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ジュンが入院したことは、その翌日の朝にお母様が学校に連絡していたようで、
帰りのSTの時間に、梅岡によってクラス全員に伝えられた。

教室の一番窓側(黒板に向かって左側)の席の一番後の席から見ていると、
それぞれの立場による反応の違いがよくわかる。
深刻な面持ちで俯いているのはいつもの剣道部と園芸部の人で、
向こうの方で梅岡に対して顔を隠しながらにやけているのがあの3人だ…。
そいつらから、聞きたくも無いのに不思議と声が聞こえてくる。

A「いよいよ家に飽きて病院に引き篭もり始めたらしいぜ?あいつ…」
B「引き篭もりでも極めてくる気か?」
C「どうせなら、ずっと病院に引き篭もってればいいんじゃね?w」

……。

e「ねぇ、腕震えてるよ?…大丈夫?」

翠星石の後ろの席の園芸部の子が私の肩を叩いて耳元で囁いた。
…気がつけば、配られたプリントをクシャクシャになるまで握り締めていた…

翠「…と、とりあえずは…」

返事はこれで精一杯だった。

k「翠星石も蒼星石や巴みたいに、あいつらに身の程を知らしめてやればいいじゃん」

そして、その隣の剣道部の子は上の空で呟くように言う。
──ついこの間、その事で蒼星石と喧嘩になったばかりですのに…

その喧嘩の事を思い出してしまったせいか、勝手に目が潤んできた。
どうしても泣いている姿なんて晒したくなかったので、
机に伏せるしかなかった。

誰「…桜田ってあんな“陰キャラ”じゃなかったよな…?」
誰「あぁ。中学に入ってからだいぶ変わったからな」

また別の声が聞こえるです…
うんざりです…

S「──なぁなぁ、俺たちで前の桜田を取り戻そうぜ!」
T「おっ、それいいね」

え…?
この声、もしかして…

U「しかもアイツのあのキャラなら、きっと一瞬にして陰キャラ脱却だろ」
T「覚醒させたら存在感抜群にあるからなw」
S「それにしても…あのキャラって、誰の影響なんだろうなぁ」
U「そら翠星石だろw お前忘れたのか?6年の時にアイツが栽培委員になった時のこと」
T「おい!声でかいぞ…翠星石が聞いてたらどうすんだよw」

…既に聞こえてるですよw
でも、突っ込まないです。怒るつもりもないです。
素直に嬉しいです…
お前らと小学校が同じだった事を誇りに思うです──

U「え?むしろ聞こえるようにして言ってんだよw あいつ、地獄耳だろ?」
S「あ~、それ桜田から聞いたことあるわw」

はん、ど~せ翠星石は地獄耳ですよぉ~っと。
ったく。普段からどういう会話してたんですかね。

S「あと“僕がボウリングのピンだとすれば、翠星石はその球で、
  蒼星石と柏葉が両サイドのガーターだ”とか言ってたな。懐かしいなぁオイw」

ムカッ…

T「あいつの幼馴染ってキャラ濃いよな。みんな…」
U「いや、俺たちだって幼馴染の部類に入るだろ?w」
T「あ、そうだなw普段から遊んでるとあんまり意識しないからなw」
S「よし、それじゃあ作戦でも立てるか?」
U「OK~」
T「そだな。やっぱアイツが居ないと俺たち完成しないもんな…」

ジュン…
お前が引き篭もりになっても、お前の親友たちは見捨ててないですよ…
いい友達を持ったですね──
…てか、お前ら…立ち上がるの遅すぎです!

それに、ジュン…要らんこと言いすぎです。
退院したら真っ先にその脛を蹴り上げてやるです…!

~~~~~

部活が終わり、蒼星石を待たずに帰宅する。
どうしても園芸部の方が剣道部より終わるのが早いのだ。

剣道部も、もうちょっと早くに終わってくれたらいいのに…思う。
そうすれば一緒に帰れて、たくさん話せて、それで──

──無意識のうちに、蒼星石との気まずい雰囲気を払拭することばかり考えていた。
というより、この朗報を伝えないわけにはいかなかったのだ。

翠「ただいまです…」
母「おかえり~」

お母様は既に仕事から帰って来て夕飯を作っており、
薔薇水晶と雪華綺晶がダイニングのテーブルに夕飯の皿を並べていた。
こうやっていつもの家の様子を見てるとホッとするです。
家族の営みって、何か暖かいものがあるような気がして──
──って、良い気分になってると、お母様がニヤニヤしながらこっちを見てたです。

翠「今日は何か良いことでもあったんですか?」
母「明日か明後日にお見舞いに行ってきなさいよ」

なっ…何ですとー!?
晴天の霹靂とはこのことですかー!?

翠「もう面会できるんですか!?」

そういや、そろそろ一般病棟に移ってもおかしくない頃だったっけ?
あいつも入院してからホントに長かったですね…たった2日程度の事ですのに…

母「そうよ。のりちゃんから連絡入ってね」
翠「へぇ!」
母「ジュンくんも寂しがってるんじゃない?誰とも会えなかったからって」
翠「ですねですね!」
母「だから行ってあげなさい。この調子だと退院なんてあっという間だと思うけど」
翠「言われなくても分かってるですよ。ジュンは──」

ガチャ…

あっ…蒼星石が帰ってきたです!

蒼「ただいま」
母「おかえり」
翠「おかえりです~…今日は早いですね」

…何故か、帰りのSTの時間にあったことを伝える気が失せてしまった。

蒼「うん。翠星石と一緒に帰れるかも!って思ったぐらいだったしw」

──やっぱり言うべきだった。
今日の今までウジウジと気にしていた事が恥ずかしくなった…
ここで「ゴメン」なんて言ったら、蒸し返してしまうかもしれないからやめた。
肩の重荷もポンと取り除かれた気分になって…とにかく、スッキリした。

母「蒼星石も行ってあげなさい。集中治療室から一般の方に移ったみたいだから」
蒼「う~ん…明日は遠征だから…明後日の日曜の午後に行くよ」

日曜…ですか。

母「あ、でもその頃には退院許可が下りて退院してるかも…
  結構順調らしいから…」
翠「…」
蒼「じゃあ、翠星石は明日も行ってもいいんじゃない?」

え……?

蒼「そういうことだよ。翠星石…」
翠「え?」

蒼星石はニヤニヤするばかり。
翠星石もここでようやく言葉の意味が掴めたです…

翠「…いっ、嫌ですよそんなことっ!」
蒼「そ、そんなムキにならなくても…」
翠「い~や~で~す~!!!」

──こんな時に、タイミング悪く皿を並べ終えたチビ2人が寄って来た。

薔「私も行きたい!」
雪「私も…出来れば…」

テレビを見てた真紅とチビカナとチビ苺まで押し寄せてきた…

金「ずるいかしら~!カナも行かせてもらうわ!」
紅「それなら私も監督責任で見に行く必要があるようね」
雛「ジュンのとこっ♪ジュンのとこっ♪」
薔「じゃああとは水銀燈だけだね!」
翠「へぇええっ…?」

そ…そんなに大人数で行くんですか?

紅「そうね。じゃあ日曜にみんなで行きましょう」
翠「ちょ…ちょ~っと待つです!」
薔「待たない」
翠「お前は黙れです」
薔「…」
翠「あの…そんな大勢で見舞いに行ったらジュンにも病院にも迷惑掛けるです」
薔「え~っ?…でも──」
蒼「そうだね。それに、病院は騒ぐ場所じゃない」
金「そんな失礼な話あるかしら!?」

すぐに怒鳴り立てるんですから…ちびカナはぁ…
と思いながら、何とか思いとどまって欲しかったんです。
病院で騒ぐと大変な目に遭いますからね…空気の凍り具合といい何といい…

翠「そこです!きらきーはともかく、お前とばらしーが一番怪しいです!」
金「あぅ…」
薔「…お見舞いの時はちゃんとするって…だから…」
蒼「まぁ、心配しなくても退院したら会えるんだから…」
紅「…そうね。じゃあ、私たちを代表して行ってらっしゃい」
金「真紅ぅ…」
紅「仕方ないわ。残念なことだけれど、受け入れなさい」
蒼「病院は色んな意味で冗談の通じないところだからね…」
金「…分かったわ。もう…」
薔「…」

…ばらしー…そんな泣きそうな顔しなくても…
心が痛いですぅ…

翠「ばらしーも落ち込むなです。またあいつが元気な時に会えばいいんですから」
薔「…」
翠「どうせあのチビ人間のことですから、週明けには元気になってますよ」
薔「…」
翠「……ね?」
薔「…うぅ…分かったよぉ。じゃあ病院に行かない」
雪「ば…ばらしーちゃんが行かないのなら私も行きませんわ」
翠「そうです。それでこそ翠星石の妹ですぅ~」
薔「それで、ジュンが元気になったら、私を心配させた罰としてジュン登り──」
翠「そうです。さすがは翠星石の…違うです!」

…や、やられたです…。

薔「違わないよ♪だって翠星石がいつも言ってることだしぃ~」
翠「なっ…」
薔「きゃっ!逃げろ~~~」
翠「まっ…待ちやがれですぅ!!」

かぁぁぁっ…めちゃくちゃ恥ずかしいじゃないですかぁ…
あのチビめぇ…すぐに元気になりやがってぇ…
今からでもシメてやるですぅ!

──こうして妹たちの仕掛けた落とし穴にまんまと引っ掛かる姉。
嬉しいやら悲しいやら…

薔「ほら!翠星石だって十分五月蝿いじゃん!」
母「そうねぇw…じゃ、行くのやめる?」
翠「それだけは勘弁ですぅ!」

~~~~~~

夕飯が終わって、みんなそれぞれにホッとしたひと時を過ごしていた。
蒼星石はお風呂、真紅はダイニングで食後の紅茶を嗜み──
翠星石は、五月蝿い4人に囲まれてぼんやりテレビを見てたです。
リビングに寝転がって…
…ふわぁ~もうすぐジュンに会えるですぅ~。
どうすりゃいいですかね?こっそり行って驚かせてやりますかね。

でも、やっぱり事前に連絡入れておいてから見舞いに行った方がいいかなぁ?
~なんて♪

─Trrr...Trrr...

誰でしょう、こんな夜に…。もしかしてお父様から?…
そう思って、受話器を持ち上げた。

翠「もしもし?」
ジ『もしもし桜田ですけど…』
翠「…え?ジュン!?」

さっきまでジュンの見舞いの話をしてたばかりだけに、
余計に吃驚しましたよ…まったくもう!

でも、ジュンと話せるなんて久々ですぅ♪
余計にテンション上がってきましたぁ…!

翠「わぁ…ジュンですジュンですぅ~」
雛「え?ジュンなのー!?」
雪「ジュン…」
薔「ねぇねぇ、翠星石ぃ~代わってよぉ~」
金「そうよ!今度お見舞いに行けないなら電話くらい…」
翠「シッ!ちっとは待ちやがれです」

ジ『遅くなってごめん。今日から一般病棟に移ったんだ』
翠「良かったですぅ~…一時はもうどうなるかと思ったですよ…」

ま~ったく、心配させやがって…ジュンのやつ…

ジ『あれぇ?珍しいな。お前にしては素直な…』
翠「何ですか?」
ジ『何も無い…ですw』

恥ずかしくって反射的に突っ掛かってしまう、そんな自分が悲しいです…

 今 回 ば か り は 。

翠「そうそう、今度の日曜までに行くですよ。そっちに」
ジ『おっけー…蒼星石は?』
翠「蒼星石は今風呂に入ってるです」
ジ『そ…そか』

あ…今、思いっきり噛みやがったですね…
こういう時のジュンって9割方はアレしかないですよねぇ…w

翠「…あーっ!今、鼻の下伸ばしてやがるですねぇ~?」
ジ『そそそんなことないぞ!だから脛蹴らないでw』

ほ~ら。

翠「電話越しに蹴れるなら、今ごろ思いっきり蹴り上げてるです!」

…ったく、しゃーないから目を瞑ってやるですよ!

銀「ただいま~」
母「おかえり~」
雛「おかえりなの~」

おっと、水銀燈が高校から帰ってきたです。
ラクロス部もかなり忙しそうなんですけど、
全然疲れたそぶりを見せないのが水銀燈の強い部分ですかね。

銀「ねぇ、誰から電話?」

水銀燈が興味津々に聞いてくる上に機嫌が良さそうなので、
ちょっとからかってみるですかね…w

翠「さぁ~?だ~れでしょ~う…」
銀「あらぁ、ジュンくんからに決まってるでしょ?──」

チッ…洞察力は相変わらず高いですね…

銀「──その顔」

プッチーン!

翠「──ひとつ聞くです。たった今、何て言ったですか?
  もういっぺん言って見ろです!」
銀「その顔ぉ~」

はっ…腹の立つ奴ですぅ…

翠「こっ…こんなもん…くれてやるです!」

最高に腹が立ったので水銀燈に受話器を突き出す。
水銀燈は苦笑いしながらそれを受け取った。

銀「あらあら、もう話さなくてもいいのぉ?」
翠「結構です!話す気なんか失せちまったです!」
銀「あっそ。ありがと…いい加減素直になればぁ?」
翠「キィィィィィィィ!!!」

フンだっ!です!
ここで一発ジュンには水銀燈をギャフンと言わせてやって欲しいですっ!

ま、普段から翠星石と同じようにふざけ合ってるような仲ですから、
ポロッとスケベな発言が飛び出すぐらいだと生ぬるいのですが…
──と、翠星石は水銀燈の様子が変わらないものかと、期待してじっと見つめていた。

銀「…」
翠「…」
銀「……」

水銀燈の眼が、翠星石の思惑通り、いよいよ恐怖の色を深めていく。
握り拳をガタガタを震わせる水銀燈に、あの4人もガタガタと震えていた。
──ふひひw これがジュンの本気ですぅw

銀「…」
翠「…」
銀「…はぁ」
翠「…?」
銀「黙りなさい!中二病!」
雪「ひっ!」
金「ひゃっ!」
薔「う、うるさいよ、高二病…(ブツブツ…)」
雛「ふえ…」
紅「…」
翠「…(ヒヒヒ)」

ほほう…やはり本気でやらかしたですかw
ジュンも男ですねぇ~

銀「身の程を知るがいいわ…」
母「…?」
銀「フン!」

ガシャン!

荒っぽく受話器を戻し、無言のまま動かない水銀燈。

銀「……」

ひとつ溜め息をつき、それでも水銀燈はその場から動こうとしない。

銀「元に戻りやがった…」

例の五月蝿い4人に介入させる余地を与えない場の空気が流れ続ける…
でも、翠星石には見えたです。
口元がかすかにニヤッとしたところを…

銀「……」
翠「そ~ですか!水銀燈好みのジュンに仕上がったんですかぁ~♪」

さっきのお返しと言わんばかりにからかってみる。
水銀燈は翠星石に一瞥を投げかけ、そしてまた電話の方に向いた。

翠「ね?」
銀「…ふん、おばかさん!──」

水銀燈は何か堪えきれなくなったような素振りを見せ、
顔を両手で覆い隠して2階へ上っていった。

金「水銀燈…ジュンが泣かしたかしら!」

いや、そうじゃない…

翠「水銀燈も素直じゃないですねぇ──」
蒼「…ククッ」
翠「はっ!…笑ったですね!?」

振り返るとバスタオルを身体に巻いた蒼星石が立っていたです。

翠「…って、いつ風呂から上がったですか?」
蒼「水銀燈と言い争ってた時からだよ。お風呂の中まで声が響いてきたから見に来たら…」
翠「…」
蒼「素直になるのは翠星石も一緒だね」
翠「…そんなんじゃねーです」
蒼「この際なんだから、ジュン君とつき…」
翠「きゃっ…」
蒼「つき…」
翠「なっ…な…何を言うですかっ!」

それ以上言うなです!

蒼「ちょっと追いかけて来るのは無しだよ!まだバスタオル一枚なんだよ?
  それにまだお風呂終わってないし!w」
翠「そんなもん知るかです!」
蒼「それより追いかけるも何も、まだ言ってないじゃん!…つき…」
翠「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

~~~~~

──燃え尽きちまったです…
もう…ソファで適当に横たわるぐらいの力しか残されてないです──

紅「お風呂、お疲れ様」
蒼「…はぁ…大変だったよほんと…」
雪「ばらしーちゃんが何か聞きたいそうですよ?」
薔「ねぇねぇ、“月”って言うと何で翠星石が怒るの?」
蒼「え?あぁ…それはね──」

ほら、イチイチこっちの顔を窺うなです。
そんなに話したかったら話せばいいんです。もう…

蒼「──翠星石は月からやってきたからだよ」
雛「ほえ…」

──もはや突っ込む気すら失せたです…。

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