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運命の出会いというのをあなたは信じるだろうか?

私は信じていた。
すべからく人の運命は決まっているものだと。

街中を一人歩く。
そこには多くの男女があふれかえっている。
さぁここで今日は何組の運命の出会いがあるのだろうか。
そんなことを考えるのがなんだか楽しい。

誰かと誰かが偶然出会って、すぐさま恋に落ちてしまうなど
物語の中だけだということはもちろんわかっている。
私の恋だって、私が動き出さない限りは始まらないのだ。

でももし運命の出会いが本当に待っていたとしたら、
恋とも遊びともわからぬ付き合いを重ねているうちに、
運命を逃してしまうことになりかねないのではないか。
そう考えた私は、いまどきの恋というものを体験しようとは微塵も思わなくなった。

私は今日も一人で街を歩く。
運命の出会いを求めて?
違う…きっと私は運命に出会うために。

何気ないウィンドウショッピングをしていると
一人の男性が目にとびこんだ。
彼が熱心に見つめる先には…女性用の下着。

「へ、変態さんです!」
私は思わず声に出してしまう。
その声に反応して彼の目が私をとらえた。

「誰が変態だ、誰が。」

明らかな嫌悪に包まれた視線に私は内心むかっとしながらも、
「…すみません」
と謝罪の言葉。

「でも白昼堂々と下着をご覧になってるなんて、やはり変態さんだと思ってしまいますよ?」

「…じゃあ夜中にこそこそ見てたら?」

「間違いなく変態さんです!」

私がそう断言すると彼は笑った。
私もその笑顔につられるように笑みがこぼれる。

変態さんと談笑するなんて私も変態さんだなぁと、
そんなことを考えて私は笑みを増した。
少しだけリズムを変えた心臓に、気付くこともないまま。 


彼の名前は桜田ジュン、専門学校の二年生だった。
私より四つも年上なんてとても信じられないくらいの童顔で、
背丈もヒールを履いた私とどっこいの小柄な人。

私が自己紹介をすると「変な名前」と笑ったものだから私は頬を膨らませた。
さんざん言われなれていることだったのに何故怒ったのか、
後から考えると少し不思議だった。

「それで…下着を見ていたということですか」
私はまるで取り調べ官のようにオープンカフェのテーブルを挟んで彼に事情聴取気分。

彼も注文を取りにきたウェイトレスにカツ丼を頼んで断られたり、
ノリノリで相手をしてくれている。

「そういうこと、課題に女性下着なんてクジを混ぜた先生を本当に恨むよ…」

「さて。これで釈放かな?女子高生刑事殿」
ニヤニヤと笑いながら彼は私に言った。

私は腕を組みながら、
「仕方ないですね、限りなく灰色ですけど釈放してさしあげます」
と、お粗末な棒読み。

彼は笑顔を強めて私の敗北宣言にご満悦の様子。

「さて、次は雪華綺晶を逮捕だな」
「罪名は名誉毀損。いたいけな青年を変態呼ばわりした罪は重い。」

「ひぃ!それならカツ丼を、カツ丼をいただきますよ!」

私たちの笑顔は途切れることを知らない…。




「なにゆえ…僕は荷物もちをさせられたのだ」
赤く染まった夕焼け空をバックに、かすかに白いため息をつく彼。

「ジュン様は懲役を課されたのだから当然です」
私はクスクスと笑いながら飲み物を袋から取りだし彼に手渡す。

「看守が天使のようだから甘んじて受け入れようじゃないか」
そんな彼の冗談が私の顔に火をともす。
つられるように彼も顔を赤らめて二人ぎこちない笑みを浮かべた。 

「さて、帰りますか。」
彼が立ち上がり荷物を全て左手に持つ。

「お嬢さん、お送りしましょうか?」
そしてからっぽの右手を私に差し出した。

「…出会ってしまいました…」
私はぽつりと言葉をこぼす。
あぁ間違いないなく私は出会うことができた。

「…よろしくお願いします…運命さん。」

彼の手を握り私は引っ張るように歩きだす。

「さぁさ、せっかく食材をたくさん買い込めたんです」
「早く帰らないと」
「…ジュン様も寄って行ってください」
「わたくし、料理にはそこそこ自信がありますよ。」

私は照れ隠しのようにまくしたてた。

彼は微笑みを浮かべながら私の手を少し強めに握ってこうささやいてくれた。

「楽しみにしてるよ…僕の運命さん」 

しっかりと聞かれていたかと、私は恥ずかしさで沸騰しそうになりながら、
繋がった二人の陰を見つめて、ゆっくりと我が家を目指した。

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