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僕は地面を0センチの距離で見つめながら、叫ぶ。
「いやもう、今日はこれで全部です!後生ですから勘弁してください!」

彼女は僕の頭を踏みながら、実に退屈そうに声を上げた。
「…つまんないわねぇ…ま、今日の所はコレで勘弁してあげるわぁ」

そう言い彼女は僕の頭から足をどけてくれた。
あれ?もうちょっと踏んでても良いん……いや、何でもない。


正直、毎日のカツアゲで僕の財布は常に世界恐慌が吹き荒れている。
僕は昼休みの度に、迷える子羊も真っ青になるような必死な顔で逃げ続け…
結局、昼休みの度に、体育館裏で土下座している。


ああ、自己紹介が遅れたね。

僕は桜田ジュン。

高校で出会ったとある人物…水銀燈という凶眼の持ち主にカツアゲされる、可哀想な高校生です。


~~~~~


僕は額に付いた土を、パッパと払う。
「…ふん、僕が本気を出す前に帰るとはな…」
無意味に強がってみせる。
もちろん、周囲に誰も居ないのを確認してから。

…だってアレじゃん?
こんなの水銀燈に聞かれたら、
「邪気眼出してみなさいよぉ!」とか言いながらチョークスリーパーの刑に決まってるだろ?
でも想像してみると…それはそれで嬉しいような…
いや、そんな事はどうでも良い。

僕はアメリカ人みたいに肩をすくめ、校舎に戻る。
昼休みはたっぷり残っているが…昼食代を盗られたから、教室で昼寝でもする事にした。
実際は、『寝たふり』なんだけどね!

教室で机に突っ伏していると、色んな声が聞こえる。
女子の笑い声。男子達が騒ぐ音。
でも、僕には関係ない。
ひたすら、家に帰ってVIPをする事だけを考え…やがて5時間目のチャイムが聞こえてきた。

それから数時間続く授業は、到っていつもと同じもの。

つまり、僕の真後ろの席の水銀燈がわざと、時々僕の椅子を蹴り…
振り返った僕に、刺すような視線を向けてくる。
あぁ…たまらない…思わず、ゾクゾクして……いや、何でもない。

 
~~~~~

終礼のチャイムと同時に、僕は鞄を引っ掴み、逃げるように教室から去る。
これもいつもの事で、もう誰も僕には目もくれない。

さっさと帰って、糞スレでも立てよう。

~~~~~

翌日…。
僕は昼過ぎに、モゾモゾと目を覚ました。

枕元のデジタル時計を確認し…思わずニンマリとしてしまった。

何故なら!今日は土曜日!休日!
(あぁ…毎日がエブリデイならどんなに素敵だろう…)
僕はウットリとした視線を宙にむけた…。


さて、『ドラクエの壁にぶつかる音に合わせて腰を振っていたら休日が終わりました』
なんて事は、流石にノーサンキューだ。
僕は簡単に朝食を取り、出かける準備をする。

服を着替え、財布の中身を確認する。
そして…
財布から何枚かの紙幣を取り出し、履いている靴下の中にしまった。 

 
万が一…いや、万が一にも有り得ない事だが…もし水銀燈に出会いでもしたら…
貴重な全財産が奪われる事になりかねない。

常に二手三手先を考える僕って、スゴイ!なんて思いながら鏡を見る内に…
ふと思った。

「そういや、アイツ…僕から巻き上げた金で、何してるんだ?」

水銀燈がお金に困ってるなんて事は、噂にも聞いた事は無い。
かといって、彼女が遊びまわってるのかといえば、そうでもないらしかった。

暴力的な所以外は特に変哲の無い高校生。

誰もがそう判断していたし、僕だってターゲットにされるまでそう思っていた。

「…こっそり寄付してるとか…?」
いや、ありえない。
「…親友の入院費を稼ぐ為に…」
いや、昼食代をカツアゲした所で、そんな額を稼げる訳がない。
「……そうか…なるほど!」
僕はそこで気が付いた。

「僕には関係ない!」


目下の悩みが解消された僕は――実に清清しい笑顔で、家を出発する。

目指す場所は、『聖地』

人はそこを―――『アキハバラ』と呼ぶ。 

 
~~~~~


「ウフ…ウフフフフ…」
つい、笑みが零れてしまう。

この町は、良い。
ゲーム、漫画、同人誌…僕に必要なモノは、全てこの町に揃っている。

お気に入りのツンデレ喫茶で高圧的な視線を全身に浴びながら、僕は秋葉原の町並みを見下ろす。

どこもかしこも、休日だけあって人が溢れている。

フィギュアを片手に、楽しそうに語らう集団。
通行人に声をかけている、メイド喫茶の店員。
路上アイドルに群がる、大勢の人。

(あぁ…平和だなぁ…)

僕はつい、幸せのため息を漏らす。

そして…この愛すべき町に再び視線を向け…
有り得ないものを見た。


僕の思考が凍結する。
一瞬、心臓が間違いなく止まった。
 
 
居たのだ…そこに…

有り得ない…居る訳が無いとタカを括っていたのに…

「まさか…そんな……何で……」


僕が視線を向けた先―――

黒いドレスを着た、一人の路上アイドル…

逆十時をあしらった服を纏った、水銀燈の姿。



~~~~~



気が付いたら僕は、逃げるように喫茶店を出ていた。

狭い路地に入り、壁に手をつき呼吸を整える。

「……はぁ…はぁ…大丈夫…大丈夫さ…水銀燈は…僕に気付いてなかったさ…」
ブツブツ言いながら、にじみ出た汗を拭った。

壁にもたれかかり、気分を静める。
 
「……あれは…本当に水銀燈なのか…?」
落ち着くにつれ、当然の疑問が浮かんだ。

そりゃ、そうだ。
僕の中でドキュン認定間違いなしの彼女が、アキバにいる訳が無い。
『ファイトクラブ』に居ましたって方が、よっぽどしっくり来る。
それが…しかも、路上アイドルなんて…

僕は自嘲気味に笑い、慌てふためいた自分にため息をついた。

「そうさ…ただの見間違いだよ…」

呟き、路地から顔を出し、例の路上アイドルに視線を向ける…


高圧的な、ドS全開の瞳が、カメラのフラッシュを集めている。
バランスのとれたプロポーションで、魅力的なポーズを連発している。
興奮していきり立った観客には、迷わず鉄拳制裁を加えている。

…オーケー。間違いない。水銀燈だ。
特に、最後の一行の辺りが。


僕はガックリと頭をたれ…
最早、この地で安息は失われた事を嘆きながら、家に帰った。


 
~~~~~


月曜日…

昼休みのチャイムと同時に、僕は教室を飛び出した。

水銀燈が狙ってくるのは、僕の昼食代。
つまり、ごはんを食べきりさえすれば、僕の勝ち。
分かってはいるが…未だに成功した事の無い、難易度MAXの任務だった。

だが…

(…今日は…イける!!…体が軽いぞ!!)
日曜日は家で十分に休養をとり、この時に備えた。
(今度こそ…あの角を曲がれば…!)
いつにないベストコンディションで僕は角を曲がり―――
いつになくキレの有る水銀燈の飛び膝蹴りが、僕のミゾオチにめり込んだ。


地面をのたうちまわる僕。
僕の首根っこを捕まえ、体育館裏へと向かう水銀燈。
ア然とする、周囲の生徒。

…結局、いつもの光景が繰り広げられただけだった。

 
~~~~~

「すみません!これで全部です!」
体育館裏に着くと同時に、僕は財布を放り出し、得意の土下座を炸裂させる。

だが…
地面に伏せた顔から、笑みを消す事が出来ない…


そう、この時の為に!
昨日は一日、家でネットをし続けたんだよ!

ネットに載ってた情報はあまりにも少なく、断片的ではあったが…
それでも、僕にとっては十分な情報だった。

――最近、秋葉原に登場した路上アイドル――
その登場時期は、僕がカツアゲされ始めた時期と一致する。
――独特な衣装に身を包んだ彼女は――
そう…衣装を作るには、お金がかかるからな。
――黒薔薇という名以外は謎に包まれている――
そして、その正体は……!!


(ククク…クックック…)
これからの事を考えると、笑いを止めるのに必死だ。

そんな僕を他所に、水銀燈は僕の財布から金を抜き取ると、
「…相変わらず、シケてるわねぇ」
そう声を上げた。
 
 
(今だ!!)
地面から一センチの距離で、僕の目がギラリと光る!
「はい…ごめんなさい…次からは気をつけます…黒薔薇さん…」
(やった!!勝った!!言ってやったぞ!!これで立場は完全に逆転だ!!フヒヒ!)

僕は視線を地面から水銀燈に向ける。

水銀燈の表情は、髪に隠れてよく見えないが…それでも、肩が細かく震えている。

(泣かしてしまったかな?)
ずいぶんと気分が大きくなった僕はそう思い、水銀燈に近づき―――

そこで突然、意識が暗転した。


~~~~~


気が付いた最初の要因は、痛み。その次は痛みで、その次も痛み。

とにかく、頭が痛かった。


水銀燈は片手で僕の頭を掴み、そのまま壁に押し当てている。

相変わらず髪で表情は見えないが…
口元を軽くピクピク痙攣させながら、笑みを浮かべている。
 
「……あなた…見ちゃったんだぁ…」

何か答えないとマズイ。それは分かっているが…それどころじゃない。
細腕とは思えないほどの握力で、僕の頭蓋骨がキリキリと軋みを立てる。

「見てません!ごめんなさい!」
とりあえず、そう叫ぶ。

小さなブローチ程度なら粉々にできそうな握力。
それを一切緩めず、水銀燈は相変わらず引き攣った笑みで呟く。

「…あなたの奢りで…ランチでも一緒にどうかしらぁ……?」

「は…ハイ!行きます!食べます!」
何かを考える暇もなく、僕はそう叫ぶ。


その返事に一応満足したのか…水銀燈は僕の頭から手を離す。

僕は来た時と同様、首根っこを捕まれ、ズルズルと引き摺られる。


その時――僕は確信した。

形勢逆転どころか、僕は自分で逃げ道を塞いでしまったと……

 
 

僕を引き摺る水銀燈はふと立ち止まり、僕に視線を向けてくる。

「分かってると思うけど……誰かに言ったら…殺すわぁ」
そう言い、獲物を見る猛禽類のような目で、鋭く僕を睨みつけてきた。

僕は思わず、ゾクゾクし……いや、何でもない。




 

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