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楽しかった文化祭も終わり、まさに祭りの後独特の気だるげな雰囲気の漂う放課後。

ミスコンに参加したりで、何だかすっかり忘れられかけているが……
一応、彼女達は『新聞部』という部活を行う身。
そんな訳で、部室では展示という地味な出し物を、これまた地味に行ったりしていた。

そして文化祭が終わった今では、その後片付けが行われている…ハズだったのだけど……。 



「ほっ!はぁっ!……おお!新記録ですぅ!! 」
指先にホウキの柄を乗せ、バランスを取りながら翠星石が嬉しそうに声を上げる。

「……ふぅん……こんな物まで残っていたのねぇ… 」
ロッカーの中から出てきた古い資料をパラパラとめくる水銀燈。

「あら、もうこんな時間なの?…少し休憩にしてお茶の時間にするわよ 」
片付けの途中だろうがお構い無しに、勝手に休憩を始めた真紅。

完全に背景と化した蒼星石がため息と共に、一人だけ真面目に床を掃き掃除している。


後片付けは……あんまり進んでなかった。




◆ ◇ ◆ ◇ ◆  この町大好き! ☆ 増刊号23 ☆  ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 

「ほぁぁ!はっ! 」
翠星石はさっきからずっと、指先でホウキのバランスを取る事に随分とご執心。

皆、真面目に掃除しようよ…
蒼星石はそう言いたくって仕方無かったが……多分、言っても無駄だろうと完全に諦めていた。
それでも…
「翠星石も部長なんだから…そんな事、危ないからやめなよ… 」
今更、言ってもきかない事は分かってはいるけど…
とりあえず、一番アグレッシブに掃除以外の事をしていた翠星石にだけは注意をしておく事にした。

「心配ゴム用ですぅ!この私の華麗な腕をもってすれば、危ない事なんか無いですよ!! 」
指の上に逆さまにしたホウキを乗せ、翠星石は満面の笑みで答える。

「…ははは……そうだね 」
蒼星石は渇いた笑いをして…それから深いため息と共に掃除を再開した。
当然、一人で。


4人もこの場にいながら、頑張って掃除をしているのは自分ひとりだけ。
そんな世知辛い現状から目をそらすように…蒼星石はゴミ捨てにと、部室から出て行く。

 
そして……サボりまくりの3人が残った部室の中では……

「ほぁぁぁぁぁあああ!? 」
翠星石のシャウトが響き渡っていた。

翠星石が叫ぶのは珍しい事ではない。
それでも、とりあえず振り返った真紅と水銀燈が見たものは…!

指先に乗せてたホウキのバランスが崩れ、それを追いかけて……窓に体当たりをしている部長の姿だった。

◇ ◇ ◇

  ガシャァァァン!!

ゴミを捨てに行っている途中、どこか遠くで窓ガラスが割れた音に気が付いた蒼星石は……
何となく…何となくだけど、その原因に心当たりがあった。

「……はぁ……本当に…もう…… 」
自分の双子の姉の姿を思い浮かべても……今回ばかりは、深いため息しか出てこない。

◇ ◇ ◇

「どどどどどーするですか!?蒼星石にバレたらきっと怒られるですぅ!! 」
見事に粉砕された窓ガラスを前に、翠星石は目を白黒させていた。

今までも窓ガラスを粉砕した事は少なからずあった。
その度に、蒼星石に怒られ、職員室に連行され、そこでまた怒られ……思い出すだけでも泣きたくなる。
 
「ぅぅ……これがバレて怒られたら……か弱い翠星石はトラウマだらけになっちまうですぅ… 」
そんな訳で、翠星石は見事な嘘泣きをしながら真紅と水銀燈にすがりついていた。

「……それが当然の報い、ってやつねぇ… 」
「……そうね。掃除をサボって遊んでるから、こんな事になるのだわ 」
それに対して、水銀燈も真紅も、私は関係ない、といった表情。

(押してダメなら…轢いてみろ!ですぅ! )
翠星石は嘘泣きを止め、今度は目をギランと輝かせながら立ち上がる!

「こうなったら連帯責任、ってヤツですぅ!!
 皆で、蒼星石にバレない方法を考えるですよ!!これは…部長命令ですぅ!! 」
怒られたくない一心で翠星石は滅茶苦茶な事を言い出した。


「全く……ずいぶんと都合の良い時だけ部長らしくなるものね 」
真紅はやれやれといった表情をするも……翠星石が起こしたトラブルに巻き込まれるのもいつもの事。
飲んでいた紅茶のカップをカチャリと机に置いた。

「おお!さすがは真紅ですぅ!! 」
翠星石は嬉しそうに真紅にしがみつく。

真紅は相変わらず、落ち着いた表情そのもの。
「それで翠星石……割れた窓の破片は、これで全部? 」
そう言い、チリトリに集められたガラスの破片を指した。

「はい……これで全部ですが……どうするつもりですか? 」
もしや、何やら不思議な魔法みたいな何かで、修復でもしてくれるのだろうか?
翠星石はドキドキしながら真紅を見つめる…。
 

翠星石が見守る中、真紅はすっと息を呑む。そして、力強い眼差しで窓の破片を見つめ……
おもむろにセロハンテープを取り出すと、ペタペタとガラスの修復を始めた。


「………真紅……これは…… 」
げんなりとした表情で、翠星石が真紅に尋ねる。

「簡単な事よ。…科学の力なのだわ 」
そう言う真紅はセロハンテープ片手に、当然のようにしたり顔でつぎはぎだらけのガラスを見下ろしていた。

ガラスは思いのほか、ずいぶんと器用にセロハンテープで再生(?)したけど……
当然、何一つ解決してなかった。

◇ ◇ ◇

「…何が『科学の力』よぉ……そんなのに騙される人間、居るわけないでしょぉ 」

傍観を決め込んでいたものとばかり思われていた水銀燈だったが……
ここに来て、真紅の作戦を鼻で笑いながら、おもむろに立ち上がった。

「失礼ね、水銀燈……あまり科学を甘く見ない方が良いわよ… 」
真紅は自分の作戦を根本的に否定され、何やらご立腹の様子。

そんな真紅を無視し、水銀燈は翠星石へと歩み寄った。

「…ふふふ……重要なのは……そう、重要なのは『窓が割れた』と気付かれないようにする事。
 ……そうよねぇ……翠星石…… 」
自信たっぷりな表情で、水銀燈は割れた窓と翠星石を交互に見る。
 
「ですが………ひょっとして!何か方法があるですか!? 」
翠星石も、今度こそは頼りになる人間が来た!とばかりに目を輝かせる。 


今にも抱きついてきそうな翠星石を軽くあしらい、
「ふふふ……いいから…よぉく見てなさいよぉ? 」
そう言いながら水銀燈は、バケツに汲まれた水の中に雑巾を浸し……
それをよくしぼってから、割れた窓の隣…割れてない窓を拭き始めた。

「……水銀燈?…何してるですか? 」
訳の分からない行動に、思いっきり頭の上に『?』マークを浮かべた翠星石が首をかしげながら尋ねる。

と……
「ふふふ……重要なのは…これからよぉ… 」
水銀燈は笑みを浮かべ、そのまま窓を拭き終え……

そして、流れるように自然な動きで『割れた窓の空間』を拭き始めた!
つまりは、パントマイム。

「お…おお!!本当に窓を拭いてるように見えるですぅ!! 」
あまりに見事なパントマイムに、翠星石が思わず感心して叫ぶ。
水銀燈は予想外の評判の良さに、そのまま『存在しない窓を拭く』というパントマイムを続けてみせる。

やっぱり、何一つとして解決はしてなかった。

◇ ◇ ◇
 
改めて、4人でガラスの破片を囲みながらの作戦会議。

「こうなったら…真紅のセロハンテープと水銀燈のパントマイム……
 この合わせ技で行くのはどうですかね!? 」
「…素直に謝ればいいと思うけど…… 」
「こんな無様なテープだらけのガラスと共演だなんて……願い下げねぇ 」
「あんな大道芸なんて無くっても、セロハンテープさえあれば大丈夫なのだわ 」

議論は平行線。
翠星石は悩みに悩み……新たな、第三の手段を提案する。

「…こういうのはどうですかね……ドアに張られた『新聞部』の文字を、隣の部屋に張るですよ。
 すると……あーら不思議、蒼星石は気付かず、隣の部屋に………おお!我ながら名案ですぅ! 」
「いや…流石に、それは無いよ 」
「そうね……案外、上手くいくかもしれないのだわ…! 」
「…心理的盲点を突く作戦…ってやつねぇ… 」

作戦は決まった。

「なら、さっそく実行ですぅ! 」
そう言い翠星石は立ち上がり……ふと気が付いた。 

カタカタ震えながら…ちょっとだけ、チラッと振り返ってみる。

「………で…蒼星石は……いつ帰って来たですか…? 」
「水銀燈のパントマイムの辺りかな 」 

翠星石の首筋に、嫌な汗が流れる。
蒼星石は相変わらず、貼り付けたような笑顔。
 
「素直に謝れば? 」
ニッコリとしながら蒼星石は立ち上がり、翠星石の肩に手を置いた。

翠星石はというと……
青い顔でダラダラ冷や汗を流し、ガクガクと膝を震わせながら部室のドアに向かう。
「こ…こ…今回だけは……み…見逃してやるですぅ…… 」

渇いた喉からそう漏らすと、部室から脱兎の如く逃げようとして……
「どこに行くつもりだい?翠星石 」
あっさり捕まった。 




学園は、今日も平和だった。 




職員室へガラスの事を言いに行く蒼星石と、そんな彼女にドナドナと連行される翠星石。

「違うですぅ!!刑事さん!話を聞きやがれですぅ!!あの窓は勝手に…自然に割れたんですぅ!! 」
小学生みたいな言い訳が、廊下に哀しい余韻を残す…。 




学園は今日も、おおむね平和だった。 





     

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