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私はあまり恋愛小説やそういったドラマには興味は無いが、王道というものを行くのであれば最後はハッピーエンドで締め括られるはずだ。
さてはて、ピチカートとベリーベルの恋愛物語(一方通行)はどういった結末を迎えるのだろうか。
私達は先とは打って変わって羨望の眼差しで私を迎えた金糸雀と、何事も無かったようにデザートを食していた薔薇水晶を回収し、先にお店を出たピチカート達を追うことにした。
結局な話、既にあちら側にはばれているのだし、ここまでストーカーをしてきた私達としては結末を知りたいのだ。ソードマスターうんたらみたいな最後は出来るだけ避けたい。
ああ、そうだ。全く関係ない話なのだが、ピチカート達はあのレストランの代金はサービスとして無料だったみたいだ。店長らしき人物と、あの災難ウエイトレスがお辞儀をしていたし、ピチカートが財布を開けることをしなかったからそうなのだろう。
私はもちろん食べた分全額支払った。
合計○万円で済んだのだから安いものだ。今の経済状況を考えれば痛くもかゆくも無い。
誤解を招かないように言っておくが、チンピラを脅したピチカートが無料になって、彼女をか弱い華奢な身体で止めた私が無料にならないのは何故だ、納得いかない、なんては全く思っていない。ああ、全く思っていない。
本当だ。信じてほしい。

……コホン。話が脱線してしまったが、場所は変わってここは……
「結局、始めの公園に戻ってきたかしら」
「……あんまりピチカートさん元気ないね」
と、私達三人は垣根の下、匍匐前進の体勢で身を屈め、二人を見守っていた。
あの件からピチカートは萎れた向日葵の様にうなだれ、ベリーベルもそれにつられるかのように彼女には似合わない難しい顔をしている。
「……本当に。彼女は他人の事には器用に対応するくせに、自分の事になるとあんなに不器用になる。人生損する生き方ですわ」
もちろん、そこが彼女の良いところなのだが。
「だけどせっかくのデートがあれじゃ台無しかしら」
「まぁ、成る様に成るでしょう」
そればかりは私達がどうこうするべき問題じゃない。
あくまで彼女ら、いや、ピチカート自身の問題だ。ベリーベルは他人を想う優しい子だから必ずピチカートの気持ちを理解してくれる。
後はピチカートが自分自身にどんな判決を下すか。

私達はそっと聞き耳を立て始めた。

『……あ、あのベリーベル。私は貴方に謝らなくては』
『……何を? 』
噴水を眺めていたベリーベルは、ピチカートのいる方向へ振り向いた。
『あのッ! その……先程のレストランの件で、その、私のせいでせっかくの美味しい料理が……雰囲気だって』
『……』
ただ、ベリーベルは目線を下に落とした彼女の顔を見ている。
『わ、私、自分の事は理解しているつもりでした。だけど本当は全然分からないんです。貴方といるとなんというか頭が回らなくなる、オーバーヒートしたみたいに制御が効かなくなるのです』
『……本当、ピチカートさんは不器用な人だから』
ピチカートが顔を上げる。その表情は痛々しい。いつもは鋭い瞳には今にも零れ落ちそうなほど涙が溜まっている。
『いつも他人ばかり考えて……自己犠牲タイプなんだね。さっきだって私の為にあんな危ない事してくれたんでしょ』
『……分かりません。だけど、あの時の私には貴方しかありませんでした』
……なんか甘いなピチカート。彼女自身ではなく、その台詞が。
『こっちはどうなるか心臓が痛くなっちゃうほどドキドキしたのに』
『……はい』
『怪我したらどうしようって不安だったのよ』
『……はい』
『こんな事を言ったって、次も貴方は他人の為に何かをでしょ? ピチカートさんはやっぱり優しすぎるよ』
ベリーベルはそっぽを向く。ピチカートの表情が今までより悲しみで歪んだような気がした。
『ピチカートさんは自分の優しさに気が付いていないから。それはその他人にとっては重荷になる場合だってあるんだよ』
『……ベリーベル、私は』
『だけどね、だけど。私はね、それでもいいと思うんだ。それがピチカートさんの優しさだもん。それは我慢する事じゃないし』
ベリーベルが空を見上げる。この子は見た目以上にオトナだ。多分、金糸雀や雛苺より精神的には3、4才上かもしれない。
『ピチカートさんみたいな人が友達でいてくれて、私は本当に幸せだよ。さっきはありがとう、ピチカートさん』
ベリーベルが最高の笑顔を浮かべながら振り向いた。例えるなら彼女はまるで太陽。暗い気持ちなどすべて消し去る程の満面の笑みだ。
『ベリーベル……!!』
ピチカートの顔が悲しみから笑顔へと塗り潰されたような、そんな錯覚に私は陥った。
それほどベリーベル、君は幸せを誰かにわけ与えることができる子だ。
『さぁ、ピチカートさん、次はどこへ行きましょうか? またまだ一日は長いですよ! 』
と、ベリーベルがピチカートの手を繋ぎ、再び煌びやかな街へと繰り出して行く……はずだったのだが。

『……ル、ベリーベルベリーベルベリーベルベルベルベルベルベルベル!!! 』
いつのまにかブツブツと魔法を唱えるように笑顔を保ったまま呟いていたピチカートが、へっ? と不思議そうな顔をするベリーベルに近付き……。
『ベル、私も貴方と一緒にいれて本当に幸せですッ!! あっ~好き好き好きスキスキスキスキスキッ! 』
『ひゃう! 』
思い切りベリーベルを抱き締めた。
ハグ、素晴らしき抱擁。
ピチカートの身体にベリーベルが包み込まれたような感じになっており、ベリーベルの手だけがどうにか自由に動ける感じだ。
『ああ、ベル……私は貴方に出逢えて幸せです』
『むぎゅう~苦じい~』
「ピチカートの胸にしっかりと頭がはまってるかしら」
「ピチカートさん、グラマーだからなあ……苦しそう」
さすが推定Eカップ。あれに押し付けられてはたまったものではない。私は一度ゆっくりと観賞したいものだが。
今度みんなで温泉でも行くのもいいかもしれない。お正月にかけてどこか山奥の旅館を借りて。
そんな事はまあ追々考えることとして、と私は匍匐の体勢から立ち上がると、胸元付近に付いた草を払いのけた。もう私達が彼女らに干渉することもないだろう。後は買い物なり、二人きりになれる場所なりいけばいい。
「……帰りましょうか」
「……そうだね。ピチカートさんの邪魔しちゃ悪いから」
と、私は薔薇水晶に手を差し伸べ、彼女を起こし上げた。
「金糸雀はどうするの? 」
「カナも帰るわ。あとはピチカートを信頼するのかしら」
そう、と私は頷くと、見つからないように静かにその場を後にする。
最後に、ちらりとピチカート達の方を見返したが、その時の彼女はとても幸せそうだった。

少し、羨ましく自分がいて、なんだか妙な気分を覚えた。

「ピチカートさん、楽しそうだったね」
金糸雀を別れた帰り道、薔薇水晶が楽しそうに尋ねてきた。本当、と私は答える。
「あれだけピチカートを変える程、本当に恋というものは恐ろしいですわ」
「ふふっ、お姉ちゃんらしい」
薔薇水晶が笑う。実際、それが本音なのだが。
「ばらしーちゃんもああいった状態に陥ってしまうと考えると今から悲しくて涙が出できちゃいますわ」
「おねーちゃんも恋をすれば変わるよ、絶対」
「……恋する乙女は全てに勝る、と」
私は薔薇水晶の冷えた手を握る。
嗚呼、いつかはこの手を離さなくてはいけない。誰かに彼女を取られてしまう日が来るのだ。それは悲しくもあり、嬉しくもあり、私には複雑すぎて分からない。
これが俗に言う親心というものなのかもしれないな、と私は密かに思う。
彼女の親でもない私に親心。
本当の彼女の肉親がそれを聞けばなんというだろうか。
……結果は分かりきった事。私を憎むだろう。妬み、恨み、呪い殺されてしまいそうな程。
いつか彼女には真実を伝えなければいけない。
それは現実。いつまでも目を背けてはいけない。立ち向かわなければ。一生背負うことなどできやしないのだから。
でも、
その日が来るまで。
私はもう一度、確かめるように彼女の手を握った。
私はこの手を離しはしないだろう。

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