《めぐのお薬講座:1》
「けふこふ…、風邪をひいちゃったのかしら…くしゅんっ」
「幾ら暑いからってお腹丸出しで寝てちゃ、自業自得よぉ」
「言い返せない…風邪薬、風邪薬、と…あったのかしら~」
「……!ちょっとそれ、見せてみなさい。
…………やっぱりぃ」
「何がやっぱりなの?早く返してほしいかしら…くしゅっ」
「駄目よぉ、金糸雀、この薬を飲んじゃぁ…。
この薬…と言うか、薬に入っている成分は駄目なのよぉ」
「…??何が駄目なの?」
「めぐから聞いたんだけどぉ…風邪薬に入っている塩化リゾチームっていう成分はね。
………副作用で、卵が食べられなくなっちゃうのよぉ…っ」
「……………っっ!?―そんなの嫌かしら、絶対に嫌かしらっ!
あぁ、でも風邪薬はこれしかないわ……くしゅ」
「……あぁ、もぉ、しょうがないわねぇ、他のを買ってきてあげるわよぉ」
「え、でも、外は大雨なのかしら……」
「うっさいわねぇ、病人は黙って寝てるのよぉ。―…安静にしてなさいな」
「………って事があったのよぉ。
お陰で私までとばっちりで…ふくしゅ」
「病人が病人のお見舞いに来ているんじゃないわよ。
でも、まぁ…水銀燈には罰があたったのよ」
「何よぉ、罰ってぇ…!」
「私の話を真面目に聞いていなかった罰、よ。
塩化リゾチームが結構厄介な成分ってのは合っているわ―そこまで奇天烈な副作用はないけど。
卵白から取られているから、卵アレルギー及び素因がある人には服用できない…って所ね」
「え……じゃあ、金糸雀には全然OK?他のを買いに行って風邪ひいた私は…」
「『お馬鹿さぁん』、もしくは『自業自得よぉ』」
「…………………いじわるぅ…orz」
―と言う訳で、卵アレルギーのある方、親族にいる方はお気をつけくださいな―
―形態的には、錠剤→液剤→包剤→エキス、の順で効きが速くなるの。
ま、ぶっちゃけ液剤以降はどれも不味いから、同じ不味さなら効き目の早いエキスがお勧めよ―
114 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/17(月) 14:23:28.17 ID:DjnG4xRC0
>>112
葛根湯って効きはじめだけなのか…
エキスと液剤ってちがうの?
>>112
「表現が悪かったわね、申し訳ないわ。
液剤はアンプル剤、すぐに飲めるモノ。
エキス剤はレモンティーみたいにティーパックになっているものよ。
葛根湯は名前に『湯』がついている通り、あっためて飲むのが一番効くの。
だから、冷たいもしくは常温の液剤よりエキス剤の方が効きやすいわ。
あと、『効きはじめ』じゃなくて『引きはじめ』ね。
………上げ足なんてとってるから、Sとか言われるのかしら。
性分なの、ごめんなさいね」
《めぐのお薬講座:3》
「そう言えば、ダイエットしているって言ってた翠星石ちゃんはどうなったの?」
「やっぱりS…。いじめっ子ぉ…。
―あの子も色々頑張っている様だけど…なかなか成果が上がらないのよねぇ。
だから、前に貴女に聞いた事をそのまま助言してあげたわぁ」
「前に…って、『ダイエットの四原則』の事?」
「そうそう、『食事量』『食事内容』の改善、『便秘改善』『運動』…だったわよねぇ。
加えて貴女が前に言っていたサプリメントも勧めてあげたわぁ―何ていったかしら…」
「前に…って、確か、教えたモノは私達くらいには余り効果がないって言ったわよね?」
「藁にもすがる思いって奴よぉ。
それに、実際使ってみると、あの子二週間で1kgも減ったって喜んでたわぁ。
……あの子には内緒だけど、私なんて3kgも痩せたのよぉ」
「3!?……水銀燈……リバウンドに気をつけてね…」
「な、何よぉ、怖い顔してぇ……」
「いぃ~い?―要らないとか減ってほしいとか言っているけど。
貴女が減らしたモノは、確かに貴女の一部だったモノなのよ。
それを短期間で無理やり削ったら、体が前以上に増やそうとするに決まっているじゃない」
「うぐぐ…ま、まぁ、増えたら増えたで、四原則とサプリメント…そう、カルニチンよ、カルニチン!
この二つで減らしてみせるわぁ」
「カルニチン…よりにもよって…」
「だ、駄目なのぉ?」
「駄目ではないけど…前にも言ったけど、基本的に私達十代には足りている成分なの。
それに…―うーん、まぁ、マッチョボディな水銀燈も面白いからいいか」
「なななな、何よそれぇ!?面白くもなんともないわよぉっ!」
「マチョ銀燈…語呂が悪いわね、ムキっ銀燈…これもいまいち?」
「聞いてないで答えなさいよぉっ!orz」
―カルニチンは元から体内に存在している成分なの。
役割の最たるものは、脂肪酸をミトコンドリアに運ぶ事。
脂肪の燃焼効率もよくするから、筋肉をつけやすい体質に改善していくのも一つの性質ねー
―補足しておくと…商品的にお勧めなのはメジャー品の横にあるマイナー品。
入っている成分がほっとんど変わらなくて安価ですもの―
―是はまだ、私と水銀燈の出会ってすぐのお話―
「あぁぁぁぁもぉ勉強勉強勉強…!寝ても覚めても勉強ばっかりよぉ!!」
「…受験生で、しかも無理めな所を受けようとしてるんでしょ?
我慢なさいな」
「だってだってだって!妹の金糸雀は音楽で推薦受けてて翠星石と蒼星石は呑気に遊んでるし!
三歳下の真紅は同じ受験生だけど、あの子成績良いからなんか余裕だし!
雛苺や雪華綺晶、薔薇水晶なんかもぅ遊び呆けてるしっあぁぁぁぁもぉもぉっ!」
「煩い。―少しは乳酸菌でも取って落ち着きなさいな」
「だってぇぇ……ニュウサンキン?」
「ええ…―って知らないの?テレビとかで割と宣伝してると思うけど…」
「知らない。テレビ見ない。…そう言えば、新聞の何所かで見た様な…?」
「………………………………にやり。
乳酸菌って言うのは名前の通り、細菌なの。
けれど、この名前は和名なのよ…正しい学名は『Absolutely Thing of Human Life』。
略して『AHHL』(エール)」
「ふーん…なんか仰々しい名前ねぇ」
「仰々しくもなる理由も、この細菌の研究過程を聞けば納得するわよ」
「そ、そんなに大変だったのぉ…?」
「教えてあげるわ…乳酸菌―AHHLに命を賭した人たちの熱い物語を」
「ボブゥゥ…メアリィィィ……」
「―こうして…二人の細菌学者の命と引き換えに、乳酸菌の効果がわかったのよ」
「ひぐぇぐ…どうして、どうして其処までしてぇ…」
「……ボブは命を引き取る最後に、彼らの―ボブとメアリーの仲間にこう言ったわ。
『悲しまないでくれ、皆―僕とあのじゃじゃ馬は人類を救う一歩を見つけたんだ。
何一つ後悔なんかしちゃいないよ。
あぁ、でも、そうだな…一つだけ頼みがある。
ふとした時、そう、日常の挨拶の時なんかに、こう言ってくれないかい?
―AHHLを取ってるか?、と。
この言葉には「私は取っています、だから元気です。貴方は元気ですか」って言う意味を込めて欲しい。
普段、なんとなく恥しくて相手を気遣えなくても、是なら簡単だろう?
……あぁ、そうか。―僕自身、メアリーにそう言えば良かったんだな。
……………そろそろ、お迎えだ。目がかすんできたよ。
あぁ、あぁ、メアリー…君が迎えに来てくれたんだね。
―――AHHLを、取っている…か、い………?』」
「ボォォォブゥゥゥゥゥ………っ」
「―乳酸菌を巡る熱い話には続きがあるの。
日本のとある細菌学者と営業マンの、熱く激しい物語―」
「鈴木さん…!佐藤さぁん……っ」
「―全てが終わってから、彼女と彼は彼らが最初に出会ったカフェで再会を果たしたの。
『佐藤さん…悔しいですけれど、貴方のお陰でAHHLはこの国でも認められましたわ』
『そんな、僕は…。結局、貴女が望んでいた形では…できませんでしたし…』
『……佐藤さん。―「乳酸菌」、取っていますか?』
『――!鈴木さん……っ!』」
「うぅ、ぐす…認められたのねぇ……(T□T)」
「是にて、乳酸菌が日本で定着したお話はおしまい。
……はい、ハンカチ」
「うぅぅ、ぐす、わ、私も乳酸菌摂るわぁ…」
「そうしなさいな。血圧を下げたり便秘を解消したりするらしいから」
―それから暫くして、水銀燈の挨拶は「乳酸菌摂ってるぅ?」になりました。
と言うか、今でも使っています。吹きそうです。
そりゃ、二段構えの嘘話だからすぐにばれるのはつまんないと思いましたが。
まさか一年越しで騙されるとは。
あぁ、一応。乳酸菌の効果は「らしい」とつけた通り、確定的ではありません。
以上―
「あれ、でも私、一度に数粒食べたけど、なんともないわよぉ?」
「個人差はあるわよ。
2.3粒でガッデム!って人もいれば、10粒で大丈夫な人もいるし。
まぁ…一日で半分食べるとか無茶しなければ問題ないんじゃないかしら」
《めぐのお薬講座:8》
「…流石に、人の物を勝手に捨てるほど意地悪じゃないわよ」
「雪華綺晶と交換したのだから、すぅっごく焦ったわよぉ…」
「誰のモノであろうと、効果が変わる訳じゃないから新しいの買いなさい」
「えぇ~、でもぉ……いえ、買います買わせていただきますっ」
「……宜しい。―この分だと、薔薇すぃーちゃんに伝えて…って言ってた事も怪しいわね」
「薔薇水晶に?…あぁあ、鉄分の話ねぇ」
「そー貧血気味なんでしょう?だったら、ちゃんと食事も考えないといけないから」
「それは大丈夫、ちゃんと伝えたわぁ。
でも、あの子、双子の姉の雪華綺晶と違って好き嫌いが激しいのよねぇ…」
「…鉄分が豊富に含まれている食品って、結構癖があるものね。
代表格のレバーやほうれん草からして、苦手な人が多いし」
「そぉなのよぉ。
例にもれず、薔薇水晶も苦手みたいで…」
「うーん…一応、鉄分の錠剤もあるにはあるけど…」
「………そぉだったの?」
「ええ、サプリメントから医薬品まで、意外と多いわよ」
「じゃあ、無理やり食べさせる必要もなかったのねぇ…」
「無理やりって…何をどうしたのよ?」
「ぅ…また怒られそうな嫌な予感ん…。
フルーツやサラダにぽぽぃっと混ぜたのよぉ。今のところ、気付かれてないけどぉ…」
「ふむ……貴女にしては上出来ね」
「あぁぁ、やっぱり怒られ…あれ?」
「成分としての鉄はビタミンCによって、吸収を促進されるの。
だから、そういう食べさせ方もありと言えばありね」
「…今日初めて褒められたけどぉ…なにか違和感と言うか、物足りなさがあると言うか…」
「……私がSだって言うけど、貴女は十二分にMだと思うわ」
―市販薬の鉄分剤には、大まかに分けて「フマル酸第一鉄」と「溶性ピロリン酸第二鉄」があるの。
一般的な人なら前者、胃が弱い人なら後者がお勧め。
……水銀燈なら後者ね。―なんとなくよ?うふふふふふふ……(どS。
《めぐのお薬講座:幕(その1)》
総合病院のとある個人部屋。
戸主のパジャマ姿の少女と、その友人の黒を基調とした服を着た少女。
彼女達がお喋りを始めてから、どれ位経ったんだろうか。
もう既に。空は青から赤に変わってきている。
「あ…そう言えば、一つ新しい相談事ができたのよぉ」
黒い服の少女―水銀燈は、少し言い辛そうに声を出す。
もう一人の少女―めぐは冷静な顔のまま、どうしたの?と先を続ける様に水銀燈を見る。
そう、めぐの表情は冷静だ。―端から見れば。
「…真面目な話なんだから、ちゃんと聞いてほしいんだけどぉ…」
むぅ、と微かに頬を膨らませ、抗議する水銀燈。
めぐの最たる理解者である彼女には、その表情が『不真面目』だとわかるのだ。
…出会ってからすぐにそうであれば、『乳酸菌の話』も見破れたのだが。
それはともかく。
水銀燈に見つめられ、めぐは舌をちろりと出して「ばれたか」のサイン。
―そして、すぐに舌を引っ込め、微笑しながら、言う。
「わかったわ。―話して、水銀燈」
めぐにとって、水銀燈は掛け替えのない大切な親友。
言葉や表情ではそういう素振りを一切見せない彼女だが、その思いは確かだ。
今までの水銀燈の『相談事』も茶化しつつ、彼女なりの最良の答えを教えてきた。
もし明確な答えを用意できなければ、次に会う時までには調べ、水銀燈に伝える。
―己の調べる手間については、水銀燈に全く言わないで。
「ん……その、まだ、家族の誰にも―妹達にも言ってないんだけどぉ…」
たどたどしく言葉を発する水銀燈に、めぐは頷き、先を続ける様に促す。
そうしつつ、めぐは水銀燈の言葉から彼女の相談事を予想する。
(妹の誰にも―って事は、この子自身の話かな…?
…誰にも、か。うぅーん、少しだけ嬉しいって思うのは不謹慎かな)
真正面に水銀燈を見据えながら、めぐは自分の思考に苦笑いを浮かべ。
自分にとって、彼女がどれ程のスペースを取っているか、再確認してしまう。
「最近…でもないわねぇ。一月位前からなの…」
「……なに?生理でも来ない?」
「へ?………なななななな、何てことを言い出すのよぉっ!」
ハイブロウな返答に、顔を真っ赤にして怒鳴る水銀燈なのだが。
その矛先であるめぐも、静かに怒っていたりする。
「―いい?どんな内容であれ、『悩み』を抱えるのはストレスに直結するの。
ストレスは色々な病気の原因になりうるわ―元々胃が弱い貴女なら、胃潰瘍とか。
だから、貴女はさっさと私に相談すべきだったのよ」
まだ顔の赤い水銀燈だが、めぐの怒りは伝わった様で。
滅多にしない子どもの様なしゅん、とした表情を見せている。
その顔に、めぐはわかり易い溜息を合わせた。
「わかったのならいいわ。
…ところで。さっきの、私は単に生理不順の事を言っていただけなんだけど。
それ以外に何か思い当たる理由がおありなのかしら、水銀燈?」
「へ、え?えぇぇぇっ?あ、いや、私も…っ。うぅぅ、いじわるぅぅ」
―合わせたモノは溜息だけではなかった様だが。
先程以上に顔を朱くしている水銀燈に、彼女の意地悪な親友は一仕事終えた後のいい表情。
恐らく、今日一番の笑顔ではなかろうか。
「眼福眼福。―さ、早く話しなさいな」
「ものすっごく話したくなくなったんだけどぉ!
―……なんか、心臓が痛いのよ…」
一瞬。目の前にいる水銀燈でさえ気付かない程の刹那。
めぐは動揺を表した。
頭を鈍器で殴られた様な衝撃、しかし、彼女は水銀燈に気付かれぬ間に冷静さを取り戻す。
――少なくとも、表面上は。
続く