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──昨日水銀燈に話した翠星石のことを、今日も思い起こす。

そういや、手を繋がないと怒り出すのは、
それっぽいのが最近でもあった…かな。
街へ行った時、ケーキ屋に行く前に僕の腕にしがみついてた事とか…。

ふっ。
翠ちゃん…。

幼稚園の頃のあだ名。

──今は昔…か。

他に思い出すといえば…おとといの話。
寝る前の翠星石との言い争いか。

僕は自殺しようという気なんてさらさら持ち合わせてなかったからな。
これだけは今でも自信を持って言い張れる。

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翠「…こっんの大馬鹿者ぉ!!」
ジ「なんだよ…。さっきまで腰抜かして立てなかったくせに──」
翠「キィィィー!!」
蒼「2人ともやめようよ…」
翠「何で窓から飛び降りようとしたんですか!」
ジ「飛び降りるつもりはなかった。
  自殺なんかしようとは思ってなかった。
  ただそれだけだ」
翠「じゃあ何で──」
ジ「水銀燈から逃げるのに必死だった。
  ただそれだけだ…」
翠「…逃げるって言っても、何も窓から逃げることなんて…」
ジ「いや、突然あんな怖い顔して追いかけられたら、こっちだって訳分かんないし、
  水銀燈は速いから、逃げられる場所なんて限られてたし…」
翠「…」
ジ「…」
蒼「…」
翠「…そうですか」
ジ「…そうだよ」
翠「実に納得いかねぇです」
ジ「何がだよ」
翠「あぁやって軽々しく窓枠に足を掛けられるってことは…」
ジ「…」
翠「…」
蒼「…」
ジ「ちょ…何でそんな憂鬱そうな顔すんだよ…」
翠「…こっち見んなです」
ジ「…あ、そ」
蒼「…」
翠「チビ人間はとっとと寝とけコンチクショー……です──」
ジ「はいはい。分かったよ。おやすみ」

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──クラスの奴らや梅岡とかに変なことを言ってなければいいんだけど…。
あいつの事だから、どっかで口滑らせててもおかしくないよなぁ。

…ジュンが自殺しようとしたですぅ~!!

あーいやだいやだ。
勘弁してくれよなぁ…。

~~~~~

夕方…いや、そろそろ19時だから晩と言うべきか。
昨日に続いて数学が捗らない上に、英語も捗らない。
そして、朝から誰も来ない…。

翠星石は毎日ノートを貸してくれたが、
昨日から途切れ、僕のノートは埋まらなくなった。

どうせ翠星石は昨日学校で僕が窓枠に足を掛けた件のことを
誰かに話してしまって、バツが悪いから来ないのだろう。
それで翠星石はSとかTとかUとかが来てると思ってるんだ。

──そう思った。

ピーンポーン

ジ「…あっ」

僕はインターホンのモニターを真っ先に確認しに行った。

やって来てたのは蒼星石と柏葉だった。

ジ「おぉ!今すぐ開ける」
蒼『うん』
巴『えぇ』

蒼星石と柏葉を迎え入れる。
そしてリビングのソファで話し合った。

ジ「大会が始まるのって、たしか来週だよな?」
巴「ええ。今年は何でか遅いんだけど…」
蒼「去年は4月だったんだけどねぇ。入部届け出す前だったんだけど」
ジ「何か主催者側にトラブルでもあったのか?」
蒼「さぁ…僕には分からないけれど」
巴「私にも全然…」
蒼「あ、あと今週に大会ってのは水銀燈だよ」
ジ「そっか」

僕はソファの背もたれにもたれ掛け、
ふーっとひとつ溜息をついた。

蒼「翠星石がHRで発言したんだって。ジュン君のこと」

蒼星石が僕の様子を窺うようにして言った。

ジ「それって、僕が窓から飛び降りようとした云々ってやつか?」

僕は驚いて思わず蒼星石を問い詰めた。
蒼星石は当惑した顔をした。

蒼「…あ…いや、あの…そうじゃないと思うけど…」
巴「私も、そんな話聞いてないけどね」
ジ「……まぁ、クラス違うしな」

だが僕の心は穏やかにはならなかった。
…そして間が空いた。

蒼「ABCは今日になって梅岡に呼ばれたらしいよ。
  もの凄く抵抗してたけどね…」
ジ「やっとか…」
巴「今日は朝からお互いピリピリしてたから…
  1時間目が始まる前から衝突とか起きてたし…」
ジ「…」
蒼「僕と巴を探してたみたいだけどね。奴らは」
ジ「…」

日に日に大ごとになってるんだな…。

巴「何か今日になって急に事が運び始めた感じよ」
ジ「翠星石か…」

柏葉はこくりと頷いた。
あいつも、無理したもんだな…。

蒼「でさ、ジュン君は…いつ学校に行きたい?」

蒼星石が唐突に聞いてきた。
僕は面食らって言葉を返せなかった。

ジ「…」
蒼「…」

とにかく必死に考えてみた。
そして出た結論は──

ジ「…今年の秋」

1学期中ってのはさすがにダメだ。
精神的に無理がある…。
蒼星石と柏葉は、一瞬お互い顔を見合わせた。

蒼「…そっか」
巴「まだ急がなくてもいいと思うよ。翠星石たちが最近凄いから…」
ジ「う~ん…」

僕は再び思考を巡らせた。

ジ「あいつらと一緒の空間に居たくないし…様子見かなぁ」
蒼「…」
巴「…」

空気が急に冷え込んだ──

蒼「あの…僕が言うのもナンだけど、
  世の中に出たら、ABCよりもっとイヤなことを言ってくる人が出てくると
  思っておいたほうがいいよ」
ジ「う…」

再び口を開いた蒼星石。
かなりキツイところを突いてきた…。

蒼「社会ってそうは上手くいかないもんなんだと思うなぁ」
ジ「…」

いきなり何を言い出すのか──

蒼「水銀燈って“戦え!!”みたいなことをジュン君に言ってたよね」
ジ「あぁ…」

冷や汗が滲み出てきた。
よもや蒼星石からも指摘されることになろうとは…。

蒼「水銀燈も同じ経験をしたから、ああやって言えるんだよ。
  …いや、同じと言うには少し語弊があるかもしれないけど」
巴「…」
ジ「…」

そこでそれを持ち出すか…。
ますます空気が重くなった…。
最悪の状況だ──

蒼「今のジュン君の様子を見て、
  水銀燈自身が、以前の自分の立場を思い出してしまったのかも…」
巴「…」

う~ん。

ジ「…」

…しかし、だ。
水銀燈にも荒れてた時期があったけど、
あれは家庭内の出来事だし、
故意に水銀燈の心を傷つけていたわけではない…と思ってる。
水銀燈にこんなこと言ったら怒られそうだけど…。

だって、蒼星石を見てると、土日の部活って結構長いからなぁ。
しかもオフは大体平日に入ってるし、
その間に出かけたくなるのも…分からないでもない。

蒼「…水銀燈はもう分かってるんだと思うよ。
  何も情勢が変わらないのなら、自分から変わるしかないってね」
ジ「…」
蒼「翠星石はジュン君に甘いことを言ってきてたはずだけど、
  最近はそうじゃなくなってきてるでしょ?」
ジ「…あいつは…まだ…だなぁ」
蒼「そうだとしても、翠星石はきっと感づいてるよ」
ジ「…」

あぁ…。
…そうか。

~~~~~

蒼星石と柏葉が帰り、そろそろねーちゃんが帰ってきそうな時間となった。
僕は自分の部屋でベッドに寝転がりながらヤングジ○ンプを読んでいた。

ピーンポーン

…帰ってきたか。
腹減った。
今日は豚の生姜焼きぐらいのがいいなぁ。

…。

…。

の「ジュンく~ん!翠星石ちゃんから預かり物よぉ!」

下から呼ぶ声がする。
預かり物…か。

~~~~~

その預かり物とは、やはり学校のノートだった。
あぁ…最近は僕の家に来れないほど頑張ってるんだなぁと思いつつ、
お前の家は全然全く離れてないだろ!と突っ込みたくなった。

とりあえず、一旦、僕の部屋に置きに行った。

──晩飯はトンカツだった。
同じ豚肉でも…結構胃に重い。

の「おいしい?」
ジ「あぁ。いつも通り」
の「そう、良かったぁ。
  閉店直前のお肉屋さんで滑り込みで買っただけあったわぁ♪」
ジ「…w」

水銀燈と2人で、高校からダッシュで駅前の肉屋に駆け込むのを想像して、
思わず吹きそうになった。

の「あ、そうそう、これじゃあお野菜が足りないわね…
  何か簡単なサラダでも要る?」

ねーちゃんが聞いてきた。
僕は別にそこまで野菜が嫌いというわけではないので、
何となく欲しいものを注文した。

ジ「じゃあ、冷えたトマトお願い」

---------

部屋で、2日ぶりに翠星石のノートを書き写す。
この2日間、今までで一番勉強が上手くいかなかったのも、
きっとこのノートを写すリズムが崩れたからだろうなぁ…。

…。

…。

…よし。

ジ「ふわあぁぁぁ…」

──ひとつ欠伸をかましたところで、ふと時計に目をやると、
既に夜11時を回っていた。

そろそろ風呂に入るか。
…と、ノートをバタンと閉じ──

…一枚の封筒らしきものが、ノートの端からはみ出ていた。

ジ「…何だこれ?」

何の変哲もなさそうな、一枚の普通の封筒。
…開けてみると、一枚の手紙が入っていた。
ノートをちぎった紙ではなさそうだ。
ルーズリーフでもない。
…妙に凝ってるな。

ここまでくると、さすがに中身を確認せざるを得ないだろう。
僕は意を決して、折りたたまれた紙を開いた。







“今度の日曜に、広い芝生のある公園で…”







──よし、閉じよう。
見なかったことにしよう。うん。
これは果たし状だ。
この折りたたまれ方、いかにも戦国武将に届く手紙っぽいよな…!w
きっと僕はボッコボコにされるんだ…。

あぁ、これが別の奴の手紙だったらなぁ。
そんなに気味の悪い文章に見えないはずなんだけど、
でも、この筆跡は間違いなく翠星石…じゃなく見えるんだけど…。
あいつらしく走り書きのグッチャグチャの激しい文字はいずこへ…?

くっそー。
こんな短文ならメールでとっとと送ってくれりゃいいだろうに。
何でこんな手の込んだことをするんだ?

それに…この手紙、誰宛かが書いてないぞw




──あ。
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