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「……ベリーベル? 」

まったく心当たりの無い名前に私と金糸雀はお互い顔をあわせた。
この雪華綺晶とはいえさすがに皆の親類友人関係まで網羅しているはずが無い。というか私はたぶんあんまり知らないほうなのだと思う。
最近の薔薇水晶のようにあまり友人宅へは遊びに行かないからだ。辛うじて真紅の家くらいは知っているが雛苺宅などはまったく未知の領域なのである。

「ベリーベル……ベリーベルかしらー」

と、金糸雀はいつのまにか、鞄から黄色い手帳を開き何かを探しているようだがどうも難しい顔をしているのでやはり金糸雀も同じらしい。

「カナのスーパーパーフェクト情報手帳にも情報が無いかしらー」

本当の所、その10倍の情報量をピチカートは得ている事は内密にしておこう。
ここで傷つかれて帰られても困るのだ。

「で、ばらしーちゃん、結局、あの子は只の雛苺の御近所さんっていう事? 」

「そうだと思うよ。最近、よく雛苺と遊んでいるんだけど……なんというかあのベリーベルって子は雛苺みたいに精神的に幼いんじゃなくて、本当に私達より年下みたい」

気が付いている懸命なお人もいるだろうが、法律上は雛苺の方が私より歳上である。まあ、私は皆より少しサバを読んでいるのだけど。

詳しい事は次回以降の『雪華綺晶的な思考』を期待しないで待っていてほしい。

「と、なるとピチカートは本当にロリコン……」

「あっ、薔薇水晶、雪華綺晶ッ! ピチカート達が動きだしちゃったかしらー」

む、そのようだ。仲良さそうに手なんか繋いじゃって……あれでは若妻と幼子にも見えないことが無いのだが、いかんせんピチカートの顔が紅潮しているため、傍からは危ない方向に溺愛しているシスコンな姉と何も分からない無垢な妹、と私には見える。

これはあくまで私目線であって、一般人がどう見えているかは知らないが。

「カナ達も後を追うかしらー。あのままピチカートに犯罪に走られては困るかしらー」

「ま、まぁピチカートさんに限ってそれは無いと思うけど……一応ね」

一応、ね。
やっぱり薔薇水晶も気になるようで安心した。
これで
薔薇水晶=ロリコン
説が信頼できるようになってきた訳であって……。

「おねーちゃん、行くよー」

おっといけない。ついつい夢と妄想のめくるめくる世界にどっぷりとのめり込んでしまった。私も後を追わなければ。

と、金糸雀と薔薇水晶は抜け足、指し足、忍び足と、

私は意味もなく匍匐前進で
ピチカートとベリーベルをそっとストーカーするのであった。

その途中、
「ままー、何あれー」
と純粋無垢な子供に指差され、
「見ちゃいけません!!」と母親がまるで変態を見るような目でこちらを睨んで事があったが気にしてはいけない。

ご近所さんの目が痛くても、決して気にしてはいけないのだ。


「ん、ピチカートとベリーベルがデパートに入って行くかしら」

街中某所、私を始め金糸雀、薔薇水晶はピチカートストーカー大作戦を密かに敢行していた。

「しかし薔薇水晶も金糸雀もいつのまにそんなコートとサングラスを装備したのやら」

と、私は目の前のお忍び芸能人みたいな二人組の後に続きながら呟いた。
まぁ、怪しさ満点だが、ピチカートとベリーベルにばれる事はないだろう。
街中の平和を守るポリスメンに職務質問を受けない事を願うばかりである。

「おねーちゃんは変装しないの? ちゃんともう一セット準備してあるよ」

いやいや、ご遠慮させてもらおう。両目眼帯にサングラスを装備したコート女がこんな祝日の街中歩いていたら通報されかねない。

「ともかく追うのかしらー」

ずり落ちるサングラスを直しながら、金糸雀がピチカートらの後を追い、駅前デパートへと入ってゆく。

「おねーちゃん、私達も」

と、薔薇水晶に手引かれながら私達もデパートへと入っていった。

このデパートは私達の街でも大きい部類に入り、下には自転車から、上には小さい小物まで数々の店舗が揃っていてショッピングには最適な場所である。
今日はやはり祝日なのでセールでもやっているのか、デパートも繁盛しているらしく様々な人がデパートから行き来している。

これならばあまり見つかることも無いと思うが……鉢合わせだけは勘弁したいものである。

「金糸雀、ピチカート達は? 」

「六階行きのエレベーターに乗っていったかしらー。カナ達も早く追うかしら」

「でも他のエレベーターは全部上に行っちゃったんだけど」

「階段を使えばいいかしらー早く行くのかしらー! 」

やはり、そうきたか。
日頃から食っては寝る生活を過ごしている私にはかなり辛いのだが。
しかし、金糸雀は私達の有無を聞かずにエレベーター脇にある階段を叫び声と共に登り始めた。

「ばらしーちゃん、先に行ってて。私はエレベーター待つから」

「私もエレベーターにしようかな……」

と、帽子を脱ぎながら薔薇水晶が私の隣でエレベーターが落ちてくるのを待ち始める。
ギギギ、とエレベーターのワイヤーが軋む音が聞こえたような気がした。

「けど、まさかピチカートさんがベリーベルちゃんとデートなんてびっくりしちゃった」

「そのベリーベルがどう思っているかが問題ですけど」

ギギギ

「それもそうだよね……だけどそれじゃあピチカートさんが少し可哀想だなぁ」

「手を振っている限りは幸せそうに見えましたけど……ばらしーちゃんはそれでも可哀想だと? 」

「うん。もしもピチカートさんが本当にベリーベルちゃんに恋をしているとしたら、ピチカートさんは本気なはずだもん。自分がどんなに相手を想ったとしてもそれが相手にストレートっていうか、ダイレクトに伝わらないって事はすごく辛いんだよ」

ギギッ

「私は……恋をまだしらないから、その気持ちは分かりません。ばらしーちゃんを愛する事と、ばらしーちゃんに恋する事は違うでしょうか」

「んー、違うよ。やっぱり。私もおねーちゃんを愛してるけど、それは制御できる気持ちなんだよ。だけど恋は自分じゃどうしようもない、押さえられないんだよね。何をしていたって恋する相手の事を想ってしまう、そんなどうしようもない気持ち」

チーン、とベルが鳴る。
私達はエレベーターへ乗り込んだ。幸い、私以外には乗り合わせなかった。

「ばらしーちゃんは、恋をしているから分かるんでしょうね」

「……まだ分からないよ。これが恋なのかそれとも違うなのか区別すらつかない」

「……相手はジュン君ですか」

エレベーターは軋みながら上昇してゆく。

「……そうだね。そうかも知れない。たまにね、真紅とか、翠星石とかがジュン君と楽しそうにしていると、心が痛むんだ。何でだろう、って考えていたら気が付いちゃったんだよね、これが恋だって」

「ずっと変わらないと思っていたらいつの間にか恋する乙女に成長してしまうのだから……私だけが置いていかれた気分ですわ」

「大丈夫だよ。おねーちゃんだってすぐにいい人が見つかるよ」

エレベーターが六階へ着く。扉が開き、私は薔薇水晶の手を繋ぐ。

「私はもう少しだけ美味しいものに恋しているとしますわ」

私は薔薇水晶に微笑むと、薔薇水晶は、
「おねーちゃんらしい」
と屈託の無い笑顔を返してくれた。

薔薇水晶とそんな他愛もない、でもとても大切な話をしていたらすぐに六階に着いてしまった。
いつもなら遅い、と心の奥底で苛つきの原因となるエレベーターも、この時ばかりはもう少し遅ければ、なんて下手な事を呪ったわけだが。

「二人とも遅いかしらー! もうピチカート達はあの小物屋さんに入っていっちゃったかしらー」

案の定、金糸雀はエレベーターの前で私達が来るのをうずうずしながら待っていたらしい。
そんなに待ち焦がれるならもうピチカート達の方へ監視しに行けばいいのに、行かない所が私達に対する彼女なりの優しさなのだろうか。

「ごめん、金糸雀。で、ピチカート達はどこでしたっけ? 」

「あれかしら、アレ! 最近話題の『Little』ってお店かしら」

と、金糸雀が再び指差した。『Little』……私には聞き覚えがない、となると最近出来たお店なのだろう。
流行より必要物資の方が比重が重い私にはあまり必要ないという理由もあるが。

「そういえば『Little』ってここに出来たんだよね」

「何、知っているのか雷電? 」

「いや、おねーちゃん、私雷電さんじゃないから……えーとね、このお店結構雑誌とか口コミで有名なんだよ。世界各地から可愛い置物とかアクセサリーとかを集めて売ってるんだって」

なるほど、世界各地から……ピチカート監視の最中にでも眺めるのも悪くないかも知れない。

そんなこんなで私達は金糸雀を先頭にその『Little』という店に侵入するのであった。

「うわ~! 本当にいろんな物が売ってるね、おねーちゃん」

小さなウサギの置物を手に取り眺めながら薔薇水晶が私に尋ねた。
私は私で白い薔薇の細工が施してあるブローチを手に取りながら、うんとだけ答える。

いや、本当にお洒落なお店だ。
中に入る前から外見で、なかなかお洒落だとは思ったが内装もなかなか素敵じゃないか。

所狭しと並べてある数々の小物達が一斉に自分を見てくれとアピールしているような、そんな騒がしいと言おうか、遊園地のような楽しさがある。

「あっ、おねーちゃんの持ってる薔薇のブローチも可愛いね。おねーちゃん、そういうの似合うのに全然興味ないんだもん。いつも同じ格好」

「……手痛いですわ。あっ、ほら、これはばらしーちゃんの色って感じがする」

と、私は手に持っているブローチの隣に置いてあった、このブローチの色違い、と始め思ったがどうやら手掘りらしく、若干薔薇の花びらの枚数や角度がちがう紫の薔薇のブローチを手に取り、薔薇水晶に手渡した。

「ばらしーちゃんは大人っぽいから紫が似合うから、これがいいな」

「おねーちゃんとお揃いに出来るね……買っちゃおうか? 」

うん、それもいいかも知れない。この白薔薇のブローチとは何か運命的なモノを感じてしまった。それで薔薇水晶とお揃いならなお良い。
あと、問題は……
と、私は白薔薇のブローチを裏返した。

「……あれ、値段が無い」

置いてあった机の付近も見てみたが他の商品にも値札が付いている様子は無い。

「あっ、値札? たしかレジで店員さんに聞かないといけないらしいけど……」

なるほど、なかなかの商売方法、と思ったが、もしかしたらこの店のオーナーがこの小物達に値札を付けて可愛さを半減させたくなかっただけなのかも知れないが。

「……大丈夫ですわ、ばらしーちゃん。私、入院中に株取り引きで多少儲けましたから、私が払ってきますわ」

「……おねーちゃん、大丈夫? あんまり高かったら無理しないでね」

ハハハ、またまたご冗談を。レス数×壱万円ほどは稼がせてもらった私には痛くもかゆくもない。あ、いやレス数×拾万だったかな? 詳しくは忘れたが、今の私は金がある。

モノより思い出、なんていう言葉があるが、モノから思い出、というのもアリだと思う。

私は二種類のブローチを手にし、狭い通路を通りながらレジへと向かった。

あっ、そういえば全くピチカート達の事を考えてなかったがまあ、いいだろう。

見つかった所でピチカートが焦る様子が見れるだけである。

「いらっしゃいませー……あれ、きらきーちゃん? 」

……あれ、どこかで聞いた事があるような声がする。というか名を呼ばれてしまったような気がする。

私はレジ前で顔を上げると、そこには眼鏡がよく似合う、ほわほわした女性が、にこにこと笑顔を浮かべていた。

「久しぶりね、きらきーちゃん。今日は、ばらしーちゃんとお買い物かしら? 」

「久しぶりですわ、桜田のり。あなたがこんなお店を持っていたなんて思いもしなかったわ」

そう、目の前にいたのは桜田ジュンの実の姉、桜田のりである。

「私の友人のお母さんのお店なの。私はお手伝いよ」

「相変わらずお人好しで嬉しいです。貴女はそこがとても魅力的なんだから」

一体、その魅力で何人の男を虜にしてきたのだろう。本人にその自覚が無いから尚更、質が悪かったりする。
彼女は天然だからしょうがないといえばしょうがないのだが。
しかも翠星sゲフンゲフンのように、あからさまに計算されたものではないのがまた、男心をくすぐるのだろう。
只単に翠星sゴホンゴホンが猫かぶりというのだろうか、偽天然が下手過ぎるのもあるのだが。

「じゃあ桜田のり、お会計をお願い。この二つなんだけど、ここは値札が無いからやりにくいですわ」

「それが店長さんの考えだから……えっ~と、この二つの薔薇のブローチだから……」

こちら側からは見えないレジ下に値段表があるのだろう、それを確認しながら彼女はそわそわし始めた。
そりゃあこれだけの商品、何がどれだか分からなくなる気もわかる。

「二つで六千円だよ~、のり~」

レジの後ろにある従業員専用の部屋から何だか間の抜けた声が聞こえた。

「あっ、ごめんなさい、りえちゃん……えっと、六千円だけどいい? 」

ええ、と私は財布から野口なんとかを六人取り出す。

「さっきの声の人が貴女の友達? 」

「そうなのよ、峰(みね) りえ ちゃん。みんなからは『ほーりえ』なんて呼ばれているの」

ほーりえ……ねぇ。他にましなあだ名の付け方は無かったのだろうか。せっかくルパンな三世のような名前なのに。

「はい、では三千円ちょうど戴きますー……あっ、そうそう、そういえばさっきピチカートさんとベリーベルちゃんがお揃いのリボンを買っていったんだけど会わなかった? 」

いや、と私は首を横へ振った。なるほど、ピチカートとベリーベルは私達が商品を物色している最中にすでに何かを買っていたか。

「……あれ、金糸雀はどこにいったんのかしら」

「ああ、それならあそこで……」

桜田のりの指差す先にはどこの国で製造いるのか、山程ある卵焼き型クッションに囲まれて幸せそうな金糸雀が。

「みっちゃん、カナ……幸せかしらー」

「まったく……桜田のり、あれ三つ」


あれを見ていたらお腹の虫が鳴った。
時計の針は十二時。多分、ピチカート達もお昼だろう。

しかしぃ!!
私達のピチカートストーカー大作戦はまだつづくのだ。


「こんな卵焼きに囲まれて……生きててよかったかしらぁぁぁ!! 」

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