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『Magic of Love』


もう3月だというのに、雪は容赦なく降りつづいている。
窓のむこうの景色は、四角のぶんだけ白かった。
再び遠のいた春の足音。
代わりに聞こえてくる、階段を上がってくる人の足音。
階段を上るときの音は人によって違う。
慣れてくると誰だかわかるようになる。
とんとんとん。
外がさむかったせいだろう。いつもより若干ペースが速い。
それにあわせるかのように、僕の心臓のペースも上がってくる。
僕は気持ちを落ち着かせようと、くもったガラスに相合傘を描き、僕と真紅の名前を書く。
逆効果だったかな・・・。
もうすぐ真紅が来る。
僕は、なんだか気恥ずかしくなって、相合傘の部分をカーテンで隠して、
入ってくる真紅にまず、なんて言おうかと考え始めた。

答えがでないまま、
ガチャ。
ドアが開いた。
「今日もさむいわね、JUM」
「ああ、そうだな、真紅」
そっけない挨拶。
冷たいわけじゃない。
「JUM、紅茶の用意・・・はできてるようね」
真紅がお茶会用のテーブルの上のティーセットを見てつぶやく。
紅茶を飲むならダイニングで飲めばいいのだが、彼女は僕の部屋で飲むのが好きらしい。
でも、彼女曰く、ここでのお茶会は、僕のためのものなんだそうだ。
ティーポットからカップに紅茶を注ぎ、座った真紅に手わたす。
「ありがとう」
「ん」
カップを手渡すときに手がふれて、一瞬、心臓がはねる。
そのせいで、返事がそっけなくなってしまう。
僕が自分の分を淹れている間に、真紅は何事もなかったかのように、ミルクと砂糖を入れている。
彼女を正視できない。思わず顔をそむけてしまう。
そんな僕の心を知ってか知らずか、真紅は優しく微笑んでいる。
見なくても分かる。
少し前の僕にはわからなかったが、今の僕にはわかる。

少しの間、もしくは長い間、静かな時間が流れた。
時折、スプーンをまわす音が聞こえるだけ。
こういう雰囲気は、嫌いじゃない。
ふいに真紅が口をひらく。
「ねえ、JUM。あなたは魔法の存在を信じるかしら?」
「魔法?」
あまりに唐突な問いにすぐに答えを返せない。
魔法っていうと、ファンタジーであるような火とか水を操るアレか?
「さあ、どうだろう?」
思うがまま答える。
真紅は何を言おうとしているのだろう。つい真紅をみつめてしまう。
「私ね、今日JUMの家に向かう途中でね、寒い、何か足りないっておもってたらね、
あなたがくれた手袋を家にわすれたことに気づいたの。」
・・・ああ、あれか。
以前、真紅が寒くて仕方ないとかぼやいていたから、手袋を編んであげたのだ。
真紅が喜ぶよう、小さなくんくんのワッペンをつけた。
「それと、魔法と何の関係が?」
「人の話は最後まで聞きなさい」
怒られてしまった。

「急いで家に戻って、手袋をとってきたわ。そして、手袋をはめたらね、そこで魔法が起きたの」
ブクロテなんて呪文あったっけ?
「手だけじゃなくて、身体全体が温かくなったの
 私はそのとき、初めて魔法の存在を信じたの。あなたの魔法を」
「魔法なんて、大袈裟な・・・」
「大袈裟じゃないわ。あなたはもっと自分に自信を持って。
人を幸せにすることって、とても難しいことなのよ。でも、あなたにはできる」
僕の編んだ手袋が彼女にとっての魔法なら、彼女の言葉は僕にとっての魔法だ。
不思議と。
温かい。
心地よい。
「JUM、これは手袋のお礼よ」
照れくさくて下がっていた顔が、真紅の声に反応する。
「え・・・?」
真紅の顔が目の前に。
ちゅっ
「!!」
真紅の唇と僕の唇が重なる。

「んっ」
唇が離れる。
「JUM、今日が何の日か知ってる?」
――――――――今日・・・?
まだ思考が麻痺している中、必死に思い出そうとする。
「今日は・・・3月14日・・・それが・・・?」
「もうっ、鈍いわね!ホワイトデーでしょう!まったく・・・
私のあげたチョコを忘れたとは言わせないわ。よって、今のキスの3倍、いえ、100倍返し、それ以上を要求するわ」
「え・・・」
また思考が停止しそうだ・・・。
「今度はあなたからよ」
そう言って真紅は目をつむる。
震える手で彼女をそっと包む。
「はやく温めて」
震える唇で、くちづけを。
「・・・これでいいか?」
「駄目よ。まだ足りないわ」

「もっと・・・」

「もっと優しく」

「もっと激しく」

「私を、抱いて」

結局あれから、時がたつのも忘れ、何度も愛に溺れた。
ぐわー!思い出すだけで顔が真っ赤になる。
まだ手に残る真紅の唇や肌の感触。だめだ、おかしくなりそうだ。
僕が一人悶えていると、
「そろそろ帰らないとまずいから、帰らせてもらうわ」
そう言って真紅は帰り支度を始めた。
気づかなかったが、外はだいぶ暗くなっていた。
「送ってくよ」
「あら、ようやくあなたもレディーの扱い方が分かってきたようね」

家の外に出ると、雪と風が冷たい暴力をふるっていた。
コートを着ていても、寒い。
靴をはいている真紅を待つ間、僕は2階の自分の部屋の窓に目をやった。
さすがにここからでは、窓に描いた相合傘は見えない。
それにもう、結合した水滴が消してしまっただろう。
「何してるの、JUM、行きましょう」
真紅の声で視線が人の高さにひき戻される。
手袋は・・・忘れてないな。
「相合傘でいこう」
「いいわよ」

ふたりならんで歩く。降り積もった雪に足跡をつけながら。
この雪も風も今の僕達にとっては、2人を美しく見せる小道具でしかない。
沈黙と会話を交互に編んで、魔法を紡ぐ。
窓の相合傘は消えてしまったが、いま、僕らは最高に絵になっているだろう。


「送ってくれてありがとう、JUM」
「僕の役目だからな」(僕だけの、僕にしかできない)
「また明日、逢いましょう」
「ああ、また明日」
そして僕は、もと来た道を戻ろうとする。
「ちょっと待って」
真紅の声。
『       』

『     』

『   』

『 』

『』
ちゅっ


おしまい。
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