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すっかり寝過ごす癖がついてしまったけど…この日ばかりは、あまりの暑さに目を覚ましてしまった。

思わずクーラーのスイッチを入れそうになり…やっぱり、やめた。
伸ばした手をそのまま、携帯電話へと向ける。

メールが一通。
お盆を利用し、家族で田舎に帰っている翠星石から。

『とんでもねード田舎に来ちまったですぅ!! 』
という文章に添えられた、小さな写真。
自分で撮ったせいか、翠星石の満面の笑みがデカデカと写るだけで、景色なんて見えやしない。

水銀燈は少し微笑み、返信を打ちはじめた。
そして、送信の確認画面まで行き…
「……何よぉ…これじゃあ完全に、あの子のペースじゃなぁい… 」
やっぱり考え直して、キャンセルボタンを連打。
携帯電話を放り投げ、プィっと窓の外へと視線を向けた。

蝉がミンミン鳴き、大きな入道雲が空にプカプカ漂う。
誰も居ない部屋の中。何の予定も無い、昼下がり。

「………そう言えば…… 」
水銀燈は仰向けに寝転がり、窓から見える太陽に目を細める。

「………あの日も……嫌になる位…暑かったわねぇ…… 」




◆ ◇ ◆ ◇ ◆  この町大好き! ☆ 増刊号13 ☆  ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




親の都合で2学期から転校。
別段、何も珍しい事ではない。
当時小学生だった水銀燈もまた、そんな珍しくも無い事情でこの町に引っ越してきた。

たった一人。友達の居ない新しい町で、夏休みだからする事も無く近所を散策。
そんな毎日。

時々、公園や夏休み中の校庭で遊ぶ同い年位の子を見つけたりもしたが…
「……ふん……何で私があんなのと馴れ合わなくっちゃいけないのよぉ…… 」
水銀燈は小さく呟きながら、遠くからそれを眺めるだけ。

どうしてもと誘うなら、一緒に遊んでやってもいいような……
間違っても、自分から声をかけるのは恥ずかしいような……
そんな複雑な心境で、遠くから眺めるだけ。

誰も居ない夏休み。2学期が始まるのを待つだけの、退屈な夏休み。

ひょっとしたら今日こそ、どこかの馬鹿がしつこく遊びに誘ってくるかもしれない。
そう考えながら近所を散策して……
運が良いのか悪いのか。そんなに都合の良い馬鹿には出くわさず、一人で帰宅。

そんな日々を繰り返す内に……夏休みも半分ほど過ぎてしまった。

◇ ◇ ◇

水銀燈もすっかり、一人に慣れてきた。

この日も、昼まで散々家でゴロゴロして…
いい加減、ごろ寝にも飽きたので、例の如く近所をブラブラしていた。


本屋に言って適当に買い物をして、何の気も無しに商店街を覗いてみる。
同年代位の女の子が、同じような年頃の男の子の手を引き、おもちゃ屋で風船を買いあさっていた。

「……デートぉ?……最近のガキはませてるわねぇ…… 」
小さな舌打ちと共に呟き、商店街を後にする。

途中で買ったアイスを片手に、ほんの気まぐれで、いつもと違う道を通って帰ることに。

テクテク歩く内に……やがて道は上り坂になり…町が一望できる所まで差し掛かった。
水銀燈は、暑さで溶けかけのアイス片手に、ガードレールにもたれ掛かり、町を眺める。

小さな小さな、地方都市。
来る前から知っていたし、散策して改めて確信したが…何も無い、平和な町。

「ほんと、つまらない町ねぇ… 」
一人で坂道の途中のガードレールに体重を預けながら、水銀燈はそうため息を漏らした。

暫く、ぼんやりと眼下の町を見下ろす。と…―――


「ほあぁぁぁ!!どきやがれですぅ!!! 」
不意に坂道の上の方から叫び声が聞こえた。

水銀燈が振り返ると…同い年位の女の子が…―――
自転車のそこらじゅうに風船を付けた意味不明な物体にまたがりながら、こちら目掛けてまっしぐらに―――!!

「とぅ! 」と短く叫んで、女の子は自転車から飛び降りる。
え?え?それじゃあ、誰が自転車の操縦するの?
水銀燈の疑問を他所に、飛び降りた女の子は「ふぅ~。危機一髪ですぅ!」みたいな顔をしてやがる。
 

操作を失った自転車は、水銀燈目掛けて一直線に迫る!

そして… 『ボグシャァ!!』と、鈍い音が坂道に響いた。

……

「……大丈夫かい!?翠星石 」
半ズボンの子がそう叫びながら、女の子に駆け寄ってきている。
「いや~、飛べると思ったですが…風船が足りなかったみたいですぅ… 」

(まさか…アレで飛ぶ気だったのぉ!?……この子、イカレてるわぁ… )
そう考えている水銀燈は、自転車に巻き込まれながらゴロゴロと坂道を転落中。
風船に囲まれてメルヘンな雰囲気にはなっているが、それ以上に生命の危機を感じる。

そんな水銀燈を気付く様子も無く、反省点を述べる女の子。
やれ速度が足りないだの、風船の配置を見直すべきだの。他人を轢いた事なんて気にしてない。

絶対、許さない。次に会ったら、絶対に殴る。
そう心に決めながら、水銀燈はどこまでもゴロゴロと転がり続けた……

◇ ◇ ◇

こうして水銀燈には、目的が出来た。

意味も無く町をブラブラするのではなく…いつか自転車ではねて来た女の子。
彼女を見つけ出し、あの日の恨みを晴らす、という。

で、今日の今日とて水銀燈は、真っ赤な目をさらに紅くしながら町を歩いていた。
 

商店街。町を一望できる坂道。
以前出会った所は、それこそしらみつぶしに探した。


世の中の不思議な法則というのか、何というのか…
探し物は、必死に探してる時には見つからないで…探すのをやめた時に限って見つかったりする。

水銀燈がこの日の捜索を諦め、家に帰ろうかとしている時……
「きゃー!!こっちに来るなですぅ!! 」
何だか、小学校の方から騒がしい声が聞こえた。

(この声…あの時の! )
今こそ、積年(?)の怨みを晴らすとき!
水銀燈が鬼の形相で振り返ると……
都合の良い事に、いつぞやの女の子ともう一人がキャーキャー言いながらこちらに走ってくるではないか!

「ふふふ……返り討ちにしてあげるわぁ! 」
拳を固めて、二人目掛け水銀燈も走る。

だが…近づくにつれ……何だか、変。
まるで女の子は、意思を持った煙にでも追いかけられてるような……
でも、ついに見つけた仇敵を前に、そんなのはどうでもいい事。

煙みたいな物体に追いかけられてる2人に、手を伸ばせば届きそうな位置まで駆け寄り…―――
  
 ブゥゥゥン……

「……え゛? 」
思わず、水銀燈も顔を引き攣らせた。黒い煙見たいに見えたそれは……
「は…蜂ぃ!? 」
クルリと回れ右すると、先程までの気持ちも忘れて全力疾走。

「きゃーーー!! 」
叫びながら、仲良く3人並んで逃げ惑う。

「な…何でこんな事になるのよぉ! 」
逃げ惑いながら、隣を走る女の子に非難の声をかける。

「突然、蜂のヤローが切れやがったですぅ! 」
「…爆竹投げといて、突然、って事は無いよね…… 」
「誰かが怪我したら危ないじゃないですか!そうなる前に、翠星石が退治してやろうと…! 」

「……それで返り討ちに、って訳ねぇ…… 」
並んで走る水銀燈は、呆れたようにどんよりと呟いた。
ともあれ……こんなお馬鹿さん達に付き合って逃げ惑う必要も無い。
「追いかけっこなら2人でしてなさぁい 」
そう言うとタンッと地面を蹴り、2人とは別の方向に走り出した。

「自業自得、ってやつねぇ……ふふ…いい気味だわぁ… 」
ニヤニヤしながら、逃げ惑っている2人の観察でもしてやろうと振り返ると……

 ブゥゥゥゥン……

「え…? 」
蜂は一匹残らずこちらについて来ている。

(そう言えば……蜂って黒いものに寄ってくる、って言うわねぇ…… )
どんよりとした表情で、自分の着ている服へ視線を向ける水銀燈。

「どこの誰か知らないけど…ありがとう! 」
「オマエの勇気は忘れんですぅ!気を付けて逃げるですよー! 」
校庭の端の方で、ブンブンと手を振る2人が見える。

そうは行くか。

水銀燈はクルリと向きを変えると…再び、2人目掛けて走り出した!
「ちょ!こっちに来るなですぅ!! 」
女の子の悲鳴を合図に、再び3人で逃げ回る。

キャーキャー叫びながら校庭を抜け、通学路を走り、住宅街を駆け抜ける。
正直、迷惑この上ない。

そして…執拗に追いかけてくる蜂から逃れる為に…バタンと勢い良く、女の子は扉を閉めた。

「…ふぅ……た…助かったですぅ…… 」
「でも、これで一安心だね…… 」
「全く…とんでもない目に会ったわぁ… 」
肩で息をしながら、玄関先で思い思いに呟く。

「………!! 」
突然、女の子は何かに気付いたのか、もう一人の背中に隠れた。

やっと落ち着いてきた水銀燈も、ここはどこだろう?という根本的な疑問を浮かべ始め……
でも、すぐに女の子の発した言葉で、自分がどこに来たのか理解できた。
 

「し…知らないヤツが家に居るですぅ……ぅう…きっとドローボーに違いないですぅ…… 」


「……失礼ねぇ…大体、あなたが…… 」
水銀燈は眉間に皺を寄せながら、女の子に掴みかかろうとして…だがその手は、もう一人の人物に遮られた。

「……さっきは慌てていたから気付かなかったけど…君は誰だい? 」
女の子を背中に隠しながら、その人物は眼光鋭く水銀燈を睨み付けてくる。
「……随分と妹思いなお兄さんねぇ?…どいてもらえないかしらぁ? 」
水銀燈も負けじと、目つきを鋭くする。
「蒼星石は私の妹ですぅ! 」
妹の背中から、女の子が抗議の声を上げた。でも、すぐにまた隠れる。

暫く、そのまま睨み合う。
微妙な緊張感が周囲には漂い始めた…。

やがて…このままではラチが開かないと考えたのか、女の子の妹が自己紹介を始めた。
「僕は蒼星石。で、こっちは僕の双子の姉の翠星石 」
「水銀燈よぉ… 」
「……水銀燈…?……知らんですぅ… 」

「…そりゃあそうでしょうねぇ……最近引っ越してきたばっかりだもの 」
「引っ越してきた……この近くですか…? 」
相変わらず蒼星石の後ろに隠れたままの翠星石が、怯えたように顔を覗かせながら尋ねてくる。
「えぇ、この近くよぉ…だから… 」
逃げ隠れしても無駄。そう言おうとした矢先…――――

「…それならきっと、同じ学校ですぅ…… 」
やっぱり蒼星石の後ろに隠れながらそう呟く翠星石。
「はは…姉さんは人見知りする性格なんだよ… 」
同じ小学校に通う者同士と知り、蒼星石も少しだけ緊張をほぐす。

だが…水銀燈は相変わらず、鋭い視線を翠星石に向けていた。
今回の蜂の事だけじゃない。
以前、風船を付けた自転車にはねられた事も、忘れてない。
「……あいにくだけど…私は馴れ合うつもりは無いわぁ… 」
和やかムードを否定するように、小さく、それでもはっきりと言い切る。

その水銀燈に気圧されるように…2人は表情を強張らせて黙り込んだ。

「……忘れたとは言わないわよねぇ…?
 いつかの……馬鹿みたいに風船をいっぱい付けた自転車の事…… 」
その恨み、今こそ!
そう思い、水銀燈が一歩踏み出そうとした瞬間―――!

「おお!覚えてるですよ!!それは、私の夏休みの工作第一弾『空飛ぶ自転車・スィドリーム号』ですぅ!
 さては……オマエも空を飛びたいんですね!! 」
翠星石が飛び出してきて、キラキラとした眼差しで水銀燈の手をガシッ!と掴む。
「まさか私以外にも空を目指す勇者がいたとは!!ささ、遠慮せずに上がりやがれですぅ! 」
そのまま無理やり、水銀燈を自分の家に招き入れる。

「え?いや、違うわよぉ! 」
水銀燈も抵抗するも……

「いやー、やっぱり雲を突き抜けてビューンと飛ぶのは、女の子の憧れですからねぇ! 」
翠星石は意味不明なシンパシーを感じていて、最早、他人の話なんか聞いてない。

「照れなくてもいいですよ!蒼星石!お客さんにお茶菓子でも持ってくるですぅ!! 」
満面の笑みを浮かべながら、翠星石は水銀燈の手をグイグイ引っ張る。

「だから…そんなのいらないって言ってるでしょぉ!? 」
水銀燈はなおも抵抗を続けるも…

「遠慮はいらんですぅ!今日からオマエも友達ですぅ!!
 さーさー!早速、翠星石の部屋まで案内するですよ! 」
どうしようもない位に楽しそうな顔で、翠星石は水銀燈を引っ張り続ける。


こうして水銀燈には、この町に来てから最初の友達ができ、同時に……
…何だか、人生の歯車がズレた音が聞こえた気がした。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 『PiPiPi…』

「……ぅ……ん…ん…… 」
いつの間にかまどろんでいた水銀燈は、メールの受信を知らせる電子音で目を覚ました。

「…全く……いつ思い出しても…最悪ねぇ…… 」
苦笑いを浮かべながら、携帯電話に手を伸ばす。

届いたメールを開いてみると…案の定、翠星石からのメール。
 

『おじじの薔薇園を野菜畑に改築してやったですぅ!』
という文面と共に、画面いっぱいに翠星石の満面の笑み。
『スイカがこんなに沢山とれたですぅ!』
という本文に添付された、翠星石の顔しか見えない写真。 


何故、撮る写真全てに自分が写ってないと気がすまないのか。理解に苦しむ。

わざとやってるのか、それとも天然なのか……
どちらにしても、いいかげんにつっこまない事には…このままでは延々と翠星石の写真が送られてきそう。 



水銀燈は苦笑いを浮かべながら返信を打ち……
そして、ちょっとだけ笑ってから、やっぱり送信せずにそのまま携帯電話を閉じた。 






     
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