「付き合ってください!!」


上気した頬、潤んだ瞳、胸元に手を握り締め全身は小刻みに震えている。相対する相手の顔は不安と期待に揺れ動いていた。
僕は相手の言葉に凍り付いていた。思いもかけぬ相手からの思わぬ告白に思考が上手くまとまらない。
その眼差しはただひたすらに自分だけを見つめている。僕はその瞳に耐えられず目を反らしてしまう。


「…………ゴメン」
「っ!!」


僕の口から放たれた明確なる拒絶の言葉に相手の顔が絶望に歪んでいく。その表情に僕も顔を顰める、いつものことながらいい気分ではない。
相手を傷つけることを誰が好き好んでするだろうか……しかしだからといって相手の言葉に同意できるものでもない。


「何故ですか!」


藁にも縋る想いといった面持ちで僕を見つめる。その視線に申し訳ない想いを抱きつつも僕は今の自分の気持ちを正直に伝えた。


「僕……同性には興味がないんだ」


泣きながら姿を消す同級生に僕の胸に鈍い痛みが奔る。いつもの明るい顔が自分の言葉によって歪む姿は苦痛となって僕を苛む。
この中性的な容姿のためか最近女性からの告白が増えている。異性からも告白されたこともあるが同性からの告白のほうが多いというのもどうだろうか。
僕は思わず深い溜息をついてしまう。僕は同性を恋愛対象と見ることなどできない、例えこのような容姿であろうとも……
ならば何故異性の告白を断るのか? そ、それは僕にも好きな人の一人もいるわけで……って何を言わせるんだ!
ふと誰もいない教室の窓に視線を移すと夕焼けが私を紅く染め上げる。沈みゆく太陽を見つめていたら何故だか一人の少年の顔が脳裏に浮かんできた。


「っ!!」


何を考えているんだ僕は!!……頭を左右に振って思わぬ邪念を振り払うと家に帰るべく教室を後にしようと歩を進めようとしたとき……
突如目の前のドアが開かれた。ドアの先に立っていたのは先程脳裏に浮かんできた僕の想い人……僕は自分でも気がつかぬうちにその名を呟いていた。


「JUM……君」


「よっ! どうしたんだ蒼星石、珍しいなこんな時間まで教室にいるなんて」
「い、いや……あ、あの……そ、そう、ちょっと忘れ物があって取りに戻ってきたんだよ」
「なんだ、俺と同じじゃん」


JUMは笑いながら自分の席へと向かう。その姿を蒼星石も笑みを浮かべながら見つめる。だがしかし彼女の浮かべる笑みはJUMが浮かべるものとは異なるものである。
蒼星石は自分が笑みを浮かべていることに気がつくと慌てて顔をいつもの顔へと作り変える。振り返ったJUMの姿に頬が僅かに赤らめてしまうがこればかりはしょうがない。
何故なら蒼星石はJUMのことを……


「蒼星石……何かいいことがあったのか?」
「えっ?」
「いやさ、何か嬉しそうだからさ」
「っ!?」


JUMのその言葉に蒼星石は慌てふためく。確かに今さっきの自分の顔はいつもどおりだった筈……それに出来る限り表情を表に出さないようにしているのだ。
それが分かるということはほんの些細な変化をJUMが捕らえて事を意味する。しかし普通そのような変化に気がつくだろうか、『気にもかけない女の子』を……つまり……


(JUM君は僕のことを……見てくれている?)


……………………ぼんっ


頭の中で弾ける妄想に蒼星石は夕日に負けない紅い色を彩っていた。


「そ、そんなことないよ!!」
「そ、そうか!?」
「そ、そうだよ!! いつもと何も変わらないよ! 本当だよ!!」


蒼星石は顔を真っ赤に染めながら手を上下に振り、JUMの言葉を否定した……がどう見てもばれているとしか見えない態度にJUMは苦笑いを浮かべながら蒼星石の隣に並んだ。


「途中まで一緒に帰るか?」
「…………へ?」


何とも間抜けな声が蒼星石の口から零れ落ちた。


未完

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最終更新:2006年03月18日 19:01