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             ~薔薇乙女で一年戦争~
           ――木星帰りのニュータイプ――



ムサイ級巡洋艦の一室から、柏葉巴は一際大きなコロニー・サイド3を見つめていた。
「…本国に帰るのは久しぶりね……」
木星の採掘現場に届いた、一通の暗号文。そこに書かれた、召集命令。
有利な状況は最早、過去のものになった事は知ってはいるが…それにしても、突然すぎる。
現地司令官としてどうすべきかと考え…そこに書かれた幼馴染の名前が、迷う心を断ち切った。

(…桜田君…元気かな…?)
思いを馳せながら、徐々に近づく故郷を見つめる。

「トゥ・モ・エ~!!」
突然ドアが開き、一人の少女が飛び込んできた。
その少女は無重力をいいことにそのまま飛び上がり――巴の首に手を回し、しがみ付いた。
「ふふ、やっぱりここに居たのー!」
子供服かとおもえる程に小さな、特注のジオン軍服を身に着けた少女は、嬉しそうに続ける。
「ヒナはね、いーっつもトモエの事考えてるから、トモエがどこに行ってもすぐに見つけられるのよー!」

巴はその少女を優しく抱き、地面に下ろす。
そして、乱れた服や髪を手馴れた手つきで直した。
「ねえ雛苺。これから本国の偉い人たちと会うから…ちょっとの間だけ、いい子にしててね?」
「うい!了解なのー、トモエ少佐!」
「ふふ…階級で呼ぶ時は『柏葉少佐』でしょ?」
「ぅ…でも!トモエはトモエなのよー!」
「…ふふ…そうね…」
顔を綻ばせながら、二人は楽しそうに会話する…。
 
やがて、船がコロニーに入港したアナウンスが入る。
「さ、行きましょ、『雛苺大尉』?」
「了解なの!トモエ少佐!」

タラップを降り…数年ぶりに、本国の大地を踏みしめる。
すると、向こうから近づいてくる人影が見つかった。
その人物は巴の前に立つと、ビシッと敬礼をし…
「長旅ご苦労様です、柏葉少佐!お迎えに上がりました!」
「…ええ…ご苦労様」
「と…堅苦しい挨拶はこの位にして。…久しぶりだな…柏葉…」
「うん…桜田君も元気みたいで…安心したわ…」
「元気なもんかよ。全く…空気の読めない所長の下で、毎日こき使われてうんざりしてるよ」
「ふふ…それは大変ね…」
「……ホントだぞ!?…って、立ち話もなんだし、つもる話は移動しながらにしようか」

「…桜田君、今は何をしてるの?」
移動の為に用意された車内で、数年ぶりに会った幼馴染に疑問をぶつける。
「ん?…ああ…フラナガン機関っていう…まあ、研究所勤務だな」
「そう…桜田君、勉強だけはできたからね…」
「『だけ』って何だよ…」
「ふふ…でも、頑張ってるみたいだし、すごいね…」
「うゆ!すごいのー!すごい髪の毛ボサボサなのー!」
「イタタ!引っ張るなって!」
後部座席から身を乗り出した雛苺が、ジュンの髪の毛を引っ張る。
車が車線を無茶苦茶に走り、車内が揺れる。
あわや大惨事となりそうな光景だったが…巴は不思議な幸福感を感じていた。
 
そんな、どこか平穏な時間が流れ…
車は郊外に在る、大きな施設の前に停まった。
「さて…ここが僕が所長を務める…さしずめ、『フラナガン機関・サイド3出張所』ってトコかな?」
促され、車を降り、大きく立派な白いエントランスに目を見張る。
「…すごいわね…」
「…すごいのー…」

ジュンが一歩前に出て、施設を見上げる二人を振り返る。
「ここから暫く、ここを家だと思って…でも、無茶はするなよ?」
「うゆ!大人しくしてるのよー!」
雛苺はそう叫ぶと同時に、エントランスの中に駆け込んでいった。
「お…おい!いきなりかよ!?」
ジュンは慌てて声をかけるも…観念したのか、ため息をつき、ガックリとうな垂れた。
「……とりあえず…二人の部屋に案内するよ」

真っ白な廊下を進み、やがて到った部屋が二人に用意された部屋だと紹介された。
「ここが二人の部屋だから……じゃあ…」
そう言い立ち去ろうとするジュンの背中に巴はずっと抱いていた疑問をぶつける。

「…急な帰還命令…一体、何があったの…?」
「……」
ジュンは暫くの間、何も答えずにいたが…
「…僕だって…反対したんだ!嫌だったんだ!!」
突然声を荒げ、壁に拳を叩きつけた。
何かに耐えるように、少しの間、肩で呼吸をし…そして今度は、やけに落ち着いた声で喋りだした…。

「柏葉はさ…ニュータイプ、って…知ってるか?」 

「ニュー…タイプ?」
「そう、ニュータイプ。人類の革新。新人類の事さ」
そして振り返り、真っ直ぐに巴の目を見る。
「柏葉はさ…例えばどこを掘れば資源が見つかるか…いつ、坑道が崩落するか…それが分かるんだろ?」
「…うん…。でもそれは…勘が鋭いだけで…」
「…それがニュータイプなんだよ」

ジュンは巴から、つい視線を逸らしてしまう。
「…柏葉と雛苺は…ニュータイプなんだ…」

「…そう……」
巴には、それ以外に答えるべき言葉が見つからない。
だが、ジュンの気持ちだけは分かった。
幼馴染を戦場へ送る事への抵抗感。軍属として当然受ける、上からの命令。
軍に籍を置く者として…その葛藤はよく分かった。
分かったからこそ…巴は行動で示そうと考えた……

幼き日を共に過ごした友人。共に笑い、共に泣いた無二の存在。
その信頼に答えようと。







 
※---フラナガン機関---※

まるで手術を受ける入院患者のような…ラフな白い服を着た巴が、鏡に映った自分の姿を見ていた。

…恥ずかしい。
こんな格好で人前に…それも桜田君の前に出るのは…かなり抵抗がある。
でも…逆に恥ずかしそうにしてたら、よけいにそれで注目されるかもしれない…それは…恥ずかしい…。

暫く考え…意を決して、堂々と登場しようと決心する。

『これが私の普段着ですが、何か?』と言わんばかりの表情で、ドアを開く。

「ああ、ちょうど結果が出た所だよ。かし…わ…ば…サン…」
ジュンは椅子を動かしクルリと振り返り…
顔を真っ赤にして、視線を躍らせながら、そのまま椅子を一回転させて…
最後の方はもう、机に呟くようになってた。

予想以上にウブで、背が伸びた以外、何も変わってない幼馴染の姿につい笑いそうになるが…
すぐにその原因が自分の服装だと思い出して、先程までの考えも忘れて顔を真っ赤にしてしまった。

「も…もう検査は終わったんだから…は…早く何か羽織るなりしろよ…」
「…! え…ええそうね…」
とりあえず、手近に有った研究員用の白衣に袖を通す。

「全く…普通に考えれば分かりそうな… ! ってソレ僕の白衣!?」
「え!? あ…ごめん!今脱ぐね!」
「! い…いや!脱がなくていい!頼むから今脱ぐな!!」
「!!!」

顔を真っ赤にして俯く二人。二人の思うことは一つ。『何だか死にたくなってきた』



そんな微妙な空気が暫く流れ…

ジュンは何度も同じ書類をパラパラめくり…
巴は真っ赤な顔で地面を見続け…

まだまだ微妙な空気は終わりそうに無かった…。



(とりあえず、この空気を何とかしないと)
巴はそう考え…机に向かったまま書類をめくり続けるジュンの背中に声をかける。
「…で…どうだったの?」


(何だこの状況は!?いい歳の大人がお医者さんごっこか!?って僕は何を考えてるんだ!?)
「あ…ああ…そうだな…」

ジュンは書類を見つめたまま深呼吸をし…
「とりあえず、軍にとっては残念な結果だったよ」
そう答え、巴の方に向き直る。
「柏葉にはニュータイプの資質があるものの…戦いに利用できる程じゃなかったよ」

そう告げ、微笑みを向けてきた幼馴染を見る。

きっとこの結果で…彼への風当たりは厳しくなるだろう…。でも…

本当に嬉しそうな幼馴染の表情に、心に温かい感じが広がる。
 
そして…ふと思い出し、もう一つの結果を聞く事にした。

「……雛苺は…?」

「……」
ジュンの表情に一瞬、陰が差す。

「!! そんな!?」
「…個人的には…とっても残念だよ…」
「雛苺はまだ子供なのよ!?それを…!」
「…雛苺は…柏葉を守る為だ、って言って…さっき機関に異動を申し出たよ…」
「!? ダメよ!雛苺は私の副官なのよ!…雛苺は今どこに居るの!?」

ジュンは巴の気迫に圧され、視線を地面に向ける。
だが…やがて、小さな声で答えた…

「僕が言った、って言うなよ……第六格納庫だ…」
「…ありがとう…」
それだけ言い残し、部屋を飛び出る―――




 
※---第六格納庫---※

「雛苺!!」
格納庫に入ると同時に、叫ぶ。

そこには…試運転を終え、巨大なモビルアーマから降りてきたばかりの雛苺の姿があった。

駆け寄り、その手を取る。
「…ねえ雛苺…一緒に…帰りましょう?」

だが雛苺は手を取られたまま…首を横に振った…
「ううん…ごめんね…トモエ…。ヒナは…一緒に行けないのよ…」
そして巴の手を、小さな両手で掴む。
「ヒナが頑張れば…ヒナのお父様やお母様や…トモエのパパやママや…皆が安心して暮らせるの…
だから…皆の為に…ヒナは頑張るのよ」

雛苺は…普段は泣き虫なのに、時々その小さな体にいっぱいの勇気を見せてくれる。
だから副官に指名したし…だから、誰より雛苺が大好き。

巴はそんな自分の気持ちと向き合い…
そして、雛苺の小さな体を思いっきり抱きしめる。

「…雛苺…あなたは私の副官なのよ…?だから…あなたが行くなら…私も行くわ…」

「トモエ……うん…本当は…とっても寂しかったの…」
雛苺が胸の中で声を上げずに泣く。

そして…巴は心に決める。
『何があっても、雛苺を守ろう』と……
 
※---フラナガン機関・巴私室---※

巴はジュンの持ってきた資料に目を通していた。

「なあ柏葉…どうしても…行くのか…?」
「…雛苺を一人にできる訳ないでしょ?」
そう言い、微笑んでみせる。

いや…微笑が引き攣ってないと言えば、嘘になる。

本国のお偉方曰く『木星帰りのニュータイプ、二人組』。
その作戦内容は…戦う相手は、あまりにも有名だった。

『白い悪魔』と呼ばれ…連邦では『白薔薇』と呼ばれる機体、RX-78・ガンダムとそのパイロット。

その撃墜スコアは100に届きそうな勢いで…
パイロットはニュータイプとして名を轟かせていた。

そして…

(それだけなら…まだ良いわ…)
巴は再び、資料に目を通す。
何度その文面を読んだか覚えてないが…それでも読むたび、気分が悪くなる。


 
~~~~~

ある時、些細な口論の末、一人の上官がガンダムのパイロット、雪華綺晶を殴った。それも2度。
だが殴られた雪華綺晶は…何かを言い返すどころか…笑ったという…。
戦闘で傷つき、唯一つ残った左目を輝かせて…ただ、静かに笑った。
そしてその日…事件は起こった。
いや…実際は、何一つとして起きなかった。
ただ、雪華綺晶の食卓にだけステーキが並び…
そして、その上官はまるで露のように姿を消し、二度と見つかる事は無かった…。

誰もが上官の突然の失踪に、雪華綺晶に疑いの目を向けるも…
証拠になるような物は一切見つからない。

そして、出撃のたびに必ず上げる戦果。

その内…雪華綺晶に近づく者は誰も居なくなった…。

~~~~~

そして最後に…
この資料を作成した諜報部員。
敵艦内に潜入していた彼はこの文章を最後に、何者かに殺された。

諜報部員が殺されるのは決して珍しい事では無い。
それでも…波打ち際を漂う、右目を抉られた死体は…
想像しただけで、吐き気がする…。


 

巴は資料を机に置き、ジュンに向き直る。

「『白い悪魔』…伊達や酔狂で呼ばれてる訳ではなさそうね…」
「だったら!なんでそんな無茶しようとするんだよ!」

声を荒げるジュンから、巴は視線を逸らす。

雛苺の為…そう心に決めた筈なのに…
泣き出しそうな彼の顔を見てると、決意が鈍る。
こっちまで泣きそうになる。

視線を逸らしたまま…無機質な声を心掛けて、話す。

「…頼んでいた件…どうだった?」

ジュンは暫く迷うように視線を泳がせるが…やがて一枚の資料を差し出してきた。

「雛苺のオールレンジ攻撃に、私の白兵戦…きっと、勝てるわ…」
そう言いながら、資料に目を通す。

ニュータイプ専用モビルアーマ、MSN-03ブラウ・ブロ。
白兵戦に特化された機体、MS-15ギャン。

「…これなら…きっと…大丈夫よ…」
自分に言い聞かせるように、そう呟いた…。

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