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気が付けば既に今年はあと十日を切り、世間一般ではクリスマスが目と鼻の先に迫っていた。
私もその世間の流れには逆らえず、というのはおかしいのだが、私も他一般と同じく、皆へのクリスマスプレゼント選びに苦闘していたのだ。

そもそもな話、私達はクリスマスになると、水銀燈主催の元、教会に集まりクリスマスパーティーをするのが毎年恒例になっている。今年も色々と大変な事は山ほどあったが、無事この行事には薔薇水晶と共に参加するつもりである。
そのクリスマスパーティーの中にはプレゼント交換といったものがあり、皆々好きに一つプレゼントを買い、ランダムに交換したり、もちろん、私の様に全員に一つずつプレゼントを渡したりと、誰かしらにプレゼントを渡す決まりになっている。
この事は毎年良い意味で悩みの種なのだが、今年はそんな悠長な事を思っている場合ではない。

何が大変かというと人数が増えたのだ。

まず、柿崎めぐ。
彼女とは水銀燈の愛人、じゃなかった、密会者を捜した時に出会った。今となれば懐かしい話である。
それに完璧超人こと、ピチカートと愛らしいロリっ子ベリーベル。
彼女ら、特にピチカートにはお世話になったから何か特別なプレゼントを考えなくては。
それからもう昔の話になるが、うちの可愛い妹に巴投げなんぞを教え込んだ雛苺の保護者、のようなものの柏葉巴。
先の残留思念現象の時にもお見舞い品を貰っているからなぁ……。

今年はなかなか出会いが多かったから大変である。
もちろん、水銀燈や翠星石達、草笛みつや桜田姉弟にもプレゼントは買う。

さてはて一体何個になることやら。
そして何を買えばいい事やら。
そんな事を考えながら私はリビングでよくある某カタログを参考程度に捲っていたのである。

「あっ、おねーちゃんそれってクリスマスギフトのカタログ? 」

台所から二人分のココアを持ってきてくれた薔薇水晶が私の隣へと座る。

「私もベリーベルちゃんとかには特別に買おうとは思ってるんだけど」

「あら、ジュン君には特別に買わなくても、いやもう準備してあるのでしょうから愚問でしたね」

と、私が笑うと薔薇水晶はそれが、と広げていたカタログを捲る。

「本当にまだ買ってないんだよ。最近忙しくて、パーティーまでにはどうにか買いにいこうと思ってるんだけど……あっ、おねーちゃんは今年何が欲しい? 」

「それは……もちろん」

と、私は薔薇水晶の首筋を伝うように髪をかき上げる。
口から小さな吐息が漏れる。私はそのままカタログを持っている薔薇水晶の手を掴み、体重をかけて覆い被さった。

「ばらしーちゃんに決まってるじゃないですか」

服越しとはいえ彼女の体温、身体のカタチ、そして彼女の心拍数を追っての息遣いが間近に感じられる。

「お、おねーちゃん……ダメだって」

先とは違う、潤んだ瞳が私を見つめる。その瞳には恐怖が映し出されているのか、いや、期待である。
お互いの心拍数を感じるほど、心臓の鼓動はスピードを増し、私達の理性を崩壊させるのだ。

「ばらしーちゃんったら。こんなにドキドキしてるじゃないですか」

私は彼女の両手を掴みながら自らの頬をその柔らかな胸へと押しつけた。心音を聞こうと頭を左右に振ると「ぁ……」と薔薇水晶の吐き出した吐息が私の上頭にかかる。

「ばらしーちゃん、ここ弱いんですよね。いつもここに触れると可愛い声出すんですもの」

「ダメだって……まだ昼過ぎだよ……ぁんっ!!……んむぅ……!?」

無理矢理に唇を奪い、舌を上唇と下唇の隙間に強引に入れ込ませる。
薔薇水晶も始めは戸惑った表情を見せたが、観念したのかそれとも、身体から力が抜けたのか、薔薇水晶の腕から抵抗する力が無くなり、私の為されるがままに、とろんとした瞳でこちらを見つめ返していた。
纏わりつくように彼女の舌が絡み合い、私は掴んでいた右手を離し、胸の頂点辺りを中心に揉み始めた。彼女の官能的な喘ぎが室内に響……

Trrrrr...Trrrrr...

……いたような気がしたがそれはこの呼び出し音によってかき消された。

「ぉ……おねーちゃん、電話」

薔薇水晶が電話の方を振り向く。そんな些細な事は無視し、私は彼女の柔らかで暖かい胸部を愛撫していたが、

「ぁん……おねーちゃん……電話……出て」

と、薔薇水晶が必要に諭すので、仕方なく私は軽く首筋にキスをすると、薔薇水晶を解放し、精一杯自己主張する電話機へと向かった。

「はい、わっふるわっふる」

『あっ、キラキショウさんですか? ピチカートです……あの、電話した早々悪いのですが、そのわっふるわっふるって今の流行なんですか』

「いや、今の私の心境」

私のピンク・タイムを邪魔した張本人はピチカートだったのか。全く、と文句の一つも言いたい気分だが、この前彼女のデートをストーカーしたばっかりだ。お互い様がいいくらいだろう。

『あっ、もしかして取り込み中でしたか。それはすみませんでした。掛け直しましょうか? 』

「いや、貴方のおかげでなんとかピンク板に送られずに済みましたわ。で、一体何用なの? 」

せいぜい15禁だろう、うん、そう信じる。

『実はキラキショウさんにしか出来そうにない相談なんですが……。あの、もう少しでスイギントウさんの教会でクリスマスパーティーがありますよね、その話をこの前、ベリーベルとしていたのですが』

ピチカートが受話器の向こうでため息を吐いた。

『私、ベリーベルが欲しいモノをクリスマスプレゼントにしようとしていたんですが、彼女が欲しいモノ……それはサンタクロースに会いたい、なんですよ』

「……で、もしかして私にサンタクロースを捜せと? 」

『ハイ、仰る通りです。一緒にサンタクロースを捜していただきたいのですが……オーストラリアかフィンランド辺りで』

「無茶をいわないで、ピチカート。さすがの私でもサンタクロースの根城までは知りませんわ。と言うか検索圏が外国じゃありませんか! 」

『さすがに無理……ですよね。すみませんでした、キラキショウさん』

「そんな悲しい声色で言われると心揺らぐけど今回ばかりは大分辛いわ。ごめんなさいね」

『いえ、私こそ無理な注文をスミマセンでした。今回の事は私の方でなんとかします。では、クリスマスパーティーで』

「ええ、クリスマスパーティーで」

ガチャリ、と私は受話器を置く。
さすがはピチカートだ。愛するものの為なら犠牲は躊躇わない。しかしさすがにサンタクロースを拉致るのは無理がないだろうか。そもそも本当にサンタクロースなんているのだろうか。

「おねーちゃん、ピチカートさんが電話? 」

いそいそと服装を正している薔薇水晶に、ええ、と答えるて再び薔薇水晶の隣へと腰掛ける。さすがに先程の雰囲気には持っていけないだろう。
中途半端で解消されない欲求不満で変になってしまいそうだが、平静を保ちながら薔薇水晶に話し掛ける。

「聞いてくださいばらしーちゃん。ピチカートったら私を連れてサンタクロースを捜してこよう、なんていうんですよ。全く、サンタクロースなんて本当にいるかも分から……ばらしーちゃん? 」

と、反応が無い彼女を覗き込むと、何か想像、いや妄想と言ったほうがいいか、まるっきり自分の世界へとのめり込んでいた。

「サンタクロースさんかぁ~……きっと今は世界中の子供たちの為に大忙しだろうなぁ。今年も私の所に来てくれるといいけど……」

……なるほど。これは不覚だった。彼女はまだサンタクロースが我が家に来てくれると信じているらしい。
だからプレゼントが毎年枕元にあると。

もちろんそれは私が彼女が寝静まった後、こっそりと彼女の枕元へ置いているからである。
去年のアレは素だったのか、と再び彼女の魅力を再確認しつつ、今年のプレゼントの希望でも聞いておこうと再び口を開こうとした瞬間、

Trrrr...Trrrr...

悪夢の呼び出し音が我が家へと響き渡った。

またか、と私は無言で立ち上がり受話器を取る。

「はい、雪華綺晶です。ただ今出かけております。ご用件がある方はピッーという発信音のあt」

『こんにちは、雪華綺晶ぅ。それが最近の応答の流行なのかしらぁ』

「いえ、銀のお姉さま。不届き者への嫌味です」

と、私はしまったと思いつつ声色を変える。
まさか水銀燈のお姉さまが掛けてくるとは思わなかった。

「で、今日は如何いたしましたか。クリスマスパーティーの件でしたら薔薇水晶に代わりますが」

『いやパーティーの件じゃないわぁ。雪華綺晶、ちょっと貴方に折り入って頼みたいことがあるのよぉ』

「……はぁ。私に折り入って」

『実はね、人捜しをしたいの。それもかなり特殊な人なんだけど……』

「かなり特殊な人を捜すんですか? しかも私に頼むなんて……もう残留思念は懲り懲りなのですが」

『それは分かってるわよぉ。話は変わるけど貴方、サンタクロースって信じる? 』

「……サンタクロースですか、お姉さま」

またサンタクロースだ。まさかとは思うが、相手はあの現実主義者の水銀燈だ。あり得ない。

「一応、信じてはいましたが、サンタクロースになる側になってからはもう」

『……まぁ、貴方や私みたいな年齢になってしまったらそれが普通よねぇ。それを承知でお願いするわ。雪華綺晶、私とサンタクロースを捜してくれなぁい? 』

……まさか水銀燈のお姉さまもサンタクロース捜しとは。最近の世の中はサンタクロース捜しが流行っているのだろうか。
そういうものは幼く甘い思い出と共にしまっておくものだ。

「……実はそのセリフをさっきピチカートからも聞いたのですが。理由をお聞かせ願えますか、水銀燈のお姉さまが、ただサンタクロースを捜すなんて不自然過ぎますわ」

そうねぇ、と水銀燈のお姉さまは暫しの間黙っていたが、ゆっくりとその訳を話始めた。

『……実はめぐをクリスマスパーティーへ誘おうとして病院へ行ったとき、ついでに彼女の欲しいものを聞いておこうと思ったのよ。そしたら彼女、サンタクロースに逢いたいなんていうの。そしてプレゼントをねだるんだって。笑える話でしょ。
私もその時は軽く聞き流したけど、後から看護士さんからめぐがクリスマスが終わってから手術があるって聞いて。彼女の病気自体を直せるモノじゃないんだけど、病気の進行は遅らせる事が出来るんだっていうから私』

「柿崎めぐを励まそうと、ですか。お姉さまも案外お人好しなのですね……なんて」

『分かってるわよぉ、私だって。だけどサンタクロースからお願いされて断れる人なんかいないわぁ。これなら手術を嫌がるめぐだって受けさせる事が出来る』
「お姉さまの熱意はわかります。私もお姉さまの力になりたいですがだけど実際、サンタクロースなんているのですか」

『……いるわぁ。私は会ったことがあるもの』

意外な返答が帰ってきたものだ。水銀燈のお姉さまが想像の産物、ではないが伝説上の人物でしかもあのサンタクロースに会ったなんて言うなんて。

「……水銀燈のお姉さまが言うからにはそれは本当、とは……すみません、私には言えません。何せ私はまだサンタクロースには会ったことが無いのですから」

『私もあれはまだ私は幼い頃、まだ貴方や蒼星石達には会ってない時期の話よぉ。幼い私には、まぁ今もそうなんだけど、私には家族も、そして友人もいなかったわぁ。唯一付き合ってくれたのは真紅だけだったわぁ。
そんな環境で小さな私は孤児院での暮らしが嫌になってね。正確には家庭がある真紅に憧れてたのかもしれないけど、寒いクリスマスの日に私は家出したのよぉ。
身寄りもないから公園で独り淋しく寒さで震えていて、そう、あれは十二時を過ぎた頃、私の体力も精神も限界だった。もうこのまま死んでしまおうと思ったとき』

「……」

ただ私は黙ったまま水銀燈のお姉さまの話を受話器越し耳を傾けていた。

私も過去には一人だった。薔薇水晶が我が家にやってくるまで孤独と拒絶の塊だったのだ。

『私の目の前にサンタクロースが現われたの。夢かと思ったわぁ。私の前で幸せそうにニコニコ笑って、プレゼントを渡してくれたわぁ。そのプレゼントを抱き締めていたら暖かくて暖かくて……気が付いたらそこにはサンタクロースなんていなくて、孤児院のいつものベッドの上にいたの。
夢かと思ったけど、手にはあの時のプレゼントがあったわぁ。だからあれから私はサンタクロースだけは信じているの、あの時のサンタクロースだけは』

家出した幼い水銀燈を救った人物。彼女が言うにはサンタクロース。
信じられるか信じられないか、いやそんな問題ではない。それは水銀燈のお姉さまが体験した過去の出来事。真実は彼女しか分からない。

「……そうだったんですか」

『辛気臭い話なんかしてごめんなさぁい。だけどこれで分かったでしょ。私がサンタクロースを信じている訳が。本当は私が一人で行かなくちゃいけないんだろうけど、雪華綺晶、貴方の力が借りたいのよぉ』

私はちらり、とカレンダーを見る。クリスマスまでは日があまり無い。先のピチカートを混ぜたとしても間に合うという保証はまったく無い。

「分かりました、お姉さま。この雪華綺晶が貴方の力となりましょう。ピチカートもいます。必ずサンタクロースを拉致ってきましょう。そして」

しかし、彼女なら成し遂げるだろう。はっきりとした目的が彼女を支えているかぎり。水銀燈という女性はそういう人だ。

「皆々の希望を叶えてもらいましょう……全く自分勝手お願いですが」

『……ありがとう、雪華綺晶。頼りにしてるわ』

受話器を置く。いやはや、クリスマスイブまで薔薇水晶とイチャイチャする予定は全て解消しなければならないらしい。

「薔薇水晶、実は」

「サンタクロースさんを捜しに行くんでしょ。あんまりサンタクロースさんに迷惑掛けない程度にね」

さすがは物分かりがいい。私は薔薇水晶の元へ近付き、軽く頬に接吻する。

「イブまでには帰りますわ」

「ん……あんまり危ないことしちゃダメだからね」

「サンタクロースに襲われる可能性がありますからあまり保証はできませんわ」

「もう、嘘ばっかり」

と、私達は笑い合う。

さぁ、ピチカートに電話しなくては、と私は本日三度目、しかし次は自らが、受話器を手に取るのであった。

こうして私と水銀燈、そしてピチカートの不思議で暖かなクリスマス物語はゆっくりと幕を開けていったのであった。



『き、キラキショウさん、私達サンタクロースを拉致監禁するのではなくて、あくまで任意同行なのですが……』
「はっはっは、分かってる分かってる……で装備は対空仕様でいいのかい? 一応、シャベリンとスナイパーライフルとかにしようかと思ってるんだけど」
『いえ、ですからサンタクロースを拉致るのではなくて』
「大丈夫だよ、ピチカート。私、これでも某怪盗では狙撃の達人ですから」
『……(逃げてー! サンタクロースさん今すぐ逃げてー!!)』

サンタクロースよ、首を洗って待っているがいいさ。
あっはははは……。

 

「キラキショウさん、スイギントウさん、早速ですが搭乗手続きだけしておきましょう」

ピチカートと水銀燈のお姉さまから電話があってから一日後、私は旅行用の大きなカバン片手に空港内にいた。
目の前にはスーツケースを持ちながらジーンズと可愛い黄色のセーターを着こなすピチカート、横にはやけに荷物が少ない、というかやや大きめのリュックサックだけを肩に掛けている水銀燈が。
この空港に着くまでも私は色々と、というかお腹が空いて大変だったのだが割愛させてもらうとしよう。

「パスポートは皆さんもってきましたよね? それを機械に読み込ませ、あとは座席の確認、預ける荷物等は預けちゃってください。あと、キラキショウさん」

ピチカートが私を手招きしている。愛の告白でも囁いてくれるようには見えないが……。


「キラキショウさん、まさか変なもの持ってきてませんよね? 持ち物検査で引っ掛かったら洒落になりませんよ」

「大丈夫、大丈夫。変なものは全部別ルートでげふんげふん」

「……ま、まぁそれならいいですけど」

あんまり心配しなくても大丈夫だピチカート。私の裏ルートを舐めてもらっては困る。おそらく今頃は危なげな薬と共に太平洋を渡っているだろう。

「では適当に各自お願いします」

と、私達は各自搭乗手続きやら席、そして大事な機内食を選択した後、先程の場所で落ち合った。

「出発まであと少しありますからカフェで休憩しませんか? 」

「そうしましょうよぉ。私、人混みでもう疲れちゃったわよぅ」

ふぅ、とため息を吐くお姉さま。確かに空港というものは様々な人種、文化が混雑している。
はじめは目新しいのだが、慣れてしまえばそれは疲れにしかならない。見る側としては複雑より単純の方が疲れにくいのと一緒だ。

「そうですね、あと一時間近くありますし、休憩しましょうか」

私達は近くのカフェに入り、ドリンクを注文する。
ピチカートはレモンティー、お姉さまは……さすがに乳酸菌は無く、コーヒー。
私はとりあえずオレンジジュースで十分。
適当に席を取り、座るとコーヒーを手で包むようにしているお姉さまが口を開く。

「そういえばピチカート、貴方よくサンタクロースがフィンランドにいるなんか知ってるわねぇ」

「いえ、正確には私にも分かりません。小さい頃にサンタクロースというものはフィンランド在住だと教えられたので」

ピチカートとしては裏付けがない情報だな、と私はオレンジジュースを吸いながら思う。まぁ、元々存在自体が危ぶまれているものの情報裏付けなど無理な話ではあるが。

「そういえばピチカートの生まれ故郷ってどこなのよぉ」

「私ですか? 私は北欧生まれですが」

へぇ、と水銀燈が何かを模索する。多分頭の中にはヨーロッパの地図が浮かび上がっているのだろう。しかしやはりピチカートは外国籍の人だったのだな、と改めて思う。確かに容姿も日本人とはかけ離れた、といえば弊害があるのかもしれないが、羨ましいスタイルはここが由来なのだろう。

「父が北欧系で母はロシア系なんです。母の妹がミッチャンの御親戚と結婚しまして、その繋がりで私は今のようにミッチャン宅へお世話になっている、というわけです」

「なるほどねぇ……けどなんでこんな極東まで留学する気になったわけぇ? 勉強するんだったら別にイギリスとかあったでしょう」

「いえ、恥ずかしい話なのですが私、元々日本の忍者とか侍に憧れていまして。その影響で北欧にいた頃、柔道と空手をマスターしたくらいなんです。ですからもしチャンスがあったら日本に行こうって。
そしたら叔母さんが日本人と結婚したじゃありませんか、これはチャンスだなと思って家を飛び出してきたわけなんです」

「……貴方もなかなかのお馬鹿さんなのねぇ」

お姉さまがため息を吐く。
素晴らしきかなピチカート。そんな君の心意気が私は大好きだよ。
……ん、待てよ。ピチカートは北欧生まれと言ったな。となると

「ピチカート、貴方もしかしてフィンランド行ったことある? 」

「いえ、さすがにそこまでは」

「だけど北欧ってデンマーク、スウェーデン、ノルウェー、フィンランドにアイスランドよね? 」

「ええ。よくご存じで。ですから一応サンタクロースの話題もかなり信憑性があるんです。すぐ隣の国にはサンタがいると教えられてきましたから」

なるほど。確かに日本でサンタがいるといわれるより、北欧でいると言われたの方が信じられる気がする。

「少し北欧の、そしてサンタクロースの事もしりたいんだけど」

「ええ、よろこんで。目的地までは十時間ほどありますから」

と、ピチカートが満面の笑みで笑う。

日本からフィンランドまで約十時間。さてはてどこまでピチカートの話を聞けるだろうか、と私は氷だけが残るグラスを音をたてて啜った。



「では、何から話しましょうか」

私たちが乗る飛行機が重力に逆らい始めて数十分経過した頃、私の隣に座るピチカートが口を開いた。
席はやはりファーストクラスだからか、思った以上に広く心地が良かった。これならばエコノミー症候群も心配はないだろうとは思ったが、そもそもエコノミー症候群とは長時間座席に座っていることでひざ裏の静脈が血で塞がってしまう病気である。
他に飛行機は乾燥しているので体内の水分が無くなり気味になることも関係しているのでエコノミー、ファースト関係なく対策をしなくては。
まぁ、エコノミーよりは若干予防できているのだろう。せっかくの海外旅行、ここぞという時にお金は使わなくてはいけない。

「じゃあ、ピチカートのスリーサイズから」

「えっと、上から87の56の」

「いや、本当に言わなくていいから恨めしい悩殺ボディめ」

「……冗談ですよ。じゃあサンンタクロースのことから話しましょうか」

と、ピチカートは先ほどスチュワーデスさんから頂いたコーヒーを口に運ぶ。
ん、しかしバスト87のウエスト56か……あれ? 下手するとFカップじゃないのかソレ。真紅が聞いたら怒りと抑えきれない悲しみから何をするか分からないレベルのような気がしてならない。

「そうですか? では少しサンタクロースについて語らせていただきます。スイギントウさんは……フィンランド語会得に夢中ですか。別にスウェーデン語でも構わないとは思いますが」

と、右隣を向くとお姉さまが小難しい本、のように見えたがそれはピチカートが飛行機に乗る前に私たちに渡した『ジャンクにもわかる楽しいフィンランド語』というあからさまなタイトルのものを眉間に皺を寄せながら読み漁っていた。

「では、サンタクロースを話すとなると4世紀頃の東ローマ帝国まで遡らなくてはなりません。キリスト教の神父であった聖ニコラウスはある日、貧しい家庭の存在を知ります。そこには三人の娘がいましたが家庭の貧しさのせいで嫁がせたくても可能ではありませんでした。
その以上に、この三人の娘は身売りされる寸前だったのです。それを知ったニコラウスは真夜中、その家の煙突から金貨を投げ入れました」

「真夜中、煙突から……よほど身軽だったのでしょうね、ニコラウスは」

「まぁ、所詮伝説のお話ですから。そのニコラウスの投げ入れた金貨は暖炉に偶然にも掛けられていた靴下にホールインワン、とでも表現しておきましょうかぴったりと中に入ったといわれています。
その金貨のおかげでその三人の娘は身売りを避けられたといいます。もうお分かりでしょうがそのおかげで今でもサンタクロースは靴下にプレゼントを入れる、という習慣が生まれたと言われています」

成程。要するにそのニコラウスというパーフェクト超人の人助けの話がサンタクロースに繋がったわけ……といわれてもぴんとこない。そもそも聖ニコラウスとサンタクロースじゃまるで名称が似てないじゃないか。

「時にキラキショウさん、オランダ語は得意でしょうか? 」

私は首を横に振る。オランダのイメージなんぞ風車とチューリップしかない。

「14世紀頃にはその聖ニコラウスの命日をオランダでは祝日としていました。オランダ語で聖ニコラウスは『シンタクラース』それが後にアメリカに移住したオランダ人が『サンタクロース』と伝えた事からサンタクロースという名称が広がったといわれています。
ちなみにサンタクロースの赤はコカコーラとは全く関係ありませんので」

「おまけ情報までどうも。しかしそれじゃあ本当にサンタクロースはいないってことにならない? だって聖ニコラウスはもう死んでるんでしょ? 」

確かに、とピチカートが頷く。すでにモデルとなった人物は無くなっているのだ、となるとサンタクロース自体も死んでいることになる。今までプレゼントを配っていたのが亡霊ではなんとも救われる気がしないではないか。

「要はその伝説のサンタクロースの名を継いだ何者かがいるというわけですよね。噂ではサンタ養成学校まで存在しているらしいですが」

「養成学校!……まぁ確かにサンタになるには勉強も大事だとは思いますけどそうなるとサンタというものは量産タイプということになってたくさんのサンタクロースがいるということに」

「そうでもしなければ世界の子供たちにはプレゼントは配れないでしょう。私が思うには多分サンタクロースのそりなどにもオーバーテクノロジーあたりでしょうね。バリアとかステルスとか無くては今の世の中ではやっていけませんよ。領空侵犯もいいところですからね」

「また夢のない話を。だけど実際そうなのしょうね。もしかしたら真紅みたいな女の子が対空射撃とかで苦労しているかもしてませんわ」

と、私たちは笑い合う。赤といえば真紅だ。もしかしたら、世の中にパラレルワールドなんていうものがあるのなら、そんなサンタクロース真紅が苦労しているかもしれない。しかしそれはまた別の世界の話である。

「とりあえずフィンランドに着いたらサンタがいるという場所に向かいましょう。詳細はおいおいということで」

ピチカートは少しコップに残っていた冷えたコーヒーを飲み干す。お姉さまはまだ本を読んでいるがまったくページが進んでいない。

「まだ時間はあります。しばしサンタクロースに会ってからの口説き文句でも考えておきますよ」

「貴方に口説かれたらどんな女の子もイチコロだと思いますが」

「それは御謙遜を」

それは本当だ。まぁ、それはもとよりサンタクロースが女性だった、という場合に限るのだが。なんて言ってしまったら自分の身が危ないので心のうちに秘めておく。沈黙は金、というではないか。

フィンランドまであと八時間。
先は長く、そして機内は何故か寒い。



雲泥の空からは白い、綿のような雪が永遠と降り続き、地を白銀の大地に染め上げている。周りには民家などは無く、ただ、時々枯れた針葉樹が雪に埋もれ凍えているだけであり、まるでここは砂漠の、私は砂漠なんて言ってことないのだがそのような限りなく無限の大地が続いているような感覚に襲われる。

まぁ、正直遭難しているだけなのだが。

「寒い、寒いわよぉ……ピチカートもう帰りましょうよぉ」

「我慢してくださいスイギントウさん。もう少しで着く筈ですから」

「それ一時間前も聞いたわよぉ。めぐ、私もう駄目かも知れないわぁ」

フィンランドの空港に到着し、すぐにタクシーに飛び乗った私達は、というかピチカートに引っ張られ乗せられた私と水銀燈のお姉さまはただ連れて行かされるまま、気がついたら暖かな毛皮のコートに身を包みながら雪原に突っ立ていたというわけだ。

「確かこの方向だったような気がするんですが」

そしてこの状態で三時間歩き続けているというわけで。

「ああ……暖かい暖炉が恋しいわぁ」

もうすでにお姉さまは限界を超えたわけで。

「ピチカート大丈夫なんでしょうね。もうお姉さまが限界というか幻覚まで見始めているから早めにサンタクロースを拉致ってしまいましょう」

私はただ、ひたすら重苦しいこのスナイパーライフルを担ぎつつ雪道を歩き続けていた。
このスナイパーライフルどうも高性能らしく詳しいことは知らないがどこかの伝説の怪盗レプリカなんだとかではないとか。

「はい、それはわかっているのですが……やはり何か私たちが知らない技術を利用して蓑隠れしているのでしょうか」

「もしかしたらそうかもしれないけど……あっ、看板がある」

「あら、ほんとですね。しかしなぜこんな所に看板が……えっと何々……『この先、サンタの聖域。一般人近づくことなかれ』ですって。着きそうですね」

「なんというご都合主義……なんても言ってられませんわね。お姉さま、水銀燈のお姉さま!! もう少しでサンタとの聖戦が始まりますよ」

「めぐぅ……私はやっぱりジャンクだったわぁ……ブツブツ」

もう手遅れ、ではないことを信じたい。というかそろそろどうにかしなければ本当に水銀燈が死んでしまう。

「キラキショウさん、見えてきました。あの要塞でしょう。ほら、わかりやすく看板に『サンタの家』と」

どれ、と私はピチカートの指さす方向に目を凝らすと、確かに煌びやかなデコレーションと共に『サンタの家』とある。
いやほんとにあったのか。まったくまだまだ世界も捨てたものではないな。私が思っている以上に世界は夢と愛に溢れているらしい。

「とりあえずチャイム鳴らしておきますか」
ピチカートが要塞……というか工場のような建物の呼び鈴を鳴らす。というか呼び鈴が付いているという所に突っ込みたいところだが、ここはフィンランド。郷に入れば郷に従えというからな。

ピンポーン

おっ、この呼び鈴は世界共通……なわけ無い。となるとこの呼び鈴は……。うむ、何か裏がありそうだが、深読みしすぎだろうか。

「……はい。只今参りますぅ」

といったような気がした。正直私にはフィンランド語だがスウェーデン語は分からない。ニュアンスだニュアンス。

「あれ、この声どこかで……」

「ピチカート? どうしたの」

いえ、とピチカートが首を横に振った。ありえない、という顔をしているが……私には詮索できそうにない。

「すいません……もうクリスマスのプレゼントの予約はおしまいなのです……が……? ピチカート!」

「あっ、貴方はスイドリーム!! なぜあなたがこんな所、ってちょっと!! 」

「ピチカート会いたかったよぉ。寂しかったよぉ……ぐすん」

扉から出てきたのは真っ赤なサンタクロースのコスプレ、ではなくて彼女は本当のサンタクロースなのかもしれないが黒髪の小柄で大人しそうな女の子がピチカートを見るなり、その大きな瞳に涙を溜めて抱きついた。
さすがはピチカート。一目で相手に惚れられたか。

「違いますって、キラキショウさん! ってスイドリーム何であなたがここにいるんですか!? 私たちはサンタクロースに会いに来て、って何どさくさにまぎれて胸揉んでるんですか貴方は!! 」

「ピチカートだぁ。本当にピチカートだぁ。懐かしい匂いがするぅ……あっ、おっぱいは成長してる。むむむ」

「ですからスイドリーム!! もうキラキショウさんもスイギントウさんは……無理だとしても止めてくださいって、うぁ止め」

「あっ、ごめんねピチカート。久し振りだからついつい興奮しちゃってぇ」

と、ようやくスイドリームと呼ばれた女の子はピチカートを解放した。いかんせんピチカートの顔が赤いのは気のせいということにしておこう。

「とりあえず入って入ってぇ。忙しいけどピチカートが来たとなれば話は別だよぉ」

「そうですか、ではお邪魔しますが……。スイギントウさんを少し休ませてあげなくては」

振り向いたピチカートに私はこくりと頷くと、そのまま水銀燈に肩を貸しながらこのサンタクロース要塞に潜入したのだった。


「で、スイドリーム、なぜあなたがこんな、しかもサンタの家にいるのですか? 」

「話すと長くなるから簡潔にいうと実は私のおじいちゃん、サンタクロースだったんだぁ」

「はぁ!? す、スイドリームのおじいちゃんがサンタ……? 」

どうぞ、とスイドリームから差し出された暖かな日本茶を口に含んだ。うん、これは確かに日本のお茶だ。サンタの趣味だろうか。
私の隣で水銀燈はようやく状況を理解し始めたのか、落ち着かない様子で日本茶を飲んでいる。

「ピチカート、悪いけど貴方達の関係を教えてくれない? 」

「はい、私とスイドリームは幼馴染なんです。家も隣で高校まではいつでも一緒だったのですが、高校を卒業してから3日後、置手紙と共に家ごと無くなりましてね。焦りましたよ、その時は」

「ごめんねぇ、ピチカート。私の家系は高校卒業したらみんなサンタ養成学校に通わないといけないんだぁ。ほんとはピチカートだけは伝えたかったんだけど、おじいちゃんがそれは秘密にしなさいって、私悲しくて悲じぐで、うぅ……ピチカートォォォォ!! 」

涙目鼻水スイドリームが再びピチカートの胸元へ見事なまでのダイビングプレス。おふぅ!? という声が室内に響いた。

しかしまさかピチカートの親友がサンタクロースの家系とは。世の中とは狭いというかよく出来ているというか。この偶然がいつかわが身に災厄となって降り注ぐような気がして少し恐怖を覚える。

「私寂じがっだんだよぅ~、友達ルドルフしかいないじぃさぁ、うっうっ……」

「ル、ルドルフってあなたの家で飼っていたトナカイ……あっ、確かに赤鼻だった」

「それにさぁ、おじいちゃん腰痛めて今年は私が頑張らないといけないじぃ、もう不安で不安で」

「わ、わかりましたからもう泣き止んでください!! まったくあなたは昔から泣き虫だ……そうか、貴方のお爺さんはサンタクロースだったのですね。だからお爺さんに欲しいものを言うと欲しいものがクリスマスに届いたわけだ」

ピチカートがスイドリームを抱き上げる。いつの間にか泣きやんでいるのを見ると彼女はそういうタイプらしい。

「スイドリーム、実は私達が今日こんなところまで来たのは貴方、いやサンタクロースを私たちのパーティに招待しに来たのですが」

「パーティ! しかもジャパンで! もちろん、行かせていただくわぁ。私もいつかジャパンに行きたいって思っていたの。おじいちゃんもぜひ連れて行きたいわ……けど今日はクリスマス・イヴ。私とおじいちゃんは世界の子供たちにプレゼントを配らなくてはいけないの」

「ええ、わかっています。すべてが終わってからでいいです。親友の貴方に無理強いはさせたくありません」

「大丈夫必ず行くわ……積もる話もたくさんあるのよ、私」

にこり、とスイドリームが笑う。何はともあれピチカートと水銀燈の野望は達成された訳で……ん、何か忘れているような。

「今日は……クリスマス・イヴ? となると日本まで頑張っても八時間、どう考えても間に合わないですわ、ピチカート! 」

「あっ、もちろん私が送っていきますわぁ。そりなら日本まで一時間かかりませんわぁ。サンタクロースのそりに乗って日本に帰るなんてロマンチックでしょう。雪の精霊さん」

「それはロマンチックで、サンタガールさん」

と、私が微笑み合っていると、一応言っておくがこれは作り笑いの笑みではないと付け加えておこう。ああ、決して作り笑いではないのだが、奥の扉が開いた。

「スイドリームよ、そろそろ出かける……おっ、君はピチカート久しぶりじゃのう。ジャパンに行ったと風のうわさで聞いたのだが」

扉の奥からは……白ひげに赤い衣装の本当のサンタクロース。お姉さまが顔を上げた。

「お爺さん! お久しぶりです。本当にサンタクロースだったなんて吃驚ですよ」

「ほっほっほ。子供達には内緒にしておくれよ……そちらの方々は君のジャパンのお友達かね」

と、サンタクロースがこちらを振り向く。
おお、本当にサンタクロースだ。見ているだけでとても暖かな気持ちになる。やはり彼には特別な力、というかオーラがあるのだろう。

「ええ。キラキショウさんとスイギントウさんです。日本でよくお世話になっていまして」

「ほっほっほ。そうかそうか。これからも仲良くしてあげてくださいね。キラキショウさん、スイギントウさん。ピチカートは昔から少し無愛想なところがあってのぅ」

「いえいえ、私たちがお世話になっているくらいですわ。それよりも時間があまりないのでしたわよね。日本に送っていただけるなんてまことに申し訳ないのですが」

「いやいや、気にせんでよいよい。これも何かの縁じゃろ。さぁ、出発しようかのぅ」

と、サンタクロースが重たそうに白い袋を担ぎあげる。あの袋に世界中の子どもたちの夢が詰まっているのだろうか。中は四次元ポケットとか何かでできているの違いない。

「あ、あのサンタクロース! ……さん」

さっきまで呆け気味だった水銀燈が突如立ち上がり、サンタクロースを睨む、まではいかないが意志の強いまなざしを向ける。

「わ、私……その私は、貴方に昔」

「ほっほっほ。もう家出はしなくなったようで嬉しいのぅ。銀髪のお嬢さん」

「……憶えててくれた」

もちろん、サンタクロースは水銀燈の頭にポン、と掌を載せる。慈愛にあふれたその大きく、やさしい掌を。
水銀燈はもう何も言わず、下を向いていた。
もしかしたら彼女は泣いていたのかも知れない。だけど、それ以上は私が土足で踏み入ることじゃない。

あくまで、彼女の、美しい聖夜の思い出なのだから。

「さぁ、皆さん出かけましょう。世界中の子どもたちが待っていますわぁ」

「ええ、行きましょう。ベリーベルが待っている」

「ってなんでピチカートまでサンタ服着ているのですか!? 」

こっちが感傷に浸っている間に彼女はいつの間にか短いスカートのサンタ服、まるでどこかのイケナイお店のお姉さんみたいな、そんな恰好に着替え真面目な顔で突っ立っていた。

「いや、ついつい」

「ついついって……って私もいつの間にかにサンタ服!! スカート短い、胸苦しい!? 」

「あ、それは私も思っていたのですが……これスイドリームのお古ですか」

ぱつんぱつんの胸元を少し気にする彼女を恨めしく……いや今回はお互い様か。まあこれからサンタのそりに乗るのであればこれが正装なのかもしれないから我慢しておこう。

ちなみに水銀燈のお姉さまは私たちとは違い黒いサンタ服なのはこのサンタクロースの趣味なのだろうか。それとも小さなサンタの趣味か。

「雪の精霊さんとピチカート、私はルドルフ達に、おじいちゃんと水銀燈さんはヴィクセン達のそりに乗ってください~。では世界に夢を! そして愛を! 」




12月24日只今午後9時。空にはいつの間にか雪が舞い散り。下に見える都会をデコレーション達と共にホワイトクリスマスとして染め上げている。目の前には赤鼻のトナカイが悠々とそりに乗る私たちを運んでいた。
隣ではお姉さまが本当のサンタクロースが華麗に宙を飛んでいる。

まるで夢みたいだが頬を引っ張ってもベッドから転げ落ちないのを見るとやはりこれは現実らしい。耳元でなる鈴のリズムを心地よく思いながらそしてサンタクロースの歌を口ずさむスイドリームの横顔を眺める。
彼女が言うには世界には彼女らの他にもたくさんのサンタクロースがいるらしい。たとえばオーストラリアのサンタは水上スキーが得意なお爺さんだったり、グリーンランドにはサンタの長老がいたり。
普段は一般人でも今日だけはサンタクロースとして世界に夢を配るという。
それが彼女らの使命だから。

「見えてきました、あの病院の脇の教会です! 」

「はいはーい。ルドルフ~任せたよぅ」

高度が下がる。私たちの世界が近くなる。ほら、もうすぐそこに私たちの愛する人らが待っている。
病院の子供の一人が窓から私たちに手を振る。柿崎めぐの担当の看護婦が驚いた表情を向ける。
これは真夜中の夜の夢。今夜限りの幻想。

「ピチカートゥゥゥ、おかぁえりぃ! 」

「ベリーベル、ただいま帰りましたぁ! 」

ほら、下からベリーベルの声がする。柿崎めぐの驚く表情が目に浮かぶようだ。隣のそりで水銀燈が、照れているのか少し誇らしそうな表情をしている。
翠星石と蒼星石は信じられないものを見たような顔を。意外にも真紅は落ち着きを払っていて、雛苺ははしゃぎ飛び、それを柏葉巴が楽しそうに眺めるというか少しは驚いてくれ柏葉巴。
金糸雀とみっちゃんはピチカートに手を振っていて、桜田ジュンは目を擦っている。のりは……ああいつも通りニコニコと。

そして

「おねーちゃん、お帰り」

薔薇水晶は最高の、本当にすべてがとろけてしまいそうな満面の笑顔で私を迎えてくれた。

「少し遅刻してしまいましたね」

「そんなことないよ。まさかサンタさんにそりで帰ってくるなんて思わなかったよ」

「私は期待を裏切らない人ですから」

地面に降りたったそりから私は薔薇水晶に向かって飛び、抱きしめた。

「メリークリスマス、薔薇水晶。愛していますわ」

「メリークリスマス、おねーちゃん。私もだよ」

結局、私は彼女にプレゼントは渡せなかった。けど、その代わりみんなに最高の出会いをプレゼントできた。

たまにはこんな破天荒なクリスマスもいいだろう。私は心から思う。

世界と、

すべての愛する人に

「メリークリスマス! 」



『そして雪が華(はなさ)く教会の下で』

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