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「へぇ、お前ってラジオ聴くんだ」
ふとした事からラジオを時々聴いていると言ったところ、いかにも意外と言った口調で彼は呟いた。
「たまにはああいったものもいいのだわ。地元局の番組だと、 よく分かる話もあって中々面白いもの。意外だったかしら?」
私がそう答えると、 彼は笑いながら言った。
「お前って紅茶飲みながらクラシックとか聴いてそうなイメージがあるからな。『ラジオなんて低俗なもの、 聴くわけないでしょ?』って言いそうだし」
そう言う彼の屈託の無い笑顔に、 思わず心臓の音が高鳴るのを感じる。

「し、 失礼ね!私はそんな高飛車ではないわ」
そういう反応が高飛車なんだって。そう言って一層笑う彼のせいで、 今度は頬が紅く染まった。
「げ、 下僕がうるさいのだわ!」
思わず声を荒げ、 勢い良く立ち上げる。その勢いのそのままにイスは倒れ、 放課後の静かな教室にけたたましい音が響いた。
「し、 真紅?」
驚いた彼の顔を見て『しまった』と思ったが、 なんとも言えない恥ずかしさから、 謝ることが出来なかった。

 

 

一瞬の沈黙の後に気まずい空気が流れる。それに耐えきれず机の横に掛けてあるカバンを手に取るやいなや、 私は逃げるように教室を出ていった。
その時、 彼が後ろから何か言っていたような気がしたが、 振り返る事は出来なかった。


学校から出るとすぐに、 後悔の念が押し寄せてきた。
家に着くと少し落ち着いたが、 自分の部屋に入ってそのままベッドに倒れ込むと、今度は素直になれない自分がイヤになった。
大きなため息を一つ吐き、 ゴロリと仰向けになろうとする。ふと、 視界の端にラジオが映った。


気がつくと、 私はラジオの電源に手を伸ばしていた。スイッチを押すと、 ちょうど地元局の女性DJがお便りを読んでいる所で、 少し高めのテンションで次々とお便りメールを読み上げている。
気をまぎらわすにはちょうど良いと思い、 私は耳を傾ける事にした。
するとDJの読んだ一人のリスナーのラジオネームが、 耳に止まった。

 

「えー……続いてはラジオネームJUNさん。高校生の男の子からですね。えっと……
『今日、 好きな子をふとした事から怒らせてしまいました。面と向かって謝りたいけど、 彼女の前だとどうしても素直に謝れません。なのでこのラジオを聴いていると思って、 ここで謝りたいと思います。真紅、 ごめん。後、 好きだ』……」

この後、 DJが青春ですねー、 などと言っていた気がしたが、 覚えていない。
ベッドから跳ね起き、 バタバタと階段を降りると、 飛び出すように家を出る。
日は落ちていない。彼はまだ学校にいるはずだ。
そう思い、 私は学校へ向かって走って行った。


学校に着いた頃には、 すっかり日は沈んでしまっていた。
でも、 薄暗い中、 校門の前に立っている彼の姿は、 まるでスポットライトに照らされたかのようにハッキリと見えていた。
私は彼の前まで行くと、 大きく深呼吸をして荒い呼吸を整える。夜の冷たい風が、 ほてった身体に心地よさと与えてくれた。
顔を上げると、 彼と目があった。メガネの奥にある彼の目は、 どこか恥ずかしそうに泳いでいた。

 

「俺もよく聴いてるんだ、 ラジオ」
私が落ち着いたのを見計らったように、 彼は喋り始めた。
「だから……あの番組に投稿して……」
そこまで言うと顔を横に反らし、 人差し指でポリポリと頬を掻いている。恥ずかしがっている証拠だ。
私はくすりと笑うと彼に近づいて行く。
「私こそ、 ごめんなさい。それと……」
私は彼の頬に手を当てこちらへ顔を戻させると、 驚く彼の唇に、 自分の唇を重ねた。




「私も好きなのだわ、 ジュン」
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