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秋も深まる十一月。先の残留思念現象からようやく解放され、めでたく陰気な病院から退院してから既に十日ばかりが経った頃、

「おねーちゃん、スイートポテトが焼けたよー」

私は、少し遅い秋の味覚にどっぷりと浸っていた。
嗚呼、これを幸せと呼ばず何と表せばいいのだろうか。私にはこれ以外にはうまく表せる言葉を持ち合わせてはいない。
そんな事を思いながら私は、スイートポテトの甘い匂いに身を浸しながら、一人、ソファで最愛の妹が最高のお菓子を持ってきてくれるのをただ待っていたのだ。

しかし

私の幸せを崩壊させるべく、いや、少なからず相手は私達がスイートポテトを食べることを知らないはずだから、あまり悪くは言えないのだが、最悪のタイミングで玄関のチャイムが鳴った。
こんな風に出来すぎたタイミングで鳴り響くとついつい、そう思ってしまうのが人の性ではないだろうか。

「あっ、誰か来た……」

薔薇水晶は私のスイートポテトを台所に置き、ぱたぱたとスリッパを鳴らしながら小走りで玄関へ向かった。

しかし、今の姿を思うと今日の薔薇水晶は可愛らしい。まるでエプロン姿で日曜にお菓子を作るという若奥様に。

若奥様……なんていい響きだ。

あれで裸エプロンだったら私は今頃発情期の獣と化しているだろう。ああ、そんな自分が情けなく、誇らしい。

「はーい、何方ですかぁ」

『カナかしらぁー! 開けてほしいかしらー』

玄関の方から金糸雀の声がする。

うんうん、まず相手を確認するまで扉を開けないとは薔薇水晶も成長したな、と私は思った。
一応、この家は私と薔薇水晶と猫のうにゅーだけで、男がいない。どこからか強姦魔が押し掛けてくるかも分からないのだ。ちゃんと相手は確認しなければ。

ガシャリ、と玄関の扉が開く音がする。どうやら本当に金糸雀らしい。こんな日に何しに来たのだろうか。先の探偵料はすでにピチカートに渡してあるし、こんな所に一人で遊びに来る人でも無い。

「こんにちは、薔薇水晶。雪華綺晶はいるかしら」

「金糸雀、あの飲み会ぶりですね。ピチカートさんは大丈夫だった? 」

「次の日二日酔いで苦しんでいたかしらー、あんなピチカートもう見れないかもしれないかしら」

と、世間話をしながら金糸雀と薔薇水晶がリビングへと入ってくる。
しかし、私に用件とは。少なくとも今の私には金糸雀には用は無い。

「雪華綺晶、こんにちはかしらー」

金糸雀がテーブルを挟んだ側のソファへ座る。表情から察すればどうも彼女は何かを隠している。いや、焦っているのだろうか。

「前のカラオケ以来かしらー」

「そうね、あれから結局みんなべろんべろんに酔い潰れて平気だったのは私達三人だけだったものね。ピチカートは大丈夫? 」

「二日酔いはもう大丈夫だけど……」

金糸雀が私から視線を逸らす。どうやら今日はピチカートの事で来たらしい。

「実は……そのピチカートの事で相談があるのかしら」

金糸雀が言葉をゆっくりと吐いた。
酔いには弱いが他は完璧超人のピチカートについて相談。
やはりどうもぴん、と来なかった。

「実は……ピチカートが……こ、恋をしているかしらー!!!」

「「な、なんだってー!!」」

私と薔薇水晶の叫び声が家中に響き渡った。


『ピチカートな恋愛物語』


……と、取り乱したわ。しかも姉妹揃って。まったく下手な所でシンクロしているんだから困ったものだ。

「……けど、ピチカートさんだって女の子なんだから恋の一つや二つありえない事じゃないんじゃない? ほら、学校での出会いとか」

確かに。完璧超人ピチカートだって一人の女の子である。ウチの最愛の妹や、真紅、翠星石があの眼鏡野郎に惚れているように、ピチカートだって何か、ときめきのような、一抹の焦燥感みたいなものを感じても何もおかしい話ではない。

では、なぜ金糸雀はそんな事を私達に相談しに来たか。多分答えは一つ、そう……

「要は金糸雀、貴方はピチカートの想っている相手を知りたい、だから私達に協力して欲しいと」

金糸雀がこくん、と頷いた。
確かにあのピチカートの心を奪った相手だ。私も気にはなる。
例えば、某ジャ○ーズのようなイケメンタイプなのか、それとも目がくりくりしていて半ズボンが似合う背の小さな可愛い男の子なのか、それとも思わず、うほっ……とか言ってしまう程のイイ男なのか……。

想像は膨らむばかりである。
「でも、相手を確かめるといってもピチカートさんの学校に忍び込むわけにも行かないでしょ。どうするの? 」

「それが薔薇水晶、明日の祝日、ピチカートが遊びに行くっていうのかしら。しかもお洒落して。これは間違いなくデートかしらッ! 一緒にピチカートを誑かした相手の面を拝みに来てほしいかしら! もう薔薇水晶と雪華綺晶だけが頼りかしらぁ~」

と、泣きそうな顔で嘆願する金糸雀を見ると、どうも助けてやりたくなる。というものは名目上、私と薔薇水晶だって正直、ピチカートの相手が誰だか知りたいのだから選択権は自ずと限られてくる。

「わかったわ、金糸雀。では早速作戦を練りましょう。『恋の華ッ! ピチカート追尾大作戦』を!! 」

好奇心の塊の私達と何も知らない被害者ピチカートのドタバタ連休が今、始まったのだった。

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