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翠「ふあぁ…」

午前5時50分…この家では一番先に翠星石が目を覚ます。
昨年から桜田家と同じく両親が海外赴任で家にいないので、
この家での朝・昼・晩の3食の調理は全て翠星石が主に担当することになっている。
その担当を決める家族会議の際、翠星石が自ら進んで手を挙げたのだが
(というより、当時他の者は皆料理全般が出来なかったので翠星石がやるしかなかった)
その翠星石も元々はお菓子作りが専門だったので、毎食作るのも何とか乗り切る日々…。
それを心配したジュンはのりに相談。のりは料理を教えることを快諾。
のり協力のもと、コツコツと知識と技術を身につけ、
今では普通に家庭料理が作れるレベルにまで到達し、
この頃は水銀燈や蒼星石に料理を教える立場にある。

──しかし、午前2時まで寝つけなかったせいか、何かと身体が重い。
2段ベッドの上段から静かに降りた翠星石は、下段で眠る蒼星石の寝顔を覗くと、
今日眠れなかった原因を思い出して胸がチクリと痛むのであった。

翠「…蒼星石、まだ寝てるですね…」

~~~~~

午前6時すぎ。1階に降りた翠星石は朝食の準備に取り掛かる。
水銀燈を見送って、蒼星石と学校に行って、その途中で雛苺を幼稚園に…それから──

翠「…はぁ……ジュン──」
銀「おはよぉ~」

大学2年の長女・水銀燈が2階からダイニングに下りて来た。
朝から暗い雰囲気を放つ翠星石を見て、テーブルへ座りながら声を掛ける。

銀「あら翠星石、今朝は身に力が入ってないわねぇ」
翠「…はっ…何でもないですよ?」
銀「…ま、早いうちに手を打っておきなさぁい。私に取られるまえに──」
翠「…」

翠星石の顔はみるみるうちに真っ赤に染め上がっていった。

翠「…じょ…冗談でもねぇこと言うなです!!」
銀「うっ…」

烈火のごとく怒り出した翠星石に水銀燈はたじろいだ。
さらに翠星石は水銀燈を鋭く睨みつけ、その口元もワナワナと震えている。
水銀燈としては「だ~か~ら、そんなんじゃねぇです!」ぐらいの反応を狙ってたわけだが…

翠「…」
銀「ちょっと、そんなつもりじゃ…翠星石、頭を冷やして…」
翠「…」
銀「ね、ねぇ…」
翠「…っく…」

…と、今度は咽び泣き始めた。
水銀燈は椅子から立ち上がり、キッチンにしゃがみ込んでざめざめと泣く翠星石を宥めた。
いつものように声を掛けたつもりなのに…

銀「わ、私が悪かったから…ねぇ、泣き止んでちょうだい…」
翠「…ひっく…うぅ…」
銀「…」
翠「…だ、だめぇですぅぅ……ひっく…もう、終わりですぅぅ…」
銀「あっ…」

感情の起伏の激しい翠星石を見ていて、ふと何かに思い当たったように水銀燈は問いかけた。

銀「ねぇ、ジュンくんと何かあったの?」
翠「……ひっく…っくぅぅぅっ…」

嗚咽が微かに大きくなり、ギュッと拳を握り始めた。
加えてこの翠星石の取り乱している様子から、水銀燈はあるものを確信した様子である。

銀「ねぇ、ちょっと話してみなさいよぉ…相談に乗ってあげるから…」

水銀燈はやさしく言葉をかける。
──多少は落ち着いたのか、暫くして翠星石の嗚咽は小さくなり、
それでもまだ涙をボロボロ流しながら思いの丈を吐露した。
…昨日蒼星石の前でジュンに告白すると言ったものの、それが物凄く怖い、
ジュンは悪くないのに何だか蹴りを入れてしまいそうな気がする…「性悪」って罵られたら告白できない…
でも好きな気持ちが抑えられない…早く告白しないとジュンを取られてしまう…どうしよう…と。
一通り話し終わると、水銀燈は翠星石に冷たい言葉を浴びせた。

銀「へぇ~そういうことぉ…」
翠「…はい、です…どうすれば──」
銀「ばっかじゃないのぉ?!」
翠「…へ?」
銀「ま、あなたの好きなようにしなさぁい」
翠「なっ…?」
銀「ジュンくんが可哀想ぉ~」
翠「…水銀燈はいつもそうですね──何で突き放すんですかっ!!相談した意味が無ぇです!!」

翠星石はワッと立ち上がり、握り拳をワナワナと震わせながら水銀燈に迫った。

銀「はぁ?いい加減目覚めたらぁ?…あなた、弱虫なのよ」
翠「きぃいいいいぃぃぃぃっっっ!!!」
銀「あ~あ、これじゃあジュンくんを懸命に元気付けようとしてたアノ頃の頑張りがパァ~ねぇ…」
翠「…」
銀「ぜぇんぶ、ぱぁ~…」
翠「…で…で…で、出て行けー!!!です!!」

翠星石は水銀燈を無理やり玄関まで押しやった。
それに対して水銀燈は何も抵抗しない。

翠「カバンはどこですかッ!?」
銀「さっきの椅子の上よぉ?」

翠星石はササッとカバンを取ってくるや否や、水銀燈にそれを投げつけた。

翠「もう二度と家に帰ってくんなです!!」
銀「は~いはい。じゃ、行ってくるわぁ」
翠「…この…大ばか者ぉぉ!!!」

水銀燈は翠星石の蹴りが飛んで来る前に家を飛び出し、玄関のドアをバタンと閉めた。
門扉を開け、もう一度家を見て、また公道に向き直り、カバンからカロリーメイトを取り出す。

銀「──ちょっと言い過ぎたかしら…でも、あの子のためなら…仕方ないわ…」

一方、翠星石はキッチンの片隅で体育座りでうずくまっていた。
先ほどの喧嘩の熱も冷め、改めて考え直すと水銀燈の言うこともあながち間違いではない。
そう思うと、翠星石は身体の震えが止まらず、涙がボロボロと零れ落ちるのであった──

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