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○あらすじ
スカートが破けて下着丸見え状態の真紅を、ジュンは二人寄り添うことで隠して歩くことになった。
現在、ジュンと真紅は公園で水銀燈から身を隠している。
一方、約束を反故にされた巴はジュンの家に向かっていたが、途中翠星石に出会い、
現在のジュンと真紅の様子を聞かされ、翠星石が去っていったあとも呆然としていた。
そこへ雛苺がやってきた。 



第七幕



「ねぇ雛苺、本当に今日桜田くんと会ったの?」
「うぃ、図書館でトモエと一緒に勉強するって言っていたの。…違うの?」
「ううん、確かに、そういう約束だったんだけど…桜田くん、どんな様子だった?」
「いつも通りだったと思うけど…どうしてそんなこと聞くの?」
「…なんでもないのよ。そう、いつも通りだったのね。
 じゃあやっぱり、桜田くんは私との約束を守るつもりで、なんらかの事情でそれができなくなった…。
 …といっても私には、翠星石の言ったようなこと…真紅が告白したなんてことは、どうしても信じられないんだけど…」
「トモエー?」

「あ、ごめんね。…そういえば、雛苺はどうしてこんなところにいるの?」
「うゅ…えっとね、みっちゃんのところでお茶会しようって金糸雀に誘われたから行こうと思ったんだけど、
 みっちゃんの家のちょっと前まできたら、金糸雀がすごいお顔しながら走ってきてね、
 『今日のみっちゃんはシャレにならないかしらーっ!雛苺、逃げるのよ!』っていってきて…
 わけがわからなかったんだけど、そしたら金糸雀のすぐ後ろから
 『カーナーーー!!どうして逃げるのよーーーー!!!』って叫びながら信じられない速さでみっちゃんが追っかけてきてて、
 ヒナ怖くなったから、金糸雀と一緒に逃げたのよ」
「そ、それはまぁ…」
「それで物陰に隠れてたんだけど、そこで金糸雀にこう言われたの。
 『ごめんね雛苺…実は、お茶会っていうのは嘘なの。
 みっちゃんがカナと姉妹におニューの服を着せて撮影したいって言ってたんだけど、
 普通に言ってもみんな来ないだろうし、でもすごく頼まれちゃって、ついお茶会って嘘ついてしまったのかしら…。
 みんな感づいたみたいだけど、やっぱり雛苺は純粋かしら。そう思うと、カナすごく悪いことした気がしてきて…。
 お菓子は用意しておいたかしら、はい、この袋にいちご大福が入ってるわ』
 って、うにゅーくれたのよ!」 

「そうなんだ…それで、金糸雀はどうしたの?」
「うゅ…みっちゃんに捕まっちゃったの。ヒナも捕まりそうになったんだけど、
 『今日のみっちゃんが用意してた服はシャレにならなかったかしら…さすがに姉妹にあんな格好させるわけにはいかないかしら!』
 って言って、囮になってヒナを逃がしてくれたのよ」
「…いったいどんな服が用意されてたのかしら…」
「うー…ちょっと可哀想だったの…ヒナ、お写真とってもらうの嫌じゃないんだけど…」

「…それでも憚られるほどに、よほどすごい衣装が用意されていたんだと思うな…。
 ねぇ雛苺、もしも金糸雀が、下手に隠そうとしないで雛苺たちに頼んでいたら、
 真紅や翠星石たちも、もしかしたら来てくれたかもしれないのにね」
「でも、みんなはあまりそういうの好きじゃないのよ」
「姉妹の頼みだもの。あまり変な衣装はダメっていう条件付きなら、来てくれたんじゃないかな」
「んー、そうかもしれないの。今までにも何回か撮ってもらったことあるし…」
「そうでしょ?結局、お茶会だなんて言って誤魔化そうとするから、
 みんな妙に勘ぐっちゃったんだと思うよ。隠されると、ついついおおごとにものを考えちゃうから…。
 正直にありのままを話していれば、こんなことには…」
「ヒナは金糸雀に頼まれたら、お茶会じゃなくてもきっと行ったのよ!」 
「うん、雛苺は優しいもんね」
「えへへ…」

雛苺は巴に頭を撫でられると、嬉しそうに笑った。
雛苺のふわふわした髪がくすぐったくて、巴も笑った。
だいぶ落ち着いたようだった。 

「あ、そういえば」

思い出したように、巴は再び携帯を取り出した。
折りたたまれた携帯は、相変わらず緑色のランプを点滅させている。
チャッと、小気味よい音をたてて携帯を開く。昼間の陽の光は、画面をかえって見辛くさせていた。

『from: 桜田 ジュン
 件名: Re:Re: ごめん
 ありがとう、でもほんとにだいじょうぶだからさ、ノートはまた今度頼むよ。
 家に帰れるの、ちょっと時間かかると思うんだ。
 アクシデントっていっても全然たいしたことないから。うん、ほんとに。』

「さてと…こっちもなんだか怪しいな」
「トモエー?」

「…ねぇ雛苺、これから桜田くんの家にいかない?」
「うゅ?なんで?」
「ちょっと届け物…。確かめたいこともあるしね。
 ……さすがに、一日待ってたら帰ってくるでしょうしね…ふふ…」
「…そ、その笑い方…ちょっぴり怖いのよ…?」
「ふふっ…雛苺、ありがとう。なんだか元気が出てきたわ」
「う、うぃー?」

当惑する雛苺の手をひっぱると、巴は再びジュンの家に向かって歩き出した。 




公園に入った後の、水銀燈の行動は奇っ怪だった。
空を見上げていたかと思えば、ベンチに座り、公園をぐるぐると回る。
自分たちのいることがばれるのではないかと、ジュンと真紅はひやひやしながらその様子を注視していたが、
水銀燈はやがて鉄棒の前でぼうっとしていたかと思うと、はたと振り返って、
鉄格子の下に咲いている花へと近づき、しゃがみこんでその白い花びらに手を添えた。

「真っ白…でも、これは桔梗ね」
「……」

真紅とジュンは、注意深く水銀燈の言動に耳を傾けていた。
いったい、水銀燈はここで何をしているのだろうか。
いつ公園を出るのか?
ただ一つの情報も聞き漏らすまいと、真紅は強ばった表情でじっと耳を澄ませている。
水銀燈はしばらくじっと黙って、ただ細々と咲いている白い桔梗の花を眺めていたが、やがて一言ぽつんと漏らした。

「……綺麗」
「ブーーーッ!」
「…え?今誰かの声がした?」

水銀燈が慌てて辺りをキョロキョロと見回すが、そこにはやはりぼろぼろのベンチに、
錆びた鉄棒、そして場違いに大きな滑り台があるばかりだ。
もっとも、その象の形をしたコミカルな滑り台の裏には、両手で口を覆った少女と、それを呆れて眺めやっている少年がいる。

「…オイ」
「ご、ごめんなさい…だって、まさかいきなりあんなことを言うとは…」 

水銀燈はきょろきょろと首を回した後、小首を傾けて呟いた。
「…気のせいみたいね」

「…よかったな、ばれなかったみたいだぞ」
「そうね。…と、また花を見だしたわ…なんなのかしら、あの子。
 あら、立ち上がったわね。今度は…ベンチに腰掛けたわ。上…?空なんか見て、いったい何を…」
 
「色違いの花…それでも花はやはり綺麗だわ。
 それなら、色違いの天使、なんていうのもあるのかしら。
 漆黒の天使?ふふ…それは堕天使っていうのよ、笑っちゃうわぁ…」
 
「……ひとりで何言ってるんだ、あいつ」
「さぁ…」

「誰にもわかってもらえなくていい…誰にも愛されなくっていい…。
 たとえこの身が引き裂かれても、身も心も不純な情念に穢れても、
 どうなったって…ねぇ、それでも…あなたは私のそばにいてくれるのかしら?
 闇に魅せられた少女…その虚ろな瞳に、私はどう映っているの?」

「ブッーー…」
「わ、笑うなって…ばれるぞ…」
「…そ、そうね…でも、ジュン、あなたこそ頬がひきつってるわ…」
「…まだ何かいうつもりみたいだ」

「ふふ…私が好き?イカれてるわ。でもそれも、私の深遠なる闇を証明するものにしかならない。
 そう、とても深い闇。ほんの手を伸ばしたところすらも見えない闇よ。
 それが私。私は生まれながらにして、逆十字の宿命を背負う穢れた女。
 …ふふ、そうだとしても、あなたは私に安らぎを与えて、それは真珠のように美しく煌めいているのだけれど」 

「…深遠なる闇…逆十字…宿命…お前は何を言ってるんだ…」
「プクク…て、手をクロスして胸を抱いているわ…あ、あそこに煌めく真珠が埋まってるのかしら?プ…
 ま、まだ続きがあるみたいよ…プフッ…」
「……笑いすぎ」

「そしてもう一人、あなたも…あなたも私にかけがいのない光をくれる。
 こんな私に、あなたが振り向いてくれるはずはないって知っているのに!
 それなのに淡いほのかな期待を抱いてしまう私は、どうしようもなく愚かだわ。
 けれど、絶望で黒く染まった私の体に、あなたは希望という白い光を照らしてくれるの。
 その光に照らされて、私の頬は赤く色めき、今日という日を生きる活力が生まれるの。
 そしてその時…微かに、私は壊れてなんかないと思える。
 ふふ…もしあなたにこんなことを聞かれたら、あなたは笑うかしら?」

「プハッ、わ、笑わずにはいられないでしょうこれ…クク…」
「っていうか、今度は片方の手のひらを空に向けて、前に差し出してるけど…誰がいるんだ…」
「は、白馬に乗った王子様でも見えてるんじゃない?クッ…それにしても、な、なんのことを言ってるのかさっぱりだけど…プッ、
 さっきは友情の詩で、今度は…こ、恋の詩かしら?ぷ、ププッ…あの水銀燈が…!」
「…お前、ほんと吹き出しすぎだから…ばれてもしらないぞ…?」

「あなたの華奢な体、端正な顔立ち、それが少し視界に入っただけで、
 私の体と心は、たちまちに情念の焔で熱く焼け焦げてしまいそう…。
 どうあがいても無駄な狂気の大波が、私の理性を、思慮を、すべてを流してしまう…。
 残るのは苦しみの岩にこびり付くどうしようもないやるせなさ…。
 ああ、だってあなたは今も私の妹と…」

「プププ…プハーも、もうだめ!ポエムを詠んでいるのだわ!ポエムを詠んでいるのだわ!
 水銀燈がたった一人で公園で、ポエムを詠んでいるのだわ!う、うふ、うふふ……」
「真紅!?」 

パンパンに膨らんだ風船が大きな音をたてて弾けるように、真紅は勢いよく吹き出すと、
目に涙をためてお腹を抱えだした。
そうなれば当然水銀燈にも気づかれるわけで、
「そこで笑ってるのは誰!?そ、その声は…もしかして真紅!?そこにいるの!?」
と叫ぶと、声のする方向、すなわち間の抜けた象の滑り台の裏へかけつけ、
そこには果たして抱腹絶倒の妹と、必死にそれを宥める少年がいて、
ついに顔を見合わせることになったこの三人は、それから随分と長い静寂に包まれることになったのだった。
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