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春の朝はとても柔らかく、そして空気が澄んでいる。

越してきてもう1ヶ月が経つ。

大学も始まりバイトも決まり、順調な滑り出しだった。

そして何より、あの音色を毎週聞けると思うと・・・。


-日曜日のアラベスク-
~予定~

日曜は、午前中しかバイトを入れない。
早朝~昼までのコンビニ。

理由は、ひとつ。

「お先です。」

バイトを終え、向かうのはあの教会。
今日も、ピアノを聞きにいく。
それが僕の日曜の過ごし方。

「また来やがったですか?おめーは他にすることがないんですねぇ。」
「翠星石だって毎週ピアノ弾いてるんだろ?あんま変わんねーよw」
「なっ…翠星石は芸術をしているんです!!おめーみたいにすることがなくてフラフラして
るようなヤツとは違うんです!!」
「酷いなwま、今日も楽しみにしてたからさ。お願いね。」
「あったり前ですぅ。翠星石にかかれば胃腸の弱い総理大臣もメロメロですぅ♪」
やはりこの人は、電波だった。

別に電波をどうこう言うつもりは無い。
むしろ可愛いからおkなんて考えまで浮かんでるが。

「今日は、何弾いてくれるの?」
「弾きたくなったのを弾くですぅ。それにおめーのために弾くわけじゃねーですよ?」
「これは失礼。それじゃあ、お願いします。」

~♪

彼女は、鍵盤に向かいピアノを弾き始める。

今日はどうやらJ-POPがお気に入りのようで、そればっかり弾いてる。
でも、こういう曲を改めてピアノで聞くのってなんだか新鮮だ。
今の時期に合う曲を彼女はチョイスしていたので、曲にとても入り込みやすかった。

「ふぅ~。ちょっと休憩するですぅ。」
「あ、そうだ。」

僕はカバンからお土産を取り出す。

「はいこれ。飲む?」
「気がきくやつですぅ。翠星石が貰ってやるですから感謝するですよ?」
「はいはい。」
僕が彼女に渡したのは、午後ティー。
どこのコンビニでもスーパーでも買える。そんなもの。

「今日は知ってる曲が多いわ。」
「そらそうですぅ。」
「どうして?」
「そんなもん気分に決まってるですぅ。」
「ふーん。」
「何か言いたげですねぇ。」
「いや、別に。」
「今日も晩御飯一緒にどうですか?っていうか来やがれコンチクショーですぅ。」
「強引だな。あ、一人じゃ淋しいんだろ?ニヤニヤ」
「な、なななな何言ってやがるですか!!
翠星石はおめーが一人で淋しく飯を食らってる姿を想像したらあまりにも惨めだから
仕方が無いから一緒に食べてやってるんですぅ!!
変な勘違いはするなですぅ!!」
「へぇへぇそらどーも。じゃあこないだのお礼でもさせてもらいますよ。」
「言ったですね?」

ピカーンなる効果音が鳴り響いたかのように、彼女の目が怪しく光る。

あぁ、僕の財布に春よ、来い。

そこで僕は考えた。
飲み放題の店に連れて行けば損害を最小限にとどまらせることが可能だと。
まぁ、それは後で考えてもいいだろう。

今は、ピアノの音色が聞きたいから。

「もう少し、お願いしていいかな?」
「仕方ない奴ですねぇ。心の広い翠星石様に1000万回感謝するですぅ。」

次に僕の耳に届けられたのは、【アラベスク】だった。

僕は、彼女のピアノの曲は基本的にどれも好きだが【アラベスク】は特に気に入っていた。
何故かはわからないが。

流れるように奏でられる旋律。
本当に落ち着く。
この時間がいつまでも続けばいいと、本気で思う。

だが、時の流れというのは無情。

僕の財布には、じわじわと冬が迫っていた。

「今日はジュンの奢りですぅ♪」
「ははは・・・」

もう笑うしかない。笑うしか。

翠星石はこないだもそうだったが、酔ったら手がつけられなくなる一歩手前まで飲む。
こっちの身にもなって欲しいものだが。

「あ、ジュン。」
「何?」
「今度の日曜日はあの教会でバザーがあるです。
翠星石が午前中は焼きそば作って午後からピアノ弾く事になってるんで、
午前中どうせ暇なんでしょうから手伝いに来いですぅ。」
「え・・・僕日曜の午前中だけはバイト入れてるんだけど・・・。」
「使えねーやつですねぇ。バイトなんか休んでこっちに来いですぅ。
バイト代は出ねーですけど、翠星石の特製焼きそばをゴチしてやるです。
そうとわかったらさっさと電話して空けとくですよ!!さ、善は急げです!!」

「え?ちょ!?僕に拒否権は無いのかよ?」
「拒否権も黙秘権も割引券もねーです!!」
「マジかよ・・・。」

僕はしぶしぶバイト先であるコンビニに電話をして、なんとか日曜日を空けた。

「それでこそジュンですぅ。GJですぅ。翠星石の焼きそばをwktkして待ちやがれですぅ♪」
「えらい自信だな。」
「バザーで一番よく出る商品は翠星石の焼きそばですぅ。覚悟しやがれですぅ。」

そう言って、また酒を飲む彼女。
「芋焼酎うめぇwwwですぅ♪」

僕は芋焼酎も好きだが、どちらかと言うと洋酒の方が好きだ。
それを彼女に言うと「おめーは非国民の売国奴ですぅ」なんていわれてしまった。
そんなもん人の好みだろw

「そうそうジュン、土曜日も丸1日空けやがれですぅ。」
「なんで?」
「察しの悪い奴ですねぇ、キャベツと人参と豚肉の準備を前日にするんですよ!」
「あの・・・僕も手伝わなきゃいけないわけ?」
「だからさっきから何回言わせるつもりですかてめーは!!
おめーには拒否権黙秘権基本的人権に加えて乗車券乗船券搭乗券もねーんですぅ♪」
「おいおい、僕は人間だぞ。」
「そんなことどうでもいいですぅ。とぉにかく!土曜日は朝から手伝いに来るですよ!」

彼女の強引さに呆れながらも、すっぽかすと何されるか分からないので素直に従うことにした。
それ以上に、土曜日が暇で本当に良かったと思う。

「じゃあ僕が土曜日迎えに行くから、ケータイの番号教えて。」
「お?おめーなかなかやり手ですねぇww
こーゆーチャンスを生かすとは、隅におけねーやろうですぅ♪」
「いや、そーゆーのいいからさ。ほら、赤外線。」
「ほれですぅ。」

その後も、こないだと同じく。
彼女を送っていった。

「来週辺りで散るですねぇ・・・」

夜風に辺り、酔いが少々マシになってきたんだろう。
さっきよりマトモなことを言っている。

「そうだな。でも散るときも綺麗だろ?」
「そうですけど・・・」
彼女は何だか淋しそうな顔をしていた。
感受性が豊なんだろう。

僕は所謂、無感動の類の人間だった。
桜が散ろうが知ったこっちゃ無い。

でも、彼女のピアノを聴いてからは少し変わったと思う。
それが、僕をいい方向に導いてくれているのは間違いない。

「それじゃ、また土曜日に。」
「気をつけて帰るですよ?」
「うん、じゃあね。」

彼女を送り届け、帰路に就く。

それから経過する時間の早さは、なんとも早く気付けばもう土曜日の朝。
いつものように2度寝をしていると・・・

バンバンバン!!!

「!?なんだぁ?」

「くおらぁぁ!!ジュン!!さっさと出てきやがれですぅ!!」

やっちまった。
見事なまでの寝坊。
今日は、朝から覚悟しといた方がよさそうだ。

-日曜日のアラベスク-
~予定~

fin.

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