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耳を澄ましても 波の音だけ そばにいて欲しかった あの日

えーん、えーんと、二人分の泣き声が聞こえる。少女のようだ。
近くには小さな穴。その中には犬の亡骸。老衰のようだ。
その傍らには一人の少年。きっと二人を慰めているのだろう。
彼の手には、犬のぬいぐるみ。お世辞にも上手とはいえない。
だけど、気持ちがこもっているのは確か。
二人のうちの一人、髪の短い方が一言。
「ありがとう」 さすがにまだ泣いてはいるが。
少年は照れながら、「どういたしまして」と。
「そうだ、おばちゃんが呼んでたよ」話をそらすように言う。
「うん、分かった。行こう、翠星石」
「先に行っててです。蒼星石」と、髪の長い子は返す
「分かったよ」と行く彼女。
少年と少女は二人きり。
そして…


LUNA SEA 第八話 「IN SILENCE」


懐かしい夢を見た。最近夢を見ることが多くなった。
…年をとったかな?なんて思うにはさすがに早すぎか。

私はまだ寝ていたかったので目は閉じっぱなしだ。

今考えてみると、犬が死んだその日にぬいぐるみを貰った。
てなると、それより前に作り、作ったはいいが、渡しにくく、あれを機会として渡したんだろうなぁ。
…彼らしいや。
そういえば、あのぬいぐるみ、どこに置いたっけなぁ?
あの後妹と取り合いしたっけ?
で、壊れてしまったら二人で泣きながら彼の所に直しにもらいにいったっけ?
懐かしいなぁ。よし、後で探しに行こう。

私は重い瞼を開ける。

目の前には、ジュンの寝顔。
…あれ?何で?驚いて叫びそうになるのをなんとか堪える。

…落ち着け、落ち着くんだ、私。
こんな時は、素数を数えるんだ…。
あれ?何だったっけこれ?あぁ、そうだ。彼が読んでて、無理矢理奪って読んだ漫画だ。
…絵柄は好きになれなかったが。
とか思い出せる私は実のところ、冷静なのかも。

よし、落ち着いた所で状況を整理してみよう。
確か昨日は…。

「「はぁっ!?」」
「いや、だから明日から翠星石が側にいるって言ってるんですっ!」
「でも…翠星石ちゃん。お仕事明日からもあるんでしょ?」
まぁ、そう言うだろうな、のりは。でも、
「大丈夫ですよ。翠星石なら結構休み取れるはずです!」
ちょうど、仕事も一段落ついている。
それに加えて、私は社内での受けはかなり良い。
それに、成績もダントツで一位なのだ。
(同僚たちからは人見知りするのに、どんな魔法を使っているのか聞かれるが、これは私自身の実力なのだよ。)
それらを考慮に入れて、おそらく分の悪い賭けでもないはずだ。
「え…でも…」
「本当に心配するなですって!翠星石に任せるですよ!」

そうだ。そんな感じで無理を通した後、お酒には弱いのに、飲んで酔っぱらっちゃったんだ。
多分そうだろう。
…記憶は無いけど。
でも…。あれこれ考えて気を紛らわしたけど、やっぱ、これは無理!!!
「きゃあああああああ!!!」

「こんのぉチビ!何一緒の布団に入ってるですか!」
ジュンの耳元で叫ぶ。

「うわぁ!!」これはさすがに飛び起きた。
たまったもんじゃないだろう。

「いくら翠星石がカワイイからといって、な~に寝込みを襲おうとしてるですか!こんのチビ!助平!モヤシ!コンニャク!
そ、それに迫るなら翠星石がゴニョゴニョ…」
最後に小声だが、ポロッと本音が出てしまった。ちらりと、顔を見る。
…うん、気付いてない。
「い、いやちょっと待てよ!布団に潜り込んできたのはお前だろ!
『一人じゃ少し寒いから、一緒に寝ろですぅ!』とかなんとか言いながら!」
「は?そんなの有り得るわけないです!嘘をつくなですよ!」

ギャーギャーワーワー。昔と変わらない。
いや、あえて昔のように振る舞っているのか。
還らない夢と知りながら。

そして、その不毛な言い争いを続けたあと、私は布団を出て、
「もういいです!朝食作るから、待っとけです!」

…うん、さっきまでの言い争いは布団に入ったまましてたんだな、これが。 

台所へ下りると、すでにのりがいて、朝食も作り終えてしまっていた。

「あら、翠星石ちゃん。おはよう」
「あ、おはようです、のり。朝から騒がしくしてすまんですよ」
「いいのよ、ジュン君が元気になってくれるから」

…うぅ、なんか本当にすまんです。

「でも、本当にジュン君のこといいの?」
「まっかせるですぅ。もう気にすんなですって。
姉として自分がそばにいたい気持ちはよ~く分かりますけど、そっちは今、手が放せないんですよね?」
彼女に任されたプロジェクトは、彼女が初めて手掛けるものであり、それをないがしろにすることなんて出来ないだろう。
同僚からの信頼も厚く、それゆえに仕事を手放せない彼女だからこそ、私はこの申し出をしたのだった。
いや、こういう風に言うのは、自分を偽りたいだけか。

「本当にごめんね、翠星石ちゃん…。これが終わったらすぐに戻るから…」
彼女には私の本心なんて見透かされているのだろうけど、それにあえて気付かないふりをして、私のちっぽけなプライドを守ってくれる。
そんな優しさにあこがれ、そして自分の矮小さを恥じてしまう。

「じゃあジュン君、呼んできてちょうだい。お願いね」
そんな気を知ってか知らずか、彼女は笑う。
「はいですぅ」

彼の部屋へと戻る。
…また寝てる。
「くぉらぁ!起きるですよ、チビ!」
…変われないな、私は…。

何事もなく、朝食を済まし、ジュンの家を出た。
自宅へと一旦帰り、仕事の用意をする。
そうだ。新聞止めとかなくちゃなぁ、などと思い、旅行前の準備に似ているな、と一人笑ってしまった。
そうこう考え、あれこれしているうちに、仕事に出る時間に間に合いそうになくなって、私は急いで家を出た。

結論から言うと、私の長期休暇はあっさりと認められた。
よかった。朝に準備して、懐に入れてた辞表を出す必要がなくて…。
上司の白崎さんは、そういうことを分かってくれ、同僚たちも、協力してくれる。
まぁ、昼休みに、同期の金糸雀から話をせがまれ、目をうるませ、キラキラさせながら「ロマンチックかしら~」と言われたのには本当に困った。
まぁ、すぐに謝ってきたのだが。

仕事が終わった後、自宅に戻り、新聞を一週間ほど止めるよう電話し、
鞄に荷物を詰め終わった後で、そういえばジュンは蒼星石にも病気のこと伝えたのだろうか、なんて考えながら、家を出た。

そして、ジュンの家に着くと、これからの生活はなんか新婚生活みたいだな、
なんていう考えが頭をよぎり、真っ赤な顔でいやいやと、その考えを振り払う。

玄関に入り、
「お邪魔…」
いや、違うな。

「ただいまですぅ」

今はまだ始まったばかりだ。


第八話 「IN SILENCE」 了
 
 

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