──AとCの2人と翠星石が、
このだだっ広い公園で対峙しているです…。
翠「おめぇらが負けたら、絶対イジメを止めてもらうです!」
C「やだよ。楽しいもん」
A「あいつも家に引き篭もって喜んでるし、いいじゃないか。
これは俺たちにとっては最高の娯楽だ」
ご…娯楽ぅ?
C「ほとんどカネ払わずにこんなに楽しいゲームが出来るもんなw」
こいつら…。
去年のジュン以下です…。
C「もはや奴隷以下だろw」
翠「…」
ボゴッ!!
C「うっ…!」
よし、鳩尾に入ったです!
翠「…」
C「…ちょっ…来るな…!」
近寄ると後ずさって、
いよいよ本気で逃げ出したCの野郎。
翠「待ちやがれですぅ!」
C「…はえぇ」
貴様が遅せぇだけですよっ!
ゲシッ!!
C「いっ…」
グボッ!!
C「がっ…」
──そこで苦しんでいやがれです…。
A「へぇ~」
背後からAの声…
追っかけてきやがったですか…。
A「足引っ掛けて男の急所を蹴っ飛ばすとは。
さすがは水銀燈とやらの妹。鍛え上げられた女だぜ」
こいつ、Cがやられたのによく冷静でいられるですね…。
さっきまで馬鹿笑いしてたくせに、何て奴ですか──
翠「さぁ、足を洗ってもらうです!」
イジメから手を引きやがれです。
A「いいよ~」
…幼稚園児みたいな声を上げやがって…
また煽る戦術ですか。
いくらジュンに短気短気と言われ続けてる私でも、いくらなんでも──
──水道場へ行って何する気…
…はっ…まさか…
A「は~い、足洗ったよ~」
翠「…」
A「ほらほらほら~」
翠「…」
あ…の…下衆野郎…!!
A「ひゃっほーい」
翠「逃げるなです!このドアホォォォ!!」
A「ま、俺の方が体力あるからな。文化部のお前に負けるわけがないし、余裕余裕♪
しばらく流して逃げとこ~──」
──ここまで馬鹿にされたのは初めてかもです…!
こっちは真剣なのに、何であいつは煽ってばかり…
イライライライライライライライラ…
A「──なんてことするわけないだろ!」
翠「!!」
いきなり真正面から向かってくるなんて…!
──じゃあこっちもこのまま勢いつけて当たりに行くしかないみたいですね!
A「向かって来るとは上等じゃ!」
翠「口開けてると舌噛むですよ!」
…ボグッ!!
A「…ぐっ──」
ゲシッ!!
翠「…」
…う、上手くいったですか…?
起き上がってこないみたいですね。
…ヒッヒッヒ。
タックル混じりの肘鉄が決まったです。
──さてぇ…?
まだ片付けてない奴が1人居るような気がしますがぁ?
まだ帰ってきてないんですかぁ?
Cの奴もうつ伏せに足を抱えて倒れたまま起き上がる気配もないですし?
Aの奴はさっきの肘鉄が決まり過ぎて、うわごと言いながら蹲ったままですし?
今頃ジュンを追っかけてるところですかぁ?
まぁ、あんな奴に捕まるほど今のジュンはへタレじゃないと思うですけどぉ?──
-----
U『なぁ、ジュン。毎日思うんだけどさ、翠星石ってかわいくない?』
ジ『え゛~!!…寝言は寝て言えよw』
U『何でだよ…まぁ、お前…学校でもよく言い争ってるもんな…』
ジ『だって仕方ないだろ…そのうちあいつに彼氏が出来たら、あまりの性悪ぶりに
悲鳴上げて熱出してぶっ倒れて、しまいには病院送りになるだろなプw──』
-----
──ジュン…。
あれを聞いたときは心底ショックでした…。
別に…いつもふざけてる時と変わらないのかもしれないですが、
何でですかね──
胸を突き刺されたような…あの感じは今でも忘れはしないです。
でも…
嫌われてもしょうがないかも…ってのはずっと前から思ってた事なんですぅ?
だって…来る日も来る日も喧嘩喧嘩喧嘩…って。
あの日、危惧していた事がとうとう起こってしまったような気がして…。
意識してても突っ掛かってしまう私が許せなくて…
悔しくて──
あの後、ジュンは必死に何回も謝ってきてくれたのですが、
しばらくはずっと許すどころか口すら利きませんでした。
ジュンが来るたびに泣きたくなって…
何も言葉に出来なかったんです。
あと…判ってたんです。
本当は翠星石も謝なければならないってことを…。
いっつも攻撃してばかりだったら、ジュンだって攻撃してくるしかないです。
逆に、翠星石が常日頃からジュンに本当の意味で優しくしていたら、
ジュンだってきっと翠星石に優しくしてくれて、
Uに対してだって、あんな事を口にしなかったはずです…。
それで、少し落ち着いてから謝りに行ったんですが、
ジュンは「お前は悪くない…ごめん」を繰り返すだけで、
性格もずいぶんと暗くなって…騒がなくなって…
でも、もしあれがただの照れ隠しだったっていうのなら…
…いや、今さらそれを知ったって、どうしようもないですし、
むしろブチ切れてしまいそうです…。
まぁ、今日はABCに出くわす前までは楽しく過ごせたんですし、
ジュンとちょっとはふざけ合うことも出来ましたし、
久々にジュンが明るくなりそうな気配もしましたし、
今日のデートは大成功ですね!
や~ん…デートだなんてそんな──
──はっ!
いかんです。
ジュンを捜さなきゃって時にこんな事考えてる場合じゃないです!
早く捜しに行かないと…う~ん…でも捜す宛ても判りませんし…
うぅ…どうしてるですかね…。
B「──おーい!大変だー!」
おっ…こんな時に獲物が自ら近寄ってきたですぅ…w
…ひとまず、そこの植え込みの裏に隠れるです…
──引き寄せてから捕まえて、ジュンを見つけたか聞いてから
ボッコボコのギッタギタにしてやるです!
B「──桜田が絡まれてたぞ!銀髪のねぇちゃんに!」
翠「…」
B「…って、何でお前ら倒れてるんだよ…」
ダッ!!
B「はっ?…誰だよ!」
逃げ出す馬鹿野郎1名。
ロックオンです──
翠「…」
B「何だよ何だよ…」
ふひひw
その方向に逃げると消火栓が邪魔ですよ~?
B「えっ!…」
残念でした~。
翠「…」
B「…なっ…何する気だ…?」
翠「ジュンはどこですか?」
B「…さ…桜田?」
とぼけてやがるですか?
お前、ジュンを追っ掛けるって言って公園から出て行ったじゃないですか!
…この3人、全員が最後まで翠星石を怒らせないと気がすまないみたいですね…。
翠「…どこですか?」
B「…」
翠「ジュンはどこにいるんですか!!」
ゲシッ!!
B「いッ…!!」
バタッ…
翠「早く言えです!」
B「し…市役所前だ…」
翠「…」
よし。
こいつらが起き上がってこない今のうちに捜しに行くです。
“銀髪のねぇちゃん”ってことは間違いなく水銀燈と一緒に──
──あれ?
階段の上に水銀燈…?
それに…階段の下に…ジュン?
…ジュンですよね?
間違いないです!
あの適当な服装といい、力の無い立ち方といい、間違いなくジュンです!
翠「……ジュ~~~~ン!!」
ジュンが来てくれたです!
無事で何よりですぅ!
よく逃げ切ったです!
このままジュンに飛び込むです~♪
翠「ジュ~~~ン♪」
ムギュ
ジ「…」
翠「…」
はぁぁ~
ジュン…暖けぇです…。
勝利の抱擁ですぅ。
翠「…勝ったですよ。勝ったんですよ!あいつらに!」
ジ「…」
翠星石が勝っただけじゃねぇです。
ジュンも勝ったんですよ!
悪党どもに勝ったんですよ!
翠「ほら、まだ誰も起き上がってないですよ?」
これが翠星石の本気です!
いや、火事場の馬鹿力です…。
また襲われても勝てる自信は…あんまり無いです…。
──とにかく、いつもみたいにぎゅ~って抱き締めて欲しいですぅ。
翠「ジュンをイジめるなって約束で勝ったです!」
これでジュンと一緒に学校生活を送る第一歩は完成です。
きっと近いうちにそれが実現しますよ。
楽しみですぅ。
…ジュン。
そうです。
ぎゅ~って、抱き締めろですぅ…。
…なんか…涙が出てきそうです…。
ジ「…ありがとう」
…うぅ──
銀「帰るわよ!」
…何か気に入らなさそうに言う奴ですねぇ。
そんなにプリプリ怒るなです。
あっと。
荷物…そこのベンチに置きっぱなしでした…。
──。
~~~~~
銀「──うぅぅぅ…中指立てられるなんてっ!」
…。
翠「うっぐ…」
あぁ…涙が止まらなくなっちまったです…。
ジュンと腕を絡めてるだけなのに…。
翠「うぅ…今日は泣いてばっかりでゴメンですぅ…」
ジ「いやぁ…まぁ仕方ないけどさ…」
──そうです。
今日の収穫はすべてがデッカイんですから…
翠「だって、ジュンとまた一緒に学校へ行ける日が来るんだなぁって思うと…」
ジ「…」
翠「あぁもう…余計涙が止まらなくなるじゃないですかぁ!このおばかっ!…」
──やっぱりそうです。
こいつと一緒に学校へ行きたくてしょうがないんです…。
銀「あんたたち、いい加減離れなさい!…恥ずかしいじゃないの…」
ジ「ごっごめんなさい!」
水銀燈が癇癪起こしたせいで、
ジュンが無理やり振り解こうと腕を…
-----
ジ『だって仕方ないだろ…そのうちあいつに彼氏が出来たら、あまりの性悪ぶりに
悲鳴上げて熱出してぶっ倒れて、しまいには病院送りになるだろなプw──』
-----
──あっ…!
…すっ…翠星石はそんなつもりじゃねぇです!
翠「ジュン!」
この腕、絶対放さんです!
──って…何ですか?そんなにまじまじと見て…。
ジ「…」
翠「…いや…」
ジ「…あの…」
翠「…」
──って、何でジュンとこんなガチガチに寄りついてるんですか。
はん。
…不本意ながら、ジュンを突き飛ばすようにして離れてしまいました…。
翠「あっは…何で翠星石がジュンに密着してるですかねぇ~。
ば…馬鹿馬鹿しいことこの上ないですっ!」
…じゃなくて、何でこんな事言ってしまうんですか?
ジ「何だと!自分から抱きついてきたくせに!」
翠「あれは水銀燈の所へ行こうとしたら、そこにた~またまジュンが居たから、
あぁなっただけですよ?…ジュンが無事でホッとしたなんて…」
ジ「へぇ~」
翠「なっ…」
あぁぁぁ…
何でこう口がスベってしまうんですかね!
ジ「…w」
…くぅぅぅ!
そのニタニタ笑いといい、酷く腹を立たせる野郎ですぅ…!
翠「ぶ、ぶっ飛ばされてぇんですかッ?」
ジ「いや…遠慮する…w」
翠「ムカつくですー!…ムカつくですムカつくですムカつくです…!」
…ムカつくのに…でも心地いいです…。
何でしょうかこれは──
ジ「いや、ごめんってw…でも翠星石、さっきは強かったからなぁ…
そのうち翠星石に本気でやられそうだよ…w」
…ジュン。
翠「──翠星石がお前を本気で倒しに出るわけないじゃないですかぁ…」
ジ「…」
……へ?
翠「…ななな、何て事言わせやがるですかっ!」
ジ「…いやいや、お前が勝手に言ったんだろ?」
翠「もう知らんです!」
ふん!
何でこんなに恥ずかしい台詞ばっか言わせるですかっ!
ジ「おい!」
翠「水銀燈~♪」
そ…それより今日のメインイベントです~♪
翠「ケーキ屋に行きませんかぁ?」
ジ「あっ」
水銀燈がいるなら、
喫茶コーナーでゆっくりするのもアリですよね♪
銀「…ケーキ屋?」
あ、水銀燈にはまだ伝えてなかったです…。
翠「今日の目的は水銀燈にケーキを買ってやるためだったんです」
銀「…?」
ジ「だって最近部活で忙しそうだし、家の前で突然怒り出すし…」
銀「…」
ジ「息抜きもろくに出来なさそうだし、街まで出る暇も無さそうだから…
ってな感じで翠星石が考えてたから、僕もここに来たんだけど──」
翠「こいつは翠星石が引っ張って連れてきたんですよ!このチビ人間!」
とはいえ、地元の駅までは1人で行ってたんですよね…。
嬉しいような寂しいような…。
ジ「でも今日は練習短かったんだ…」
銀「…え…えぇ」
翠「今日はケーキ屋の喫茶コーナーで決まりですね♪」
銀「…」
あれ?
水銀燈…反応が変です…。
瞬きが増えてるです…
…泣いてるですか?
銀「…」
翠「…」
ジ「…水銀燈?──」
銀「ありがと…」
また指で涙を拭いやがるです…
そっ…そんなつもりじゃなかったんですけど──
翠「…」
ジ「…」
銀「でも心配しなくていいのよぉ。私は別にまだ全然平気だから──」
…とか言って、水銀燈ですら泣くほど厳しいんですね…
どんな状況なんですかね…1回偵察に行った方が良さそうです。
翠「…」
銀「…なぁんだ。あんたたち、ただデートしに来ただけかと思ってたわぁ…」
翠「だ~れがこんな奴とデートなんぞ!──」
ブー、ブー…
銀「あ…」
携帯…?
誰でしょう…蒼星石ですかね。
まさかお父様からお叱りの電話だったり──
銀「のりから…」
…あっ…そうですか…。
ひと安心ですけど、蒼星石にも出来れば来て欲かったです。
銀「もしもし…?…何で…あ、そうなんだw…何やってんのよぉ…
え?何?あ、ジュンくんと翠星石は無事よぉ~♪
うん。ん?…そうよ。泣いてるとこ。
──ジュンくんと翠星石に泣かされちゃった…」
ジュンがこそっと耳打ちしてきました。
ジ「…良かったな。泣いてまで喜んでもらえて…」
翠「ちょっと水銀燈を驚かしたかっただけなんですけど…」
…まぁ今日は水銀燈にも迷惑掛けちまったので、
好きなように楽しんでもらいたいです。
銀「──あぁん…別に何でもないから…うん…
じゃいつものケーキ屋に来てぇ~。うん
…うん。じゃ、待ってるねぇ~。は~い」
さっきまでとはうって変わって、
恐ろしいくらい機嫌が良くなりやがったですw
銀「もうすぐのりが来るわぁ♪」
スキップしそうなくらいルンルン気分の水銀燈。
テンション上がり過ぎですよぉ…w
銀「あ、そうそう、家にも連絡入れなきゃ」
えぇ?
…今連絡したら私とジュンが説教食らうに決まってるです…。
あ…いやいや、こんなんだから怒られるんですね…。
反省したです──
銀「もしもし?あ、お母様?
ジュンくんと翠星石はちゃんといたわぁ。うん。無事無事。
…それで、ちょっとお願いがあるんだけど…
今日7時までに帰るから、ケーキ屋に寄ってっていい?」
つーか、これが今日の本当の目的なんですから、
これで行けないってなったら…。
銀「のりも一緒だから大丈夫だってぇ。
2人も責任持って家まで連れて帰るわぁ。
うん。当ったり前よぉ…え?夕飯?
考えてるわよそんなこと。うん。大丈夫だから。
──うん。ありがと。じゃ、また~。は~い」
お、許可下りたですか。
ちょっとぞっとしたですけどね。
…でも、家に帰るのがちょっとイヤになってきたです…。
銀「さ、行きましょ!」
~~~~~
ケーキ屋前に到着しました。
蒼星石は今、家に着いたそうです。
…残念ですが、もう遅い感じですね…。
でものりは既に駅に着いてるそうですから、
ここで待つですか?
銀「あの席、さっさとしないと奪われるわ」
店内を見つめる目が必死です…w
あ、駆け出して行ったです…。
銀「早く来て!」
ジ「あいはーい…w」
翠「そんなに慌てなくても…」
の「お~い!」
──おや?のりの声です…
…って、もう駅から来たですか!
の「ジュンくん…無事で良かったぁ…」
ジ「最初から無事だよ…」
決死の覚悟で助けたんですよぉ?
まぁ、口にはしないですけど。
ジ「…で、遅いよw」
の「ごめ~ん…携帯を部室に忘れててねぇ。
それに、ジュンくんがいないのも、翠星石ちゃんのところに
遊びに行ってるからって思ってたから…」
ジ「…」
の「それで、水銀燈は…?」
翠「水銀燈はもう選んでますよ」
のりは水銀燈を見つけるや否や、
店の中へこっそり入っていきました。
の「…わっ」
背後から水銀燈を驚かせて──
銀「──の~~り~~ぃ!」
──さぁこれから2人の弾丸トークが始まるですよ~w
もう誰にも止められんですw
ジ「蒼星石や柏葉も連れて来たかったなぁ」
翠「それなら、お前もstuを誘えです」
それが出来れば、かつてのジュンをほぼ100%取り戻せるはずです。
だから、さっさとヒッキー卒業して明るくなりやがれです!
その時にはみんなでパーッと祝うですよ~♪
翠「それにしても…はしゃいでるですねぇ、水銀燈とのりは…」
ジ「僕たちが入る余地もなさそうだね」
店の中で女子高生が2人ノリノリでトークしてやがるです。
『あのケーキ、ナッツがついてて美味しそうじゃなぁい?』
『こっちのケーキも、イチゴがぎっしり詰まってて美味しそうよね…』
──楽しそうですぅ。
翠「あの…」
──こんなこと…面と向かっては言い出しづれぇですが…。
ジ「…僕たちも入る?」
…お前が入る気なら、入ってやっても…
いや、入りたいです!
翠「デートの続きでも…」
ジ「やっぱりデートのつもりだったのか!w」
翠「五月蝿いですね!男と女がこうやって外に出るだけでもデートなんです!」
だぁああもう!
しゃーないですねぇ!
…だって──
そのつもりでここに連れて来たんですから…。
ジ「…はいはいw」
──ちぃとは分かってくれたですかね…。