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《けんけんはっし》


彼について考えてみる。
知り合ってどれ程になるだろう。新しいとは到底言えないが、幼馴染と言うほどでもない。
偶に意地悪で、時々いじけて、常に優柔不断で。
どうして、あんなのと……―腐れ縁は続いているが、自分でも不思議でたまらない。

彼女について考えてみる。
胸を張って言える、大事な友人の一人だと。
だけども、苦言を一つ呈しよう―趣味が悪い。
何故、彼なんかとくっついたのだ―まったく、趣味が悪い。

妹について考えてみる。
この子も彼女と同じだ―なぜ、あんなのに恋心を抱く。
しかも、彼女に遠慮をして先に取られてしまう始末。
恋愛なんてものは、どーっんとぶつかってばーっんと掴むのが世の事割だと言うのに。

そう、溜息をもらしていたのは私――だった筈なのに。
朱が映える夕暮れに目撃した、彼と彼女の情事に、駈け出したのは私だった。
鼓動が苛ついた音を立てて、周りの全ての音を遮断するように騒ぎ出す。
体と相反する落ち着いた心で、急に走り出した為の健康的な身体の作用……と、一人ごちる。

「――……せいせきっ、翠星石っ」
「――ぅぐ……ひぅ………な、なんですかそうせいせきそんなにあわてて――」
「……慌てているのはどっちさ。もう……いきなり走り出すから驚いたじゃないか」
「わ、わたしはあわててなんかいねぇですぅっそそれにおめぇはなんともないですか!?」

戯けた質問をしてくる妹に、毅然と言い放つ。
誰がどう慌てていると言うのだ―証拠でもあれば見せて欲しい。
―それにしても、と妹の態度に感心する。
あんな強烈な情景を見せられて、一見、落ち着いているように感じさせる。

「……何ともなくはないんだけどね。まだ、……くすぶっちゃってるし」
「なのになのに、なんでそんなにおちついていやがるですか、このすっとこどっこい!」
「すっとこ…いや、いいけどさ。―別に、さっきのは納得出来るし」
「な、なななな!?しんせいなまなびやでちちくりあってるのにへいきのへーざですか!?」

くるりと振り向き、気丈な妹を確認する。
―予想通り、落ち着き払った言葉とは裏腹に、顔を赤らめていた。
その原因を―その光景を思い出し、私の心臓も少し、跳ね上がる。
どくんどくんどくん、どっくん…と一際大きく。

「はぁ…やっぱりそんな風に思ってたんだね。相変わらず、一人合点し過ぎだよ」
「だ、だって!ふたりでだきあうようにもつれてて、かおをあんなに、ちかづけて…!」
「―床に転びそうになった彼女を、彼が下敷きになって助けてあげただけだと思うよ」
「………へ?そ、そうだったですか?―あ、いや、翠星石はそれ位…」

心臓の音が、少し小さくなる。
ほどほどの大きさの胸に手を当て、一息つき、自らの少々行き過ぎた想像に区切りをつけ―
――そうすると、何故だか、視界が滲んできた。
ぼやけた視界に映る妹は、苦笑しながら私に近づき―そっと抱きしめてくる。

「わ、こら、いきなり何してくるですかっ。行き過ぎたスキンシップはシスコンと…」
「認めるのはやぶさかじゃないけどね。―だけど、それは君も同じでしょ?」
「す、翠星石はお前ぇほど甘ちゃんじゃねーですよっ」
「……ったく。強情で天の邪鬼…――そんなだから、彼を彼女に取られちゃうんだよ?」

何を言っているんだ、この妹は。
取られたのは其方ではないか。
そう、反論しようとしたけれど―心音がまた跳ね上がり、口を開けなかった。
代りに、スキンシップのお返しとばかりに、私も妹を抱き締める。

「もたれ掛かるのはいいけど、あんまり体重をかけ過ぎないでね。最近太っ―」
「―し、失礼な事を言うなですぅ!そ、そりゃちっと食べ過ぎが目立ちますが…!」
「言いたくもなるよ。――焼け食いするわ、勘違いで泣き出すわ…それでも、認めないんだから」
「み、認めないって……何をですかっ?」

言い切ってしまってから、口を滑らせた、と内心で焦る。
こういうやり取りの末に、私は何度も妹に言い包められているのだ。
―だけど、是から、この子が言ってくると予想している事は、認められない。
絶対に、認められない。

「君が――彼を好きだった事」
「……だ、だぁーれがあんなちんちくりんを!お前ぇじゃあるまいしっ」
「じゃ、訂正―彼を好きな事。結局、君はボクに…ボクは君に―遠慮しちゃってたんだよね」
「………!み、認めねぇですよ、そんな事!恋愛なんて…!」

認めない―自分が誰かの為に二の足を踏んで、掴めなかったなどと。
絶対に、認めない―そもそも、あんなのを今でも想っているなどと。
けんけんはっしのやり取りは続く…妹の妄言に、私が否定すると言う一定の形。
だけど――――いつか、肯定できる時が来る事を、胸の片隅で小さく願って。

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