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「はぁ……頬を真っ紅に染めながらソファで横になるカナも雛ちゃんも超絶可愛いわ……」
「落ち着け」

 二人仲良く抱き合って寝ている雛苺と金糸雀を見ながら、虚ろな眼でみつさんは呟いている。槐さんが嗜めてくれなかったらどこへ向かっちゃうかわかったもんじゃない。

「まあ……うん。なんかこう、娘を見守る親、という気持ちとしてはわかるかもしれない。姪っ子ではあるが、うちの薔薇水晶も雪華綺晶も、寝顔は本当にかわいいものだ」

 言いながら、槐さんは壮絶の渦中を見やって、どこか諦めた表情をしている。なんかあったんですか?

「……私でも引かないところは引かないよ!」
「あらあらばらしーちゃん(唐揚の皿を完食)、私も姉として(カルボナーラの皿を完食)挑まれたなら白黒つけずには(シーザーサラダの皿を完食)(姉ちゃんが五目チャーハンを追加)いられませんわよ?(完食)」

 家の中に嵐が居る。食いすぎだ。金払え。

「勝負といっても色々あるから。野球拳とか。よくよく考えると……野球拳、っていうのもあるよね」
「あらぁ、巴。そうねぇ……野球拳とかあるわねぇ。でもそれはちょっと違うわぁ。ここはやっぱり、野球拳がベストなチョイスだと思うわよぉ?」

 どっから突っ込めばいいこの酔っ払い共が!
 いい加減止めに入らないといけないな。
 パーティはそれなりに楽しんでいるけど、如何せんストッパーが少なすぎるのが問題だ。
 僕以外の人間の思考摩擦係数がもっぱらゼロ。何事も円滑すぎる。

「はいはいはい、だめだめ。うら若き乙女が肌をみだりに出すな」
「ここで止めるのは野暮ってものよぉ。大丈夫、私がきっちり負けてあげるわぁ」
「水銀燈、それは私の役目だから」

 ……柏葉、それでもお前だけはまともでいてくれると思っていたのに……

「あー、若いっていいわねぇ」
「何を言う、みつ。君だってそれほど年をくったわけでもないだろう」
「たまにはいいこと言うじゃなーい」
「まあ……たまには、な」
「素面のときに聞きたい台詞よね、そういうのも」
「何を言う! 僕はいつだって君を若奥さm」
「あー、やあねえ! 酔っ払いの言葉は九割九分九厘聞き流さないといけないから」

 ほぼ100パーセントですね。
 あ、槐さんが撃沈した……ご愁傷さまです。
 とりあえず野球拳云々は封じておいたが、まだガヤガヤやってるようなので。僕は僕で、ゆっくり呑むことにしようかな、――

「あはははは! ジュン君どうだい呑んでるかい!?」
「ちっ、しゃーねぇですねえ。おめぇがどーしてもって言うなら、わ、私が酌をしてやらんこともねえですよ? なんてったって今日はめでてぇ日です! いいから呑むです!」

 ――という望みも、儚く打ち砕かれる。

「お、躁星石と酔星石じゃないか」
「おめーの言葉の端々に悪意を感じるですね……よっこらせっと」

 僕を挟むようなかたちで二人が座る。

「……『よっこらせ』?」
「幻聴です。おじじとおばばの相手してると言葉がうつるです、きっとそうです」
「幻か事実かはっきりしてくれ」
「ふふふ、まあまあジュン君。今日は細かいことを気にしちゃだめだよ。あ、白崎さん。例のもの揃ってますか?」
「仰せの通り」

 トレイに載せ、すっ、と差し出したもの――ああ、そういうこと。ここから下手するとデスマーチだな。

「去年は完敗でしたからねー。おめぇは手先が器用すぎるです。私もちゃんと練習してきたですよ」
「僕のコインさばきの餌食になってよジュン君!」

 ……うん。善処する。
 この双子、テンションを上げるだけ上げたらぐっすり眠って、次の日けろりと起きられる羨ましい体質をしている。姉の方はもともとそれなりに強いし、妹は――酔ってるのが演技なのかどうか、たまに疑いたくなる。でも今日はまだ鬱モードに入ってないので良い方だ。そうなると慰め要員として3人くらいは割かないといけない。

 で。これから始めるゲームのようなものに必要なのは、ショットグラスがみっつ。あと、適当なコイン一枚。そして……その日呑んで潰れてもいいかなってちょっと思うボトル(あんまりお高いものじゃないのが良い、勿体無いから)と、炭酸水。今回はそれに加えてライムを切り出したものを。

「白崎さん、この辺りでお酒造りはそこそこにするですよ」
「うちの店ではやって欲しくないですねえ」
「あっ、白崎君が入るんだね。じゃあ私もやってみようかなー」
「なになにジュンジュン。あー、懲りてないねえ」
「む、けしからん遊びだな。僕も混ざろう」

 最後の槐さんの言がよくわからないが、まあいい。

「そういえば、真紅は?」
「ちょっと眠ってるみたいだね。ほら、あそこ」

 ほんとだ。誘おうと思ったけど、しばらくそっとしておいた方がいいだろう。
 真紅はあれだ。飲み会で盛り上がってる中で少し眠って、あとから復活する、たまにいるタイプ。
 部屋はそれなりに暖かいとはいえ、眠っていると体温が下がる。薄手の毛布くらいかけておこう。

 さて、とりあえず遊び方は簡単。テーブルの上に、空のショットグラスをひとつ。もうひとつには、お酒を並々とついで脇に寄せておく。……テキーラか。負けたくないな。けどちょっと負けてもいいかなと思う自分がいやだ。


『ウイスキーのようにそのまま飲まれるほか、カクテル等の材料にも使われる。産地ではそのまま飲まれることが多く、高いアルコール度数から喉を守るために塩を舐めライムを口へ絞りながら楽しむのが正統な飲み方とされる』

 脳内ウィキペディア先生『テキーラ』の項より

 ――そうなんですか先生! けどライムを食んだところで喉はちっとも守られてない気がするんですけど、先生が言うなら多分間違いのないことなんですね。実際、ライムとよくあうし。

 それで。コインを指でつまんで、手首のスナップを利かせつつ、コインの平たい部分をぶつけるようにテーブル面にワンバウンド。跳ね返ったコインが空のショットグラスに入れば、そのひとの勝ち。コツが分かれば割と簡単だけど、慣れるまでは結構外すのが面白いところだ。ましてや酔っ払いの手つきだし。

 じゃあ、負けのひとは?
 それは、コインを次に投げ入れる予定だった、自分の隣のひと。時計廻りか反時計廻りかは、場合によって。そして、負けたそのひとはまあ、

 チャリン。

 無機質なこの音が、死へ誘う鐘の音に聴こえるときがあるという。

「ああああ蒼星石ちゃん! 何一発目から成功してるのー!」
「ふふふ。僕の隣は危ういですよ? 草笛さん」
「みっちゃんって呼んでよー!」

 いくら叫んだところで事実を覆せない。ゲームって怖いなあ。
 余っていた最後のグラスに、テキーラを注ぐ蒼星石。

「まあ最初ですし、このくらいで」

 3分の1くらい注いだところで、それに炭酸水を加える。

「さ、いっちゃってください」

 蒼星石、その微笑みに他意はないか?

「ぐ……わかったわよー。むぅ、すっぱい」

 ライムの切れ端を噛みながら、ショットグラスの口を、掌で塞ぐ。
 それを思い切り、タンッ! とテーブルに叩きつけるが否や、みつさんはそれをくぃっと飲み干した。炭酸が溢れ出る前に呑むっていっても、割かし零れるから、調子にのってバーでやりたいときはマスターのテンションとノリを考慮しなければならない――白崎さんは多分許してくれないな。ええと、いわゆるショットガンというものだ。
 先生すみません。これ多分テキーラの飲み方として正しくないかもしれないです。

 おおー、という言葉とともに、ぱちぱちと送られる拍手。これほど嬉しくない拍手もない。

「いい呑みっぷりじゃないか」
「槐……覚えてなさいよ」
「僕は何もしてないだろう!」
「もう、駄目駄目! チェンジ! 席順のチェンジを要求しまーす!」

 はやいな。一回目だというのに。でもまあ、その気持ちはわからなくもない。僕も(今の)蒼星石の隣に位置するのは自殺行為だ。

 残念ながら負けてしまったひとは、ふたつの権利を得られる。

 ひとつは、席替え。どういうことかというと、コインをグラスに入れる成功率が異様に高いひとの隣に居ると、致死率(意訳)が高まってしまうから、それを避けるための配慮。らしい。確かに、位置取りが非常に大事なゲームではある。手先が冴えまくるひとの隣には、本当に行きたくないしなあ。

「ふふふ……次は負けないわ……」
「おめぇちょっと注ぎすぎです!」
「あー、勝負かけてるねえ。みっちゃん駄目よ? まだ二戦目なんだし」
「めぐ……女には負けられない勝負っていうのがあるのよ!」

 女に限った話じゃないと思うんですけどね。
 そんな思考がどこか他人事に時折なる自分が少しいやになる桜田ジュン、僕です。

 負けたひとの権利、ふたつめ。それは、次なる敗者が呑む酒を、予め注いでおくことができるというもの。
 今回みつさんは半分くらいの目盛りで注いだので、一回目よりは濃い目のそれを干さなければならない。

 それはもちろん、

 チャリン。

「めぐぅぅぅぅ!」
「ごめんねー、私こういうの得意なんだー。ね? 白崎君」
「ご存知なかったでしょうが。めぐの隣に座るのは正気の沙汰とは思えませんでしたよ、みつさん」

 自分が再び負けた場合、そのまま己に還ってくるわけだけど。
 ……めぐさんにせがまれて店でやったことないですか? 白崎さん。

「のむのむ、呑むわよ!」

 タァン!

「おおおー……」
「金糸雀が見たら泣きそうねぇ」
「大丈夫ですよ。慣れてるでしょうし」
「雪華綺晶はたまに辛辣なことを言うわ」
「貴女には敵いません、巴」

 ぱちぱちと手を叩いているのは、ゲームの外側からこちらを眺めている4人。誰も参加したがらないところに割と正しい姿勢を感じられる。

「くはー……きつ……さあさあ、ギャラリーも増えてきたんだから、気合入れていくわよ!」
「おつまみも用意しましたよぅ」
「あ、のりさん。ありがとうございますー」

 うお、そういうの持ってきたか姉ちゃん。駄目だってほら、――

 タァン!

「……ぷはぁ! ちっ、負けちまったですー! お、このチーズうめぇですねー、おおっと手が滑っちまったです。こりゃあ炭酸注ぐ隙間がほとんどねぇですねーふふふふふ」

 タァン!

「いやいやいや僕は呑みたいとかそういうのじゃないんだよあはははは! ……ピーナッツが入ってるのは邪道だと思うんだよね!(柿の種に入ってるピーナッツだけを餞別して頬張りつつテキーラを注ぐ)」

 ――酒が異様に進むアイテムを準備するのは。

「もう日本酒に中身替えた方がいいんじゃないでしょうか? ん、このサラミがまた美味しいですわね」
「チー鱈うまうま……」
「……」
「巴、その一升瓶取らないから、そんなに切ない顔しないでよぉ」

 チャリン。

「やった、やったわ! さあジュンジュン、のの呑むのよ!」
「あー、はいはい」

 くぃっと一気。――くぁ。こりゃきついな。

「あ、そろそろ無くなっちゃうねぇ」

 見ればボトルも殆ど空になっている。こりゃあそろそろお開きにしても――

「じゃあ、第二戦ですね」

 すっ、と出されたボトル二本目。さっきゴールドだったのに今度はマリアチシルバーがきたよ。
 なんか見た目からして酔いの廻りが早くなる気がするんだよな……

 ちなみにこのゲームが行われた昨年。
 ボトルの中身を入れ替えるという不届きな輩がいた。

「ま、今回お前は参加してないしな。水銀燈」
「な、なによぉ。もうやらないわよぉ」
「当たり前だ」

 頬を膨らませて拗ねているようだが、下手すると死人が出かねないのでここはきっちり釘をさしておく。
 あ、ちなみに去年、みんなふらふらになってる中で。

『ジュンが大学おちたなら私もおちてやるわぁ!!』

 多分二回目の『おちて』は『堕ちて』なんだろうなあということはとりあえずどうでもよくて、水銀燈はボトルの中身を入れ替えた。テキーラがかわいく見えてしまう、例のアレ。火をつけるとほんとに燃える類のアレ。

「救急車呼ばずに済んで良かったわねぇ……」
「お前が言うな」

 その時本当に水銀燈はぶっつぶれてしまったのだった。望みが叶ったといっていいのやらどうやら……
『味は?』という質問をしてみたら、答えは『熱い』だった。正しい感想だと思う。

 チャリン。

「ぼぼぼ僕がこれを飲み干したらプロポーズをする!」
「やあねえ酔っ払いは」

 どっちもどっちですよね。あと槐さん、酒の勢いに任せると、ろくなことにならないからやめた方がいいと思いますよ。あっ、肩が震えてる。

「……」
「槐さん?」
「……あとはまかせt」

 ばたんきゅう、って言い得て妙な擬音だと思うんだよね、僕は。脱落者一名。

「あー……こりゃ駄目ね。みっちゃんも一抜けするわー。ちょっと槐寝かせてくるから」

 ぐいぐいと力強くソファまで連れて行く。

「ほんと駄目よー、身の程をしらない男は、よくないわよ?」

 槐さんの髪をくるくると指で弄りながら、本人もあっと言う間に寝てしまった。

「あー、なんだかんだ言って良い感じだよね、あのふたり」
「夢くら良いもの見せてあげましょう。どうせ膝枕されてることなんて覚えてないでしょうし」

 大人二人が生暖かい視線を送っている。伊達に付き合い長くないんだろうな、やっぱり。

「これは言い換えると、酔いつぶすと膝枕できるってことかな? さあジュン君も!」
「落ち着け。何を言い換えたんだお前は」
「蒼星石、抜け駆けはよくねえです! まだ勝負はついてねえですよ!?」
「あらぁ、聞き捨てならない台詞が出たわねえ。静観するつもりだったけど、そうもいかなくなってきたわぁ」
「同感ですね」
「……私の指裁きは尋常じゃないよ」

 どうして、どうしてこんなことに。






  
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