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「それでねぇ、ジュンはナスビが嫌いなんだってぇ」

「…へぇ」

「麻婆茄子ならちょびっとだけ食べれるって」

「…そですか」

「あとジュンはシイタケも嫌いだってぇ」

「……」

「お子ちゃまねぇって言ったら顔真っ赤にしてさぁ」 

「…」

「なんだか、かわいかったわぁ」

「……るです」
「あっもうこんな時間!?私行かなきゃぁ!」
「それじゃあね翠星石、また明日ねぇ」

「……てるです…」

翠星石の声は微かすぎて聞こえなかったけれど
私は気にすることもなくジュンの待つ校門へと駆けていった。

「…全部…全部知ってるですよ!」 



―――LOVER DAYS②―――



「もう2月も終わりねぇ」
それはジュンと付き合い初めて2週間が経つということ。

「もう2週間になるんだ…」
早いなぁ、と彼が吐き出す息はまだまだ白い。
同じことを考えていたというのがたまらなくうれしかった。

自然と所在なくモジモジとしていた右手が彼の左手に居場所を求める。

「手ぇ…繋いでいい?…」
素直な想いが言葉に変わる…のだが、

「えっと…寒いからぁ…手が冷たくてぇ」
素直になりきるのは難しい。
けれど彼は全部受け取ってくれる。
そう私は信じている。

二人の手が繋がる。
そこには心まで繋がったようなこそばゆさ。

少し前には恥ずかしさでいっぱいだったのに…
今は喜びで満たされている心が…繋がって。

あぁ、私は彼を信じていく。


       ―――――――――――――――――――――


放課後は委員会の雑務があるということで先に帰るように言われた私だったけど、
何気なく図書室で時間をつぶすことにした。

一緒に帰りたいと思ったから。
週末に予定された初デートの行き先を二人で決めたかったから。

ジュンの所属する週番委員は週番の監督さんみたいなもので、
決められた日毎に週番の活動チェックや報告を受けたりする仕事をしている。
ジュンは私と同じ5組だから金曜日が担当だ。

「そろそろ終わるころかしらぁ」

私は眺めていた雑誌を片付けて図書室をあとにした。

よく考えたら少しくらい早く行っても構わなかったはずだ。
ジュンと一緒に週番委員をしているのは友人の翠星石なのだから。


たどり着いた教室には確かな人の気配。
覗いてみると委員活動を終えた2人が会話をしているようだった。

声をかけようとしたその時、
翠星石が机を強く叩いて声を張り上げたので慌てて身を隠す。

「水銀燈・水銀燈ってうるせーです!」

私は息を殺した。

「二人して!なんでそんなこと私に報告するですか!」
「知ってるですよ!ジュンのことも!水銀燈のことも!」
「なんでそんなに嬉しそうに!私に報告するですか!」

その叫びは悲しみに満ちている。
耳を塞ぎたくなるほどの悲痛な叫び。

「何にも知らないくせに!」
「私の気持ちなんて何にも知らないくせに!」 

痛い。翠星石の心が突き刺さるように痛い。
私は胸を押さえて床に座り込んでしまう。

「水銀燈が…なんでジュンにチョコを渡したかも知らないくせに!」

瞬間、私に戦慄が走る。
やめて。知らないでいいから。ジュンに知らせないで!
そうは思うものの身体が動かない私は、
ただうずくまり祈るように言葉を飲み込む。

「水銀燈は間違えただけですよ!」
「本当は佐田に渡すはずだったです!」
「でも実際は誰でもよかったから…だからジュンと…つき…あったで…す」

翠星石の言葉は最後には消え去りそうなほど儚かった。

ガタンと机の動く音。
開かれた扉から飛び出してくる人影。
ジュン、それは桜田ジュン。 

一度だけ触れ合う視線と視線。
私は何も言葉を紡げないでいる。
彼もまた何も言わずに私から視線を外す。

瞬間、呼吸音すら心臓の音すら失ってしまったような感覚が走る。
私は言葉どころか物音一つ生み出せずに彼の背中を見つめ続ける。
走り去る彼の背中を…


視界からジュンが消えてしまっても身動き一つとれず、
完全に沈黙している私の心に…
ただただ翠星石の泣き声だけがたまらなく痛く…
たまらなく切なく刺さり続けた。 




            つづく

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