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「そう…ジュンっていうのねぇ」
「あぁ」


自己紹介が終わり、することがなくなると軽い沈黙が辺りを支配する。
その沈黙を打ち破るため……では確実にないだろうが、水銀燈がニコニコしながら口を開いた。
「さて…それじゃぁ早速行きましょうかぁ♪」
「…行く?どこに?」突然の発言に疑問をぶつける。
……なんだろう、ものすごいイヤな予感が…
すると最強の式神はさも当然と言う顔をして、
「貴方の家に決まってるじゃなぁい♪」
とのたまった。

「………はい?」
「だからぁ、貴方の家に行きましょうって言ってるのよぉ」
何度も言わせないでよねぇ?と頬を膨らます水銀燈。どちかと言えば『美しい』と部類される見た目とのギャップがなんとも可愛い。
……じゃなくて!!
「なんで僕の家に行くことになるんだよ!」
いきなりの無茶な提案に声が荒くなるが、返ってきたのは至極全うな返答。
「だって貴方これから家に帰るんでしょ?私は貴方の式神なんだから、貴方に着いていくのは当然じゃないのぉ」

「…言われてみれば…」
「でしょぉ?じゃぁさっさと行きましょぉ?」
「……そうだな…あっ、でもそれ……」
水銀燈の頭の上と腰でぴょこぴょこ揺れている、一般人が見ると確実に驚愕するであろう耳と尻尾を指差すと、
「あぁ。大丈夫よぉ。これしまえるから」
よ、よかったぁ……
「じゃぁ閉まってくれるか?さすがに一般人に見られると…」
「わかったわぁ…んっ…はぁっ…」
「ちょっ!なんて声出してんだよっ!」
「んっ…仕方ないでしょぉ?これやると…体がゾクゾクするんだからぁ…」
「がっ、ガマンしろってば…」
なんてやり取りを交わしている間に、水銀燈は作業を終えたようだ。
見てみると確かに耳も尻尾も隠れている。
「しかしまぁ…こうしてみたら本当に普通の女の子だよなぁ…」
「まぁねぇ。伊達にン百年生きてないわぁ」
会話噛み合ってないって……


「つ、疲れたぁ…」
やっとのことで玄関の前までたどり着く。
まさか学校から家に帰るだけでこれほど疲れるなんて…
確かに学校の帰り道でいきなりクモ女に襲われて死にかけたことも僕の体力を十分に奪ったんが、水銀燈が道行く自動車や自販機などと言った機械類を見る度に
「ねぇジュン、あれはなぁにっ?」
と、興奮しながら僕の首根っこをひっ掴んでものすごい力でガクガク揺らすんだからたまったものじゃない…
そのときの僕の首振りはあのYOSHIKIのそれに匹敵していただろう…
そんなかんなで、やっとのことで帰宅したときには、僕は身心共にボロボロになっていた…

「げっ、もう8時かよ…早くご飯作って食べよ…」
空腹を感じて独りごちると、水銀燈がなんとも不思議そうに尋ねてきた。
「あら?貴方料理ができるのぉ」
「まぁな。高校生になってからずっと一人暮らしだったから、家事は一通り身についたよ」
「ふぅん……じゃぁ私のぶんもよろしくねぇ♪」


「はぁ…?狐が人間の食いもん食って大丈夫なのか?」
「だぁいじょうぶよぉ♪ほら、だって私普通の狐じゃないもぉん♪」
…答えになってないってば……
「まぁいっか…じゃぁ今日は僕の特性の焼きそばを食わせてやるよ」
「やきそば…?それなぁに?」
しまった…コイツ焼きそば知らないのか…
この調子だと『そば』も『ソース』も知らないだろうから、コイツを納得させられるもっとも適切な解は…
「美味しいもの」
「食べるぅ♪」
即答。
「よし。じゃぁさっさと中に入るぞ」
「はぁい♪……あら?」
さっきまでのご機嫌な態度とはうって変わって真剣な顔になり、鼻をひくつかせる水銀燈。
「どうした?」
「何か…臭うわねぇ。貴方のものとは別の……これは…人間の女…?」

…私、薔薇水晶は非常に困っている。
「…ジュン…どこに行っちゃったの…?」
一人暮らしに加え、日頃家事で忙しい幼なじみのためにご飯を作って、今日だけでも楽をさせてあげよう!という思惑で桜田家に来たのはいいものの…桜田家はもぬけの空。
「…せっかくご飯作ってあげようと思ったのになぁ…」
ちなみに言い換えるならば、密かに想う彼に自分の手料理を食べてもらいたい…というのもある。いや、むしろそっちのがメインだったりする。
「…本当に何やってるのかなぁ…ジュンのばか…」
もしかして…事故か何かに巻き込まれたのかも…いや、そんなことを考えるのはやめよう。
はぁ…どうしてこんなときってネガティブなことばかり頭に浮かんできちゃうんだろうなぁ…
「……早く帰って来ないかなぁ…」
…よし、彼がいつ帰ってきてもいいようにご飯を作っといてあげよう!もちろん私特製のシュウマイも!きっとよろこんでくれるはずだよね。


「人間の女ぁ?だって姉貴は今東京にいるんだぞ?その姉貴以外の女が僕の家にいるなんて…」
ありえない。と言おうとして、僕は重大なことを忘れていたことに気づく。
……一人だけいる。許可も無しに勝手に僕の家にあがれる、紫の髪が特徴の女の子が…
「もしかしたらさっきみたいな妖怪の類が貴方を狙ってきたのかも…」
そんなことを考えている間にもこの式神様はドアの前に立ち、侵入者を迎え打つ態勢に入っていた…ってここでさっきのアレをぶっぱなす気かっ!?
「ジュン、下がってなさぁい。相手によっては扉を開けた瞬間に攻撃が……なんてこともありえるわぁ」
……ヤバい、目がマジだ…
「ちょっ…待て待て待て待てぇーっ!!!」


…ん?なんか外が騒がしい…
「…もしかしてジュンが帰って来たのかな?」
…もしそうなら、まずはうんと怒ってやらなくちゃね。私をこんなに心配させた罰。それからご飯にしようっと♪。
私は嬉しさ6割・安心3割・不機嫌1割で玄関に向かう。


迎撃準備万全の水銀燈の腕を掴み、なんとか攻撃をやめさせようと押さえ付ける。
「なんで止めるのよっ!もしかしたら貴方の命を…」
「バカ!こんなとこであんなもんぶっぱなしたらこの辺一帯火事になるだろがっ!」
それに中にはアイツが…!
「私は貴方を守るのが使命よっ!手段を選んでなんていられないわ!」
言い争いながら取っ組み合いをしていると、突然玄関のドアが開けられた。

「……ジュン…なの?」


家から出てきた少女…幼なじみの薔薇水晶…は、眼前の光景に呆然としている。
そりゃそうだ。
自分の幼なじみと巫女装束の美女が、道端で抱き合って(彼女から見たらそう見える)んだから……
たちまち辺りに冷たい空気が流れ始める。

「…ジュン」
「はっ、はいっ!」
反射的に体が反応してしまう。
うおぉ……クモ女よりこえぇぇ!!!
「…説明…してくれるよね」
「は、はいっっっ!」

この非常に冷たい空気の中、水銀燈だけが「一体どういうことぉ?」と言いたげな顔をしていた……

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