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 現在、桜田潤はロープでグルグル巻きにされ床に寝転がっていた。
 そんな潤の目の前で起こっている出来事は……

「闇の果て……より来たりて……」

 悪魔召喚の儀式なんぞ始めている薔薇水晶だったりする訳だ。
 そもそも、退魔を担う八乙女が悪魔召喚なんぞしてどうすんだ! と、潤は叫びたかったが……
 一般人(ここ重要)である潤が、そんな事を知っているのはおかしい為、縛られた状態でだんまりを貫く事になるのだった。
 時折本をチラッとみながら、悪魔召喚の儀式を続ける薔薇水晶。
 そのまま儀式が続けば、まぁなんて事は無い。何も起こらず終わるはず……だった。
 潤は、薔薇水晶の持っている本を見て驚愕の表情を浮かべる。

 本から染み出る濃い闇の臭い。
 その臭いと潤は対面した事が、一度だけあった……そう……
 その本に記述されるは……旧き印、ニョグタに対して使用するヴァク=ヴィラ呪文、食屍鬼の物語……
 星々の系図、狂えるアラブ人、ヴーアの印、マオの儀式、ナアカル語、深き者への変化を促進する儀式……
 本の名は……キタブ・アル=アジフ……もしくはネクロノミコン。
 しかし、どうやら本物では無く……写本の写本。デットコピー本と言えた。
 何故わかったか? と、言われれば濃い闇の臭い以外がしなかった為と潤は答えるだろう。

 読めば狂うといわれる魔術書。それのデットコピーであったとしても……常人ならば狂うだろう。
 退魔八乙女だろうと、下手をすれば飲み込まれ廃人になる可能性もありうる。
 ならば何故、薔薇水晶は大丈夫なのだろうか?
 単に言えば……相性が良かったと言うだけである。デットコピーのネクロノミコンが、薔薇水晶を認め。
 断片的な知識を、薔薇水晶に与えているのだと考えられる。
 まぁ……退魔八乙女が、なんで魔術書なんて持ってるんだよ……と、非常に突っ込みたくなる潤だった。 

 薔薇水晶の唱える呪が終わりを向えた。
 結果としては、何も起こらず……遮光カーテンに蛍光灯を消し……蝋燭の灯りだけの暗いオカルト研究会の部室は静寂。
 何も起こらずほっと安堵する潤と少しばかりガッカリとした雰囲気の薔薇水晶だったが……
 ざわめいた。
 この世。この世界ではないモノ。それが、具現する。
 薔薇水晶は、気づいていない様で本を睨みつけている様だった。
 具現したモノは、そんな薔薇水晶へと襲い掛かる。

「薔薇水晶君!!!」

 潤の声に、ハッとして薔薇水晶は横に跳ぶ……と、同時に薔薇水晶の後ろの壁が崩れる。
 廊下から差し込む明るい光に照らされソレの姿がハッキリと認識出来る様になった。
 人間に似た姿を持ちコウモリの様な翼を持つ……人間において顔に当る部分に顔など無く……
 その手には、トライデントと呼ばれる三叉の槍を持つ……夜鬼もしくはナイト・ゴードンと呼ばれる存在。
 ナイト・ゴードンを召喚する呪法は、現在消失して居るはずであるし……
 薔薇水晶が行なった儀式に関しても、ナイト・ゴードンの召喚に触れるモノなど一切無かった。
 しかし、二人の目の前に然りとナイト・ゴードンが存在している。

 全身を縄で縛られ身動きが取れない潤と突然の出来事に驚きを隠せない薔薇水晶。
 八乙女である薔薇水晶一人ならば、ナイト・ゴードンを倒す事は出来なくとも元の世界に返す事は可能だったかもしれない。
 しかし……この場には、一般人である潤が存在する為……薔薇水晶は、ギリッと静かに下唇を噛む。
 八乙女は、大きく分けると三つのグループに分けられる……
 万能型、近距離戦闘型、広域戦闘型である。
 薔薇水晶は、その中で広域戦闘型に分類され……使用する術は、薔薇水晶以外に対して凄まじい被害を及ぼす。
 下手すれば……潤も巻き込まれ死ぬ可能性だってある。 

戦えない。薔薇水晶は、下唇を噛締める。
 そんな薔薇水晶に対してナイト・ゴードンは容赦なく攻撃を仕掛けてくる。
 トライデントでの鋭い突きに、突きの後流れる様に横へ縦へ薙ぎ振るわれ……
 最初は、回避できていた薔薇水晶だが……次第に余裕もなくなってくる。
 ちなみに、潤ははなっからナイト・ゴードンの攻撃対象に入っても居ないのか……無視されたままである。

「あっ……」

 薔薇水晶は、足元に転がっていた何かに躓き尻餅をついてしまう。
 ナイト・ゴードンは、無慈悲に淡々とその鋭いトライデントを、薔薇水晶目掛けて突き出した。
 ギュッと目をつぶる薔薇水晶。
 こんな事になるなら、蔵に死蔵されていたこの本を持ってくるんじゃなかった……
 と、薔薇水晶は頭の中でそんな事を考えていた。
 しかし、何時までたってもこの身に、トライデントが突き刺さる感覚は無く……
 薔薇水晶は、恐る恐る目を開く。

 巨大な手が、トライデントを掴み鋭い突きをピタリと止めていた。
 ナイト・ゴードンを睨むその巨大な手の持ち主。
 紅の身体。頭に生える弐本の角。まるで黒い焔が燃える様な髪……
 薔薇水晶の目の前に鬼が其処に居た。
 鬼は、そのままトライデントごとナイト・ゴードンを遮光カーテン側へとぶん投げる。
 遮光カーテンの破ける音とその後ろにあった窓ガラスが割れる音が、部室にけたましく鳴り響く。
 そんな一連のやり取りを見て、薔薇水晶は本日二度目の驚愕の表情を浮かべる。

 ふと、鬼が自分を見ている事に気づき身を固める。
 鬼が、自分を殺そうとすれば……術の発動前にあっさりと殺される自分の姿しか思い浮かばない。
 薔薇水晶は、目の前に直面した死と言う事柄に恐怖し気づかないうちに歯をガチガチと鳴らしていた。
 そんな薔薇水晶に、鬼は巨大な手で薔薇水晶の頭を撫でる。 

『薔薇水晶君。落ち着きなさい……』

 酷く低い人とは思えない鬼の声。その鬼に自分の名前を呼ばれハッとする薔薇水晶。
 ふと気づいて、周囲を見回せば……千切れた縄と潤が着ていたスーツ……勿論、スーツも破けていたが……
 つまり……この鬼は……と、薔薇水晶は目を見開いて鬼を見る。

『君は、知らない事が多すぎる。それは仕方の無い事かもしれないが……君は、安易すぎる……』

 潤は、ナイト・ゴードンを投げ飛ばした方を見る。
 其処には、背の翼を広げ宙に浮くナイト・ゴードンの姿。
 明らかに不利としかいえない状況。
 地上で戦うならまだしも……相手は空を飛べるのだ……不利といって過言でなかった。
 薔薇水晶は、その事に気づくが……

『薔薇水晶君。鬼とは……元々この様な形を持っている存在では無い』

 ズシンッと重い足音を立てて、潤はナイト・ゴードンの方へと歩いていく。
 鬼となった潤の巨体は、ナイト・ゴードンを投げ飛ばした為に出来た穴よりも大きく……
 肩や頭に壁がぶつかるも、そのまま潤は歩き進む。
 バキバキバキと言う壁の中の鉄骨が折れる音と共に潤は外へと歩き出た。
 外は既に陽が堕ちかけ……淡い黄昏色に染まる空と夜の闇に染まる空が入り混じる。
 人の気は、不自然なほどに無く……人払いの結界が、張られている事に潤は苦笑を浮かべるのだった。 




【NGシーン】
 この世。この世界ではないモノ。それが、具現する。
「あっれぇ? まちがっちまったか?」
 と、何処かで見たことのあるオレンジ色の格闘着(胸のところに亀と書かれた)を来た男がポリポリと頭を掻く。
「……」
「……薔薇水晶君。早急に彼を元の世界にもどしなさい」

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