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MISSION2 ――幼き門番達――

「…やれやれ、今日も依頼はスカですか」
 日付も変わり、一向に鳴らない電話を恨めしく睨みながら翠星石がウンザリといった様子で溜息を吐いて足を机の上に乗せる。
 その様子を見た蒼星石が庭師の鋏の手入れを止め、呆れたように翠星石のだらしない姿を見た。
「姉さん、行儀悪いよ」
「いいじゃねえですか。どうせ誰も見てないんですから」
「そういうのは普段のお客さんの前でふとした時に出るんだから。本業は庭師なんだから」
「…はいはい。真面目な妹を持って幸せですね」
 皮肉を込めた台詞を言い、机に乗せていた足を下ろして今度はそのまま足を組む。

 もっとも、この時間の仕事は庭師ではない。
 翠星石と蒼星石のもう一つの仕事、それは人界に居るべきではない者…悪魔を狩ることだ。
 悪魔狩りは裏の仕事であるからこれを知る者はごく一部だが、それ故一件一件が重要な場合が多い。
 便利屋、として店を構えるよりはこっちのが当たりに当たる確率が高い。

 

 とは言え、依頼が来なければ質もどうも意味が無いのだが。
 蒼星石は庭師の鋏の手入れを止めて次に愛用の拳銃、レンピカの手入れに取り掛かる。
 翠星石は手持ち無沙汰に愛用の拳銃、スィドリームをクルクル回しては宙に銃を構える、と言う動作を繰り返していた。
 しばらくそうしていると、蒼星石が溜息を吐いた。
「…いつまでこんなことを続けるの?」
「こんなことって?
「こうして悪魔狩りや悪魔祓いの依頼が来るのを待って、依頼が来たら狩りに行く…こんな悠長な事をしてても奴らを根絶やしに出来ない」
「…だからって、焦ってもしょうがないですよ」
「しょうがないじゃないよ! 僕はあの日以来決めたんだ、奴らを根絶やしにしてやるって!! 姉さんは忘れたの!?」
「忘れる訳無いじゃないですか!!」
 あの日…両親を惨殺された日から、二人はこの世から悪魔を根絶やしにすることを決めて生きてきた。
 だが、それなのにこうして表向きは庭師を開業しながら、裏で細々と悪魔狩りを行っている事に蒼星石は正直苛立っていた。
 本来なら悪魔の巣窟に行って奴らを血祭りにしてやりたいくらいだが、翠星石は呑気でそう言った素振りを見せない。

「…でも、物事には順序ってものがあるですぅ。少しずつやってかないとこっちが食われるですよ」
「だからって…!」
「蒼星石」
 尚も食って掛かろうとする蒼星石を睨んで黙らせた。
 こうして本気睨むと、大抵蒼星石は怯んで喧嘩は終了する。姉の威厳、と言う物だろうか。
「…もう疲れた。おやすみ、翠星石」
 それだけ言うと蒼星石は事務所の奥にある居住スペースへと戻って行った。
 翠星石の事を姉さん、と呼ばずに名前で呼び捨てにする時は怒っている時だ。
 翠星石は苦笑いを浮かべ、スィドリームを机の引き出しにしまって彼女もそろそろ寝ようと奥に戻って行った。

 

 次の日の朝、翠星石が目覚めて事務所に行くと、机の上にレンピカが置いてあるのに気が付いた。
「…何でこんな所に? しまい忘れですかね…手紙?」
 更に見てみると、レンピカの下にチラシの裏に書かれた書置きが置いてあった。
 それを手に取り、イスに座って読み始める。

――姉さん、悪いけど僕はやっぱりこうして悠長に悪魔を狩るのは性分に合ってないようだ。
  僕は僕でデビルハンターを行うから。いつか必ず奴らを根絶やしにしてやるよ。
  いつか帰ってくると思うから。それまで君にレンピカを預けるよ。
  そいつを僕だと思って使って一緒に狩りに使ってくれ。
  わがままな妹をお許し下さい。                   蒼星石―――

「…あのバカ…」
 溜息混じりにそう呟き、庭師の鋏が掛けられていた壁の部分を見る。
 そこにあった鋏は消えていて、それを確認すると翠星石はまた溜息を吐いた。

―※―※―※―※―

 

「…あれから一年…早いものですね」
 ボウボウに伸びた雑草を掻き分けながら、招待状に同封されていた地図を頼りに歩みを進める。
 今登っている山は地元でも有名な心霊スポットの一つ。
 それゆえここまで来る人は少ない…悪魔が集まるには絶好の場所だ。
「…薔薇屋敷…か。この道で合ってると思いますけど…」
 パーティ会場である薔薇屋敷へは、この地図どおりならもうすぐのはずだ。
 辺りにそんな建物が無いか確認していると、何者かの気配を感じ取った。
 翠星石はポケットに地図をねじ込み、薄っすらと笑みを浮かべて腰に掛けられた庭師の如雨露に手を伸ばす。
「…この道で合ってそうですね。お迎えご苦労さんでした!」
 瞬間、後ろから振り下ろされた剣を振り向き様に如雨露で弾き返し、目の前に居る異形の物を睨む。

 この如雨露は水を巻く本来の目的の他にも、悪魔の力を得たこれは悪魔に対する強大な武器となる。
 これこそが悪魔へ対抗する手段であった。

 後ろに居たのはまるで子供が粘土で作ったような歪な人形に、丸く穿った目を模した部分が赤く光る土人形――ゴーレム――だった。
 剣を弾き返され隙だらけになったゴーレムに向けて如雨露を一閃放つ。
 それを喰らったゴーレムは胴体が真っ二つにされ、そのまま崩れ落ちてただの泥へと還っていった。
 それには目もくれず、その先に居たゴーレムに向けて一歩踏み込み強烈な突き攻撃を放つ。
 腹部に強烈な攻撃を喰らい、大穴が開き吹き飛ばされたゴーレムに向けて今度は銃を向けて引き金に指を掛けた。
「土は土らしくなってるがいいですぅ!」
 スィドリームが無数の火を噴いて銃弾を吐き出していき、ゴーレムは立ち上がる間も無く撃ち抜かれて泥へと還っていく。
 やがてゴーレムが跡形も無く消え去ると銃口から出ている硝煙を吹き消し、華麗に回転させてホルスターへと捩じ込んだ。
 それから辺りを見渡すと、剣や大斧、中にはボーガンを持ったゴーレム達が何体も自分の周りで構えていた。
 常人なら気絶してしまいそうなほどの恐怖を感じるであろう状況だが、翠星石は不敵な笑みを浮かべたまま如雨露を手に取る。

 

「…なるほど、イカれたパーティの始まりって訳ですね」
 普段誰にも見せないような、楽しげな口調。
「さぞかし楽しいパーティになりそうですねぇ、蒼星石!!」
 如雨露を構えて、何の迷いも無く目の前に居るゴーレム達へと斬り込んで行った。
 迫ってきた翠星石に向けてゴーレム達は武器を振り下ろすが、それを巧みにかわし隙だらけなゴーレムを切り伏せていく。
 一振り、二振りする度に一体一体が泥に還り、成す術も無く消えていくのが分かった。
 数で言えばゴーレム達の方が遥かに有利なはずなのに、それを感じさせない翠星石の素早い動き。
「ナンパしたいんなら、もうちょっと良い男に作ってもらうべきでしたね!」
 感情を持たないはずのゴーレム達が、どこか翠星石を恐れ始めたように見えたのは気のせいだろうか。
 目の前にいるのは人間ではない、人間の皮を被ったバケモノ…そう思っているのだろうか。

「ジ・エンド!!」
 やがて最後に一体になり、足を切り捨てて倒れたゴーレムの腹を踏みつけて、そのまま顔に銃を何発も放つ。
 顔が穴だらけになったそいつを蹴り飛ばし、木の幹にぶつけると土に還り辺りに静寂が戻っていった。
「…準備運動にはなったようですね」
 火照った体に吹く風が心地良く、銃と如雨露を戻して乱れた前髪を軽く整える。
 辺りにもう悪魔が居る気配も無く、翠星石は地図を取り出して先に進んで行った。

 

 それから何度かゴーレムとハーピーが現れたが動ずる事も無く倒して行くと、目の前に巨大な門が現れた。
「…ここが薔薇屋敷…パーティ会場ですね」
 門の先には広大な庭が広がり、そして同じく巨大な屋敷が佇んでいる。
 だがそれは長らく放置されていたのか見た目はかなりボロボロで、庭の植物は全て枯れ果てていて殺風景極まりない。
 そして空気と雰囲気はこれまでよりも重苦しくてどこか生臭く、息を吸うのも嫌になるほどだ。
「やつらが好みそうな場所ですね…」
 一つ息を吸い、意を決すると錆びた門を蹴り飛ばして開け放ち、中へ入っていった。
 辺りに何か出ないか、少し警戒しながら進んでいくが何も見えずこのまま屋敷に入れるかと思った。
 その矢先、屋敷の屋根の向こうから体長数メートルはありそうな怪鳥が二羽飛んできた。
「っ…!」
 さすがにこれには翠星石も少し戸惑ったものの、すぐに冷静になってその怪鳥を見据える。
 一羽は黄色、一羽はピンク色で目はクリクリしていてどこか愛らしい物がある。
 …だがそのクチバシはどす黒く染まっていて、それが愛らしさを吹き飛ばしておどろおどろしさを強調していた。
 二羽の怪鳥は翠星石を見つけると近寄ってきて、その前で翼を羽ばたかせて滞空し翠星石を見つめる。 
『ねぇねぇピチカート、久々のお客さんだよ!』
 先にピンク色の怪鳥が黄色い怪鳥――ピチカート――に話し掛けた。
『そうだねベリーベル。ここに人が自分から来るの久しぶりだね』
 それに応えてピンク色の怪鳥――ベリーベル――に話し掛ける。
 その二羽に、翠星石は声を張り上げて話し掛けた。
「おめーら、ここを通りたいんだからそこをどくですぅ!」
『ピチカート、ここを通りたいって』
『そうみたいだね。でも、久々のお客さんだからちょっと遊んでもらおうよ』
「遊ぶ? ハッ、私は子供のお守りは嫌いなんですけどね」
『そうだね、遊んでもらおうか!』
『うん! 前の人間はすぐ動かなくなっちゃったけど、今度はどれくらい持つかな?』
『さぁ? でも出来るだけ長く遊んでもらうようにしようよ』
『決まり! おねーちゃん、遊んでよ!』
「おめーら、人の話を…!」
 翠星石の話を完全に無視し、ピチカートが先にクチバシで突付こうと迫ってきた。
 それをバック宙でかわすと今度はベリーベルが飛んできて、そのカギ爪を身を捻ってかわすと二丁の拳銃を手に取った。
『すごい、あれをかわしたよ!』
『これは楽しめそうだねベリーベル!』
 相変わらず心底楽しそうな二羽に、翠星石は苛立ちを隠さない様子で睨み付ける。
「だから子供は嫌いなんですよ…しょうがない、こうなったら躾って物を一から叩き込んでやるですよ!!」
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