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真紅は静かに二人に近づくと、穏やかに声をかけた。
「真紅…いまさら何か用です?」
「ええ。さっきの貴女の話を、もっと詳しく聞きたいと思って」
「あれ以上言うことはねぇですよ」
翠星石は顔を背けると、むっつり口を結んで虚空を睨んだ。

「そう言わないで。私には、貴女が何をそんなに怒っているのかわからないのよ。きちんと説明してくれないかしら?」
「わからない?本気でいってるのですか?さっき言ったとおりですよ。それにもう、真紅には関係ないです」

とりつく島もない姉を横目に、蒼星石は質問の対象を真紅に当てる。
「ねぇ真紅、翠星石はさっき何を言ってたんだい?」
「あら、蒼星石?…それはちょっと…」
真紅が口を噤んだのは、自分の解釈が早合点であったときに恥ずかしい思いをしないためだ。
そのために、翠星石が言ったことを正確に思い出さなければならなかった。

「…いえないの?」
「そんなことは…。ただはっきりしてるのは、ジュンが二股をかけたって…」
「ええ!?ジュン君が二股!?そんなことを言ってたの!?」

すっとんきょうな声を上げる蒼星石に、翠星石は訝しげな視線を送った。
「…蒼星石、何言ってるですか?そのことはさっき話したじゃねぇですか…」
「嘘!?そんなことひと言も触れてないよ!?」
真紅の方は真紅の方で、やはり怪訝な目を向けた。

「蒼星石。貴女はジュンが二股をかけたことを知らないの?」
「し、知らなかったよ…。ジュン君、それが本当なら許されることじゃない」
「…おかしいわね。じゃあ、翠星石のいった裏切りとはなんのことだったのかしら?」
「そうなんだ、実はそれがさっきからわからないんだよ!」

「蒼星石!どうしてそんな嘘をつくですか?その話をずっとしてたんじゃねぇですか。
それとも、二人でグルになって翠星石をからかってるのですか?」
「そんなことするはずがないじゃないか。僕はすっかり別の話だと思っていたよ」
「別の話?いったい何の話だと思ってたんです?」
「え?それは…」
「蒼星石はまだ翠星石に隠し事をするのですか!?」

「待ちなさい翠星石。このままいくとよくない方向へ進む気がするわ。
頭の中がごちゃごちゃしておかしくなりそう。私から質問させて。
…ねぇ蒼星石、貴女はジュンと付き合っていたんじゃないの?」
「…僕が?」
「ええ」
「……」
「……」
「って、えええええええ!?ぼぼぼぼ僕がじゅじゅじゅジュン君と!?
つつ付き合ってなんかないよ!どどどっからそんなこと…」

真紅の質問に蒼星石は飛び上がらんばかりに驚愕して、取れてしまいそうなくらいに手と首をぶんぶん振る。

「翠星石がそんなようなことを言ってたのだわ」
「そそそそんなことあるわけないじゃないか!」
「…だそうよ、翠星石」
「…今の話はほんとですぅ?」

蒼星石は痙攣してるように頭を繰り返し縦に揺らした。
翠星石は眉に皺を寄せて一つ溜息をつく。

「そんな…じゃあ…じゃあ蒼星石は、か…体だけの関係だったと言うのですね!?」
「……へ?」
「言うです!蒼星石はジュンと…」
「ちょちょちょ待ってよ翠星石!なんだか途方もない方向に話が進んでるよ」
「…私にもそう感じられるわ。翠星石、貴女少し冷静になりなさい。
自分が何を言っているのか、よく考えてご覧なさいな。
とりあえず、しばらくの間黙ってて頂戴」

真紅が遮ると、翠星石は不服そうに頬を膨らませた。
しばらくすると、蒼星石の方も落ち着いたようだった。

「ジュンは二股などかけていないし、蒼星石と…その、まあ、体の関係なんてないでしょう。
蒼星石の様子を見たらわかるわ。どうしてそんなことを考えたの?」
「どうしてって…。だって、真紅が言ってたことじゃねえですか!」
「…私が?そんなこと、まったく言ってないわよ」
「そんなことないですぅ!言ってたです!」
「どこからこんな誤解が生まれたのかしらね?
まったく、貴女が勝手にヤキモチを焼いてるだけよ。問題は何も起こってないのよ。
それにしてもこんな勘違いをするなんて、やっぱり貴女は…」
「なっ…す、翠星石はヤキモチなんて焼いてねぇですぅ!」
「…どうかしら?だいたい体の関係だなんて…発想が下劣だわ」

「じじ、自分のことを棚に上げてよくそんなことがいえるですね真紅は!」
「私のこと?私が何かしたというの?」
「そうだ、僕はそのことについて君に言わんければならないことがあったんだ。姉妹としてね。
真紅、君は自分の体をもっと大事にしなくちゃいけないよ」
「蒼星石?…急に、いったい何の話?」
「だから、遊びで男の人と付き合うような真似はしないでほしいと…」
「私にいっているの?」
「それ以外に誰がいるっていうんだい?」
「…その忠告の相手は、私ではなく翠星石の方が相応しいのではないかしら?」

「す、翠星石にって、どうしてです!?こ、これは真紅の…そう、真紅の問題ですよ…」
「そうだよ、真紅。話を逸らさないで欲しい」
蒼星石も応戦し、真紅は口元に手を当ててじっと考え込んだ。

「…ごめんなさい、貴女たちが何をいいたいのかわからないわ」
「真紅、そこまで落ちたですか!」
「真紅…」
「……どうなってるの?何で私、責められてるのかしら…何か変なこといった?」
「聞いてるのかい?僕はね、君がジュン君と付き合うというならそれでいいと思う。でもそれはもっと真剣なものであるべきで…」
「…ちょっと待ちなさい。今、私がジュンと付き合ってるといった?」
「うん」

真紅はしばらく呆けていた。が、やがてはっとして、
「な……なんてことをいうのだわ!!ジュンと付き合ってなんかいないわ!」
「あんなことをしておいて付き合ってすらないなんて…やっぱり真紅こそ下劣ですぅ!」
「そうだよ真紅、僕が咎めてるのはまさにそこで…」
「ああもう、何を言っているの!?ジュンと付き合ってるのは、…す、翠星石ではないの!?」

「ななななななな!!!?」
「ええっ!?」

慌てふためいた真紅の言葉に、今度は双子が取り乱す番だった。翠星石は腕を振り回しながら、
「そそそそそんなわけねぇです!ジュンは真紅と蒼星石で二股をかけて…」
「だから僕とジュン君にそんな関係はないと言ってるじゃないか!ジュン君と付き合ってるのは真紅で…」
「付き合ってないと言ってるでしょう!同じ事を言わせないで頂戴!」
「真紅!君はまだそんなことを言うんだね!?」
「蒼星石もです!二人とも最低ですぅ!」
「そっ、それは誤解だって何回言えば…」

「黙りなさい!もうめちゃくちゃよ!!落ち着きなさい!!落ち着くの!わかった!?わかったわね!?
はぁ、はぁ………あら…ごらんなさい、ジュンよ。ほら、こっちに気づいたわ。呼びましょう。
…こうなったら、このわけのわからない話の中心にいるはずのジュンに頼るしかないわ」




「なんだお前ら、まだ帰ってなかったのか」
「ジュン!」
「ジュン君!」

思いかげない強い反応に、ジュンは嫌な予感を感じて立ち止まった。

「な、なんだよ…ってうわっ!す、翠星石!?」
「ジュンのバカ、バカ、スケコマシの変態チビ人間!見損なったです、お前なんか最低のどあほぅですぅ!」
「いたっ!き、急になんなんだよ!」
「ジュン君…一つ聞きたい。君は、遊びで女の子と付き合って、相手のことをどう思ってるんだい?」
「そ、蒼星石?何いって…いたっ、やめろって翠星石!おい真紅、どうなってるんだよ!?」

「それは私が聞きたいわ。真実を求めてトンネルを掘り進めると、上から瓦礫が降ってくるのよ。
もう砂埃で何も見えないわ。ジュン、貴方誰かと付き合ってるの?」
「はぁ?何言って…」
「ジュン君!あれだけのことをしておいて、真紅と同じ事を言うんだね…やっぱり君たちは…」
「ジュン…遊びというのは本当だったですね…もう、みんなケダモノです!」」

「はぁぁ!?真紅、いったいなにがどうなって…」
「ちょっと黙って。ジュン、貴方の言葉に嘘はないわね?状況がわかりかけてきたわ」
「僕にはさっぱりわかんないぞ!」
「黙りなさい」
「んなっ!?」

脈絡もなく意味不明な質問をされ、それに答えたら身に覚えのない面罵を受け、
疑問を唱えれば黙っていろと、理不尽極まりない扱いにジュンは顔を赤くして息巻く。

「このぉぉ、さっきから会うなりわけわかんないことを言いたい放題…僕が何したって言うんだ!?」
「何したって!?ナニしたんじゃないか君は!」
「だから意味わかんないよ!」
「このへっぽこぽこのすけ、何人の女を手込めに…」
「はぁ!?」
「す翠星石、僕は関係ないって何度も…」
「みんな落ち着きなさい!ジュン、私と貴方が付き合ってないということを、貴方の口からもちゃんと説明してあげて頂戴」
「だからわけわかんな…へ?」

怒声を張り上げていたジュンは、思いも寄らぬ真紅の言葉に言葉を失った。
が、やがて言われたことの意味を捉えると、いよいよ真っ赤になって叫んだ。

「ななな何言ってるんだよ真紅!僕とお前がつつつつつ付き合ってるだなんて……!」
「だから違うと言ってるでしょう。それを黙って説明すればいいの。これ以上ややこしくしないで」
真紅はあくまでも冷静に突き放すが、ジュンを含めほかの三人はいまだ熱くなったままだ。

「ジュンも真紅もとんでもないですぅ!たった今あんなことをしておいて…!」
「そうだよ!それに、さっきから僕はそういう関係こそがよくないと言っているんだ!」
「…たった今と言ったわね?あんなことっていうのは何か、はっきりいって頂戴」
「そそそそんなこと…いえるわけねぇです!」
「真紅、とぼけないでほしい。翠星石がはっきりと聞いたんだし、ジュン君もいっていたよ。君は家庭科準備室でジュン君と…」
「裁縫を教えてもらっていたわ」

「そう!裁縫を…え?」
「裁縫」
「さいほお?」
「裁縫」
「それは、針と糸を使う…」
「裁縫」

瞬間。

ざわついていた空気が止まったことをジュンは感じた。
さながら噴火した活火山のようだった双子は固まって、真紅は無表情にそんな二人を見据えていた。
そのまましばらく続いた沈黙を破ったのは、翠星石だった。

「で、でたらめですぅ!翠星石は聞いたですよ!じゅ、ジュン、ほんとのことを言えです!」
「ほんとのことも何も…真紅の言ったとおりだよ。お前、見たんじゃないのか?」
「だ、だって…なんでそんなこと…」
「真紅に頼まれたんだよ。こういうことは初めてだっていうからさ」
「初めて…裁縫…初めて…じゃあ、痛がってたのは…」
「ああ、真紅が針で指を傷つけたときだろ」
「針で指を……それで血がでたですか…。で、でも…何か叫んでませんでしたか…」
「真紅は短気だからな。ちょっと失敗するとすぐにヒステリーを起こすんだよ」
「…………じゃあ、さっき真紅が話したのは…」
「そうね、裁縫の話よ」
「裁縫…教えて欲しい…蒼星石、上手…」
「………」

静寂が辺りをつつんだ。日没で冷えた空気の重さをわけもわからず背負ったジュンは、戸惑いながら三人の顔色を窺った。
翠星石は、呆けた顔で目を宙に彷徨わせている。
蒼星石は、何か考えている風にしながら翠星石と真紅を交互に見比べ、あっと口を押さえて俯いている。
そして真紅は、心底疲れ切ったという顔を双子に向けていた。

「はぁ…あれこれと心配してこの小さ…この胸を痛めた挙げ句、
蓋を開けてみればこんなこと…。翠星石の言葉をほんの少しでも間に受けた私がバカだったのだわ…。
土台そのものが歪んでいては、どんな名推理も当てにはならないということかしら。
…それにしても疲れたわね。悪いけれど、先に帰らせてもらうわ。
翠星石、家に帰ったら話があるから、覚悟しておきなさい。
あなたがどういう勘違いをしたのか、だいたい見当がついてるのだわ…」

うんざりした声で真紅は肩を落とすと、足早にこの場を去っていった。
真紅がいなくなると、はっとしたように蒼星石は声をあげる。

「ジュン君…本当にごめん!僕はなんてことを考えていたんだろう。君はただ裁縫のことを話していただけなのに…。
どうか僕のことを許してほしい。翠星石、君もだ。思い違いのためとはいえ、君には心無いことを…。
そうだ、真紅にも謝らないと!ああ、顔から火が出そうだよ。今日という日を一日も早く忘れたい…」

蒼星石は居心地の悪さに押しつぶされそうになりながら、
一刻でも早くこの場から逃げ出したいのか、そそくさと真紅の跡を追った。

「…二人とも、どうしたんだ?おい、翠星石」
なおも放心状態の翠星石にジュンはそっと声をかけた。
「……」
「翠星石?」
「……ほ…」
「ほ?」
翠星石は機械仕掛けの人形のようにぎこちなく後ろを向くと、刹那、目を見開いて顔を押さえ、
「ほぁーーー!!!!」
耳を劈くほどの高声と共に脱兎のごとく駆けだした。

ジュンは思わず目と耳を塞ぎ、再び視界が明るくなったときには、
既に翠星石の姿は見えず、ただ遠くから甲高い叫びがわずかにたなびいて聞こえるばかりだった。
一人ぽつんと残されたジュンは、翠星石に振り落とされた鞄に目を落とし、

「って…結局なんだったんだぁー!!」

やり場のない感情が空を舞った。




「真紅、すまんです…」
「僕も謝るよ。本当にごめん」
テーブルの上の紅茶を間に、翠星石と蒼星石は神妙な顔をして真紅に頭を下げた。
真紅はカップに口を付けて一息つくと、

「もういいわ。事情はわかったけれど、貴女たちの想像力には感心してよ。よくもまぁここまでこんがらがったものね。
…それより、ジュンにはちゃんと謝ったの?あの子もわけもわからず怒鳴られたのだから、良い気分はしないでしょう」
「うん、一応謝ったけれど…なんだか気まずいな…」
「………」
「…翠星石?貴女…呆れた、その様子だと、何も言わずにきたようね。
顔を真っ赤にして走ってきたから、もしかしてとは思ったのだけれど」
「うっ…だ、だって…会わす顔がねぇですよ…それに蒼星石にも…翠星石は大バカ者ですぅ!」
「翠星石、僕はもう気にしてないから…。僕も君には嫌な思いをさせちゃったし…。
今度、二人でまたジュン君に謝ろ、ね?」
「でも…きっとジュンは翠星石のことを嫌いになったです…翠星石は酷いことを言ってしまったですよ…」

真紅は大きく溜息をつくと、肩をすくめて言った。
「あれくらいで貴女のことを嫌いになるなら、もうとっくになってると思うわよ」
「なっ!ど、どういう意味ですかぁ!」
「言葉通りだと思うけど…。でも本当にジュン君には申し訳なさでいっぱいだよ。
特に僕なんて、信じるのも疑うのも中途半端で…挙げ句こんな思いをするくらいなら…。
どうして信じることができなかったんだろう」
「…とても難しいことだからよ。私も今回は学んだわ。
信じなければいけない人だからこそ、疑り深くもなってしまうものね」
「耳が痛いですぅ…」

そのとき、客人の来訪を告げる鐘の音が響いた。
「あら、誰か来たようね。誰かしら?」
「さぁ…行ってくるよ」
蒼星石は席を立つと、玄関の方へ向かった。相変わらず翠星石は俯いたままだ。
廊下の向こうから蒼星石の声が聞こえるまで。

「ジュン君!?」

その声に翠星石はぱっと振り返ると、そこにはたしかに彼女の想い人が、
はにかんだ笑みを浮かべてこっちへ向かっていた。

「あっ…」
「逃げてはだめよ、翠星石」
「う……はいです」
真紅が思わず席を立った翠星石を牽制する。

「ジュン君、どうしてここに?」
「べ、別に…ただちょっと、真紅のやつが糸を忘れてたから、それを届けに来ただけで…
お前らの様子が変だったから気になったとかじゃなくて…その、渡すの忘れてたから…それだけだよ」

真紅はくすっと微笑むと、ジュンに悪戯っぽい目を向けながら、
「あら…私、そんな忘れ物をしたかしら?」
「し、したんだよっ!ほら、これ、お前のだ!」
「ふふ、そういえばそうだったかもしれないわ。…いい子ね、ジュン」
「ふ、ふん」

そっぽを向くジュンを優しく見据えながら、真紅は翠星石の背をさすって促した。
「…ほら、翠星石」
「わ、わかったですぅ…」

翠星石は胸の前でもじもじと両手の一差し指をひっきりなしに交差させながら、
上目遣いにジュンを見た。


(挿絵:【この風は】【貴方ですか】>>52様)

「な、なんだよ…」
少し赤くなりながらジュンが言う。
「その……今日は…ご、ごめんなさい…ですぅ…」
最後は消え入りそうなほど小さかったけれど、ジュンはやっぱりはにかんで、
「き、気にしてないから…
…そ、それより、今度真紅とまた何か作ろうと思うんだけどさ!
そのときはお、お前らも来いよ。ここれは別に真紅が不器用だからでって痛っ!」

金色のツインテールがジュンの頬を打つ。
「失礼ね、私だってもう少し練習すれば上手になるわ。
…でも、確かに貴女たちも協力してくれた方が助かるわね」
真紅が笑みを双子に向ける。
翠星石と蒼星石は顔を見合わせると、パッと笑って声を弾けさせた。
「うん、ありがとう、真紅、ジュン君!」
「しゃ、しゃーねぇやつらです、贖罪にこの翠星石が特別にぃ、いた、痛いですよ蒼星石!」
「こんなときくらい素直になりなよ」
「う~…わ、わかったですよ…」

二人のやりとりを眺めながら、ジュンは真紅の方を見やると眉を上げ両の手を広げた。
真紅はそれに合わせて笑みを零す。

「ふふ。さぁ、翠星石、蒼星石。そろそろご飯にしましょう。
ジュン、せっかくだから食べていきなさい。時間はあるんでしょう?」
「あ…いいのか?」
「せっかくだし、食べていきなよ。迷惑かけたしね」
「そ、そうですよ!この翠星石が腕によりをかけてたぁっぷり作ってやるですぅ!」
「僕はそんなに食べる方じゃないって…それにお前、ダイエット中だろ?」
「…へ?なななんでジュンがそんなことを知ってやがるのです!?」
「あっ…じゅ、ジュン君、そのことはしっー!」

蒼星石が人差し指を唇に当てて必死にジュンにコンタクトを送るが、ジュンはそれに気づかず、
「なんでって、蒼星石が言ってたんだけど」
「ジュン君っ!あーー……」
「ほほう、蒼星石がですか」

あはは、と蒼星石は両手を前に突き出して、少しずつ後ずさりする。
「ははぁ、もしかして蒼星石が言ってた”裏切り”っていうのは、これのことですかぁ…
まったく、これは確かにくだらないですよねぇ、蒼星石?」
「ご、誤解だよ翠星石、ほら、僕を信じて…」
「問答…無用ですぅーーー!!」


そこには、いつも通りの情景。
ジュンはその心地よい喧噪を背にして、なんとなしに窓の外へ目を向けた。
空は久しぶりの満月で、雲一つ覆うことなく、淀みない光を乱反射している。
明日もまた晴れそうである。
月の下にはすっかり熱を奪われたアスファルトがどこまでも広がっていたが、
この分だと明日の昼にはまた熱をもつに違いなかった。




『相容れないものたちの喜劇』 終わり

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