『金糸雀堂』
大きな草原の真ん中に小高い丘がありました。
丘の頂上には大きな大きな木が一本、木の下には小さなお店がありました。
お店の名前は『金糸雀堂』。
今日はどんなお客さんがくるでしょう?
その5
今日は曇り。
ドライアイスの様に冷たい霧で全て真っ白、何も見えません。
準備をして待っていると、トントン・トントン、お客さんが来たようです。
ドアを開けると大きなリュックを背負った、金髪に碧色の目をした女の人が立っていました。
「こんにちは。何方かいますか?」
「いらっしゃい、貴女を待っていたかしら。」
「私を待っていたの?」
「だからおやつの準備をしておいたかしら。」
荷物を置いてもらい、苺大福とお茶を出してきました。
「さてさて、貴女の探し物は何かしら?」
「探し物?」
「ここは『金糸雀堂』。答えを探す人が迷い込んでくるところ。なにか悩んでるから貴女はここに来たかしら。」
「難しくてこんがらがりそうなの…」
「さあ、何をお探しでしょう?」
「私は世界を巡って絵を描いてるの。でも、最近満足いく絵が描けないのよ。…そう、私、絵の題材を探しているの。」
それを聞くと立ち上がって壁に掛かっている扉の絵に近づいて。
「そこの棚からノブを1つ選んで持ってくるかしら。」
「どれも素敵な色ね。ん~と…この色にするのよ。」
「この絵にはめて回しなさい。」
女の人は恐る恐る絵にノブを差し込み回しました。
ガチャリ
絵の扉の先はガランとした部屋になっていました。
空虚な中、壁に1枚の写真が額縁に収められて飾られています。
写真の前に立ち、今までと打って変わって真剣な目で見つめると。
「…凄く人を惹きつける女の子なの。私…この子をモデルに描いてみたい…」
「写真、お買い上げかしら~♪」
「えっと、お幾らなの?」
「ん~あのリュックに付けてたリボンはダメかしら?」
「リボン?う~ん、友達から貰ったリボンなんだけど…貴女友達によく似てるの。うん、貴女にこのリボンつけて欲しいわ。」
女の人は写真をリュックに詰めてまた会いましょうと言いました。
深い霧に薄れていく後ろ姿を見送ると、今日は店じまいです。
「どこかで見たような気がする…」
つぶやくとリボンを見つめました。
古ぼけていますがとても懐かしく、同じ物を誰か親しい人がつけていたような気がします。
「一体誰がつけていたかしら?」
そう言うとパタンと扉が閉まりました。
つづく…?