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思い出すのは、去年の事………

あの時、僕は……あと一歩及ばず、敗れ去った。
皆から祝福される双子の姉をただ見ているだけだった。

悔しくなかったと言えば、嘘になる。

それでも、後悔は無かった。
全力で闘ったという気持ちで、僕はどこか満たされていた。
だから、翠星石にも、心から「おめでとう」…そう言えた。


あれから、僕はどれだけ成長したのだろう?
僕は、あれから…どれだけ大人になったのだろう?


背だって、いくらかは伸びた。
体つきだって……いくらかは見劣りするかもしれないけど…それでも、出る所は出てきた。……多分。

僕はすっと息を呑み……そして、舞台に上がった。
去年の『ミス学園祭』である翠星石が、待っている舞台へと……。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆  この町大好き! ☆ 増刊号22 ☆  ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 

「さて。ついに始まりました、ミス学園祭を決めるコンテスト。
 優勝者には模擬店の焼きソバ食べ放題チケットと…それ以上の名誉が送られますわ!
 司会進行は、お昼の放送でお馴染み。私、雪華綺晶と…… 」
「……………… 」
「はい。ばらしーちゃんの二人ですわ! 」

放送部の二人が、ミスコンの開幕を知らせる。
僕はそれを、どこか遠くに感じながら……すっと、視線を横に向けてみた。

並んでいるのは、真紅に水銀燈。そして…前・ミス学園祭である、翠星石。
見知った顔…というより、ほとんど毎日一緒に居るメンバーだけど……これには訳がある。

このコンテストは、自薦他薦を問わない形で行われており……
僕達4人は、誰かからの推薦でここに立っていた。
そして、僕ら以外の人たちはというと……事前投票を始めとした予選で残念な結果になったてしまっていた。

そんなこんなで結局、晴れの舞台で闘う相手は、友人と…自分の姉。

それでも…いや、だからこそ…負けたくない。
きっとそれは、皆同じだろうね。

それに僕は……
去年、翠星石が優勝してから……彼女を付け狙う不貞の輩の退治に大忙しだったんだ。
翠星石に近づく、悪い虫を未然に減らす意味も含めて……やっぱり、ここは僕が優勝しないとね。


僕がそんな風に、考えに浸っていると……
ミス学園祭…その最初の闘いの合図が、司会者によって会場全体に伝えられた。

「最初のテーマは……センスの問われる、私服対決ですわ! 」

◇ ◇ ◇

着替えの為に、一度舞台から降り…僕は私服へと着替え始める。

翠星石達は…この日ばかりは彼女たちも本気なのだろう。
自らの手の内を明かさない為にと、それぞれ別の更衣室で着替えをしていた。

僕は、自分の魅力を最も引き立てる事が出来るであろう格好。
つまり、スカートではなく、ズボンに履き替える。
全体的に、淡いブルーを基調とした涼しげなコーディネート。クールな印象を与えられるだろう。
そして…キザにならない程度に、帽子を頭の上に乗せる。

そして、鏡に自分の姿を映して、足元から順に見渡してみた。

ちょっとクールで、清流のように涼しげな目元の僕っ子。
完璧だね。

「ふふふ……いきなり優勝が決定しちゃったらどうしようかな… 」

鏡に向かい合いながら笑顔の練習をしていると、「蒼星石さーん、出番でーす」と、声がかかった。

◇ ◇ ◇

大きな特設ステージに設けられた、花道のような細い舞台を歩き、その先端で立ち止まる。
ズボンのお陰で、より細く、長く印象付けられる足を少し曲げ、ポーズ。

パシャパシャと光るフラッシュを浴びながら、僕は
『…そういえば、新聞部の皆、コンテストに出てるし……誰がこれを記事にするのかな? 』
と、ぼんやり考えてた。

そのせいで、僕は物憂げな陰の差した表情になり ――― それが予想外の高評価に繋がったのかもしれない。
会場からは黄色い声援が飛んできた。

…って、黄色い声援?
まさかと思って、ゆっくり会場を見てみたら……

『 LO 蒼☆星☆石 VE 』と書かれた大きな横断幕を持った、女子生徒達が……

そういえば、僕って昔っから、女の子に告白されてばっかりだしなぁ…

げんなりしながら、僕はそのまま花道を引き返していった。

それから、僕の番も終わった事だしと舞台袖で、他の皆の観察を始める。

真紅は、赤を基調としたワンピース。
シンプルながら、かなりの物だと一目見て分かるそれを完全に着こなしてるのは流石だと思ったね。

水銀燈は、落ち着いた黒色と、銀製のアクセサリーを身に付けて登場。
威圧感の漂う視線とか、同級生とは思えない位のインパクトを放っていた。

翠星石は……緑色で、ヒラヒラがいっぱいついた服。
あぁ…やっぱり、翠星石は可愛いなぁ……
翠星石が優勝して、変な男が言い寄ってきたりしないように……何とかして、僕が優勝しないとね……

◇ ◇ ◇

「さて!続きましては、乙女のたしなみ・お料理対決ですわ! 」
雪華綺晶がそう説明すると―――
舞台袖からフリフリエプロンを着た薔薇水晶が『肉じゃが』と書かれたプレートを持って出てきた。
 
会場の方から「いいぞ!薔薇水晶! 」「ブラボー!ブラボー!! 」と声が聞こえてくる。

何だろう?と思って見てみると、薔薇水晶のお父さんと、眼鏡をかけた変な男が鼻息を荒くしていた。
でも、すぐに文化祭スタッフにつまみ出されてた。

薔薇水晶は、そんな事おかまいなしに、モジモジしながらエプロンのフリフリを触っている。
ちなみに、司会役なのに彼女は一度も喋ってない。

でも、そんな事より……

僕は、同じように舞台に立っている3人を見つめた。

翠星石とは同じ屋根の下で暮らしているから……その料理の実力は分かる。
彼女の得意分野はお菓子作りだけど……それでも、強敵には違いない。

水銀燈は…同い年ながら一人暮らしをしている所から見て、料理の腕には覚えがありそうだね。
真紅は……うん。その……ね?

◇ ◇ ◇

30分程の時間を割いての、料理対決。
これは…このコンテストの目玉の一つ。

僕達4人のが向かい合うのは、食堂から借りてきた大きなお鍋。
それで肉じゃがを作り…そして、会場に来た人全員に振る舞い、審査してもらう。

自慢じゃあないけど…僕だって、料理はできる方だ。
実際に包丁捌きは、他の3人より確実に上だった。

って、翠星石!危ないから包丁を振り回すのはやめて!

◇ ◇ ◇

煮物は、冷えていく時に味が染み込む。

僕は完成した肉じゃがの火を一度止めて、しっかり味が染み込むようにして……
例の如く、ライバル達の様子を横目で観察してみる事にした。

翠星石の肉じゃがは、ちょっと崩れちゃってるけど……それでも美味しそう。
それに、楽しげに歌いながらお鍋をかき混ぜる翠星石もとっても可愛い。

水銀燈は「めんどくさいわぁ」といって、さっさと火を止めて休憩なんかしてるけど……
それでも、お鍋の中ではビックリする位に上手な肉じゃがが完成していた。

さて、真紅は……
そう思って、ちょっと彼女のお鍋を覗いてみて……僕は思わず、息を呑んだ。

何だかよく分からない、ドロドロとしたスライムみたいな紫色の何かが、鍋の底で蠢いている……

「……真紅…これって……何だい? 」
「あら…失礼な質問をするわね、蒼星石。見ての通り、肉じゃがよ 」

今にも意思を持って動き出しそうなソレを、真紅は肉じゃがと呼ぶ。

「……でも……これ、紫色してるよ? 」
明らかに食べ物とは思えない『何か』を指差しながら、僕は恐る恐るそう聞いてみた。

すると真紅は、ふっ…と鼻で笑いながら、僕へと向き直り、自信満々な笑みでこう告げた。
「蒼星石、あなた知らないの?お寿司屋さんでは、お醤油の事を『むらさき』というのよ。
 この色はつまり…そういう事なのだわ 」
 

さっぱり、どういう事なのか分からなかった。
でも、これ以上真紅と話していると……嫌でも、謎の紫色の物体が目に入ってくる。
正直これは、かなり目に染みる光景だ。

僕は「……そうだね…」と曖昧に答えて、再び自分の肉じゃがへと向かい合う事にした。

◇ ◇ ◇

僕達4人は、小さなお皿に肉じゃがを盛り付けて、審査してもらう為に会場に振舞う。
はずだったんだけど……

翠星石は3、4人に渡した時点で、返ってくる応援の言葉や褒め言葉に照れて、さっさと返っちゃった。

水銀燈は水銀燈で
「何で私がよそってあげなきゃいけないのよぉ 」
と、早々と引っ込んだせいで、彼女の肉じゃがはセルフサービス状態。

真紅の列には……その……居なかったんだ。誰も。
そのせいで真紅はピリピリしだして、それがまた人を寄せ付けにくい原因になって……

そんなこんなで、僕の肉じゃがは大盛況。
長蛇の列が出来て、もう大変な賑わいで……

と、そんな人ごみに押されて、一人の生徒がバランスを崩し……
不幸な事に彼は、次の瞬間には真紅の鍋の前に立っていた。
 

「あら!よく来たわね!さあ、遠慮せずに食べてみるといいわ!! 」
生気を取り戻したみたいにキラキラした眼差しで、真紅が有無を言わせず彼に『アレ』を渡す。 

『アレ』を受け取った生徒は、困ったように視線を泳がせるが……誰もが見てみぬフリ。
「……どうして僕が…… 」
とブツブツ言うも…その男子生徒も基本的には優しい人みたいで、お皿を真紅に突っ返すような真似はしない。

やがて彼は、目を固くつぶって、えい!っと勢いをつけて『アレ』をパクッと………

で、それからその男子生徒は固まったまま。
呼吸すらしてないみたいに、全然動かない。…こんな凄いとは思わなかったよ……

◇ ◇ ◇

そして僕は…今、再び更衣室へと戻ってきた。

このまま行けば、優勝だって可能だろう。でも……

前年優勝者の翠星石は侮れない。
彼女の魅力は、一番近くに居る僕が認める程のもの…。

それに水銀燈。
彼女は…その…ある一定の層から指示が強い。Mっ気の強い生徒は、彼女に流れるだろう…。

真紅は……間違いなく、肉じゃがの一件で………
だからという訳じゃないけど……まあ、気にしなくっても大丈夫だよね。


決して、油断できる状況じゃあない。
僕は改めてその事を実感しながら……最後の『水着審査』へ向けて、秘密兵器を取り出した。
 

これを使うのは、卑怯なのかもしれない。
でも……
僕は何としてでも、翠星石の二連覇は阻止したい。

もう、文化祭終わりにストーカーに悩まされる翠星石は…見たくない。

僕は優勝に対する静かな闘志と共に、その水着へと手を伸ばした……

◇ ◇ ◇

水着に着替え、体を冷やさないように…それと、この秘密兵器の存在がバレないように。
僕はタオルを体に巻きながら、舞台袖で自分の出番を待つ。

最初に出てきたのは……水銀燈。

言わせてもらえば彼女は、僕らよりずっと女性的な体つきをしている。
つまり……貧乳じゃあない、って事さ。

水銀燈も、そんな自分の事はよく分かっているのだろう。
男子生徒には刺激の強い、とっても色っぽい水着で舞台の上を優雅に歩く。
会場からは、大きな拍手と歓声が……

そんな水銀燈が舞台から降り、次に出てきたのは…真紅。
パレオの、ヒラヒラした可愛らしい水着で登場だったけど……
どうも真紅は、自分の特性を活かしきれてない。

彼女の…そして、僕にも当てはまる特性。それは……胸が…ほんのちょっとだけ…小さい事。
 

僕がそう考えながら舞台を見ていると、いつの間にか翠星石が僕の横に立っていた。
「真紅もこれで一気に盛り返したかもしれんですね… 」
顎に手を当てながら、うんうんと評論家みたいに頷いている。

「そうかもね。……でも…どちらにしても…優勝するのは、僕さ… 」
僕はそう言い、身に纏っていたタオルをハラリと落した。

翠星石が驚きを隠さない表情で叫ぶ。
「そ…それは! 」

紺色のそれを身につけ、僕は翠星石に静かに、それでも、しっかりとした声で答えた。

「そうだよ…スクール水着さ…… 」

胸が無いのはハンデなのだろうか?
違う。
それは…今の僕にとっては、武器なんだ……

◇ ◇ ◇

割れんばかりの歓声。
これまでに無い、大きな拍手。
僕は、まさに無敵だった。

スクール水着を着た、胸の控えめな僕っ子。
この威力は…もう、兵器と言っても過言ではないのかもしれない。

あまりの声援に揺れる舞台を歩きながら、僕は勝利を確信していた。
 

そして舞台から降り……袖に控える前年優勝者、翠星石へと歩み寄った。
「……どうやら…今年は僕の優勝になりそうだね 」 

そう声をかけるも、翠星石はうつむいたまま。
でも…その内、静かに、小さな声で、語りだした。

「…まさか…やっぱり双子だからですかね…… 」
「……何を言ってるんだい? 」
僕はいぶかしみ、そう聞き返す。
「……双子だから……考える事も似てるのかもしれんですぅ…… 」
「………まさか…! 」
「ふっふっふ……ヒーッヒッヒッヒ!! 」
僕の声に答える代わりに、翠星石は身に着けていたタオルをぱっ!と開いた。

見覚えのあるシルエット。間違いない。僕が着ているのと同じ、スクール水着だ。
だけど……
それは僕が着ているものより……圧倒的な輝きを放っていた……

「…白い…スクール水着…だって…? 」

がっくりと地面に膝を付く僕に、
「悪いですが…優勝はこの翠星石で決まりですぅ!! 」
と声をかけて、翠星石が舞台へと足を向ける。

僕は…力なく立ち上がると、そのまま着替えの為に更衣室へと向かっていった。

結果は、見なくったって分かる。 


それに……
舞台からはどんどん遠ざかっているにも拘らず、地面が震えるような歓声がここまで聞こえてくる。

僕はどこか遠くに感じる歓声を聞きながら…知らずの内に、ちょっとだけ微笑みながら呟いていた。


「……やっぱり…姉さんには…かなわないや…… 」




    

◆ ◇ ◆ ◇ ◆  号外  ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



華やかな舞台には、必ず裏で目立たずに努力する誰かが居る。
ただ一人の勝者。その足元には…また、数多くの敗者が存在する。

ミス学園祭を決めるコンテスト。
それにおいて…4人中4位という屈辱的な結果に終わった真紅。

『不人気』の烙印を押されてしまったかの如く、彼女は落ち込んでいた。

「…全く……野蛮な男どもには、見る目というものが存在してないのかしら! 」

いや、落ち込む代わりに、かなりのご立腹だった。
 
「やっぱり胸なの!?そうなの!? 」
一人、更衣室に帰ってから、自棄になったようにバストアップ体操を繰り返す。

……体操もひと段落し、真紅は制服に着替える。

そして、先ほどまで同じ舞台で闘った相手。
いつも一緒に居る友人達に会おうと、待ち合わせの場所に向かおうとして……

一人の男子生徒が、その道中…全てのイベントが終わった舞台の前で立ち尽くしている事に気が付いた。
 

「あら?あれは…確か…… 」
ちょっとだけ記憶の糸を辿ってみると……すぐに思い出せた。
「……私の肉じゃがを食べてくれた生徒なのだわ 」
 
『ほんのちょっと』失敗した肉じゃが(真紅目線)を、美味しそうに食べてくれた(真紅目線)ただ一人の人物。
それが、こんな所で何をしているのだろう?
真紅は疑問に思いながら近づいてみると……

その生徒は、立ったまま気絶していた。
手には異臭の立ち込めるドロドロとした紫色の物体の入った皿を持って。

「……気味の悪い物体ね……何なのかしら、あれは…… 」
自分の作った肉じゃが(?)とは夢にも思わず、真紅は勝手なことを言いながら顔を引き攣らせ……

それでも、あの時、たった一人来てくれた相手でもあるし……
「…忠誠には報いる所が無くってはダメよね…… 」
そう自分に言い聞かせ、その生徒を起こしてあげる事にした。

正面に回りこみ、自分と大差無い位にチビなその生徒を、改めて見つめる。
ボサボサ頭に、冴えない眼鏡。夏休み明けというのに、全く日焼けのない肌。

真紅は呆れたようにため息をついてから……とりあえず、気付けにとビンタした。

ドグシャァ!と地面に張り倒された男子生徒は、その衝撃で目を覚ましたのか…
「な…いきなり何するんだよ! 」
頬を押さえながら、真紅を見上げて叫ぶ。 

「あら。やっと起きたわね。全く…コンテストはとっくに終わったというのに… 」
対する真紅は、相変わらず落ち着いたもの 

「『やっと起きたわね』じゃあないだろ!いきなり――― 」
男子生徒はそう言いながら真紅に掴みかかろうとして…
「気安く触れないで 」
再び、ビンタをもらって地面に倒れる結果に……。


「……起こしてくれてアリガトウゴザイマス…… 」
顔面をビンタでパンパンに腫らしながら、男子生徒がそう言うまで……大して時間はかからなかった…。




彼の名前は桜田ジュン。 
二学期に転校してきて、暫く経った日の出来事である。 






   
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