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「おろかな埋葬で墓地へ送った“ハウンド・ドラゴン”を、
  召喚した“サイバー・ダーク・キール”に装備よぉっ!」

<サイバー・ダーク・キール
★★★★・闇・機械族・ATK800/DEF800
このカードが召喚に成功した時、
自分の墓地に存在するレベル3以下のドラゴン族モンスター1体を
選択してこのカードに装備カード扱いとして装備し、
その攻撃力分だけこのカードの攻撃力をアップする。
このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊した時、
相手ライフに300ポイントダメージを与える。
このカードが戦闘によって破壊される場合、
代わりに装備したモンスターを破壊する。>

──何でこんなことになっているのかと言うと。


薔薇乙女が遊戯王するえすえす。
#1.思い出は億千万


「それで、また流行りだしたのか」
「そうなのよぉ」

水銀燈は、眩い笑顔で、愛しそうに自らのデッキをシャッフルしていた。

カードゲーム。 遊戯王DM(デュエルモンスターズ)。
指定された枚数の札を各自持ち寄り、
 戦略を立て、お互いのライフを奪い合う遊び。
単純であり、とっつきやすいそのルールから、
 低年齢層から高年齢層まで、幅広く虜にする、魔性のゲーム。
しかし、対戦相手を打ち負かし、勝利するためには、
 綿密な山札──デッキ構成から成る、戦法が必須となる。
その辺り、猪突猛進──単純な戦法を取ってしまいやすい初心者と、
 その高度な思考・センスによって、戦況を数手先まで見通し、
  臨機応変にプレイすることのできる上級者との違いが顕著に顕れる。
──僕がこのカードゲームを始めたのは、
   まだ対象年齢にも満たない頃だっただろうか。
クラスで、流行りだしたのだ。
──周囲の流行に遅れてしまえば、孤立してしまう。
そう、無意識の内に幼いながらも判り、
 スターターの、構築済みデッキを購入したのだ。
普通、カードゲームと言えば、愛好者の層は男性に偏りがちなのだろうが、
 デッキを買い求め、意気揚々と慣れない手つきでデッキをシャッフルしていた僕に、
  初めてのデュエルを申し込んできたのは、女子だった。
思えば、あれが彼女と──真紅との始めての邂逅だった。
──結果は、惨敗も惨敗。
1ポイントも真紅のライフを削れずに敗北してしまった。
あの時の真紅の言葉が、今も僕は忘れられない。
──「デッキが泣いているのだわ」
あの日の夜、デッキでなく、僕が枕を濡らした。
それからの僕は、真紅を負かすことに必死だった。
“あどばんてーじ”を得る為の“しなじー”を研究したり、
  “がちかーど”なる、非情かつ強力なカードを手に入れる為に努力をしたり。
真紅の友人だった水銀燈や、金糸雀たちと友達になったのもこの頃で、
 あの頃の僕にとって、デュエルモンスターズが全てだった。
そして、やっと思い通りのデッキが完成し、
 何度目か判らないリベンジに終止符を打とうと、デュエルを申し込もうとした時。
──真紅は外国へ留学してしまった。
今度こそ、僕の心はズタボロになってしまった。
日々を過ごす意味を。目標を、喪失してしまったのだ。
しかし、塞ぎこみ、デュエルの意味を見失っていた僕に、一通の手紙が届いた。
真紅からのエアメール。僕は、無我夢中で封を切った。
──「わがしんあいなるライバルへ。
    あなたにこのカードをたくすわ。
     わたしがそっちに帰ったとき、
      まだ弱かったらゆるさない。
       しんく」
正直、泣いた。 哭いた。
デュエルモンスターズの流行が過ぎ、
 既に卒業してしまっている今でも、
  その時真紅に貰ったカードは、あの時のデッキと一緒に大切に引き出しに入れている。
因みに、今思い出しても、鼻の奥が少しツンとするのは秘密だ。

「ってわけで、ジュンもまた始めなさいよぉ」
「そうしたいのはやまやまだけど、
  どうも最近のカードってわからなくてさ」

水銀燈が露骨に面白く無さげな顔をする。
僕は困惑しながらも、水銀燈の横で、彼女のデュエルを観戦することにした。
水銀燈の対戦相手は、何故か鼻息を荒げている金糸雀。
僕の視線に気付くと、更にその平坦な胸を張ってこう宣った。

「ジュンっ! カナの策士プレイ、しっかりとその目に焼き付けるかしらっ!」


数年前、金糸雀は始めたばかりの僕とどっこいどっこいの腕だった。
つまり、かなり。 とてつもなく。 非常に。 弱かったのだ。
あれから数年が過ぎたが、
 彼女とてあれからずっとデュエルモンスターズを続けてきたわけでは無いはず。
あまり期待しないでおくよ、とでも言うように僕は苦笑したのだが、
 金糸雀は何をどのように解釈したのか、
  その頬を赤らめ、デッキをシャッフルする手の勢いを付けすぎて、
   机はおろか、教室の床にまでカードをぶちまけていた。


「かしらーっ!?」


金糸雀の悲痛な叫びを尻目に、僕は水銀燈の手札を覗いた。
案の定、水銀燈の手札のカードは全て、見たことの無いカードだった。


「まぁ、見てなさいな」


余裕綽々とでも言う風な悠然な態度に、僕はある疑問を抱いていた。
──水銀燈のデュエルを、僕は一度も見たことがないのだ。
彼女のタクティクスを。 彼女のデッキを、僕は知らない。
一体全体、どんなプレイングをするのだろうか。
そして。 決闘の火蓋が切って落とされた。


「「デュエルッ!」」



何が起きたのかわからなかった。
──否。 全て、見ていた。 全て、理解できた。
瞬く間に金糸雀のライフポイントを0にした、水銀燈の戦術の、その全貌を。
放心状態の金糸雀とは対照的に、
 水銀燈は、デュエルに使用したカードを丁寧かつ嫋やかにかき集め、デッキへ戻していた。


「水銀燈」
「うふふ、見ててくれたぁ?
  鮮やかだったでしょ?私の勝ち方」


言葉にできなかった。
初めてだった。
初めて、1ターンキルというものを見た。
湧きあがるものは、カタルシスなどではなく、ただひたすらに恐怖だった。
──デュエルはここまで来たのか。
気付けば僕は、そんなことを呟いていた。


「カ、カナの積み込みコンボが……」
「デッキを組みなおして、今度は正々堂々挑みなさぁい?」


そんな台詞を残し、水銀燈は、涼しげな顔をして、
 予鈴鳴り響く中、僕らの教室から立ち去っていった。


「やっぱり銀ちゃんは強いね」
「うひゃあっ!?」


耳元で、不意に薔薇水晶に囁やかれ、僕は素っ頓狂な声を出してしまった。
振り返り、僕が睨むと、薔薇水晶は恍惚の表情で見つめ返してきた。


「何度も言うけどさ、お前の言動、気持ち悪いぞ」
「お褒めの言葉、ありがたく頂戴します」


時々こいつが、冗談でこういうことを言っているのか、
 本気で言っているのか判らなくなる。
十中八九前者だとは思うのだけれども。


「ジュンも、昔はデュエルやってたんでしょ?」
「ん? あぁ。 でも、今じゃルールも戦術も、何もかも飛んでるけどな」


── 一瞬、薔薇水晶の口元が歪んだような、そんな気がした。
しかし、教室に教科担任が入ってきたことで、
 そんなことは思考の奥底へと沈んでしまっていた。



「デュエル大会!?」
「そう……デュエル大会」


薔薇水晶はあっけらかんと答えたが、こちらは一切何も聞いていない。
僕の家の玄関に集まった水銀燈たち七人は、
 然も当然とでも言うように靴を脱ぎだした。


「ちょっと待て、僕んちでやるなんて聞いていないし、
  そもそもそんな大会があるなんて聞いてないぞっ!?」
「今言ったもん」


もん、じゃなくて。



しかし、結局強引に薔薇水晶に押し切られ、
 僕の部屋でその大会が行われることとなった。
何故か僕は強制参加のようだった。
しかし、大会とは言えども、所詮参加者は僕たち八人だけなので、
 小規模な総当たり戦で、トーナメントではない。
結局のところ、これは友人間でのお遊びの大会なので、
 肩の力を抜いて、久しぶりにデュエルを楽しもうと。
僕はそう思っていた。薔薇水晶が、気狂いめいたことを言い出すまでは。


「一番白星が多かった人が今晩ジュンの家に泊まって、
  添い寝するって、どう?」


──僕は、押入れに入っていた余りカード群とにらめっこをし、
   全力でデッキを再構築した。
もし、薔薇水晶の提唱した“優勝賞品”が現実のものとなってしまっては、
 流石の僕でも、間違いを犯しかねない。犯し……かねない。
そんなこと、許されるはずがない。
だから僕は勝つ! 勝って、独りの夜を過ごす。
熱意を。 決意を。
 僕は、真紅から貰ったあのカードを入れたデッキに込め、デッキをシャッフルした!


──僕の初戦の相手は、水銀燈だった。


To be continued...

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