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二年ほど前に両親が離婚して、僕と双子の姉は離れ離れになった。
しかし父親に引き取られた僕にはすぐに新しい兄弟ができた。

しかし四つも年上の兄は僕にとって他人でしかない。
自然と会話が生まれるわけでもなく、ぎこちない挨拶だけを繰り返す毎日。
こんな関係がずっと続くのだろうと、僕はそう思っていた。

だがしかし一週間も経たずに僕たちに変化が訪れた。
父親の海外赴任に新しい母がついていくことが勝手に決められ、
僕と兄は二人きりの生活を余儀なくされてしまったのだ…。



【 2years~蒼星石~ 】



「兄さん!さぁ起きてよ!」
強く揺するが兄は微動だにしない。

「ジュン兄さん、起きなってば」
今度はポコポコと丸まった背中を叩いてみる。

「んっ…いま、なんじ…?」
ようやくねぼすけが反応し始める。 

「僕の時計が正しければ10時をまわってるよ。」

「…そっか…じゃあ…あとごふん…か…にじかん…」
一度は飛び出た頭がまた巣穴に戻っていく。

「そんなぁ、せっかくの日曜なのに…」
僕はため息をついてベッドに腰をおろす。

「今日は兄さんが朝食当番だったのにさ…」
「またまた可愛い妹に全部押し付けるつもりなのかなー」
「どんどん利子は膨らんでいるんだからね」

ぶつぶつと文句を重ねていると再び山が動き出し顔が出てきた。

「可愛い妹…どこ?」

なんという失礼なことを!どうせ僕は男っぽいよ!

怒りにまかせて出てきた頭をポカリとはたいてやると、
痛い痛いと笑いながらようやくベッドを降りてくれる兄さん。
そのまま机の上にあったメガネをかけて、ようやく真っすぐに僕を見てくれた。

「可愛い妹発見」
からかってそんなこと言うもんだから僕の顔は沸騰寸前だ。

「は、はやくご飯食べようよ!」
僕は隠しきれずに照れきった顔で兄さんの手をひいた。

あぁ、僕はとても幸せだ… 

僕はこんなにも幸せで構わないのだろうか?

母さんに引き取られた姉を想う…
彼女は今、幸せだろうか?と。

何回も何回も、僕はこの問答を繰り返してきた。
答えはいつだって同じ。

『これ以上幸せにならないようにしよう。』

姉は、翠星石は、今頃たくさん辛い目にあっているかもしれないのだ。
別れ別れになったあの時のように涙で顔を濡らしているかもしれないのだ。

僕は運が良かっただけ。
翠星石に依存していた分 を、同じように依存出来る相手を見つけられたから。

二年前のあの日『一緒に頑張って暮らそう』と兄さんが言ってくれた時から、
僕は一人では無くなっていたのだから。

兄さんが顔を洗い終わるのを、タオルを構えて待ちながら思う。
『これ以上幸せにはならないでおこう』
翠星石の幸せを確認するまでは…。

何かを探るように後ろに差し出された兄さんの手、
そこにタオルを乗せるとギュッと握られて僕の手を離れていく。
顔をふきながら振り返り「ありがとう」と笑う兄さんを見て、
僕はまた幸せになっていく。 

昨日より今日が、今日より明日が幸せになっていく。

僕はそれを複雑に思う。
ダメだと思っているのに…幸せになることをやめられない自分が嫌いになる。

「また…そんな顔してる」

気がつくと兄さんが洗面を全て済ませてメガネをかけ直していた。

「自分が大嫌いって顔。せっかくの美人がだいなしだぞ」

そう言って頭を撫でてくれる手があまりにも暖かい。
そこに幸せを感じて…また自己嫌悪。

「今、コーチしてる女の子もちょうどそんな感じだな…」
「一人が嫌な癖に、一人に向かって走ってく…」
「素直になれないから大事なこと…見逃しているんだよなぁ」

兄さんはため息を一つついた。

兄さんは大学に上がって、奨学金を受け取るために附属の中学でコーチをしている。
OBの部活…になるから裁縫部ということになるだろう。
そこに、僕に似た少女がいるのだろうか…

「大事なことって?」
僕は頭に乗ったままの兄さんの手を意識しつつ聞いた。

「蒼星石はもっと幸せになっていいってこと。」
「どうせ誰かに遠慮してるんだろ?」
「たぶん…離れ離れになった双子のお姉さんにかな?」

なんでわかるの?というような目で見ると兄さんは優しく微笑む。

「二人暮しをはじめた頃にさ、僕らが仲良くなり始めた頃に」
「泣きながら寝ていたよ、蒼星石は今みたいな顔で」
「姉さん…ごめん…」
ってね、と頭をぽんぽんと優しく叩いてくれる。

そして、その手が今度は頬に添えられ…皮をひねる

「なめるなよ蒼星石」
「おまえの姉さんが幸せじゃないなんて考えてるなら怒るぞ。」
「絶対に幸せになってると信じてやれよ」

それが蒼星石の見逃してる大事なこと――そう言って頬からも手が離される。

「だからまだまだ。姉さんに負けないくらい幸せにならなきゃ!蒼星石も!」

僕はその言葉とともに兄さんの胸に飛び込んだ。
うん、うんと何度も頷きながら…
兄さんが髪を撫でてくれる心地よさに幸せを感じ続けながら…
姉さんの幸せを強く信じていた。

「さぁご飯食べようか?お腹ペコペコだよ…」

「兄さんの当番なんだからね?僕もペコペコだし。」

「一緒に作ろっか?その方が早い。」

「えー。もう…兄さんはしょうがないなぁ」
「言っておくけど!利子はもうかなりのものになってるから。」

「え?……何を要求するつもりだ?」

「春から僕も兄さんの大学の付属高校に入るし…」
「朝は一緒に登校することを要求します!」

「ちょっと待て!大学は昼からの日だってあるんだぞ?」

「だーめ。僕が幸せになるためには必要なの。」

「そんなので幸せなのか?」
「おまえの姉さんは彼氏でも作ってもっと幸せかもよ?」

兄さんはそう言いながら意地悪げな顔で僕を見つめる。

「それなら僕の方が幸せだよ…」

僕はまっすぐに兄さんを見つめる。

「僕は兄さんが、大好きだから」 


      ―――――――――――――――――――――――


蒼星石が翠星石と高校で再会するのは、また別のお話…

物語は一度ここで終わりとなります。

ジュンが陸上部のコーチになったのは裁縫部が廃部していたからだとか…

互いに同じ人を好きになった双子の姉妹がそんな事情を知るのもまた、別の話。

二人の二年はそれぞれ終わり、

二人は新しい二年を、いいえ…長くて幸せなこれからを歩んでいくのでしょう。 



乙女たちの二年は、終わりであり始まり。

これからもたくさんの物語が、生まれ続けることを願い…

…そして強く信じていく。
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