、小声で蒼星石に相談します。
「……何とか隙を突いてここから逃げれたら一番なんだけど…… 」
蒼星石も、真紅が犬耳を引っ張られてる所を見ていたせいで、ちょっと弱気に猫耳を頭の上でクルクルさせます。

「だったら……ここは翠星石に考えがあるですよ……! 」



短い作戦会議が終わり……真紅は水銀燈の前に。翠星石と蒼星石は、雪華綺晶と薔薇水晶の前に立ちます。

そして……激戦の火蓋が、切って落とされました。




「ねぇ真紅ぅ?あなた、その犬耳いらないんでしょ?だったら……私にちょうだぁい! 」
水銀燈は真紅の頭でピコピコ動く犬耳へと手を伸ばします。
「確かにいらないわね。でも……あなたにあげる理由は無いわ!水銀燈! 」
真紅はしゃがんで水銀燈の手を避け、足払いで応戦します。

「二対二になったら互角?ふふふ……でもそれは大きな間違い…… 」
「……耳も……尻尾も……取り戻す……」
雪華綺晶と薔薇水晶は、抵抗の意思を確認すると……逆に嬉しそうに目を輝かせ始めます。
「僕らは平和に暮らしたいだけなんだ。だけど……どうも邪魔をする気みたいだし、やらせてもらうよ 」
「全力で相手してやるですよ!……勝負は何にするですか!?トランプ!?それとも桃鉄ですか!? 」
言葉に反して戦う気満々の蒼星石と、言葉に反して逃げる気満々の翠星石。
 
◇ ◇ ◇

真紅は守りに徹しなければいけない筈なのに、果敢に水銀燈へとパンチを放ちます。
水銀燈も、頭の上の犬耳が目的なのに、すっかり逆上して殴りかかっています。

そんな一進一退の攻防が繰り広げられる一方……


「きゃー! 」
翠星石はひたすら、叫びながら薔薇水晶から逃げ惑っていました。
蒼星石が雪華綺晶を足止めしているお陰で、挟み撃ちにこそ会いませんが……それでも捕まるのも時間の問題です。

「大切なお姉様の危機だと言うのに……あなたには彼女を助ける事も出来ない…… 」
雪華綺晶は目を輝かせながら、追われる翠星石と……目の前に立つ蒼星石を交互に見やります。

「さあ?翠星石は僕が考えてる以上に強い子だからね。きっと切り抜けるさ 」
蒼星石も対抗するように笑みを浮べてみせようとしますが……強張った表情しか浮べる事が出来ませんでした。

正直、蒼星石は一人で雪華綺晶を追い払って……それから翠星石を助けに行く事も出来ると考えていました。
ですが、実際はどうでしょう。
まるで全ての動きを見透かしているかのように、雪華綺晶は蒼星石の手からするする逃れていきます。
そのくせ、自分からは何かしてこようとせず……
まるで檻の中の鼠を見る猫のような……圧倒的な視点から、こちらの抵抗を眺めて楽しんでいるようでもあります。

「……ひょっとしたら……長くは持たないかもしれないよ……翠星石…… 」
緊張で張り付いた喉で、蒼星石は誰にも聞かれないよう小さな声で呟きました。

 
◇ ◇ ◇


「どうして犬耳を欲しがるの!水銀燈! 」
「教えてあげるわ……なんて言うと思ったぁ? 」

互いの拳を受け流し、顔がぶつかる程の距離で真紅と水銀燈は叫びます。

「でしょうね……あなたがそんなに素直だなんて……思ってないわ! 」
真紅は言葉を強めながら、一気に水銀燈を突き放します。

そして突き放された水銀燈は……
その一瞬、ただ叫んで逃げてるだけの翠星石の姿を発見しました!

(めぐに生きる希望を与える為には……何も犬耳じゃなくっても……! )
水銀燈は瞬間的にそう判断すると、狙いを真紅から翠星石へ……
何故か楽しそうにブンブン揺れる尻尾へと移します。


それを見て取った瞬間、真紅が号令を発しました!
「翠星石!蒼星石!チャンスよ! 」

そして……

「とりゃぁーー! 」
翠星石はポケットから両手に何か丸いものをいっぱい掴むと、それを地面にバラ撒きました!

「煙幕玉!?それとも……閃光弾!? 」
水銀燈と薔薇水晶、雪華綺晶が慌てて目元を手でガードします。
 

そして―――
「忠勇なる家来達よ!来なさい! 」

素敵に無敵な犬耳女王が、空に向かって叫びました!
その号令を受け、町中から犬達が……地面に落ちた鈴カステラ目掛けて突進してきます!

「このドサクサに紛れて逃走ですぅ! 」
自らが囮になり、敵の目を集め……そして、呼び寄せた犬達の巻き起こす砂煙に紛れて逃走。

翠星石の作戦は、完璧だったと誰もが思った時です。


「チッ!小賢しいマネを……! 」
完全に嵌められたと知り、完全に頭にきていた水銀燈は、砂埃で視界が悪い中……
それでも、せめて翠星石の尻尾を入手しようと手を伸ばします!


真紅は既に逃げる算段を決めており、助けに向かうのが一手遅れてしまいます。
翠星石はというと、作戦は成功したという油断から水銀燈に気付いていません。

水銀燈の動きに対処できたのは、一人だけでした。

「翠星石!危ない!! 」
ずっと、大好きな姉の身を案じていた彼女だけが反応できました。
誰より翠星石の事を大切に思っていた彼女だけが、その心のままに動けました。


結果……

彼女達は、一人の仲間を失いました。


◇ ◇ ◇ 


無事に逃げのびる事ができた真紅と翠星石は、両脇から支えていた蒼星石を地面に横たわらせます。

「………… 」
「……うぅ……蒼星石…… 」

真紅は静かに、追っ手の有無を確認します。
翠星石は、苦しそうにうなされ目を開けない蒼星石へとすがりつきます。


誰より翠星石の事を大切に思っていた蒼星石の頭の上に、猫耳はすでに無く……
風に揺れた彼女の髪の隙間からは、水銀燈によって引き千切られた跡が見え隠れしていました。





 
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