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 ――やあ。久しいな。




《Interlude―墓前にて.―》




 突然君のもとを訪れると、よく怒られていたものだ。女の子はおめかしの時間が必要だから、前以て連絡を入れておけ、とな。――怒っているか?

 さて、先ずは君に詫びなければならん。矢張、電車の中のだけではどうも腑に落ちなかったのでな。


 ――あの時、僕は君から、逃げた。泣いている君から、逃げた。戦場に向かう僕を引き留めようとした腕を、僕は振り払って仕舞った。腑抜けの僕は、君の気持ちを汲み取る器の大きさを持ち合わせていなかった。『それはできん』と、君の腕を――振り払った。

 君には、嘸かし悲しい思いをさせてしまった――こんな台詞じゃ言い尽くせない事は分かっている。…でも、言葉が出てこない。
 相応しい――と言ったら大袈裟だが、少くとも、もっと形容出来る言葉は有る筈なのに、出て来ないのだ。

 ――やめよう。こんな御託ばかり並べてもどうにかなる訳ではないからな。僕の罪が消えるわけでは無い。
 何時からだったろうか、僕がこんなに面倒な性格になったのは。



 済まなかった。ごめん。



 ――こうして、君のもとへ『言葉』を送った。果たして、届いているのだろうか……否、届いているのだろうな、きっと。だって、言葉には、たましいが込もっているのだからな。
 後は僕が一生をかけて償わなければならない。――だから、今はこれで赦してくれ。




 久々に、電車に乗ってな。昨日の話だ。なんとなく、乗りたくなってな――笑わないでおくれよ。
 其処で、一人の女性に出逢ったんだ。珍しい瞳の色をしていた。実に可愛――…や、何でもない。そんな言葉、彼女には似合わんのでね。
 お転婆と言うか、意地っ張りと言うか…兎に角、あんな性格の娘は、そうそう居ないだろう。

 ――彼女にも、亡くした人が居てね。妹、だそうだ。写真を見せて貰ったんだ。君に、よく似ていた。何と言うか…凛とした印象でな、心の強そうな人だった。
 彼女は妹を大層愛していたよ。羨ましいほどに…


 それでな、互いのハンカチーフを交換したんだ。何故かは――訊くな。小っ恥ずかしい。まあ、それで彼女に洗って返さなければならんのだが…逢える筈も無い人と約束などしてしまって、どうしようというのだろうな、僕は。
 ――君は、あの娘にまた逢えると、思うか?――や、下らん話だった。もう、逢えんだろうな。…まあ、此のハンカチーフは、大切に仕舞っておくさ。


 ――此処に来ようと思って、良かった。此処に来なければきっと、死ぬまで後悔の念に囚われて居たのだろうな。――あの娘には、感謝しなければな。


 君は、後悔しているのか?君は、どんな事を胸に抱きながら、そっちに行ってしまったのだ…
 教えてくれ――君は、一体何処に居るのだ。笑っているのか。楽しく、過ごしているのだろうか……

 ――また来る。




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 ――また、来ちゃったです。




《Interlude―墓前にて.―》




 また来たね、って私の事を冷やかすのですよね、貴女は――ええ、また来てやったですよ。感謝するです。
 此処に来るのも何回目なんですかね…私は未だ、妹離れが出来てないんですかね。ふふっ。


 最近ね、料理が上手くなったって、おばばに言われたんですよ。この間なんかですね、目分量で牛肉五百グラムぴったし計り取ったんですよ?
 良いお嫁さんになれるって。…全く、おばばも恥ずかしい事を言いやがるですよ。
 おじじは、相も変わらず時計を弄くってばかりです。偶には、おばばの手伝いをして欲しいものです。もう、歳なんですから。今は未だ、私が付いているから何とかなっているとは言っても、もし私があの家を離れる事になったら――まあ、無いですよね。ふふっ。


 今日、電車に乗ったんですよ。理由は、特に無かったですけど。なんとなく、乗ってみたくなって――あ、笑うなですよ!
 其処で、とある男と相席したんですよ。あまり背は高く無くてですね――あ、でも私よりは高かったですかねえ――、眼鏡を掛けていて、みすぼらしい袴を着て――あ、でも何やらとっても古いものだったらしいですけど――、何か野暮臭え野郎だったんですよ。
 でも、何処か饒舌で、物腰も柔らかくてですねえ――あっ、勘違いするなですよ!?これは別に褒めてる訳じゃあ無くて…そう、そういう部分を全部引っ括めたら、何だか浮浪者みたいだったんですよ!
 そしたら、私の事も浮浪者だって!全く…失礼極まり無い野郎なんですよ。


 ――その人も、亡くした人が居たのですよ。結婚をする約束をしたそうなのですが…
 あの人も、何と言うか――私と同じだなあって、気がするのですよ。あの人の背中には、その人の影がちらついていたです。


 ……………
 そこまで想われているなんて、羨ましいです……私も――わ、私も負けねぇ位、貴女の事、大好きなのですよ。
 
 もう、良い歳なのですがね…

 ――あ、そう言えばですね、その人と、ハンカチーフを交換したんですよ。貴女の話をしていたらつい、涙が出ちゃってですね。何と、その人がハンカチーフなぞ持っていたのですよ?全く、妙な所で気障なんですよね。
 それでですね、その人も話をしたんですよ。――泣いていたです。でも、全然格好悪くなど無かったです。好きな人の為に無くなんて、良いじゃないですか。
 ――御免なさい、ハンカチーフ、貸しちゃったです。貴女に初めて貰った、大切なプレゼントだったですのに。ぜったい、返して貰わなきゃですね。


 ふふ。私は、行くところができたですよ。
   ――馬鹿ですよね、あの人も。名は明かさないなんて格好付けて、しっかりと名前、書いてあるんですよ。
 あの人は、家業の呉服屋を継いだそうなんですがね…あいつ、小さな呉服屋なんて、嘘吐きやがったです。
 ――そう、彼処ですよ。

 今度、行ってくるです。ハンカチーフ、返して貰いに。それに、あの人の事、そんなに嫌いじゃ、ねえですから。――きっと、綺麗に仕舞ってくれているですよね。

 
 ――今度来るときは、その話をするですよ。請うご期待、です。
 ――それじゃあね。




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