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家は、いつもとかわらずどこか寂しげに佇んでいた。
いつもはなんとも思わないのに、今日は家が無性に懐かしい。
勢いよく、扉を開けた。
「遅いですよ、蒼星石!こんな時間までいったいどこほっつき歩いてたんですか!
ほら、ご飯できてますから早く一緒に食べるですぅ!」
いつもと全く変わらない、いや、ずっと昔からかわらない翠星石。
なぜ、僕は翠星石を疑ったりしたんだろう。
こんなにも、彼女は優しいのに。
「ほら、早く中に入りやがるですぅ!そんなとこにボーっとつったってたら風邪引きますよ?」
「そうだね。ご飯、今日は何?」
「お、お手軽にカレーです。べ、別に手抜きしたわけじゃありませんからね。」
「うん。おいしそうだね。」
「そういってもらえると嬉しいですね。さ、早く食べるです。」
「…でも、その前に話があるんだ」
今、話をしなければ、僕はきっと二度とそのきっかけをつかめない。
今まで、それ以外のことでも、それで何度悔やんだか。
今回だけは、きちんと話をしなければならない。
翠星石にだけは、嫌われたくない。
なにしろ、僕の大事な大事な…
「…やっと、話してくれる気になったんですか」
「え?」
「私は鈍いほうですが、さすがに十何年も一緒に暮らした妹の様子がおかしいことぐらいわかりますよ。
何度問い詰めようと思ったかわかりませんけど、問い詰めても話してくれそうにありませんでしたから、
話してくれるのをまってたんですよ。
…なにが、あったんですか?」

翠星石にまで、気づかれていたのか。
自分では、感情を押し殺すのはうまいと思っていたんだけれど。
さて、どこから話そうか。
翠星石のことだ、全部話したら真紅の家まで殴りこみに行きかねない。
はは、嬉しいな。翠星石が僕の『心配』をしてくれると、『確信』できる。
昨日までなら、きっと僕のことなんかで殴りこみに行ってくれる等考えられなかったろう。
人に『心配』させるのは、いけないことだ。
おそらく、その人を悲しませ、泣かせるのと同じぐらい。
けれども、『心配』してくれる人がいるというのは、なんと嬉しいことなんだろう。
「蒼星石、何を考え込んでるんですか?
…大丈夫、何を聞いても驚きませんよ。
……真紅に、あの時何か言われたんですね?」
翠星石にまで感づかれてたか。
一番、僕が鈍いみたいだ。
話そう。包み隠さずに。
最初から最後まで。
翠星石は僕を『信頼』してくれている。
それにたいして多少とはいえ『嘘』を混ぜたことを話すのは、
翠星石の『信頼』を『裏切る』ことだ。
…それはもう、二度としてはいけない。
さあ、話し始めよう。
もう一度、思い返して。
いくらつらくても、事細かに思い出すんだ。
翠星石には、きちんと伝えなければいけない。
きっと誰よりも、心配してくれたはずだから。

「そうだったんですか…。真紅がそんなことを…」
「うん。僕もいまだに夢見たいな気がしてるんだよ。
本当に、夢ならいいのに。」
「そんなことがあったんなら、早く話して欲しかったです!」
「ごめん。でも、誰も信用できなくなってたんだ。雛苺も、翠星石でさえも。
自分でも嫌気がさすほど疑り深くなってね。
世界が真っ暗にみえたんだ。
それで、どうしても話す気になれなかったんだ。」
「………ひょっとして、話す気になったのは、水銀燈と関係があるんですか?」
「え?う、うん、そうだけど、なんでわかったの?」
「前に何回か話したときに、真紅と付き合うのはやめとけって言われたんです。ろくでもない奴だからって。
その時はふざけたことをいってるいけ好かない野郎だと思ってたんですが、
どうやら正しかったみたいですね…」
「そんなことがあったんだ。でも、そう思ったのも無理はないよ。
真紅はなんだかんだでいい人だったもん。」
「ちがいますよ。いい人の振りをしてただけですぅ。」
「そう、だったね…」
「水銀燈には、ひどいことを言ってしまったですぅ。
明日、謝るです。」
「それがいいよ。」

「蒼星石。一つだけ約束して欲しいです。
これから、もう二度とないと思いますが、こんなことが会ったらすぐに話して欲しいです。」
「……うん。約束するよ。」
「……………一つだけ言っておくですぅ。蒼星石は、翠星石の誰よりも大事な妹です。
何があっても、蒼星石を裏切りはしないですぅ。
絶対に、絶対に、ぜぇーったいにです。
大切な大切な蒼星石、姉自慢の蒼星石なんですから。
世界で一番かわいくて優秀な蒼星石なんですよ?
もっと、自分に自信を持っても構わないですよ。
さ、さめる前にカレーを食べるですっ!」
そういって、スタスタと歩いていった。
照れてるんだろう。
僕は絶対にもう、翠星石を疑ったりはしない。
何があっても。
今までの自分が恥ずかしい。
こんなにも大切に思ってくれているのに。
もう二度と、翠星石の『信頼』を『裏切り』はしない。
「…おねえちゃん。ありがとう。」
「ど、どうしたんですかいきなり。は、早くカレーをたべるです。早くするですぅ!」
大好きで大好きで大好きな、僕の、大事な大事な大事な、おねえちゃん。
「今日、一緒に寝ない?おねえちゃん。」
「ほ、本当にどうしたんですか?
い、いいですよ。
と、とにかくカレーを食べるですッ!」
カレーは、とってもおいしかった。

 

「翠星石の布団でいい?」
「いいですよ。」
「ふふ。久しぶりだね。こうして寝るの。」
「小学校以来ですかね。」
「そうだね。」
「…大きくなったですね、蒼星石」
「翠s、おねえちゃんもね」
「ほ、ほ、本当にどうしたんですか?」
「たまにはいいじゃない。照れてるの?」
「ま、まさか。ほら、早くねるですよ。」
「……うん。おやすみ、おねえちゃん。」
「お、おやすみなさいですぅ。」
その後、翠星石は子守唄を歌ってくれた。
小さいころよく歌ってくれた子守唄。
それにあわせてトントンと背中をたたいてくれた。
…明日も、こうして寝ようかな。
そんなことを考えていると、あっという間に僕は夢の中に沈んでいった。
本当に、わずかな時間しか感じていられなかったけど、翠星石の体はとても温かかった。
夢のなかは、翠星石のぬくもりとやさしさで、満ち溢れていた。
それはとても懐かしい匂いのする、快い夢だった。

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