『保守かしら』
2007年9月20日

 今日はすごいウワサを聞いちゃったかしら。
 
 真紅が映画の役者さんとしてスカウトされてるんだって。
 関係者の人たちが真紅にお願いに来てるらしいかしら。

 乙女番長たるものさっそく本当かどうか、お昼休みに真紅の教室に確かめに行ったわ。
 とりあえず教室のろう下の壁に近づいて、耳をそばだてて情報収集開始!
 と思ったけれど、壁にしゃがんだとたんに真紅が扉から出てきたの。
 それは偶然だったんだけれど、ばっちり目が合っちゃった。

 「なにしてるの?」
 真紅に聞かれて、あわててカナはごまかしたの。
 「えーっと、食事でもご一緒にいかがかしらー?」
 「…」
 真紅がじぃーと静かな表情でこっちを見てて、冷や汗が出たかしら。
 「なんて、あは」
 「まぁ、いいけど」
 持っててよかったお弁当、かしら。
 
 ジュンがお弁当を持ってきて、3人で席についていきなり聞かれたかしら。
 「あなたもウワサを確かめに来たんでしょう?」
 真紅が言うと、教室が急に静かになったかしら。みんなウワサを気にしていたみたい。
 
 「まったくみんなひそひそとウワサしてばっかり。私はここにいるのだから確かめればいいじゃないの」
 真紅は少しさびしそう。カナもちょびっと悪いことしたかなって考えて、普通に聞く事にしたのよ。
 「真紅、映画に出るって話は本当なのかしら?」
 真紅はにっこりと笑ったかしら。で、

 「さぁ、どうかしらね?」
 教室中からため息。けっきょくさっぱり教えてくれないの。

 いーじーわーるーすーぎーる、かしらぁっ!!!






2007年9月21日

 ふっふっふ、ピチカート。
 教えてもらえなかったもの同士、ジュンと完璧な作戦を立てたかしら。
 明日、真実を口にする真紅の姿が目に浮かぶかしら。

 

 

2007年9月22日

 全部の準備が整って、ジュンにメールで真紅を呼んでもらったのよ。
 そういえば、真紅が部室に来るのは7月以来ね。
 やってきた真紅はちょびっとフキゲンそうだったかしら。

 「まったくこんなところに呼び出して、何の用なのジュン?」
 「ええっと」
 ジュンはなんて言えばいいかわからなくて、困ってた。ここでカナがすかさずフォロー!
 「まぁまぁ。まずは紅茶でもいかがかしら」
 カナながら完璧な笑顔でお出迎えかしらっ…なぜか真紅には見破られちゃった。
 「笑顔が引きつってるわよ…怪しいのだわ」
 ジーと見つめられて、頬をつままれたかしら。
 「あやしい…」
 「ひょんなことはないあるないかひら」
 まるで猫に睨まれてるみたいで、カナは冷や汗が出てきたの。
 でも紅茶の香りがふわっと漂ってきたら、真紅は席についていたかしら。

 「この香り、エルトべーレね」
 真紅はばらしーちゃんの淹れた紅茶を一口。
 「なかなか上手だわ。貴女名前は?」
 「…ばら水晶です」
 真紅が微笑みかけると、ばらしーちゃんはおじぎをして、それからカナの背中に隠れちゃった。
 それから小さな声で
 「じょおうさま…」
 うん、すでに真紅はこの部屋のヌシのような風各をただよわせてた。
 どこにいても自分が主役になるパワーはひょっとしたらおねえちゃん並みかもしれないかしら。
 
 それはともかく、ばらしーちゃんのえんご射撃で真紅を席につかせることに成功したのよ♪
 「ばらしーちゃんは紅茶を淹れるのがとっても上手なのかしら」
 「なんで貴女が誇らしげなのよ?」

 紅茶の名前と由来と特徴と味わいと香りと淹れ方について話して、1杯目の紅茶を飲み終
わってから真紅が言ったかしら。
 「で、いったい何の用なの」
 聞いたのはジュン。
 「真紅は映画に出演するのか?」
 「またそのこと?もう10回目かしら」
 真紅は冗談みたいに指をひらひらさせたの。
 「だって、気になるんだもん」
 「金糸雀は2回目ね」
 『困ったわ』っていう風に真紅は首を横に振ったの。
 「どうしても教えてくれないかしら?」
 カナとジュンは目配せしあったかしら。ふっふっふ。
 「教えてくれないのはわかってるさ。だから真紅、取引しよう」
 ジュンは隠しておいたものを机の上に置いたの。

 真紅は思わず立ち上がって、イスがこけたかしら。
 「くんくん探偵…なに、この大量生産品では表現できない再現度…私が取り逃がした限定品があるとでもいうの!?」
 そう、これがカナとジュンの作戦だったかしら!
 「これはカナとジュンが作ったくんくん人形かしら」
 「どうだ真紅欲しくないか?」
 カナとジュンはノリノリ。
 「くっ、卑怯よ…くんくんを人質にとるなんて」
 「…人…質?」
 ばらしーちゃんは首をかしげてた。
 
 「なんて素晴らしい造形、くんくん探偵の知性を10分の7まで表現したフォルム」
 真紅はもうかなりショックを受けてた。ここで最後の一押し!
 「ほっほほのほー!真紅!このくんくんはそれだけじゃーあないのよ」
 「なんですって」
 カナはリモコンを取り出したかしら。
 「ポチっとな。かしら」
 ちょびっとみっちゃんのまね。
 『よろしーくんくん!』
 綿でちょっとくぐもったくんくん探偵の声。
 「ああ…なんてことなの…」
 カナは夏休みのリモコンラジオを利用して、くんくんの声が出るスピーカーを作ったかしら。
 ちなみに音源は家の映像室のおねえちゃんのヒミツDVD棚のくんくん探偵列から。
 「さらに目覚し機能付きかしら」
 「これで…毎朝…くんくん…の声で…お・め・ざ・め」
 ばらしーちゃんも驚きのノリノリさだったかしら。

 真紅はくんくん探偵をぎゅーっと抱きしめたかしら。
 「いいわ認めてあげる…この勝負は私の負けよ」
 いつのまに勝負になっていたのかしら…?

 くんくんと交換で真紅に噂の真相を教えてもらえたかしら。
 やっぱり真紅は映画に出るんだって。
 映画の名前は「未来のイヴ」で、真紅が演じるのは主役のハダリー役。
 カナは知らないけれど、監督の名前を聞いて、ジュンはびっくりしてた。
 いきなり、有名な監督さんのほうに「ぜひ演じてください」なんて頭を下げさせるなんて凄すぎるかしら。
 
 そうそう、ジュンは部室でくんくんを作ったのね。
 ジュンは針を握った瞬間から、人が変わったみたいになってた。部室の空気もピーンと張りつめてたし。
 一生けん命くんくんを作るジュンを見て、カナはまるで槐さんやおねえちゃんに似てるなぁって思ったのよ。
 カナの周りは不思議となにか作る人ばっかり。
 そして何か作るときはいつも一人。カナにはとても真似できないかしら。



2007年9月27日

 コンクールの地方本選に出場してきたかしら。
 今日はおねえちゃんが朝からお出かけ。カナが一人でミルクセーキを飲みながらフレンチトーストに卵焼きをのせてたら蒼星石から電話がかかってきたかしら。
 「君のお姉さんに頼まれて今日は僕が君を会場までエスコートするよ」だって。
 「ええっ!それは悪いかしら」
 急な話だったから遠りょしなきゃって思ったんだけれど、
 「いや、数日前には頼まれてたんだよ。(後ろから翠星石の声がしたかしら)『いきなりぃ捕まえてぇ、
有無を言わさず会場まで運んでちょうだぁい、ですぅ(ぜんぜん似てないわ!)』…まぁそんな感じで」
 あんまりにも翠星石の物まねが似てなかったから、ちょっと黙っちゃった。
 「あのこ練習嫌いがこうじて、コンクールも嫌いになったからほっといたらサボるわぁ、って」
 とりあえず冷や汗がでたけれど、深呼吸してから真紅みたいにすらっと答えたわ。
 「そんなわけ無いあるかしら」
 あ、ピチカートちょびっとだけサボっちゃおうかなーって思ってたことは秘密よ。

 会場までは結菱家の車に乗せていってもらったかしら。
 長くて黒いリムジンなんて映画でしか見たことなかったから、それだけで楽しかったかしら。中には
運転手さんだけじゃなくて執事さんもいたし!!!
 リムジンの中には冷蔵庫もあって、アイスをもらったのね。
 でも上に載ってたチョコは翠星石との勝負に負けてとられちゃった。
 蒼星石とのチェスがちょびっと負けがこんでるから、コイントスで勝負。
 コインが表だったら翠星石の勝ち、裏だったらカナの負けっていう運だけの勝負だったんだけれど…やっぱり負けちゃった。
 その後の翠星石がひどいの!わざわざチョコの味を自慢してきたかしら!
 「うーん、チョコの中に入ったラズベリーソースがいい味してます」
 あんまり悔しかったから「運もないしちゃっちゃと敗退してきてやるかしらー!!」
  って叫んだら、「べ、ベストは尽くせですよ!?」翠星石が慌てて叫んでた。
 それから控え室に行くまで翠星石は色々心配してくれたから翠星石には悪いことしたかしら。

 コンクールはおねえちゃんに「ちゃんと弾きなさぁい」って言われてたから、バッハのソナタを弾いたかしら。

 演奏が終わって、蒼星石たちと合流したのね。
 蒼星石は「おつかれさま、いい演奏だったよ」って言ってくれた。
 でも翠星石は「ふん、教科書どおりの演奏で楽しくもなんともなかったですよ」だって。

 「翠星石…」
 蒼星石がとがめるみたいに言ったかしら。けどカナは落ち着いてたわ。
 「まぁ実際そうかしら」
 「どういうことですぅ?」
 「先生の家で見せられたDVDをそのまま、まねっこしただけだったし」
 突然翠星石の右の眉がびきーんと跳ね上がったのよ。
 なんで翠星石がフキゲンになったのか今だによくわからないかしらー
 「オマエちょっとツラ貸せやです」
 そうやってカナは耳つままれたままリムジンまで連れて行かれたのよ。
 翠星石はリムジンに乗ったら「爺、家までちゃっちゃと行くです!」だって。

 結菱のお家はおねえちゃんとカナの家がいくつも入る大きさだった。このお屋敷は一葉さんが
丘をひとつ丸ごと買い取って作ったんだって。
 スケールの大きな家は、いろんな所が違うかしら。
 カナが通されたのは蒼星石達のお部屋じゃなくて、音楽室だったのよピチカート。
 ここまで一言も口を利いてくれなかった翠星石がどかっと椅子に座って
 「なんか弾けです」
 なんかもうまっすぐ見れないくらいぶすっとしてた。
 カナはとりあえず時間をかせぐことにしたかしら。
 「ちょっとお手洗いにいってくるかしら~!」

 実はお手洗いに行った目的は、屋敷を歩いているときに蒼星石がこっそり渡してくれた手紙を
読むためだったのね。
 『翠星石は君の演奏が聞きたかったんだよ。
 翠星石は金糸雀のヴァイオリンをとっても楽しみにしてたんだ。
 人形展にもいなかったし、君と話す機会は意外となかったから、今日の機会を楽しみにしてたんだよ。』 

   ほんと、翠星石は変な人かしら。朝に会ったとき翠星石は「暇つぶしに来てやったですぅっ」てアクビしてたのよ。
 でもピチカート、カナ知ってるわ。翠星石みたいな人をこう呼ぶのよね。
 つ ・ツー ・・ツン? …・…ツムジマガリ!

 でも、そうとわかればカナは、胸を張って音楽室に戻れたわ。
 お手洗いから音楽室に戻るまでに、頭の中で作曲したかしら。
 「カナリア、なーにをにまにま笑ってるんです?」
 「ふふん、ここに居るのはただのカナリアではないわ。心触れ合う音色を求めてさまよう淑女の求めに参上した
 月光の騎士こと才女弦楽家・金糸雀只今参上かしら!」
 音楽室だから声もよく反響してくれて、我ながら感動しちゃった。
 (音楽室に戻るまでの時間の半分くらいを使って考えた貝があったかしら)
 「もうどこからつっこめばいいかわからんですよ」
 翠星石はこの素敵口上にもぶすくれてたから、ちょっと困った。
 ちらっと蒼星石を見たら、帽子で顔を覆ってた。耳も桃色になってたし。
 今思うと、口上を蒼星石から借りた本を参考にしたのが良くなかったのね。
 うー、月光の騎士とかそのまま使ったのがいけなかったのかしら。

 「今から弾くのはカナのオリジナル曲。心をこめて弾くかしら」
 結局ヴァイオリンを弾く前の一言のほうが翠星石が和らいだかしら。
 言葉って難しい…。
 二人とも、始めはすごく慎重に聞いてた。息のしかたにまで気を使ってるような感じだったもの。実は二人とも
 人見知りなんだなぁって、カナにも分かれたのね。
 だからカナはプレリュードは二人にゆっくり近づくみたいに弾いたりとかしてみたかしら。
 たぶん、二人には楽しんでもらえたと思うかしら。

 演奏が終わったら翠星石がなにか言う前に、カナが先にお礼を言ったわ。 
 「ありがとう翠星石」
 「なにがです?」
 「カナの曲を聞きたいって言ってくれて」
 夕陽でよく見えなかったけれど、今度は翠星石の耳が桃色になったんじゃないかしら。
 「ただ、窮屈そうな演奏を聴かされて、気分がよくなかっただけですぅ」
 翠星石は両手を胸に当てたわ。
 「チビカナ、お前は楽しがりですね」
 「楽しがり…?」
 よくわからなかったかしら。
 「曲はいきあたりばったりで、あげく演奏中にはねたり、おどけたりしてまるで野生児…でも聴いてる人
も乗せようとしてるところ、僕たちは嫌いじゃないよ」
 ここで蒼星石がとってもなめらかに言葉をリレーしたわ。
 二人の話し方は難しかったけれど、一緒に楽しい気持ちになれたってことよね。
 コンクールよりもよっぽどいい結果の演奏になったかしら。

 そうそう、玄関でお別れするとき翠星石が
 「今度来たら特製ハーブティーの実験台になる栄誉をくれてやるから時々顔を出せです」だって。
 翠星石と仲良くなれちゃった♪

 そうそうそう、今日即興で作った曲にタイトルをつけておこうっと。
 えーと、【野ばらのプレリュード】と【うなだれ兵士のマーチ】
 うん。初めて作ったにしてはいい曲のような気がするわ。 



2007年9月28日

 なんかコンクール本選に合格してたかしら。

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最終更新:2008年04月23日 19:20