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MISSION3――道化の誘い――

 

 カツン、カツンと甲高い音が豪華な寝室に静かに響く。
 その部屋の中央では二人の女性が音の発生源であるチェスを行っていた。
「…どうやら来たようですね」
「…みたいだね」
 先に右目から薔薇の生えた女性…雪華綺晶が対戦相手である帽子を被った女性…蒼星石に話し掛けた。
 その間もチェスは止まる事無く、音は鳴り止まない。
「どうですか? 一年ぶりの姉妹の再会…嬉しくありませんか?」
「…嬉しくない、と言えば嘘になるかな」
 しかしその表情は決して明るい物とは言えず、無表情で駒を進めてビショップの駒を倒した。
 雪華綺晶はその駒をテーブル脇に避けてナイトの駒を動かす。
「まあ、なんだかんだ言って僕の姉だからね。僕の考えもきっと分かってくれるはずさ」
「それは心強い。…でも、もし分かってくれなかったらどうします?」
「…その時は…」
 蒼星石はそこで言葉を区切るとクイーンの駒を動かして雪華綺晶のキングの駒を倒し、そこにクイーンを少し力強く置いた。
 倒されたキングはそのまま転がり、床に落ちてしまった。
「…力で分からせるさ」
 そこで初めてニヤリと笑い、背もたれにもたれて満足そうにチェス板を眺める。
 負けた雪華綺晶もフッと少し笑い、立ち上がって窓近付いて行った。
 そこから見える森の景色は生気がほとんど感じられず、空も厚い雲が覆っていて不気味な光景だ。
「…嵐が来そうですね」
 景色を見て独り言を呟く。
 その直後、背後のベランダへのガラス戸が乱暴に開かれて湿気を含んだ風が部屋に流れ込んできた。

 

 それから傷だらけの二羽の怪鳥…ピチカートとベリーベルが息も絶え絶えに転がるようにベランダへ辿り着いた。
 雪華綺晶はそれに気付き、二羽のもとへと近付いて行く。
「ずい分とやられましたね。ピチカート、ベリーベル」
『…私達じゃ勝てなかったよ…』
『強い…あの人強かったよ…』
「おやおや、可哀想に。痛そうね」
『痛い…背中が痛いよ…』
『ご主人様ぁ…助けて…』
「そうですか。では…」
 雪華綺晶はそっと二羽の頬を撫でてあげると、スッと下に手を滑らせる。

 

「すぐ楽にしてさしあげます」

 

 刹那、キンッ、と甲高い音が響き、腰に掛けられていた鞘から片手剣が抜かれ一閃を凪いだ。
 それを二羽に背を向けて鞘へ元に戻していく。
 その様子を、二羽とも呆然とした様子で眺めていた。
『…あ…れ…』
『…どう…して…』
「…申し訳ありませんが…私は役立たずを生かしておけるほど人が出来てませんので」
 言い切ると同時にパチッと音を立て鞘へ完全に剣を戻し、その音が合図となって二羽の体が縦真っ二つに切り裂かれていった。
 断面からは血が止め処なくあふれ出し、血の海がベランダ一面に広がっていく。
 雪華綺晶はその様子には目もくれず部屋の中に戻っていき、蒼星石はそれを見ても表情一つ変えず立ち上がった。
「さて…と。歓迎の準備でもしてくるかな」
 そう言い壁に立て掛けてあった庭師の鋏を背負い寝室を出て行き、後には雪華綺晶だけが残された。

 

―※―※―※―※―

 

 いざ屋敷に入るとそこは広いエントランスホールで、目の前には大きな階段があり、二階部へと吹き抜けになっている。
 壁に掛けられた多くのランタンと巨大なシャンデリアがホールを照らしていたが、薄暗くどこか薄ら寒い。
 そして部屋中央には不気味な悪魔のオブジェが飾られていた。
 ドアは見える範囲で両手側にそれぞれ一つずつ、二階通路部分は両手側に同じく一つずつ、正面に一つある。
 どれも木製で年季の入ったものだ。
 翠星石はまず一階のドアを開けようとしてみたがカギが掛かっていて開きそうに無い。
 仕方なく今度は二階の扉を開けようとしたがそれも開かず、翠星石は苛立ってきて舌打ちを打った。
「パーティに呼んでおいてこれなんてね…呆れて物も言えませんね」
 当ても無く部屋を見渡してみると、二階の正面ドアに何か書かれているのに気が付いた。
 そこにはこう書いてある。
――智の結晶を捧げよ――
 と。
「…何か要るんですかね」
 とは言ったもののドアはどれも開かない、それで何を取って来いと言うのか。
 翠星石はどうしたもんかと少しその場で考えてみたが、何も浮かばず余計にイライラしてきた。
 考えるのをやめて、その場で体を揺らしてリズムを取り始める。
「…こういう先に親玉が居るってのは昔からの決まりですぅ!」
 やがて体がノッてくると後ろへバックステップして下がり、そして一気に扉へと跳び蹴りをかました。
 体重は軽めとは言え全身全霊の力が篭った一撃。轟音が響き、これで扉が壊れたかと思ってそこを見る。
 しかし、そこは扉が傷一つ付かず道を塞いだままだ。
「チッ…意外と頑丈ですね…」
 それでますます苛立ち、今度は腰の銃を二丁とも取って扉へと構える。
 これでぶっ壊そう、そう思った矢先。

 

「かーしらー!!」
 不意に場違いなほど能天気な大声が背後から聞こえ、その方を上半身を捻って見た。
 そこには室内だというのに日傘を差した、やたらと額の広がっている、翠星石よりも若干幼げな女性が立っていた。
 今までこのホールには誰もいなかったはず。
 それなのに何の気配も感じさせずいきなり現れた辺り、この女も只者じゃないだろう。
 女は人差し指を立ててチッチッチッと振ると翠星石にウィンクをして見せた。
「どうやらお困りの様かしらね、開かなくて困ってるのかしらお嬢さん?」
 小ばかにしたような口調とその語尾に翠星石はますます苛立ち、女を無視して扉に銃を構え直す。
 その翠星石を止めようとすかさず腕に縋り、背けられた顔を手で無理矢理自分の方に向けさせた。
「ちょっと待つかしら、ここは一つカナのお話を聞くかしら。損はさせないはずかしら~♪」
 相変わらずの口調で翠星石の頬を掴んだ手でスッと撫でる。
 翠星石は苛立ちを表情に表したまま銃を下げ、その前に女が躍り出た。
「カナは金糸雀って言うかしら! この屋敷の事なら何でも知ってる薔薇屋敷一の頭脳派かしら~」
「…で? その頭脳派が何の用ですか」
「せっかちな迷子の迷子の子猫ちゃんのご案内かしら~♪ 見たところ頭もそう良く無さそうだし…か~しらしらしら~!」
「かしらかしらうるさいんですよ」
 完全にバカにした笑い声に頭来て、銃を二丁とも金糸雀目掛けて撃ちまくった。
 しかし銃撃をされた金糸雀は慌てる事無く、それをステップで軽々とかわして銃弾は後ろのドアへと撃ちこまれていく。
 余裕たっぷりなのが余計に腹立つ。

 

「頭脳派ならさっさと開けるなり何かするですよ。それともそのデコにデカイ風穴開けてもらいたいですか?」
 これ以上撃っても弾の無駄遣いだと判断して銃撃を止めると、金糸雀は一つ息を吐いて汗を拭う仕草をしてみせた。
「…ね? これ見てみるかしら」
 日傘を畳み、それでドアを何度もガンガンと乱暴に叩く。
「あれだけ撃っても傷一つ付いていない。なぜならここは、雪華綺晶の魔力でリフォームされているからかしら!」
「雪華綺晶…ああ、あのイカれ女ですか。初めて名前を知ったですよ」
「そう、その魔力でこの屋敷はすご~く頑丈になってるかしら! だ・か・ら~、撃っても蹴っても無駄かしら!」
「…じゃあさっさと開けるですよ。せっかちなのは分かってるはずですよね」
 殺気の篭った目で一歩踏み込んで胸倉を掴み、金糸雀の額にスィドリームを押し付ける。
 さすがにこれには参ったのか、さっきまでのおちゃらけた雰囲気が少し消えたような気がした。
「…そ、そう言われても…」
「出来ないんですか? じゃあ私をバカにした事をあの世で後悔するんですね」
 銃口を押し付けたまま引き金を引き、銃声がホールに響き渡る。
 これで静かになった、そう思って金糸雀を見てみたが、それはいつの間にかアカンべーをした表情の布人形に変わっていた。
「そーんなことしたらせっかくのパーティが台無しかしらー! か~しらしらしら~!」
 人形を投げ捨てて声のした方を見ると、金糸雀がシャンデリアに乗って翠星石に高笑いを浮かべていた。
 翠星石は舌打ちをしてスィドリームをその方に向ける。

 

「…かといって、このままパーティが進まなかったら意味無いかしらね~…」
 銃を向けられているのに気付いてないのか、呑気に人差し指を額に当て困ったような仕草をした。
「というわけで、ここは一つプレゼント! 受け取るかしら!」
「ほざくですぅ!」
 金糸雀が翠星石に向かって何かを投げ付け、それと同時に引き金を引いたが銃声がしない。
 何かと思って銃を見てみると、撃鉄部分にジョーカーのトランプが挟まっていた。
 いつの間にこんな物を挟まれたのか。
 スィドリームを下げてレンピカを金糸雀に向けたが、そこに既に金糸雀の姿は無く、シャンデリアが揺れているだけだった。
 レンピカをホルスターに仕舞い、スィドリームに挟まったトランプを引き抜いた。
『それで一階の右側扉が開くはずかしら! 急がば回れって言葉もあるから、健闘をお祈りするかしら~♪』
 その場面を見ていたのか、どこからとも無く金糸雀の馬鹿にした声が響いてくる。
 翠星石は言われたトランプを見てみると、ポンッと煙を立ててそれは厳ついカギへと変わった。
 それをまじまじと見て、面白く無さそうに溜息を一つ吐いた。
「…最初っからこうすればいいんですよ、お喋りが」
 怒り肩で階段を降りて行き、言われたドアのカギを開けると怒りに任せて蹴破った。
 今度会ったら絶対にデコに風穴開けてやる、そう決めて。

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