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「一つ屋根の下 第百二十四話 JUMと蒼姉ちゃん」

翠姉ちゃんが僕の部屋から消えて一時間ほどたったのだろうか。僕は、未だに部屋に一人だった。
「蒼姉ちゃん……来ないのかな……」
次は順番通りでいけば、蒼姉ちゃんのはずである。でも、彼女はまだ姿を見せていなかった。でも、そんな時
だった。僕の携帯にメールが受信される。その送り主は蒼姉ちゃんだったんだ。
『JUM君、今から駅前来れないかなぁ?僕も向かうからさ。もし、家から出たくないんだったら僕が
家に行くけど……どうかな?』
そんな内容のメールだ。駅前?何故に?理由はさっぱり分からない。でもまぁ、このまま家でグチグチと
引き篭もっておくよりは、太陽の下にでも出たほうが多少はマシかもしれない。僕は、メールでOKの
返事を送ると、身支度をして家を出た。

そして駅前。まだ蒼姉ちゃんの姿は見えない。とりあえず、噴水の近くに座っておく。
そして、数分後。約束の時間より少し後に僕をこんなトコに呼び出した張本人が現れたのだった。
「御免ね、JUM君。待った……かな?」
「ううん、僕も今来た所だよ。」
「そっかぁ。よかったよ。」
何だかベタなやり取りをする僕と蒼姉ちゃん。蒼姉ちゃんは、キャミソールの上にニットを羽織り、
下もミニスカートで、髪もヘアピンで少し留めていたり。何とも女の子らしい格好だった。
「じゃあ、行こうかJUM君。」
「行こうって……どこにさ?僕は何も聞いてないんだけど。」
蒼姉ちゃんは僕の手を握って歩き出す。そして、僕の顔を見ながら笑顔で言うのだった。
「場所なんて決めてないよ。僕は今日、JUM君とデートしにきたんだからね。」
「で、デートって……」
「ふふっ、いいじゃない。さ、行こうよ。僕、色々行ってみたい所とかあるんだぁ~。」
蒼姉ちゃんはそう言いながら僕を引っ張るように歩いていく。しかしまぁ……こんなに自己主張の強い蒼姉ちゃん
は初めて見たかも知れない。普段は謙虚で控えめな人だからね。


「そう言えば、蒼姉ちゃんはどこに泊まってたの?」
「ん?僕はね、芝崎先生のお家だよ。翠星石と一緒にね。」
芝崎先生……まぁ、翠姉ちゃんみたいに言えばおじじ先生のトコだ。あの二人の老夫婦先生は、特に
翠姉ちゃんと蒼姉ちゃんを気に入ってるからなぁ。
「それでね……泣いてる翠星石を慰めてたら遅くなっちゃったんだ……」
僕は言葉に詰まる。蒼姉ちゃんが約束の時間に遅れるだなんて、普通では考えられない。
でも、その理由は双子の姉を一番気遣う彼女らしい理由で。
「そっか……でも、翠姉ちゃん本当に泣いてたの?ほら、翠姉ちゃんの事だし……」
「泣いてたよ……本当は君だって分かってるでしょ?翠星石は素直じゃないだけなんだよ。それだけで、君への
気持ちに嘘偽りはない。ふふっ、そう考えるとJUM君も少し素直じゃないのかな?」
蒼姉ちゃんはクスリと笑う。そう言われてしまうと何も言い返せない。
「少しだけ、羨ましいな……そういうの……」
そんな僕を見て、蒼姉ちゃんはポツリと言う。羨ましい?一体何がそんなに羨ましいんだろう。
僕がそう考えていると、蒼姉ちゃんの顔は笑顔に切り替わって、僕の手を強く引く。
「さっ、その話はこれでお終い!今日は僕とJUM君二人だけの一日だからね。」
「……そうだったね。それじゃあ、どこに行こうかなぁ。蒼姉ちゃんはどこ行く気だったの?」
「えっとね、まずはデパートにでも行こうかなぁって。あそこなら、色々見て回る場所もあるしね。」
確かに、街のデパートは非常に大きい。店内に様々な店が入ってるために全部見て回ろうと思うと、
下手すれば丸々一日かかってしまう。
「デパートかぁ。うん、それじゃあ行こうか蒼姉ちゃん。」
僕はそう言って、握られた手を握り返す。すると、蒼姉ちゃんもそれまでより少しだけ強めに手を握り返して
くれる。こうして、僕と蒼姉ちゃんはお互い手を繋ぎながらデパートに向かっていくのだった。


さて、その店内には当然と言うべきなのだろうか。見渡す限り人、人、人。
ある人はべジータのように悲しく一人でブラブラしている。ある人は奥さんと子供と一緒に、家族で店内
を見ている。そして、ある人は恋人との時を過ごしている。
「わぁ、凄い人だねぇ。春休みだから人多いのかなぁ。」
「うん、そうだと思うよ。僕もたまに学校の帰りに寄るけど、ここまで多くはないからね。」
僕は蒼姉ちゃんと適当にお店を見ながらデパートを歩いている。あ、あの服は蒼姉ちゃんに似合うかもなぁ。
「そうなんだ。僕はあんまりここには来ないからなぁ。御飯のお買い物も、商店街で済ませちゃうし。」
「蒼姉ちゃんは友達とかと遊びに来ないの?」
「ん~、あんまり来ないかなぁ。遊ぶ場所はここだけじゃあないしね。」
蒼姉ちゃんは言う。確かに、街には他には遊ぶ場所もあるし、ここだけじゃあないけど……まぁ、蒼姉ちゃんに
しても、常に側にいる翠姉ちゃんにしても人ごみが苦手なのかもしれない。
「そっか。僕が遊びに来る時は、やっぱりカップルが多い気がするよ。僕たちと同じくらいの高校生の
カップルかな?うちの学校の制服の人達もいるし、隣町の高校の人達もいるしね。」
そんなカップルの中で、僕はべジータと二人でブラブラしてる時があるんだから堪らない。
「へ、へぇ~……カップルもよく来てるんだ……え、えっとその人達はここで何したりしてるの?」
「ん~、そうだなぁ。適当に店回ったり、ゲーセンで遊んだり……じゃないかなぁ?」
なかなか変な質問をされた気がする。言わなくても分かるような気もするんだけど。と、そんな事を思っていた
時だった。僕達の前を歩いていた高校生カップルがなんだか急にイチャつき出した。何故高校生か分かる
かと言えば、格好が制服だった訳で。部活か補習か……何にしろ学校に行く事があったんだろう。
そして、そのカップルは何を思ったか……いや、見るのは初めてじゃあないけどさ。たまぁ~にいるんだよね。
こんなバカップルって言うのかな?そのカップルは本当に短くだけど……ちょんとキスをした。
その瞬間、握られていた僕の手に力が入る。横を見れば蒼姉ちゃんが顔を赤くしている。
「わっ、しちゃった……人前なのに……」
「最近では結構見るけどね。高校生カップルには多いかなぁ。」
蒼姉ちゃんは未だに顔を赤くして口をパクパクさせている。よほどインパクトがあったんだろうか。まぁ、銀姉ちゃん
や薔薇姉ちゃん辺りならともかく、蒼姉ちゃんは絶対にしない事だろうしね。
「蒼姉ちゃん大丈夫?ゲーセンにでも行こうか。」
「う、うん。大丈夫だよ、JUM君の行きたいトコに行こうか……カップルってあんな事もしちゃうんだ……」
なんだか蒼姉ちゃんが呟いた気もするけど……まぁ、気にする事はないよね。


さて、行き着いた先はゲームセンター。相変わらず店内は薄暗い割に、ライトアップが眩しい。
「JUM君もゲームとかするの?格闘ゲームとか、レースゲームとか。」
「僕はそのへんは専門外かな。どっちかと言えば、僕はこっちが好きだしね。」
そう言って、僕はクレーンゲームの前に立ってとりあえず100円投入。クレーンがガーっと音を立てて動いていく。
クレーンは、目的のヌイグルミを掴むが敢え無く上昇中に落ちる。が、想定内だ。100円で取れるなんて
初めから思ってない。続いて200円目で取り易いようにヌイグルミの角度を変える。さて、次が勝負だ。
少しだけ深呼吸をして、300円目を入れる。クレーンを自在に動かして、掴ませる。目的のヌイグルミは
しっかりとクレーンに掴まれており、蹴飛ばしでもしない限りは落ちる事はない。
「よっし、取れた!!はい、蒼姉ちゃん。あげるね。」
「えっ、いいの?くんくんのヌイグルミ……」
目的のヌイグルミは言うまでもなく、くんくんだ。我が家でコレを喜ばない姉ちゃんはまず居ない。
「うん、いいよ。いつもは真紅姉ちゃんに取られてるから、今日は蒼姉ちゃんにさ。」
蒼姉ちゃんは、ヌイグルミを受け取ると大事そうに胸にギュッと抱きしめる。ヌイグルミになりたいって思ったのは
内緒だよ?って、何だか思考がべジータ並になってる気がするな……
「ありがとう、JUM君。僕、凄く嬉しいよ。」
蒼姉ちゃんはそう言って、笑顔を見せてくれる。いつも見ていた笑顔なのに、今日は思わずドキドキしてしまう。
だからだろうか……それを隠すために目を泳がせていると、プリクラを発見した。
「そ、そうだ蒼姉ちゃん。あれ、一緒に撮る?」
「あ、うんいいよ。一緒に撮ろうか。」
僕と蒼姉ちゃんは、再び手を繋いでプリクラコーナーに入っていく。ここのデパートのゲーセンでのプリクラ熱は
まだ冷めていないらしく、相変わらず男のみの侵入は禁止になっている。いつもべジータが気持ち悪く指を
咥えて見てるけど……今日なら僕も勝者側だなぁなんて思ってしまう。
「あ、ほらあそこは人いないみたいだよ。入ろうか。」
僕は蒼姉ちゃんの手を引いて、人待ちのなかった機械に向かっていく。暖簾のような仕切りを開いて
中に入ると、そこは簡単ながら外界からは完全に隔離されたような空間だった。


「何だか、本当にデートしてるみたいだね……」
とりあえずお金を入れてフレーム云々を選んでいると、蒼姉ちゃんがそう言った。
「ははっ、蒼姉ちゃんがそう言い出したんじゃないか。今日は、僕とデートしに来たんだってさ。」
「ふふっ、そうだったね。僕がずっと思い描いてきた……きっと、カップルってこうやって過ごしてるんだろうなって
思ってたデート……僕の願い、沢山叶っちゃった。」
蒼姉ちゃんはそう言って、胸に手を置いて満足そうな顔をしている。と、同時にパシャリと一枚目を撮る音
が聞こえる。参ったなぁ、完全に素で映った気がするよ。
「でもね……僕って案外欲張りなんだなぁって思ったんだ。最後の最後に……もう一個だけ叶えたい事
が増えちゃったんだ。」
二枚目がカシャリ。残るは最後の三枚目だけだ。
「やっぱり恥かしくって、人前って訳にはいかないけどね……デート中に、カップルとして。JUM君とキスしたい。」
蒼姉ちゃんはそう言って、少し背伸びをして僕の頭に手を伸ばす。僕もそれに答えるように蒼姉ちゃんの
体を抱きしめる。そして、僕達は唇を重ねた。暖簾みたいな簡単な仕切り。部屋のように、完全に
隔離なんてされていない。いつもの蒼姉ちゃんなら、絶対にしない事。でも、今日は……
パシャリと、三枚目の写真が撮られる。その音が聞こえた後に僕等は唇を離した。
ふと、近くで話し声が聞こえる。ああ、ここにも待ちができたんだろうな……そう思って僕と蒼姉ちゃんは
プリント機から出る。そして、プリントされた写真を取り出して見る。
「わっ……自分で見ても恥ずかしいね……」
3種類のうち、2枚は僕も蒼姉ちゃんも全く焦点があってない。でも、問題は残りの1種類。
写真の中で、僕と蒼姉ちゃんは互いに愛しそうに、唇を重ねていた。これは新手の羞恥プレイな気すら
してしまう。自分達のキスを見るのがこれほど恥かしいなんてね……
「あははっ……僕達も人の事言えないよね、これは。」
「うん……これじゃ見事にバカップルだね。」
そう言って、お互いから思わず笑みがこぼれてしまう。いいんだ、バカップルでもさ。
これがきっと、蒼姉ちゃんの望んだ一日だったんだから。


デートも終わり、夕食は蒼姉ちゃんが作った御飯を食べて。久しぶりに同じ布団で眠って。
時間の早さを恨みたくなるほど、時は5日目の朝になっていた。
現在の時間は10時少し前。僕達は蒼姉ちゃんが作ってくれた朝食を食べ終わって、リビングのソファーに
腰掛けていた。
「この一日ほど、楽しい日はきっとなかったと思うんだ。僕のほとんど願いは叶っちゃったから……」
そう言って、蒼姉ちゃんは僕の手を握る。その手は心なしか少し震えている。
きっと我慢してるんだなって思う。蒼姉ちゃんは満足気に言ってるけど……まだまだ物足りないんだ。
でも、近づく約束の時はそれを満足させる事なんて許してくれなくて。
「ねぇ、JUM君。僕のきっと最後のお願い……聞いてくれるかな?」
ふと、蒼姉ちゃんはソファーから立ち上がって僕の前に立った。思わず、僕も立ち上がる。
「なぁに?蒼姉ちゃん。」
蒼姉ちゃんが僕の両手を、両手でしっかりと握る。そして、真っ直ぐな瞳で僕を見ながら、言った。
「僕の事……ううん、僕達のこと忘れないで下さい。JUM君がドイツに行ってしまっても。本当の家族と
暮らす事になっても。偶に、思い出してください。血は繋がってなくても、君の事を誰よりも思っている
姉妹が居た事を。それが……僕の願い……」
蒼姉ちゃんの瞳からは雫が溢れて。でも、彼女は変わらず微笑を僕に見せてくれていて。
きっと誰よりも僕の事を。姉妹の事を。みんなの事を思っている優しい蒼姉ちゃん。
「忘れる訳ないよ。忘れられる訳ないじゃないか……蒼姉ちゃんは……ううん、僕の姉ちゃん達は
僕にとって、かけがえのない人達なんだから。」
時間よ、涙よ、止まってくれ。この人の笑顔を覚えておきたいから……
「JUM君……僕は、君にとっていいお姉さんでいられたかなぁ……?」
僕は震える体で、ただウンウンと頷くしかできない。それを見た蒼姉ちゃんは、手を離すと言った。
「よかったぁ……」
その言葉は、とてもとても満足そうで。とても優しくて。いつまでも僕の耳の残っていた。
蒼姉ちゃん。僕は、貴女にとっていい弟でいられましたか?
END
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