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次の日、学校に行くとなんだかみんなの視線が冷たい。
まあ、予想はしていたことだけど。
きっと昨日までの僕なら、これだけでへこみまくっていただろう。
けれども、僕には『信頼』できる『友人』がいる。
なに、へこむ必要はない。こいつらは、僕が素晴らしい『友人』を持っていることに、嫉妬しているだけなんだから。
どうせ真紅がくだらない噂を流したんだろう。
噂を真に受ける奴にろくなやつはいない。
もちろん、流す奴にも。
僕は一回り『成長』した。
タフで強く、美しく。
ナルシストは嫌われる。けれど、根暗はそれ以上に嫌われる。
多少、ナルシスト気味のがいいんだ。
僕はその日、俯くことなく昼休みまで過ごした。
たとえまわりから、罵られようとも。

昼休み。
水銀燈を誘ってみた。
驚いた顔をしていたけれど、笑顔になって一緒に来てくれた。
今日は巴も来ている。
巴さんより、巴っていうほうが呼びやすいな、やっぱり。
今度一緒に遊びにいってみよう。
「みんな、水銀燈も来たよ。」
「こんにちわ。私は巴よ。」
「雛苺なのー!」
「わ、私はす、す、翠星石ですぅ。その、よろしくですぅ…」
「私は水銀燈よぉ。」
ふふ。珍しい。久しぶりに翠星石の人見知りが出ている。
翠星石も、僕が最初そうだったように、水銀燈に見とれているようだ。
ちょっと大人びた、その柔らかな物腰は、誰でも憧れるだろう。

その時、もう来るとは思わなかった二人が机を寄せた。
「べ、ベジータです!よろしく!」
彼はいい人だ、けれど今は華麗にスルーだ。
「……桜田ジュン。知ってるよな?」
「ええ。…むかしッから真紅と一緒に居たもんねぇ。」
「ジュ、ジュン!いまさら何をしに来たんですか!」
「弁当を食べに。」
「真紅が、真紅が蒼星石に何をしたのか、わかってるんですか!?」
「…まだ、始まってすらいないよ。」
そのとうり。
「そのとうりよぉ。それに、ジュンは真紅の『下僕』、つまり『召使』であって、『取り巻き』じゃぁない。」
「何いってるのかよくわからないのー。」
「こき使われるだけの存在ってことだよ。真紅の奴にな。」
こういったとき、ジュン君の顔にはわずかに笑いが浮かんでいた。
僕は、その笑いをよく知っている。
自分を諦め、嘲笑う笑みだ。
…今日は、追い返さないでおこう。
彼は少なくとも、嫌な奴ではなさそうだ。
「さぁ、みんな、早くご飯食べようよ。昼休み終わっちゃうよ?」
「そうねぇ。食べましょうか。」


さて、真紅がおそらしくけしかけたであろういじめは、実にしょぼい。
上靴隠しに始まり、席に画鋲を置く、無視をする、などだ。
ぬるい。実にぬるい。
幼稚園から中学校まで、いじめられ続けた超根暗だった僕にこの程度のいじめは通じない。
無視などいじめに入らない。上履きだっていつも予備を用意している。
画鋲なんざ払えばいい事。教科書は破られてもさして困らない。
もうすでにすべて勉強したから。それに、年度初めにすべてコピーをとっておいた。

それでも、僕はある程度困った振りをすることにした。
いじめというのは相手が平気そうであればあるほど、エスカレートしていく。
破かれた教科書を見つめながら酷いよ…。とでも呟いて、涙を少しこぼしておけば、大体それ以上の虐めには発展しない。
何日か学校を休んでみてもいいだろう。
ただし、あくまで相手の加虐嗜好に触れない様に、注意しなければいけないけれど。
そう。
たった、それだけのことのはずだった。
いつもどうり、適当に流しておけばいいだけの事。
そのはず『だった』。
いつか、真紅は言っていた。
“でも、あなたもともと『友達』多くないじゃない。それ、全部『ゴミ』にしてあげるから。”
まさか、それは無いだろうと。
高をくくっていた僕が間違っていた。
翠星石の学校からの帰りが、遅い日があった。
なにか、落ち込んでいる。
「翠星石、どうしたの?」
「……なんでもない…こともないですぅ。」
「何かあったの?」
「…蒼星石の、友達だからって、いじめられたですぅ。」
「ええ??」
「たいしたことじゃないんですけど…。ペットボトルを2、3人の男女に投げつけられたんです…。」
翠星石は、今まで虐められたことがない。はずだ。
そのショックは大きいだろう。

ひょっとすると、雛苺や巴、ベジータ、さらには水銀燈まで、何かされているかもしれない。
とめなければ。
やめさせなければ。
僕一人なら別に何をされてもかまわない。笑って、へらへらしていればいいだけのこと。
ただ、友達にまで手を出すのはやりすぎだ。
絶対に許せない。
どうすればいいだろう。
なんとか、なるだろうか?
幸い、雛苺も巴も翠星石も、女子の友達は多い。
水銀燈も男子に人気があるし、ベジータもそうだ。
それらが真紅に全員寝返るとは思えない。
彼らは、それなりに人脈もそこそこ、人望も結構ある。
なんとか、なるだろう。
と、いうよりも、いじめに加わっているほとんどは真紅になんとなく煽られているだけなんじゃないか?
真紅にそれほど人気、カリスマ性があるとは思えない。
みんなをちょっと落ち着かせたら、あっという間にこのいじめは消えてなくなるんじゃないだろうか?
そんな気がする。

 

真紅、真紅、真紅。
僕はなんだか君が哀れになってきたよ。
人はいつまでも押さえつけられてはいないんだ。
君はおそらく、自分で思っているほど人望は無いんだよ。
小学校の延長でここまで来てしまったのだろうね。
けれど、他の人もすべて、小学校の延長でここまで来ているわけじゃないんだよ。
すべての人間が自分の前に平伏している様に見えるんだろうね。
逆らうものはすべて潰せる様に見えているんだろうね。
真紅、真紅、真紅。
それは、とても大きな間違いだ。
僕が、そのことを気づかせてあげよう。
君は誰の上にも立っていないと。

案外、僕らに関しての噂は嘘だと説得したらみんなこっち側に簡単に寝返った。
どうも真紅の言っていることは、完璧なのだけれど信用性に欠け、嘘臭かったそうだ。
それに、みんな僕たちがそんなことをするわけないと、信じてもくれた。
やはり、人望というのは大事だ。
結局、いじめは一ヶ月と続かず、僕達は学校生活を楽しんでいる。
真紅、僕は君のおかげで大切なことに気付けた。
友達を裏切ってはならない、疑ってはならないことに。
そのことでは感謝しているよ。
けれど、君はどうなんだい?
このことで何か気付けたかい?

真紅、君は、自分をはっきり理解しているかい?
世界は君の望む色に染まりはしないんだよ。
世界はいつまでも同じではないんだよ。
君はもう、女王ではないんだよ。
酷な様だけれど、事実なんだよ。
逃げれやしないよ。君はこの世界に生きているんだから。
さあ、目を開けてごらん。
真紅、真紅、真紅。
確かに君は嫌な奴だよ。けれど僕は、君が哀れでならない。
君は泣いたことがあるのかい?
君に友人はいるのかい?
君の思いを受け止めてくれる人はいるのかい?
君は嫌悪に満ちた賞賛がほしいのかい?
君へ憎悪と驚嘆の眼差しを向けるべきなのかい?
真紅、真紅、真紅。

 

僕は君が、

 

「おかしいのだわ。なんで、蒼星石たちを潰せないの?やり方は完璧なのに…。」
「…真紅」
「別の手段に切り替えるべきかしら。 この方法をもうしばらく続けたほうがいいのかしら。」
「真紅。」
「そうそう、新しいアクセサリーも探さなくっちゃね。全く、こんなに早くだめになるなんて思っても見なかったわ。」
「真紅!」
「…何?やかましいわよジュン。」
「……もう、うんざりだ。もう、嫌になったよ。」

「いったい何を言っているの?」
「真紅。僕は君がしてきたことを小さい頃から見てきた。
それもすぐそば、君の側でだ。けれど、片棒を担いだことは無い。
それでも、お前の近くに居続けた。
何故かわかるか?いや、わからないんだろうな。」
「…口の利き方がなってないわね。zy
「うるさい!!僕は、お前のそばになんか居たくなかった!
けれど、僕がそばに居て、何とかお前を抑えられるかもしれないと思ったんだ!
いや、違うな。何とかお前を制止しなければいけないと感じたんだ。
僕の初恋の人を、不登校に追いやるのを目の当たりにした時に!
アクセサリー?すべての人間に嫌われてまでやさしい、うつくしい、賢いなんていわれたいのか?
確かに、傍に居て何回かお前の行動をとめることもできた!けど、けどもううんざりだ!
お前は一向に成長しない!一向に『人』を『人』と認めない!
…もう、僕は疲れたよ。二度と会いたくない。」
「何を言っているの?あなたは私の下僕なのよ?
勝手なことを言わないで頂戴。」
「勝手なのはお前だろう!誰が下僕だ!家が近くて気弱だった僕を、勝手に自分の召使に仕立て上げたのは!
何度も何度も言わせるな!もううんざりなんだよ。僕には、お前のそばにいたせいで少ないけどベジータ達、友達がいる。
けど、お前は違うんじゃないか?
俺は、もうお前のそばに居たくない。
孤独の味をしっかりと噛み締めてみろ。」
「いつまでも私に協力し続けてくれる、従順な下僕、それがあなたなのよ!
なんなら、特別に私の恋人に格上げしてあげてもいいわ!」

「……確かに、一時期お前に恋心を抱いていたこともあったよ。
けれど、今となっては昔の話だ。
すぐそばでお前を眺め続けたら、百年の恋も冷めちまう。
それにな、誰が召使の延長線上にある、恋人になんかなりたがる?
もう一度だけ言うよ。
もううんざりなんだ!下僕?召使?
僕は人だ!それも男だ!
お前は一人で永遠に、孤独を噛み締めながら!
永久に手に入ることの無い『絆』に思いをめぐらし、それがどんなものか考え続けてろ!
僕、いや、俺はもう、お前の元には戻らない。」
「一つだけ訊くわ。なぜ、今それを言うの?」
「もう、誰もお前に騙されないとわかったからさ。
俺がお前を止める必要が無くなった。
だからさ。
これで、すべては終わりだ。
二度と話しかけるな。反吐が出る。」
「ま、まって!」
振り返らずに、ジュンは去っていく。
「何を、どこで、間違えたのかしら…?
ひょっとして、最初から……?
それはないわ。絶対にありえない…。
……けれど、ジュンは惜しかったわね…。
久しぶりに、涙がこぼれそうなのだわ……。」



哀れでならない。

 

そして、しばらくして。
真紅は、外国へと留学していった。
たまたまか、それとも今回のことのせいかはさっぱりわからない。
けれど、わからないほうがいいんだろう。
ジュン君やベジータ達は相変わらずいい友達だ。若干変わったことは、ジュン君がベジータに似てきたことぐらい。
水銀燈も、すっかり僕達の中に溶け込んだ。めぐさんとも時々遊んだりする。
翠星石と、めぐさんはものすごく気が合うようだ。似たもの同士なのだろう。
二人して、僕や水銀燈をからかってくる。
それでも、けして嫌がらせはしてこない。
まあ、当たり前か。

そして今。
僕達は林間学校に来ている。
もう夜中も近い。
みんな、布団にもぐりこみ、コショコショ内緒話に忙しい。
「ねぇ、こうして先生たちの目を盗んでこっそり喋ったり、遊ぶのって学生生活の醍醐味じゃない?
高校を出たら、もう先生達はいないんだし。学年全体での泊り込みの合宿も無いよ。
楽しいよね、こういうの。あと数回しかないなんて残念だよ。」
「そうかもねぇ。大学生になったら、こんなわくわくもなくなるもの。やっぱり、先生の監視ってムードを盛り上げるわぁ。」
「うるせぇですよ、二人とも。懐中電灯持ってきたんで、トランプでもやりませんか?」
「いいわよぉ。」
「…うん。そうだね!」
「蒼星石、声がでかいですよ」
時々、くだらない思いが起きる。
そして、それはいつも不安へとつながる。
いつまでこのままでいられるのだろうかという。
それは、そのときが楽しければ楽しいほど湧き上がりやすい。

けれど。
けれどだ。
先のことしか考えられず、今をないがしろにするのは。
今を捨てることだ。そしてそれは、生きていくうえで一番やってはいけないことだ。
そうとも。
思いっきり、今を楽しまなきゃ。
大切な、『友人』達と。
友情というのは、何物にも変えがたい。
孤独を埋めてくれる、甘露の雨。
思い出の中に燦然と輝く一粒の宝石。
絶対に、捨ててはいけない。
絶対に、裏切ってはいけない。
そして、なによりも。
決して、友達を。
忘れてはならない。
時という砂の中に。
埋もれさせてはならない。

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