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私は、神様が嫌いだ。


だって神様は…私をこんな風に創ったから。

銀色の髪。赤い瞳。

私は…生まれてすぐに、それを気味悪がった両親に捨てられた。
捨てられた先は、小さな町の小さな教会の軒下。
せめてもの加護を。そう考えでもしたのだろうか。自分達で見捨てておいて。

とにかく、そこで私は…運が良かったのか悪かったのか…教会の人間に保護された。
私を拾ったシスターの話では、私はその時、泣き声も上げられない程に衰弱していたらしい。
…後日それを聞いた時は、やはり運が悪かったのだろうな、とぼんやり思った。

私の、教会で修道女として生きる人生。

整った顔立ち。白い肌。銀色の髪。赤い瞳。
黒い修道服が、その全てを妖しく際立たせる。

私は、誰もが裏で私の事を悪魔や魔女と呼んでいる事を知っていた。
幼かった私には…ただ冷笑的にその言葉を受け流すのが精一杯だった。

私はいつしか、思うようになった。
私は、要らない子なんじゃあないか…と。



    0. Midnight Shuffle



教会での日々は、一言で表すなら、平和。
それはつまり、単調で退屈なもの。

昨日と今日の区別も無く、同じ事を繰り返す日々。

唯一の刺激と言えそうなものは、私の容姿を忌み嫌う周囲の視線。

だがそれも、生まれた瞬間から受け続けていた為…私も完全に慣れてしまった。

私には、生きる理由なんて無かったし、感じられなかった。
ただ、死なないから生きている。
だから、いざ死ぬ時がきても…多分、何の感情も湧かないだろう。
そんな風に…私は全て…どうでもいいと考えていた。


同じような一日。同じような一ヶ月。同じような一年…

私は何にも興味を示さず、過ぎ去る季節をただ過ごしていた。

そんな日々の中でも…時計のゼンマイが戻るような事は無い。



つまり、いつしか私も、ほんの少し大きくなった―――。



その日私は、いつもと同じように祈りの時間を終え、いつもと同じように昼の礼拝を終えた。
いつもと同じように教会内の清掃をしていた時…不意に一人の来訪者が来た。

その男は、町の有力者で、広い屋敷に住み、常に豪勢な食事を貪り…つまりは金持ちだった。
それも、教会などとは縁の無いタイプの金持ち。
節制や節操といった考えを理解してない人間。
どんなに金をかけた服を着ても、突き出た腹が全てを台無しにしてる。

礼拝も終わり、私が掃除をしているだけの教会。
男は椅子に座り、祈るでもなく、ただ私を見つめてくる。

私は私で、向けられてくる視線には慣れていたので、心から無視して掃除を続けた。

陽が傾き、私が掃除をすっかり終えて椅子の方を振り返った時、すでにそこには誰も居なかった。

誰も居なかったが…椅子の下に、何かが落ちているのが見えた。
近づいてそれを拾い上げると、それは落とし主の腹のようにパンパンに膨れた財布だった。

「…脳ミソまで霜降りになってるんじゃないのぉ…?」
呆れて呟く。

扉から差し込む夕日を見る。
まだ、陽が沈むまでには時間があるだろう。
私は気まぐれで、財布を届けに行く事にした。

小さいながらも趣味の良い町並みを歩き、大きな趣味の悪い屋敷の前に辿り着く。

過剰な装飾の施された扉を叩くと…あろうことか、屋敷の主人が顔を出した。

「どこで失くしたのかと思っていたんですよ。どうです?お礼にお茶でも」
そう言いながら、屋敷の中に招いてくる。

男の下卑た笑い顔を見て、私は内心、親切心を起こす必要なんて無かったわねぇ、と呟く。
それでも、有力者の機嫌をあえて損ねる事は無いだろうと、帰りたい気持ちを我慢することにした。

見た目から、お金だけはかけた事が窺える書斎に通される。

出された紅茶を飲みながら…男が舐めるような視線を向けてくるのを無視する。

居心地が悪い。
蔑むような、忌み嫌うような視線には慣れている、だけれどこの視線は…

陽が沈む前に帰らねばならないと告げ、さっさと立ち去ろうとすると…男が急に熱っぽく語りだした。

「ここの使用人にならないか。もっと良い暮らしが出来るぞ。むしろ住居もこっちで面倒を見よう」
要約するとそれだけの内容なのだが…延々と同じ事を言い続ける。
無遠慮に体にのみ向けられた男の視線から、その真意は嫌と言うほど伝わってきた。

私は心の中で盛大にため息を付き…
「ごめんなさいねぇ…もう帰る時間だわぁ」
そう言って席を立ち、書斎の扉に向かった。

すると男は、その見た目からは予想しにくい素早い動作で、私と扉の前に立ちふさがった。
 
「わ…ワシはこの町の有力者なんだぞ!!そんなワシの言葉を無視する気か!?」

…どうやら、この男の脳ミソは霜降りではなく、脂身そのもののようだ。
一人で舞い上がって、何を言うかと思えば…。
心の中で「はいはぁい…」と呟き、再び扉に足を進めたとき…

男の手が乱暴に私の腕を掴んだ。

「…ちょっとぉ…離してよ…」
冷やかな視線を向けるも…男は気にする様子は無い。

男は真っ赤な顔で何か必死にがなりたて…
そして掴んだ腕を思いっきり振り、私を壁に叩きつけた。

「!!何するの―――」

それ以上言う前に、いきなり殴られる。

必死に抵抗するも、腕力の差で抑え付けられる。

何度も殴られる。
服の一部が乱暴に引きちぎられる。

肩が露出し、殴られ紅く腫れた白い肌が露になる。

それでも私はがむしゃらに抵抗を続け、何とか男をはね飛ばし――
部屋の中の物が、派手な音を立てて散乱した。

男が再び飛びついてきて――
私は床に落ちていた何かを咄嗟に拾い、あらん限りの力で振るった―――

それは…真っ黒な羽ペンだった。

黒い羽は男の胸に突き刺さり…そして男は数歩後退り、膝を付く。

地面にポタポタと赤い水溜りが広がる。

私はその光景を…ただ呆然と眺めていた…。

「ァァァアアアアアア!!!!」
男の悲鳴で、止まっていた時間が再び動きだす。

私はそれで我に返り…そして気が付くと、屋敷から逃げ出していた。

「あの女がワシの財布を狙って!」「捕まえろ!」
怒号が聞こえる。
(違う!)
私は叫びたかった。

「逃がすな!」「あの女を捕まえて吊るせ!」
町の至る所から声が聞こえる。
(違う!私は…私は…!!)
私は、とにかく逃げたかった。

私は、誰もが私を否定するこの町から、この世界から、逃げ出したいと心から願った。



どこをどう逃げたのか…どれだけ走ったのか…

気が付けば私は一人、町の外を…荒野を走っていた。

振り返ると…たいまつを持った町の男達が思い思いの武器を手にこちらに駆け寄ってくる。
声も聞こえる。
――やっぱりあいつは魔女だ!――あの女は悪魔だ――これ以上被害が出る前に殺せ!――

「違う…私は……」
呟く。

いつ死んでも良い。そう考えていたが…
実際に『死』が目の前に訪れた時、私は迷い無く『生きたい』と思った。
自分は要らない人間だと思っていた…
それでも、町中から敵意を向けられた時、私は『私は要らない人間なんかじゃない』と心から叫びたかった。

もう一度、町を振り返る。
暴徒と化した町の人たちには、話は通じないだろう。
例え話せたとしても、嫌われ者の女と町の有力者。

私が生きる道は…この町では失われてしまった。

近づいてくるたいまつの明かりを一瞥し…町に背を向けて走り出した。

二度とは戻れないだろう。戻る事もないだろう。
今まで育ててくれたシスターには悪いが…町には何の未練も無かった。

あても無く走り続ける。
とにかく、逃げ続ける。
だが…
町から離れていくにも関わらず、背後から聞こえる怒号はどんどん近づいてきた…。


やがて私は…
追い詰められるように、崖先に追い込まれた。


「教会に拾われておきながら、強盗に入るとは…この魔女め!」
町の男達が武器を手ににじり寄ってくる。
逃げようにも―――
私は背後の、何の希望も見えない程に暗い渓谷に視線を向ける…
―――もう、道は無い。

崖の下は…夜の闇に紛れて、何も見えない。
飛び降りても…果たしてどの程度の高さかも分からないのでは…

だけど…

私はそこで決意する。
だけど…このまま殺されるよりは…少しでも可能性があるなら…

私は男達を睨んだまま後退る。

そして、ニヤリと笑みを向けた。
何の意味も無い、ただの強がり。そんな事は分かっている。それでも、何も出来ないのは、悔しすぎるから。


そのまま後退り―――

――そして……足元から大地が消え…私は闇の中に落ちていった…――――


「ま…魔女が自殺したぞ!」
男達の騒ぐ声が、上の方から聞こえる。
(…勝手に言ってなさいよぉ…!こんな所で…終わるのはごめんよぉ…!)
断崖から突き出した木や根を掴み、減速を試みる…
死にたくない。こんな所で終わりたくない。
決して無事では済まないだろうが…諦めたくない。

だが、私の願いを他所に、掴んだ壁面は崩れ、突き出た根は私の体を弾く。
(…くっ!…なかなか…上手くいかないもんねぇ…!)
そして速度はどんどん増していき…
やがて引力に負けて、意識が暗転していく中…私は小さな光を見た気がした……――――



―※―※―※―※―



「次はどっちに行ってみようかな…」

そう呟きながら、黒いロングヘアーの女性が地図を睨みつけていた。

だが…
「明日になったら『いつもの方法』で決める事にしよっと…」
結局そう呟き、地図をバサバサとたたむ。

そして、咥えた煙草に火をつけ…そしてゴロンとその場に横になる。

焚き火がパチパチとなる音だけが静かに広がり…
渓谷の狭間にまるで絵画のように切り取られた星空が、とても幻想的。


「……うん!こんな良い夜には、一曲やるべきね!」
一人旅が長いせいですっかり彼女の癖になった独り言も、誰もつっこむ人が居ないから歯止めが利かない。

…とにかく、一人でご機嫌になった彼女を止められるものは、何一つ存在しなかった。

焚き火の脇に立つテントからギターを取り、再び焚き火の傍に腰掛け…
そして目を瞑り、自分の奏でるギターの音に耳を澄ませる。

そして…

上のほうから、ヒューーーというかヒューンというか…なんとも言えない音が聞こえてくる事に気が付いた。

「??何かしら…?」
女性は視線をクルリと上に向ける。と、そこには―――


「…!お…親方!空から女の子が!」
当然、親方なる人物など居る訳が無い。どこかから受信した電波のまま、叫んだ結果がコレだ。

視線を向けた先には、こちらに向かってもの凄い速度で落ちてくる少女の姿――

そしてその少女は、不意に減速を…なんて事は無く、そのままもの凄い勢いでテントの上に落下し―――

グシャァ!というのか、ドシャァ!というのか、そんな音と共に、テントは崩れ去った。

とりあえず…黒髪の女は恐る恐る、砂埃の舞い上がる惨状の現場に近づいてみる事にした…。

見ると、グシャグシャに潰れたテントに埋もれるように、一人の少女が横たわっている…

そっと近づき、倒れる少女の首に手を当てて脈を診る…

「…テントがクッションになったお陰で、何とか生きてはいるみたいだけど…
それでも…かなり酷いわね……」

女性はそう呟くと、少女をテントの残骸から運び出し、地面に横たわらせた。

ジャンクの山と化したテントから、何とか生きていた薬を探し出し、応急処置を施す。



「…やるべき事は…やったわね…。後は…この子の生きる力次第…って所ね…」
瀕死の少女の治療を終え…煙草の煙をくゆらせながら、黒髪の女性はそう呟く。

「それにしても、この子…よく見たら、修道服着てるわね…。それに…綺麗な銀色の髪…」
一息つき、改めて意識を失ったままの少女の観察をする余裕ができた。

―――整った顔立ち。修道服。銀髪。空から降ってきた。
「…一体…この子は何なのかしら…?」
首をかしげ、暫く考えるも…分からない。

そんな時不意に、電波を受信した彼女の脳が何かを告げた。

「……そう…そうよね?…ううん…きっとそうよ!」

途端に晴れやかな表情になった彼女は、地面に転がっているギターに再び手を伸ばし―――

そして、自分が治療した少女の姿に目を細めながら、静かに歌を歌う―――



 「――からたちの――とげは痛いよ――
             ――青い――青い――…」




―※―※―※―※―


……―――――

…――――

(…歌……?)

…―――――

(歌が…聞こえる…)

(ここは…天国…?それとも…)

(体中が痛い…なら…私は…生きてるの…?)



痛みを堪えながら、ぼやけた意識で、それでも私は現状の確認の為に目を開けた。

体中に走る激痛のせいで、体を起こす事なんて、とてもじゃないが出来そうに無い…
それでも、首だけを動かして周囲を見る。

すると…
近くに座る、ギターを持った黒髪の女性と目が合った。

その女性は楽しそうというのか、嬉しそうというのか…
とにかく、そんな顔で微笑みながら……



「おはよう。天使さん…―――」







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