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ある土曜の朝が始まる。

インターホンが鳴った。
その音は、二階で横になっている少年の耳に届いた。
しかし少年は動かない。
もう一度インターホンが鳴る。
この音もまた、二階で横になっている少年の耳に、しっかりと届いた。
しかし少年は、またも動こうとしない。

再びインターホンが、今度は何度も何度も鳴った。
絶え間なく、下品なまでに、インターホンは鳴り続けた。
当然この音も、二階で横になっている少年の耳に届いていた。
やはり少年は、動こうとしなかった。

インターホンの連射が止み、暫くの沈黙が訪れる。

「くぅおらチビ眼鏡!」
「うわぁ!?」
少年の部屋のドアが蹴破られた。


「僕は今、とっても眠いんだけど」
寝惚け眼を擦り、やがて眼鏡に手を伸ばす。
すると大きな欠伸をかき、再び目を擦る。
「毎晩遅くまで、下らないことをしているからですぅ!」
緑のスカートドレスを着た、長い茶髪の少女が、大声を上げて怒る。
少年はその声の大きさに、顔を歪める。
ようやく眼鏡をかけて、少年は少女に問う。
「それより、どうやって家の中に入ったんだよ」
「合鍵くらい、私が持っていない訳ないですぅ」
「なっ」
人差し指で鍵を振り回す少女の姿を見て、少年はあんぐり口を開けて絶句した。
やがて口をぱくぱく開閉し、言葉を探す。

「何でお前が、僕の家の鍵を持っているんだよ!」
「のりが貸してくれたんですぅ」
思わぬ返答に、少年は面食らった。
「え、な、何でだよ」
少年は、すぐさまその経緯を少女に問うた。
「のりが合宿で居ない間、チビ眼鏡の世話をするようにって。そうのりに頼まれたんですぅ」
少女は椅子に腰をかけ、両足を行儀悪くを遊ばせながら、彼の質問に答えた。
少年はベッドから立ち上がり、少女の前に詰め寄った。
「鍵を持っているのなら、なんで何度もインターホンを押した」
少女は何食わぬ顔をして答える。
「ねぼすけなチビ人間を起こしておくためですぅ。
でもチビ人間ときたら、あれだけインターホン押したのに、着替えすら終わらせていないなんてですぅ」
「なっ、早く出て行けよ!」



着替えを済ませた少年は、階段を下って一階に出た。
洗面台に向かい、顔を洗い終えると、思い出したようにトイレへと向かう。
手早く用を済ませた少年は、食卓に向かった。
「おはよう、ジュンくん」
リビングに入ると、キッチンの方から、青い男性服を着た、短い茶髪の少女がやってきた。
先程の少女の、双子の妹である。
「ごめんね、勝手に上がっちゃって。僕は一応止めたんだけどね」
そう言って彼女は肩を竦めた。
「蒼星石も着てたんだ」
蒼星石と呼ばれた少女は、両手にトーストを乗せた皿を持っていた。
「待っててね、今作ってるところだから」
蒼星石が食卓に皿を置く様子を眺めていると、またキッチンの方から声をかけられる。
「この翠星石様が、朝食を作ってやってるんですぅ。チビ眼鏡、感謝するですぅ」
トントントン……と、包丁とまな板がぶつかる音にまじって、翠星石の声が聞こえた。
「げ、あいつも作るのか。……大丈夫なのか?」
少年はその言葉を聞いて、顔を引きつらせる。
それに軽く苦笑を交えて、蒼星石が答える。
「大丈夫だよ、前よりずっと上手くなってるから」
「聞こえてるですよ、チビ眼鏡!」
バン、と大きな音を立て振り向いた双子の姉が、少年に向かって吠えた。



「へえ……まあ食えるようにはなったじゃん」
食卓に並んで並んだトーストとサラダ、ハムエッグを口にした少年が、彼なりの称賛の言葉を言った。
「まだまだこんなもんじゃねえですぅ!」
胸を張って、その言葉に答える翠星石。
そして、その様子を微笑ましげに眺める蒼星石。
三人の朝食は、のんびりと行われた。

朝食を終えて、食器洗いも済み、三人はリビングで話をしていた。
「え、泊まるの?」
「なんですか、不満でもあるですか」
またしても急な話に、少年は驚きを隠せなかった。
「お昼ご飯や夕ご飯も、僕たちが作るから安心して」
「翠星石と蒼星石のご飯を毎日食べられるなんて、チビ眼鏡は幸せ者ですぅ」
「いや、そういう問題じゃなくて……」
少年の言葉はインターホンによって遮られた。
「きっと真紅たちが遊びに来たですぅ」
翠星石の予想は当たり、少年が玄関の扉を開けると、そこには3人の少女の姿があった。
少年は顔を引きつらせて笑った。
「遊びに来てあげたわ、ジュン。上がるわよ」
「上がるわよ、じゃないよ……」
がっくりと肩を落とした少年の横を、三人の少女達が通り過ぎていった。


「ホント、皆して暇なんだなぁ」
先程同じ台詞を、少年は一階に居るその皆に向かって言った。
「あなただって同じでしょ」
「チビ眼鏡ほど暇な奴はいねぇですぅ」
そして、散々に言い返されてしまった。
「ボクだって一応、色々とやりたいことがあったんだけどなぁ」
そうぼやいて、一人自室のベッドに腰をかける少年。
窓の外を眺めながら、少年はそのまま独り言を続ける。
「大体何が楽しくて、皆して僕の家に来るんだろう」
幼稚園や、小学生だった頃ならいざ知らず、今の少年少女達は高校生である。
「そういう歳でもないと思うんだけどなあ……」
談笑を楽しむ少女達がいる一階から、こっそりと避難をした少年。
今は、ベッドに仰向けになって倒れて、のんびりと小説に読んでいた。
一階から聞こえるバイオリンの音に、聞こえないフリをして。

それから程無くして、少年の部屋の扉を、軽く叩く音が聞こえた。
それも少年は聞こえないフリをすると、扉は勝手に開かれた。
「シカトなんて酷いなあ、ジュンくん」
困ったように笑いながら、彼の部屋に入ってきたのは蒼星石だった。
読んでいた本を傍に置き、少年は上体をゆっくりと起こした。
「何の用?」
彼女の言葉は軽く受け流し、少年は質問をした。
「そろそろお昼だよ、下に来て」
少女がそう言い、少年は立ち上がる。



昼食を終えた少年少女たちは、リビングでテレビを見ていた。
「くんくん! ああ、危ないわ! 後ろよ、後ろにっ!」
「くんくんうしろなのー! うしろにいるのー!」
「志村、後ろー!」
「くんくん絶体絶命なのかしら~!」
「全く……こんなアニメのどこが面白いんですぅ」
「性悪、僕の腕を強く握り過ぎだ。痛い」
「今誰か、知らない人の声が混じっていたような気が……」
彼らが見ているものは、有名な人形劇「くんくん探偵」の劇場版DVD。
四年前の夏頃に放映されたものだ。
約二名ほどを除いて、全員テレビ画面を食い入るように見詰めていた。
「いくつになっても、みんな好きなんだなぁ。このくんくん探偵」
熱心にテレビ画面を見詰めていない少年が、思わずぼやいた。
「こ、こんなアニメ、翠星石はなんともないですぅ!」
少年のぼやきを聞いて、翠星石は慌てて取り繕った。
しかし、テレビ画面を注視しつつ、少年の腕を握る彼女の手は、一層強くなっていく。

「ん? どうした、蒼星石」
ふと、彼女から強い視線を感じて、少年は思わず訊ねてしまった。
「ううん。なんでもないよ、ジュンくん」
少女はそう言って、顔をテレビ画面に戻した。
少女の横顔は、穏やかに微笑んでいたが、少年はその微笑に、なにか引っかかるものを感じた。

「きゃーっ! 怖いですぅ!」
「腕が痛い痛い痛い痛い痛い!」
「ふふふふふ……」



それからDVDを見終えた少女達は、暗くなる前に家へと帰った。
双子達が作った、豪勢な夕食を平らげた少年は、今は自室で一人で居た。

「翠星石のやつ、いつの間にあんなに料理が上手になったんだ?」
さきほどの夕食を思い浮かべながら、少年は再び驚きを言葉にしていた。
明日の朝食にも期待を寄せつつ、ベッドの上で、食べ過ぎたお腹を撫でていた。
「でも、残したら明日からは作ってやらない、なんてちょっと酷いよ」
彼も流石に、彼女たちの作ったご馳走の山を、全て平らげることは難しかったようだ。
「チビ眼鏡! 風呂が空いたですぅ! さっさと入りやがれですぅ!」
扉越しに大声をかけられた。声は双子の姉のもの。
少年は返事をして、ベッドから腰を上げた。
ドアの前まで来て、ノブに手をかける。
ふと、何故自分が自分の家の風呂に入るのを、急かされなければならないのかを疑問に思った。
直ぐに、疑問に思っても仕方が無いことに気がつき、ドアを開いた。
ドアを開けると、そこにはまだ翠星石が立っていた。
寝巻き姿の彼女を見て、一瞬動揺してしまったが、直ぐに冷静さを取り戻す。
あまり余計なことは考えないように、少年は意識した。
「どうしたんだ、翠星石?」
少年が訊ねると
「べ、別に邪まなことは考えてねえですぅ!」
と、顔を真っ赤にして階段を下っていった。
少年は訳がわからず、暫くその場に立ち尽くしていたが、やがて彼もゆっくりと階段を下っていった。
妹は、姉のそんな様子を、呆れた風に眺めていた。



「ジュンくん、遠慮はいらないよ」
「この翠星石が、特別に言ってやってるんですぅ! 感謝するですぅ!」
「誰がそんな申し出を承るかーっ!」
その後、風呂を上がった少年は、彼の部屋に入り込もうとする双子を、用意した部屋に追いやって、
ようやく安息の時を得た。

また明日も、姉が帰ってくる明後日も、このような調子で過ごすのだろうか。
そんな風に思うと、喜びや期待と共に、幾らかの疲れが込み上げてくる。
「今日は何事もなく一日が終わったけど、明日はどうなるかわからないしな……」
苦笑を浮かべて、ベッドの上に大の字になる少年。
眼鏡を外し、ぼんやりと天井を眺めると、次第に眠気が襲ってくる。
「今日はもう寝ちゃうか……」
毛布を被り、横になる。
「これからが、本当の地獄だ……!」
「ハッ、今王子の気配が……うぅ~ん、眠い……」
そのまま少年の意識は、深い眠りの中に消えていってしまった。

それから程無くして、二つの影が怪しげに目を光らせ、少年の部屋に忍び入った。
その後、少年がどうなったかは、三人だけの知るところとなる。

やがて、窓の外。
電柱の天辺に立ち、高笑いを上げる三人目が、闇の中に姿を暗ました。
「カカロット、お前がNo.1だ……!」


「なんだそこの君! 怪しいぞ、泥棒か!」
「違う、ベジータ様だ!」

こうして、ある土曜の夜が終わる。



【ある土曜の日のこと】

おしまい





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