幾つものメスが巴の頬や髪を掠っていくが、どれもまともにダメージを与えられない。
浮かべた分のメスを撃ち終えたのを確認し、巴はめぐへと木刀を地面に振るい衝撃波を放った。
地面を穿ちながら迫り来るそれをかわし二人とも息を整える。
「逃げ回ってばかりで、あなたらしくないわね」
「無駄に攻めるばかりが能じゃないわ。もっとも、ジャンクなあなたにそういうのは理解できないでしょうけど」
「ジャンクって言うな!!」
ジャンクと言われ怒っためぐは、今度は自分ではなく巴の足元から幾つものメスを飛び上がった。
いきなり足元からメスが飛び出してきたことに若干驚き、その隙に背後にあったメスが巴に撃ち出される。
巴はそれにギリギリで気が付いたが、反応が遅れて二の腕が切り付けられ痛みが走った。
「チッ…! 私とした事が…」
「見くびっていたからよ、そのままハリネズミにしてあげるわ!」
傷を押さえ、体勢が乱れた巴に四方八方からメスの雨が降る。
巴はそれを木刀で弾き返したり避けたりしてかわすが、いくつかはどうしても防ぎ切れずに腕や足にメスが突き刺さっていく。
全てのメスが撃ち終わった頃には、体のあちこちからメスが生えていた。
崩れ落ちそうになる体を木刀で支える巴に、めぐは憎悪の視線を向ける。
「…今こそ一葉の仇と水銀燈を侮辱した事の恨みを晴らさせてもらうわ」
「フン…これぐらいで負けるわけ無いでしょう、バァカ…」
ボロボロでありながら巴は顔を上げ、侮蔑の表情でめぐの神経を逆撫でする。
「…まだそんな笑顔が浮かべられるのね」
「これぐらいの傷で粋がるなんて…ジャンクの極みねあなた」
「あんた…!」
「あの女…水銀燈って言ったっけ? ジャンク同士でお似合いだったわ。契約破棄してもったいないわね」
「……っ! また言ったわね!!」
またしても水銀燈を侮辱され、めぐの中で何かが切れた。
それと同時に地面が地響きを起こして揺れ始める。
「地震…nのフィールドで!?」
巴が困惑していると地割れが起き、めぐの後ろの地面が音を立てて浮かび上がった。
巨大な土の塊が宙に浮かんだ事に、巴も動揺が隠せなかった。
「そんな、めぐにこんな力が…!」
「消えろ!!」
腕を巴の方に向けると、巨大な土の塊が勢い良く巴の方へと放物線を描いて向かって飛んでいった。
「やばっ…!!」
巴のその声が聞こえたと同時に土の塊が巴がいた所に落下し、激しい衝撃と砂埃が辺りに広がった。
めぐは腕で顔を覆い、それからガードしながら薄目を開けて巴の様子を見る。
激しい砂埃でよく見えないが、あれを喰らってもう戦えるはずが無い。確実な勝利だ。
「やった…一葉、水銀燈…恨みは…」
勝利を確信して警戒を解いた瞬間、鋭い痛みが肩に走った。
肩を見ると、自分が飛ばしたメスがそこに深々と突き刺さっている。
(これ、私が飛ばした…何で…!?)
何が起こったか分からず困惑していると、砂埃の中から更にメスが数本連続で飛んできて両肩に突き刺さった。
避ける間も無く全てを喰らって激痛が走り意識が飛びそうになったが、聞こえて来た声によって覚醒する。
「なかなか凄かったわ。まともに喰らってたらさすがの私も負けてたかもね」
「巴…! 喰らってなかったのね…!」
痛みを堪えて砂埃の方を見ると、中から肩にメスが一本刺さったままの巴が嘲笑を浮かべて現れた。
巴はそのメスを抜くと、弄ぶようにそれを指で回す。
「私があれぐらいで負けると思ってたの? ちょっと不利なマネしたら調子に乗っちゃって、ホントにバカね」
「貴様…っく…」
倒れそうな体を必死に支え、巴を睨みつける。だが、既にもう体力は残っていない。
「あはは、力使い切っちゃったのね。ホントに力のセーブとか出来ないんだから…昔っからすぐ暴走しちゃって」
「うるさい…!!」
「過去のミーディアムからも力吸い過ぎちゃったりして…そんなんだからジャンクなのよ。この失敗作」
「黙れ!」
神経を逆撫でされ、めぐはメスを浮かび上がらせて巴へ発射する。
だが既に力を使い果たしためぐのメスは勢いがほとんど無く、それらはいとも簡単に巴に全て奪われてしまった。
「こんなんで私に勝てると思ってる?」
「くっ…!」
手の中で数本のメスを弄びながらめぐを見下す。
そしてフッと鼻で笑うと、メスを持っている手を横に薙いでメスを飛ばした。
「跪きなさい」
「あぁっ!!」
めぐは巴が飛ばしたメスをかわす体力も残っておらず、それらは全て右膝に突き刺さり完全に球体関節を破壊してしまった。
球体関節が破壊された事と激痛でめぐは立っていられなくなり、右膝を押さえてその場に跪いた。
「あぐっ…うぁ…!!」
「良い様ね、めぐ」
もう立ち上がることの出来ないめぐへと近付き、歪んだ笑みを浮かべて見下ろす巴。
その影に気が付き、めぐは見上げて強い憎悪の念を巴へと向ける。
既に戦う事は不可能なのは分かっているのに、その念は戦う前よりも強くなっている。
巴はそれが気に入らず、めぐの腹を蹴って吹き飛ばした。
「ぐぁ…!」
「…そろそろその顔も飽きたから、ローザミスティカ貰ってさよならするとするわ」
「ふざ…けるな…!」
木刀を構える巴に立ち向かおうとするが、壊れた球体関節では立ち上がることも出来ず膝立ちになるだけだった。
そのめぐを巴は冷たい目で見下ろす。
―※―※―※―※―
「だめ!! めぐ逃げて!!」
「戦いの最中によそ見するものじゃないわ!」
ボロボロのめぐに気を取られた隙に、空間に穴が開きレーザーがみつに放たれ喰らってしまい吹き飛ばされた。
「くっ…!」
みつは受身を取って体勢を立て直すが、同時にオディールが目の前に瞬間移動してきて攻撃をガードするしかなかった。
槍でオディールのレイピア攻撃を防いだものの、急な攻撃に対処しきれず槍は弾き飛ばされてしまう。
「しまった!」
弾き飛ばされた槍は放物線を描いて飛んで行き、それは落下地点にいた巴の手に収まった。
槍を手にした巴はそれを見てニヤリと笑みを浮かべる。
「そうだ、お友達の武器でやられるってのもいいかもね」
「…こんな所で…!」
「させない!」
めぐへトドメを刺そうとする巴へとみつは駆けて行くが、それは目の前に現れたオディールに押し倒される形で阻止された。
圧し掛かられたみつはそのまま倒れこみ、馬乗りになったオディールが胸にレイピアを突き立てようとするの防ぐしかなかった。
めぐの元へと向かおうと、必死に体を起こそうとするがそれから抜け出せるはずが無い。
「めぐ! どきなさいオディール!!」
「あなたの相手は私だって忘れたのかしら? 大人しくめぐの最期を見てるが良いわ」
「どきなさい! どけぇーっ!!」
みつの絶叫も虚しく、巴はみつの槍をめぐへと向ける。
「最期に何か言いたいことはある?」
「…あんたなんか…」
「何?」
「あんたなんか、きっとジュンが倒してくれる…それまで怯えてるがいいわ…!」
恨みのこもった台詞を聞くと、巴は呆れたように溜息を吐いて槍を持つ手に力を入れる。
「言いたい事はそれだけね。あと、ジュンなんか本気出せばあっさり返り討ちにしてみせるから。…さよなら」
台詞を言い切ると巴は槍を一気に下ろし、それはめぐの背中から胸へと一気に貫いた。
「あっ…ぐあぁ…っ!!」
串刺しになっためぐは痙攣を起こし、巴が槍を抜き取って蹴り飛ばすとそのまま動かなくなってしまった。
しばらくするとその体から紫色に輝くローザミスティカが出てきて、そのまま巴の手に収まった。
それを巴は恍惚といった表情で眺める。
「うふふ…二つ目のローザミスティカ、やっと手に入れたわ…」
その光景を、オディールに抵抗しながらみつは眺めていた。
「嘘、そんな…! めぐ、めぐーっ!!」
「悲しまなくたって、あなたもすぐ同じ運命辿るわよ!」
より力を込めてオディールのレイピアが喉元に降りてくる。
それを手で押し返そうとするが、こうなっては完全に不利だ。
めぐも助けられず自分も負けるのかと、みつの目から悔しさと悲しさで涙が溢れてきた。