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「・・・ですぅ」

夜の闇に映える、光の芸術。
世界一と称されたつり橋の警告灯は、いつの間にか幻想的な芸術へと化す。

「それが、僕の正直な気持ち」
「・・・」
「だからここに連れてきた」
「・・・」
「答えは急がなくていいよ?」

--光と影
と言う言葉は今はふさわしくないのかもしれない。


気持ちは、まっすぐ、彼女へと向けられる。

夜なのに・・・夜なのに、暑い。



思えば、昼間も暑かった。 


ここは神戸の西側、地下鉄の駅で言う西神中央があてはまる。
一歩外せばのどかな田園風景がひろがる土地。
そのど真ん中を幹線道路と新幹線が突っ切る、「現代的な田舎」

僕はこういった風景が好きだった。
もう少しで喧騒から離れられるはずなのに、どうしてもそれを許さない現代の産物。

調和しないはずの、相反するものが一堂に会し、なぜか調和している。

「長閑だろ?」
「ただ単に田舎なだけですぅ」
「だって田舎だからな」
「それに、お前の好きな色がたくさんあるだろ?」
「そうですねぇ・・・確かに翠星石の好きな色がたくさんあるですぅ」

彼女は言った。
--どこか、長閑な場所に行きたいですぅ。

だからここに連れてきた。
ここは僕のお気に入りの場所。

「しっかし暑いですぅ・・・」
「夏だからな。お茶あるけど、飲む?」
「気がきくやつですねぇ♪いただくですぅ」
「ほい。ありがた~く飲めよw」
「何言ってやがるですかこのちび人間。翠星石様に飲んでいただくだけでもありがたいんですよ?そっちが感謝しろですぅ」

まぁ、相変わらず・・・と言うかなんというか。

出会ったのは桜咲く、4月。
お互い地方から出てきて、気づけばなんとなくいつも一緒にいた。

「次はどこ行く?」
「う~ん・・・」
どこまでもすかっとしてて、むかつくくらいの青い空。
翠は太陽の恵みを燦々とと受けながら、秋の恵みへの備えをする。
隣人が悩んでいる間、そんなことを思っていた。

「海がいいですぅ」
「どうして?」
「空をみてたら海が見たくなったですぅ」

単純だな。
でも、そんなことは口には出さない。
出そうもんなら彼女はむくれてしまう。
あえてそうしてもいいのだが、自分の中でそういった悪戯心を抑える。
今は、そんな気分じゃない。

どっちかってーと、この時間と空間をゆったりと共感したいから。

「じゃあ、行くか」
「どこにですぅ?」
「海」
「今からですかぁ?」
「うん。2本立てで」
「2本立て?映画ならいいですぅ」
「ちげーよw」

僕はもうひとつのお気に入りの場所へと、彼女を導く。

「お前は暇人ですぅ」

彼女が唐突に言う。

「誘ったお前はもっと暇人だなw」
「何言ってやがるですか。翠星石がいなけりゃどうせろくなことになってねーです。
 べっ、別におめーのために付き合ってるわけじゃねーですからね!」

出会った時からこんな調子だった。
でも、どこか憎めない。

それに、すぐに慣れてしまって今では毎度のことでしかない。

「はいはい。ありがと」
「わかればいいんですぅ」

こんな関係がいつまでも続けばいいと思うこともあった。

でも、今はそうでもない。

だから僕は彼女を僕の「一番のお気に入りの場所」へと誘う。



「で、須磨海岸ですか?」
「うん。問題ある?」
「言いたいことは山ほどあるですぅ」
「どうぞ」
「何から言っていいかわかんねーからいいですぅ」
「なんだよそれw」
「まぁいいですぅ。翠星石の願いをコンパクトに叶えてくれてるですから」
「まぁ、コンパクトっちゃあコンパクトだよな」
「ロマンチックのかけらもねーですぅ」
「いいだろ?それに僕はロマンチストじゃないし」
「おめーがロマンチスト?大問題ですぅww」
「おいおいひでーなwそんなに笑うことかよ?」
「ですぅ♪w」

砂浜でぼーっとしている2人。
監視員からすれば何をしに来たんだこいつらって思う画だろう。
水着に着替えているわけでなく、泳ぐわけでなく。
ただただぼーっとしているんだから。
「それにしても暑いですぅ・・・」
「さらに暑さのレベルが増したな」
「こんな暑いとこにひっぱってくるなんておめぇは鬼ですか?」
「鬼じゃないなぁ」
「なんでもいいですぅ。なんとかしろですぅ」
「無茶言うなよwでもアイスならある」
「よくやったですぅ♪」

こうも献身的になれるのは、やはり特別な感情でもない限り無理。
少なくとも僕はそういう人間のはずだから。

夏の海岸は暑い。
当たり前のことだけど。
アイスだって気を紛らわすことはできないから。
いや、紛らわしてはいけないことなのかもしれない。

「ひたすら瀬戸内海ですねぇ」
「日本海って言われても困るからなぁ」
「そらそうですぅ」
「で、満足した?」
「まぁ75点ってとこですぅ」
「微妙だなw」
「ですぅ♪」

まぁまぁ楽しんでくれたからよしとしよう。
--彼女が楽しいと、僕も楽しい。
そんな単純な思考が僕を支配する。

夕方とはいえまだまだ暑いからだろうか。

夕日が海を紅く染める・・・
どことなく切ない風景。

ふと彼女を見る。

どことなく切ない表情を浮かべていた。

正直、不安になる。
こんな彼女を僕は見たことがないから。
根拠のない自信を、どこからともなく引っ張ってきて虚勢を張るのに精一杯。
情けない。

「お腹すいたですぅ」

でも、そんな空気をぶち壊してくれたのはやっぱり彼女。

「何食べる?」
「牛丼がいいですぅ。駅前にあったですよ?」
「本気?」
「じゃあおめーは何がいいんですか?」
「いや、特にないんだけどw」
「なら決まりですぅ♪ほら、さっさと行くですよ」

こんなんでいいのか?
いや、僕と彼女だから成立してるのかもしれない。
でもそれは同時に、彼女が僕を恋愛対象として見ていない一種の裏付けみたいなものも感じられる。

だって牛丼屋だぜ?

それでも彼女の希望には変わりないのは確か。

「B級グルメ万歳ですぅw」
「確かに値段の割にはいけるんだよなぁこれ」
「まぁ翠星石の作った牛丼の方が100倍以上うめぇですけど♪」
「食ってみたいなぁ~怖いもの見たさでw」
「どーゆー意味です?」
「大した意味はないw」
「このちびちび!翠星石の料理の腕前を知らんのですかぁ?」
「しらねーw」
「キィィィーッ!今に見てろですぅ!」
「期待しとくよw」
「ったりめーですぅ!首を洗ってさらになが~くして待ってろですぅ!」

こんなたわいもない会話が、1時間もしないうちに消えうせる。

でも、それは覚悟していたことだった。
今以上のことを望んだ僕が負うべきリスクだったんだから。

「じゃ、そろそろ次行くか」
「どこ行くです?」
「まぁいいから」

山陽電車はシートがいい。
と言うか、お尻にやさしい。
特急のクロスシートはもう最高。

いつもならそんなことを考えている余裕がある。
でも、今日はない。

目的地までは2駅。
今日に限って山陽が早く感じられる。

--ご乗車ありがとうございました。間もなく、舞子公園です。



そう、僕の一番のお気に入りの場所。
夜の明石海峡大橋。

「おめぇにしてはなかなかのチョイスですぅ」
「ここが僕の一番のお気に入りの場所だからね」
「おめぇの趣味もちっとは見直したもんですぅw」
「ありがとw」

夜の橋は、幻想的だ。
僕はロマンチストでも何でもない。
でも、純粋に綺麗だとか、幻想的だとか・・・素直に思える場所。
多少ベタ感がでるけど、この場所を選んだことを後悔はしない。

「翠星石?」
「なんですぅ?」

回りくどいことは嫌いだ。

「あのさ、」
「?」

後戻りはできないし、できたとしてももうするつもりもない。

「聞いてほしいことがあるんだけど」
「だからなんですか?」

自分の気持ちを、そのまま彼女へと届けるだけ。

「僕は翠星石のことが好きだ」

僕らの間に割って入る、夜の闇の如く重い空気。
昼間とは対照的な気温。

だが、体感温度はもう頂点に達しようとしている。

「・・・な、な~に言ってやがるですか、ふざけるのm」
「本気」

彼女にそんなことを言われたくない。
だからこそ遮った。

「・・・ですぅ」
「でないと、僕が自分の一番のお気に入りの場所に連れてくるわけないよ?」
「・・・」
「それが、僕の正直な気持ち」
「・・・」
「だからここに連れてきた」
「・・・」
「答えは急がなくていいよ?」

--光と影
と言う言葉は今はふさわしくないのかもしれない。


気持ちは、まっすぐ、彼女へと向けられる。

夜なのに・・・夜なのに、暑い。




「・・・そろそろ、帰る?」
「・・・いやですぅ」
「じゃあどうs」

最後まで言えずに、時が止まった。
何が起こったのかを理解するのに多少の時間を要したが、
本能的には理解していたらしくその証拠に汗の量が半端なかった。

閉ざされた唇。

そう、僕は彼女にキスをされたいた。

「・・・これが翠星石の返事ですぅ///」
「・・・うん///」

自分でも、はっきりとした意識はない。
気づいたら自分の腕の中に彼女がいた。

--なんともはっきりしない男だな、僕は。
そんなことを考えれる余裕が、少しだけ生まれていた。

でもはっきりと言えることが一つだけ。

「ずっと一緒にいろですぅ・・・///」

--厭になるほど一緒にいるよ。

僕は彼女と一生歩み続ける。

Fin.

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