やきとり処「水銀亭」
銀「あらぁ、誰かと思ったら真紅じゃなぁい。…ざっと1440時間くらいぶりねぇ」
紅「あなた、まだこんなことをやっていたの?」
銀「私の趣味なんだからあんまり口出さないでくれるかしら?
まぁいいわ。立ち話も何だし、座りなさいな」
紅「…」
銀「…やきとり屋なんだから、何か注文しなさいよぉ…」
紅「なら紅茶を出すのだわ」
銀「そんなものが出る、洒落たやきとり屋なんて聞いたことないわよぉ。
ウーロンハイ用のウーロン茶なら出せるけど、それでいいかしら?」
紅「それで妥協しましょうか」
銀「で、やきとりは食べないのぉ? 面白くないわぁ」
紅「じゃあねぎまとかわを頂戴。どっちも塩で」
銀「毎度ありぃ」
じゅー
紅「実にいい匂いなのだわ」
銀「うふふぅ、もう少しだから待ってなさぁい。
…ところで、ジュンとはどうなってるのよぉ、ジュンとはぁ?」
紅「…今私がウーロン茶飲んでたら確実に吹いてたのだわ」
銀「そんなにびっくりすること? 少しは進展あったのかしらぁ? うふふふふ」
紅「その不吉そうな笑いはやめて頂戴」
銀「で、どうなのよぉ?」
紅「べ…別にジュンのことなんてどう思ってもい…いないのだわ」
銀「嘘だわァッ! 手が震えてるわよぉ、真紅。
このままじゃあ翠星石とか薔薇水晶に取られちゃうわよぉ」
紅「……私だって私なりにアプローチしてるのだわ! でも全然気付いちゃくれないのだわ!」
銀「それはあなたの独りよがりってやつよぉ。相手に気付いて貰えないなら、何をしたって無意味なの」
紅「……肝に銘じておくのだわ」
銀「そんなに気をおとすものじゃないわぁ。恋は気力勝負よぉ。これ、サービスしとくわねぇ」
紅「…なにこれ」
銀「焼酎のヤクルト割よぉ。景気付けにどうぞぉ。やきとりも焼けたわよぉ」
紅「頂いておくわ。ありがとう」
銀「うふふぅ、頑張りなさいよぉ」
やきとり処「水銀亭」~雪華綺晶がくる!~
雪「こんばんわ」
銀「やーっと来たわねぇ、雪華綺晶」
雪「遅くなってごめんなさい。ちょっと仕事頼まれてしまいまして」
銀「うふふ、いいのよぉ。さぁ、どんどん食べてって頂戴」
雪「じゃあ…つくねとハツとレバーとかわと手羽先、お願いしますね。全部タレで5本ずつ」
銀「相変わらずよく食べるわねぇ…。どうして太らないんだか」
雪「ふふふ、私も少し不思議に思ってるんです」
銀「羨ましい体質ねぇ」
雪「よく言われますわ」
じゅじゅじゅー
銀「へい、お待ちぃ」
雪「いつもながらとても美味しそうです。頂きます」
銀「…うふふ、こうやって美味しそうに食べてくれてるところを見てると、
こっちまで幸せな気分になってくるわねぇ…料理人冥利に尽きるわぁ」
雪「それは水銀燈のつくるやきとりが本当に美味しいからですよ。
よくラーメン屋めぐりだとか回転寿司めぐりだとかするんです。
やきとり屋めぐりもするんですが、未だに水銀燈のやきとりより美味しいのは食べたことがないのです」
銀「うれしいこと言ってくれるじゃないのぉ。
…ところでねぇ、私、今朝のあなたのメールで起きたのよぉ」
雪「ねぼすけさんですね。確かメール送ったのは12時ちょっと前だったのでは?」
銀「…うるさいわねぇ。…とにかく、今朝はあなたのメールで起きたのよ。
『今晩、食べにゆきます』って書いてあったもんだから飛び起きて大急ぎで鶏肉仕入れてたのよぉ」
雪「ありがとうございます。…でも、こんな屋台でなくて、
普通のお店を構えればそんなことをしなくてもいいのではないでしょうか。
水銀燈ほどの腕前なら、普通にお店開いてても何の問題もないでしょうし、
お父様にお願いすれば、お店どころか支店までできますよ、きっと」
銀「そうねぇ…。ちゃんとしたお店作ってもいいかもしれないわねぇ。
でも、お父様に頼っちゃったら、何だか、『私のお店』じゃあない気がするのよぉ」
雪「…なるほど、わかる気がします」
銀「だからまぁ、当分はこの屋台だわね。」
雪「そうですか。…ではかわとももとささみ追加で。5本ずつ」
銀「本当によく食べる子だこと」
雪「食べることは私の楽しみの一つですから」
銀「食べる子は育つ。たーんと、お食べなさぁい」
やきとり処「水銀亭」~接点のないふたり~
巴「おじゃまします…」
銀「あら、新顔さんねぇ。いらっしゃいませぇ。遠慮しないで掛けて掛けて」
巴「それじゃ、失礼します」
銀「えーっとぉ、注文はどうするのかしらぁ? 何がお好み?」
巴「…雛苺からの紹介で来たのですが…
『すいぎんとーにヒナからのしょうかいできたっていえば、きっととっておきをくれるの!』って…」
銀「あらぁ、雛のお友達? ならきっといつもお世話になってるわねぇ。
甘えん坊で手がかかるでしょう? あの子」
巴「確かに振り回されはしますけれど、根はいい子ですし、一緒にいると楽しいですよ」
銀「何だか褒められてるのは妹なのに、なんだか私まで嬉しくなっちゃうわぁ
いいわ…えーっと、お名前は聞いてなかったかしら?」
巴「柏葉 巴といいます」
銀「巴ちゃんねぇ。じゃあ今日はたーっぷりサービスしてってあげるわぁ」
巴「ありがとうございます」
銀「…ということで『とっておき』、食べてみるぅ?」
巴「とっておき、って具体的にはなんなんですか?」
銀「雛苺専用の『とっておき』よぉ。
…………個人的な意見を言わせてもらうと、あんまりオススメはできないけどねぇ」
巴「雛苺の紹介で来たんですから、やっぱり食べておかないと。何だか楽しみ」
銀「かるく地獄見るかも知れないけど、覚悟してねぇ…」
じゅー
巴「…何この甘い匂いは……。いったい何を焼いているんですか…?」
銀「…聞きたいの? ホントにぃ? マジでぇ?」
巴「あんまり焦らさないで下さい」
銀「ずばり、苺大福」
巴「そんなオチだろうと思った」
銀「あの子は『やきうにゅーもとってもおいしーのー♪』とか言って、
やたら嬉しそうにして食べてるけどねぇ……巴ちゃん、無理しなくてもいいのよぉ
おみやげ、って言って私が持って帰ればあの子が食べるから」
巴「いいえ、注文したのは私ですから、食べますよ」
銀「貴公の勇気に敬意を表するわぁ…」
巴「…ついにこの時が来てしまったのね……」
銀「…ごくり」
巴「頂きます」
銀「………お味はどうかしらぁ?」
巴「…意外と悪くないです。すこしびっくり。新感覚ですよ。
大福がいい感じにとろけてて、焦げ目も美味しいですし。
…でもやっぱりあったかい苺は美味とは言えないですね…」
銀「あらぁ、それはよかったじゃなぁい。私にも一口くれなぁい?」
巴「どうぞ」
銀「はふっ、何よぉ、なかなかいいじゃなぁい。
これなら今度からメニューにいれてもよさそうねぇ」
巴「そうですね。食後のお口直しに丁度よさそうです。苺を抜きさえすれば」
銀「……ところであなたはいくつかしら? 高校生にはちょっと見えないけれど…」
巴「19歳で、大学生です。雛苺は部活の後輩なんです」
銀「そうなのぉ。じゃあ、真紅と同世代ねぇ。もしかして知り合いだったりするのぉ?」
巴「ええ、桜田君とは幼馴染で、昔からよくしてもらってますから」
銀「自動的にジュンに付きまとってる真紅とも親しくなるのねぇ」
巴「まぁ、そういうことですかね」
銀「妹がふたりもお世話になってると知ってしまったら、
サービスしないわけにはいかないわねぇ。
今日はじゃんじゃん飲み食いしてって頂戴。たーっぷりサービスしたげるから」
巴「ありがとうございます」
終
ラ「補足ですが筆者は焼き苺大福の味を想像で書いています。
実際に試されて『マズい』と思われても責任はとれません。
あらかじめご了承ください」