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人を笑わせるというのはとても難しい。
笑われるならば簡単だが、自らの技術で笑わせるというのは至難の業だ。
そんな難題を目の前に突きつけられて、果たしてどのように対応できるだろうか?
例えばこんな一例もある──


-Why?~降って湧いた災難~-


「なーんで、翠星石達がこんな事をせにゃならんのです!」

噛み付きそうな勢いで真紅に猛抗議しているのは毎度御馴染翠星石である。
彼女達が揃って同じ大学へと進学したのは昨年4月。
それぞれ思い思いのサークルへと加入したのだが、皆が皆「肌に合わない」「つまらない」などの理由でサークルを辞め、今は見事に全員フリーである。

「まあまあ…仕方ないよ。JUM君のお姉さんの頼みだしね」

翠星石を諌めるのはこれまた御馴染蒼星石。
カジュアルな服装であってもどこかぴしっと決まっているのは雰囲気のせいだけではないだろう。

「でも、幾らなんでもこれはできんですよ」
「貴方達は呼吸もぴったりだし、上手く行くと思ったのだけど」
「そもそもの張本人は黙ってやがれです!」

何故翠星石がエキサイトしているのか。
エキサイトするのはいつもの事だがそれは置いておこう。事のあらましはこうだ。


「真紅ちゃん、ちょっといい?」

講義を終え帰宅の途につこうとした真紅。
さっさと帰って優雅なアフタヌーンティを楽しもうという計画は、この声によって脆くも崩れ去った。
声の主は桜田のり。JUMの実姉であり、真紅達の世話をなにかと焼いてくれる良き先輩だ。

「あら、のり。何かしら」

仮にも先輩を呼び捨てにするのは一般常識的に良くないが、彼女達の場合はあまりそういった「常識」に当てはまらないようだ。
当人が余程抗議しない限り真紅は相手を呼び捨てにする。水銀燈や雛苺も同様である。
尤も、のりの場合は当人からして「呼び捨てでいいのよう」などと言っているので問題はないのだろう。

「ええと…実はね、相談したい事があるの」
「珍しいわね、相談なんて。言って御覧なさい」

真紅達が通う大学のキャンパスには、至る所にベンチが設置されている。
広くゆったりとした構内と、きちんと手入れされた草木。
このベンチは、そういった空間を満喫できるように、という意図で作られていた。
近くのベンチに二人が腰掛け、話を続ける。

「ラクロス部の先輩が引退するの」
「3月だし、当然ね」
「それでね、お疲れ様コンパをやる事になったの」
「それも妥当な話だわ」
「…でね、私…なにか芸しなくちゃならなくなって」
「芸?」
「そうなのよぅ。私どうしたらいいか…」
「やればいいじゃない。違う?」
「芸なんてできないわよぅ」
「…困った事だわ」

はふ、と真紅は溜息をついた。
あわせてのりも溜息をつく。

「真紅ちゃん、何かいいアイディア無い?」
「急に言われても、思いつくわけないのだわ」
「…そうよねぇ」

再びの溜息。
真紅としてはさっさと切り上げてお茶にしたかったのだが、世話になっているのりが困っているのでそういう訳にもいかず、必死で思考を巡らせている。

「…それは、のりがやらなくてはいけないの?」

ふと思いついたように真紅が問う。

「真紅ちゃん、どういう事?」
「芸が出来そうな人物は心当たりがあるのだわ。のり以外でもいいのなら打診してみるのだけど」
「う、うーん…外部の人に迷惑かけるわけにはいかないわよぅ」
「問題ないわ」

真紅はきっぱりと言い切った。
ここまですぱっと言われてしまっては、二の句が継げなくなってしまう。
真紅自身意識しているのかどうかは解らないが、意見を通す時は常にこのような物言いをするのだ。

「そ、そう…じゃあ、お願いしてもいい?」
「任せなさい。のりは大船に乗ったつもりで待っているといいのだわ」

にこ、と真紅は微笑んで、立ち上がった。


というわけで、今に至る。
心当たりというのが翠星石と蒼星石の姉妹で、芸の内容が──

「第一、何が哀しくて漫才なんぞせにゃならんのですか!」

漫才、であった。
コンビで掛け合い、話術でもって場を笑わせる。
勿論、素人にはとてもじゃないができるものではない。
だが、この姉妹は双子であり息の合い方が尋常じゃないのでなんとかなる、というのが真紅の言い分であった。

「あらぁ、お似合いじゃなぁい。貴女達の掛け合い、きっと面白いわぁ」

ヤクルト片手に水銀燈が肯定した。

「でも行き過ぎるとどつき漫才になるかしら!」
「……それは無いと思う…」

こちらは金糸雀と薔薇水晶である。
翠星石はエキサイトすると手が出る場合が多い。
ただし、相手が蒼星石であれば絶対に手が出ない。
姉妹以上の感情を持っているせいだ、とは水銀燈の弁だ。

「でも翠星石ぃ、蒼星石はやりたそうなのよ?」

苺大福を片手に指摘するのは雛苺。
一日5つ以上は苺大福を食べているのだが、体型が全く変わらない。
体質のせいなのか、あるいは本人が隠れた努力をしているのかは全くの謎である。

「…蒼星石、やりたいですか?」

翠星石が尋ねる。
視線を向けられた蒼星石は、少々困ったような仕草をしてから申し訳無さそうに答えた。

「うーん、やりたくないといえば嘘になるね」
「どうしてです?」
「人を笑わせるって事はさ、その人を幸せにするって事だと思うんだ」
「…どういう事です」
「笑ってる時って、楽しいでしょ?その楽しいっていう気分を、僕達で作れたらいいなって」
「うー…そんなもんですか」
「そんなもんだよ」

結局、蒼星石が珍しく押しに入った為に二人は漫才を行う事になった。


「で、どうして僕達はハ○ズに来ているのかな」
「まずは衣裳を揃えないと話にならんです」
「それよりもネタだと思うんだけど…」
「まずは形から入るのが翠星石のマイジャスティスです」
「よく解らないよ……」

数日後、二人は大型雑貨店へとやって来ていた。
大抵のものは揃うという触れ込みだが、どちらかというと実用品よりもジョークグッズの類が充実している。
そんな店内の、二人が居るここは衣裳売り場だった。

「そうですねぇ、衣裳は青と緑で…デザインは同じ方がいいですね」

なにやらぶつぶつと言いながら衣裳を見分する。

「ああ、これなんかどうです?」
「ちょっと派手すぎだよ。ラメが凄いじゃない」
「この位で丁度いいです」
「駄目だよ。ライトが反射して眩しいと思う」
「うー、難しいですね」

翠星石が選ぶのはどれも過剰なほど派手さがある衣裳であった。
どうせやるなら目立った方がいい!というのが翠星石の言い分だったが、派手すぎては観客が疲れてしまう。
蒼星石はそこを指摘し、駄目出しをするのだった。


「じゃあこれはどうです?」
「…緑や青が基調、って言いながら赤や紫、黄色が入ってるじゃないか。これじゃ虹色だよ」
「うー、じゃあこれは」
「は、派手は派手かもしれないけど虎模様のビキニはちょっと…」
「会場の男どもが大喜びです」
「僕がやだ。恥ずかしいよ…」
「うううー、我侭な妹ですね!」
「…僕が悪いの?」

そんな事を言いながら衣裳をとっかえひっかえ。既に2時間以上が経過していた。
小さ目の店でも一つ一つの服を見ながらだと結構な時間が掛かる。
ましてやここはかなり規模が大きい。二人はまだ半分も見終わっていなかった。

「じゃあこれにするです」

翠星石が取り出したのは、多少のラメが入った青と緑のジャケットであった。
これに白のパンツを穿き、ブラウスのカラーリングを合わせれば問題はないようだ。

「うん、いいね。値段は?」
「えーと……げげっ、24,800円もするです!」
「うわ。高いなあ…」
「ま、いいです。真紅に後で請求するですよ」

翠星石達にこんな難題を押し付けたのだから当然です、とさらりと言ってのける翠星石。
結局、真紅は合わせて60,000円近くの額を請求された。
そのため、暫く好物の紅茶を控える事になったのだがそれは別の話である。


そんなこんなでコンパ当日である。
二人は一旦桜田邸へ向かい、そしてのりと共にコンパ会場へ行くという事になっていた。

「うー、緊張するなあ…」
「言い出しっぺが緊張してどうするです。それにここはまだJUMの家ですよ」
「でも、滑ったらって考えると…」

蒼星石の顔から血の気が失せていた。
元来目立つことが苦手な彼女は、自らが言い出した事とはいえ「ステージに立つ」というプレッシャーに押し潰されかけているのだ。
失敗したらどうしよう、もしつまらなかったら?笑いが取れるどころかブーイングを受けたら…
マイナス思考はどこまでも連なり、蒼星石の心を押し潰している。

「蒼星石、聞くです」

翠星石は、はあと溜息をついた。
普段は凛としていてプレッシャーなどは跳ね除けてしまう、そんな人間。
だが、いざマイナス思考を始めてしまうとどこまでも落ちていってしまう。
蒼星石の悪い所であった。

「翠星石達は素人です。失敗して当たり前です」
「うん…解ってる」
「むしろ滑って当然、笑いを取れたら儲けもんです」
「うん…」
「それに、これは余興です。要はやる事に意義があるですよ」
「やる事に…」
「そうです。余興をやれと言われて断ったら場が白けちまうですが、その言葉に乗ればどんなつまらない芸でも場を暖める事ができるです」
「余興…か…」
「余興ですよ。素人の余興なんて、知れたものです」
「そっか…そうだね。もっと軽く考えるべきだった」
「その通りです。折角やるなら翠星石達も楽しむですよ」
「うん!」

そんなやりとりが功を奏したのかは不明だが、蒼星石は先ほどまでとはうって変わって楽しげな表情をしている。
二人の脇にはそれぞれ小さなスーツケースがあり、そこには先日購入した衣裳が入っていた。
会話が途切れると、二人はそのケースを撫でる。まるで、おまじないをするように。

「翠星石ちゃん、蒼星石ちゃん、そろそろ行くわよぅ」
「あ、はい!」
「ですでっすぅ」

それから程なくして、のりを含めた3人は会場へと足を向けた。


簡素なステージの上で、男性部員がマジックを披露している。
マジックといっても市販のキットを使ったもので、いわゆる「子供だまし」的なものなのだが、コンパの参加者にはやたらと受けていた。
女子生徒の一人など、「その耳を大きくするの欲しい」などと言う始末。
なるほど、翠星石の言うとおり「何をやっても盛り上がる」という状態だった。

「ええと、次は…のりー?準備いい?」
「あ、はーい。ええと、その前にお知らせがあります」

進行役の女性部員がのりに声を掛ける。
それに応じるように、のりはマイクを手に取った。

「実は私、芸らしいものってできないので…急遽、助っ人を呼んでしまいました」

ちょいちょいとのりが手招きをした。
それを合図に、翠星石と蒼星石がステージへと立つ。
衣裳は先日の買ったものだ。それに加えて蒼星石はシルクハットを被り、翠星石は猫耳のカチューシャをつけている。

「助っ人の蒼星石と」
「翠星石です」
「二人合わせて」
「あおみどり、です」
「「よろしくどうぞー」」

やんやの拍手。それもそのはず、この二人を含めた薔薇乙女と呼ばれる8人は、大学内でも相当の人気を誇っている。
そんな二人がステージに上がっているのだ。盛り上がるのも道理であった。

「蒼星石」
「何?翠星石」
「この間、蒼星石は一人であやしげな事をしてたですね」
「え。な、なんの事かな?」
「惚けても無駄です。真っ赤な顔して、なーんか変な声出してたじゃないですか」
「…あ、あれ見てたの…」
「当然です」
「恥ずかしいなあ…人に言える事じゃないのに」
「人に言えない事をするなんて、とんでもない妹ですね」
「だって言えないじゃない。ブ×ワーカーでダイエットなんて」
「ダイエットくらい普通じゃないですか」
「…それが、やりすぎて…腕だけがやけに筋肉ついちゃって…ほら。」

蒼星石が袖をめくると、むっちりとした筋肉に覆われた左腕が現れた。
もちろんそれは肉襦袢なのだが、言わないのがお約束である。

「やりすぎは毒ですね。そんなマッチョ、女にしかもてないです」
「全くだね…って僕一応女の子なんだけど」
「戸籍上は女ですね」
「幾ら姉でも言って良い事と悪い事があると思うんだ」
「お姉ちゃんが悪かったです。だからそのでっけー鋏をつきつけるのやめるです」
「解ればよろしい。さて、翠星石」
「何ですか、蒼星石」
「君がこの間借りてきたビデオだけどさ」
「あー…あれ、見ちまったですか」
「うん、見た…正直、びっくりしたよ」
「うー、見られたくなかったですのに」
「鞭をびしびし振るってて、凄かったよね。翠星石はあんなのがいいの?」
「そうそう、翠星石の靴を舐めやがれですおほほほほ!って違うです!」

ズビシ、とウラ手チョップを決める翠星石。
練習時間があまり取れなかったのだが、そこは双子。よく息が合っている。

「だって、そのシーンで止まってたじゃない」
「印象深かったですからね」
「ま、でも翠星石の好みが良く解ったよ」
「好みってなんですか!」
「またまた、隠す必要なんてないのに。そういうの好きな人って結構いるよ?」
「っていうかバルログは悪魔じゃねえですか。そんなの真っ平ごめんです」
「ま、確かに…翠星石がそんな奴に惚れてたら、翠星石を愛してる僕としては修羅場以上の取り合いを展開する事になりそうだよ」
「今なんて言いやがったですかこの妹。さらりと恐ろしいことを」
「何が?」
「さらりと『翠星石は僕のもの』発言しやがったですこいつ」
「うん。だって僕の大事な家族だもん。家族愛って変?」
「家族としてですか。びっくりさせるんじゃねーです」

終始こんな具合で二人の持ち時間である十分が終了した。
内容は素人丸出しのものであったが、テンポの良いトークのお陰で場が白ける事もなく盛況であった。

「翠星石ちゃん、蒼星石ちゃん、助かったわあ。ありがとう」

舞台袖に引き上げてきた二人にのりがドリンクを渡す。
受け取って半分ほどを一気に飲み乾し、二人はふうと息をついた。

「楽しかったですね」
「楽しかったね」

にこ、とお互いに笑いあう。
観客以上に二人はやりとりを楽しんでいた。
普段なら絶対に言わない「毒」の部分を芸として吐き出す事で、毒から笑いの種へと昇華する。
その快感に、ある意味で酔いしれていた。

「二人とも、良かったら少し飲んでいってね?」

あまり酒を飲み慣れていない二人である。始めは進行役の女性部員の誘いを断っていた。
しかし、他の部員が強引に二人を用意した席に連れて行かれ、結局飲まされるハメになったようだ。


「僕、お酒苦手なんですよ…」
「まあまあ、せっかくだし一杯だけ」
「あ…そ、蒼星石にお酒飲ませちゃ駄目です…って遅かった……」

正面でビールを注ぐ男性部員に申し訳無さそうに告げる蒼星石。
水銀燈の悪戯で飲むことになってしまったチョコレートリキュール以外、酒らしい酒を飲んだことは無かった。
蒼星石はその時の記憶を残しておらず、後々翠星石に語って聞かされた際に真っ赤になって謝ったという。
その時起こった事件については、敢えて此処では語らない事にしよう。
只言えるのは、翠星石がその被害に遭ったという事だけである。
そして、その被害を克明に覚えているが為に何としてでも蒼星石の飲酒を止めようとしていた。
だが、既に蒼星石の前に置かれているグラスは空になっている。

「うーぁー…きもちいー……」

にへら、とだらしなく蒼星石が笑う。ビール一杯で既に酔いが回っているらしい。
きょろきょろと視線を彷徨わせながら、時々上機嫌そうに笑っている。

「翠星石って可愛いねぇ」
「わ!?な、なにするですか先輩!?」

ラクロス部の部員にいきなり抱きつかれ、翠星石は目を白黒させていた。
格好いいという蒼星石とは対照的に、翠星石は可愛いという印象を持たれることが多い。
それは男女問わずであり、今回抱きついてきた部員も女性であった。
頬擦りされて「やめるですー」と困った様子である。
そんな様子が蒼星石の視界へと入り、無言で蒼星石が立ち上がった。

「先輩」
「あらー、蒼星石もだっこして欲しいの?」
「違います。すぐに翠星石から離れてください」
「そ…蒼星石…?目が怖いです…」

視線が鋭い。まさに射抜くような視線である。
これが漫画なら、きっと「ドドドドドド」と擬音が入っているに違いない。そんな様子であった。
背後になにやらオーラが見え隠れしているのはきっと気のせいだろう。そう思うことにした。

「えー?だめー。翠星石は私のー」
「翠星石は僕のです」
「やだ。翠星石は私のー」
「あげません」
「もらうー」
「あ・げ・ま・せ・ん」
「…もらうったらもらう」
「………そうですか」
「蒼星石やめるです!先輩も離れて…こ、このままじゃ血を見るですよ」
「「翠星石は黙ってて」」

抱かれた状態で仲裁をしようとする方が無茶というものである。
最早二人の間には殺気がみなぎっており、渦中の人である翠星石はどうしたらいいのかただおろおろするだけだった。
一触即発、見敵必殺。そんな言葉が似合うほど、二人の殺気は濃厚だった。

「残念です。この場を血で汚す事になるなんて」
「あら怖い。殺人者の姉っていうレッテルを翠星石に貼ろうとするなんて、とんだ妹だこと」
「口だけは達者ですね。その言葉で翠星石を誑かすんですか」
「誑かすだなんて失礼。愛を囁いてるのよん」
「愛を語っていいのは僕だけだッ!」
「…………」
「翠星石も黙ってないで何とか言ってやってよ。翠星石は僕のでしょ」
「私のよ」
「…………」
「翠星石に決めてもらおう。僕と先輩、どっち取る」
「勿論私よね」
「おー、まー、えー、らー……」
「ん?何?もう一回言って」
「そうそう、もう一回」
「おまえら喧嘩はやめやがれです!!!」

この空気に耐えかねたのか、翠星石が爆発した。
そのえもいわれぬ迫力に押され、二人が大人しくなったので良しとしよう。
…ただ一つだけ、この3人のやりとりによって他の部員の酒がまずくなったのだけはいただけなかったが。


「蒼星石ちゃんは翠星石ちゃんが大好きなのねぇ」
「困った妹です」
「愛されてるのは良い事よう」
「愛されるにも程があるです……」

結局コンパは一次会で引き上げる事にして、3人は帰宅の途についていた。
あれから蒼星石は眠ってしまい、今は翠星石がおぶっている。
時々寝言で「翠星石は僕の」と聞こえるが、翠星石は聞こえないふりを決め込んでいた。

「あらぁ、じゃあ翠星石ちゃんは蒼星石ちゃんが好きじゃないの?」
「う。そりゃー…す、好きですけどぉ」
「ならいいじゃない。相思相愛、万事解決」
「でも翠星石と蒼星石は実の姉妹です。女同士が仮に問題なくても血のつながりは深刻ですよ」

肩の上で幸せそうな寝顔を晒している蒼星石に翠星石は視線を向ける。
この子はそういう事を考えないのだろうか?酒の勢いでテンションが上がってあんな事を言っているだけかもしれない。
幾ら考えても答えの出ない疑問。
正解は本人の心の中にのみあった。

「きっと、蒼星石ちゃんはそんな難しいことを考えているわけじゃないわよぅ」
「んな!?な、何故翠星石の考えてる事が解るです」
「解るわよぅ。私も似たような経験があるから」
「…そ、そうですか。あー、えーと、でも……」

あっけらかんと言い放つのり。
翠星石は呆気に取られ、言葉が上手く紡げない。
のりは弟であるJUMを溺愛していた。
何かある度に世話を焼き、時々それが度を越してしまいJUMに怒られる。そんな日々であった。

「…じゃあ、蒼星石は何を考えてるです?」

当然の疑問をぶつける。返ってきた答えは単純であった。

「簡単よう。好きか、嫌いかって事」
「…それだけですか?」
「それだけ。血のつながりとか性別とかは関係ないの。好きだから好き」
「……簡単すぎるです」
「でも、そうとしか言いようがないのよぅ」
「うー、ますます良く解らんです」
「翠星石ちゃんは、蒼星石ちゃんが好き?」
「そりゃ好きですよ」
「だったらそれでいいのよぅ。好きだから好き。そういう事」
「……うー、難しすぎです……」
「なら、今度蒼星石ちゃんに聞いてみるといいかも」
「…恥ずかしいけど、そうしてみるです」

翠星石の耳元で、「翠星石、大好き」という声がする。
酒は本音を呼び出すという。きっとこれは蒼星石の嘘偽りの無い言葉。

「まったく…困った妹です」

くすりと微笑みあって、二人と背負われた一人は夜の道を歩いていった。
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