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~・~・~・~・~
~第一段落~
ガチャン
「おい、チビ人間!お茶を出すですぅ」
……他人の家に不法侵入してきて、開口一番がそれか。
「お前な……100歩譲って無断で家に入るのはいいとしてもだ……」
ソファーで横になっていた体を起こす。
「……人様の家に入る時は『お邪魔します』の一言でもかけたらどうだ?」
あからさまに迷惑そうな顔をしてやった。
「喉が乾いたですぅ、早くするですぅ、この能無し人間」
……そんな僕の細やかな嫌味に目もくれず、ちょこんと食卓に着いた。
「何でそんなこと、僕が……」
辺りを見回し、いつも喜んで給仕しているアイツを探す。
「あぁ……そうだった……」
そういえば、昨日……買い物に行くから家を空けるとか言ってたっけ。
相も変わらず使えないな……。


~・~・~・~・~
「んもぅ!聞いてるですか?翠星石は喉が乾いたですぅ!さっさとお茶を持ってくるですぅ!!」
「あー、もうっ……なんで僕が……」
毒ずきながら、しぶしぶキッチンでお茶を入れてお盆ごと食卓に乗せる。
コトンと音をたて、ほんのり湯気が立ち上る湯飲みを目の前に置いた。
「……誰が熱いお茶を出せと言ったですぅ?」
まるで言葉に茨が巻き付いたかのように、端々にトゲトゲしさと冷たさが……。
「……は?」
「お茶と言ったら冷たいのに決まってるですぅ。この蒸し暑い時期に誰が熱いお茶なんて飲むですか。そんな事も解らないですか……つっかえねー人間ですぅ」
はぁ…やれやれ…とため息をついて、侮蔑の視線でこちらを見やる。
「使えない人間って……お前も人間だろうが」
「翠星石は『高貴な』人間ですぅ。ジュンみたいな『下賎な』人間とは違うのですぅ」
……何故こいつと一緒にいると、通常の三倍増しでストレスが溜まっていくんだろうか……。
誰か教えてくれ……。


~・~・~・~・~
~第二段落~
「……お前、近頃ウチによく来るけど、何しに来てるんだ?」
お茶を飲んで一息ついた翠星石に問いかける。……ちなみにコイツはあの後、冷たいお茶を出せと騒いだのち、今度はお茶請けを出せと喚き倒した。
「んぅ…なんでチビ人間なんかにそんな事答えなきゃいけないですかぁ」
ぽりぽりとリスのようにポッキーにかじりつきながら不服顔で返してきた。
「ここんところ毎日だろ?お前の家からここまで結構距離あるのに、わざわざ何しに来てるんだ」
「チビ人間なんかに答える必要はないですぅ~」
コッ…コイツは……。
「ったく……勝手にしろ」
いい加減我慢の限界に達し、ソファーから降りて自室に向かう事にする。
リビングから出る間際に一瞬振り返ると、ぷぃと向こうを向きながらポッキーに手を伸ばす姿が見えた。
レース付きの青い半袖ドレスから覗く、白くて細い腕が印象的だった。


~・~・~・~・~
~第三段落~
~数日後~
ガチャン。
「お邪魔してやるですぅ」
誰も来てくれなんて頼んでない。
「むっ……なんですぅ、その顔は。せっかく来てやったんですから、もうちょっと嬉しそうな顔をするですぅ」
だから誰も来てくれなんて頼んでないって。
「あ、そうですぅ」
何かを思い出したように翠星石がくるりと振り返る。
「ジュン、この家にプラスチックの長い棒とかないですか?」
いきなり何を言い出すかと思えば。
「そんな物、あるわけないだろ」
「チッ……通販で買った、いかがわしい物はたくさんあるのに肝心な物が無いですぅ……使えねぇですぅ」
舌打ちするなよ……。
「……普通の家にはそんな物無いだろう」
「もういいですぅ」
スタスタとリビングから出ていく。
「?もう帰るのか?」
わざわざ時間かけて来といて、滞在時間が短すぎないか?
「ふん……ジュンがあまりにも使えねぇから、自分で買いに行くですぅ」
パタンとドアが閉まった。閉まる直前
「……あの子の為にも」
と聞こえたような……気がした。


~・~・~・~・~
~第四段落~
~次の日~
バタン、とドアが開いた。
現れたのは例に漏れず、翠星石。
しかし、いつもと違い、その両腕には大きなビニール袋が下がっていた。
「ふぃ……重かったですぅ」
翠星石は、息をつきながら手の甲で額の汗を拭った。少し汗ばんでほんのり赤くなった白い肌を見せられ、ちょっと……不覚にも……ドキッとした。
「うぇえ……下着が汗でくっついて気持ち悪いですぅ……」
しかめっ面でドレスの襟元を摘まんで扇ぐ。
っ……だから人前で無防備にっ……。
「……何持って来たんだ?」
「んん…?ジュン、なんで赤くなってるですぅ?」
「し…質問に答えろよ」
「……?」
「い、いいからっ!ちょっと昨日から熱っぽいだけだからっ」
もちろん誤魔化すための嘘だけど。
「うわぁ、ばっちいジュン…近づくなですぅ、バカと風邪がいっぺんにうつるですぅ」

コイツ……嘘とは言え、仮にも病人に……。


~・~・~・~・~
「……まぁ、それはともかく……今日は午後から台風の接近で天気が崩れるらしいから、早めに帰れよ」
「なんでテレビもろくに観ないジュンが、そんな事知ってるですぅ?」
半笑いで言う翠星石。
明らかに馬鹿にしてるな……。
「……ニュースサイトだよ」
「はぁ…相変わらずカビの生えそうな生活送ってるですねぇ」
くっくっ、と翠星石が見下しながら笑った。
「ほっとけよ」
「ささ、ばっちくてカビの生えたジュンなんかほっといて、さっさとやらなきゃいけない事をやるですぅ」
「な、なんだと!?」
「ふふっ」
ふわりと微笑んで、勇みながら部屋を出ていった。
……まぁ、その微笑みには馬鹿にしてる要素が多分に盛り込まれていたんだろうけど。
にしても、ホントに何しに来てるんだ?あいつ。


~・~・~・~・~
~第五段落~
ビュオォォオー……
風が出てきたな。
……あいつ、ちゃんと帰れたかな。
まぁ、心配ないか。
殺しても死にそうにないし。
ザァァアァァア……。
雨も降ってきた。
ニュースでは勢力は強いけど、すぐに通り過ぎると言っていた。
通り過ぎるのを待つか……と言っても、僕自身がやる事はたいしていつもと変わらないんだけど。
ピンポーン……。
ん……?誰だ、こんな時に。
くそっ、面倒だな……。あ、でもこの前通販で頼んででたやつが来たのかも。
リビングに戻ってインターホンに出るより、直接玄関に行った方が早いので直行する。
「どなた様ですか?」
………。
呼びかけるが返事がない。
「んん?」
除き穴で外を確認するも、人影らしいものは見えない。
「おかしいなぁ……イタズラか?」
確認するためにガチャンとドアを開けると、物凄い勢いで風と雨が降り込んできた。
「うわっ……って、ん?」
堪らずドアを閉めようとした手が止まる。
視界のすみに白い物がはためいているのが見えたからだ。


~・~・~・~・~
まさか……幽霊?
はは、それこそまさかだ。今は天気が崩れて暗いとは言え、まだ時刻は昼をまわったばかりだ。
「……」
そのまま閉めようかとも思ったが、一種の好奇心が沸いた。
傘立てから傘を掴み、広げる。
「うわっ!?」
風に煽られて、一瞬にして傘が裏返しになった。
あぁ……この傘はもう使えないかもな。
と、そうしてるうちに暴風雨によって既に全身びしょ濡れになっていた。
まぁ、ここまで濡れたらもういくら濡れてもいいか。
走って見に行く事にする。
謎の白い物体は、庭の方から見えた。
庭に回ってみる。
「くそっ、視界が……」
風雨が強くて目を開けていられない。
やっとの思いで庭につくと、そこには……。
「花……?」
一輪の白い花が、壁に寄り添うように咲いていた。
そのいでたちは、頼りなく、風に煽られて今にも散ってしまいそうだ。
そして……白い花の周りに……多分本人は風避けのつもりだろうが……プラスチックの棒とビニールで、拙いバリケードが築かれていた。
無い知識と技術をフルに使って、一生懸命作ったという事が見ただけでわかる。
しかし、バリケードには綻びが多く、既に半壊状態だ。


~・~・~・~・~
「……ったく」
何か家に補強出来るものがあるはず……。
玄関に足を向けるが……
ビュオォォオオォォォオ!!
「うっ……」
今にも吹き飛んでしまいそうなバリケード。
吹き飛んでしまったら、数秒も持たずにこの花は……。


~・~・~・~・~
「あぁ、クソッ!!」
あの生意気が毎日通って、嬉しそうに、優しい笑みを浮かべて世話をしている情景が容易に想像出来た。
ガシッ
バリケードの端と端を両手で持つ。
こうやって、僕自身が補強してやれば……。
「ぐっ……予想以上に……」
風によって加速した雨粒が、まさに叩きつけるように体中に当たる。
急速に奪われる体温。
時間感覚が狂う。
1時間ほどそうしていたのかもしれない、本当は10分ぐらいだったのかもしれない。
しかし、僕の体力が限界に近づいたのは、思いの他、早かった。
手の感覚がない。
頭の芯がズキズキ痛む。
背中は雨が打ち付けたせいで痛み、熱を持っていた。
(……もう………これ以上は……。)
「ごっ……メン、翠星……せ、き……」
視界がブラックアウトする瞬間、見慣れた人影がこちらに走ってくるのが見えた。
まったく……いつもは皮肉で可愛げの無い顔しかしないのに……。
何、そんな必死な顔してんのかねぇ……。
そこで、ブチリと意識が途絶えた。


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~第六段落~
「ん……ぅん……」
腹部に重みを感じて覚醒する。
「ってて……」
頭の中で鐘が鳴っている。心臓の鼓動と一緒に、鈍った痛みが襲ってきた。
脇をみると、フローリングに膝立ちになり、ベッドに突っ伏して寝ている翠星石の姿が。
「あっ、ジュン君!起きたんだ!大丈夫!?」
ったく、コイツは……肝心な時に家を空けてんだから……。だいたい、台風来るのに学校行事の準備で泊まり込みとか……。まったく、使えねー…。
「……これが大丈夫に見えるか?」
「私っ……凄く心配したんだよ……心配になって先生に送って貰って帰ってきたら、庭で翠星石ちゃんがジュン君を抱き抱えながら泣いてるんだもん」
半泣になりながら言う。
……。
「ジュン君もぐったりしてたし……私、私っ……」
「……喉が乾いた。麦茶が飲みたい」
「へ……?あ、うん、わかった。すぐに持ってくるね!」
パタパタと走っていく。
……麦茶はどこぞのワガママ食いしん坊が飲み尽くしたから、外に買いに出ないといけない。
まったく、頭が痛いのに横でシクシク泣かれたらコッチはたまったもんじゃないからな。


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ふと、突っ伏して寝ている翠星石に目をやる。
よく見ると、頬に幾筋もの涙の後が見えた。
「……んぅ………ジュン………死なないで……ですぅ………」
勝手に殺すな。
ふっと、僕の顔に微笑みが浮いた。
頭をなでてやる。
髪がしめって冷たくなっていた。
自分の布団の一枚を被せてやる。自分はタオルケットにくるまる。
そうやって、ずっと翠星石の頭をなで続けた。
「……ジュン……す………き…………」
……最後の寝言は、聞かなかった事にしようかな。
自分の顔が赤くなるのを誰とも無しに誤魔化すため、外を見る。
窓の外には、底抜けに青い空が広がっていた。

(終)


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~おまけ~
「ん……ぅ………?」
しばらくなで続けていたら、翠星石がモゾモゾと身を捩らせた。
「……じゅ…ん……?」
寝惚け眼で、ボーッとこちらを見上げてくる。
「おはよう、翠星石」
何故か(いつもは出来ないのに)自然に笑いかける事が出来た。
「じゅ……ん……ジュ…ン」
ボーッとしていたのに、頭の起動スイッチが入ったのか、急にハッとして、
「ジュン、ジュン!」
翠星石は凄く心配そうな顔をして、抱きつくように勢い良くこちらに両手を伸ばしてきた。
「っぁ………」
しかし、その伸ばしかけた両の手に、自ら急ブレーキをかけたようだ。
不思議に思い、翠星石を見ると…妙に赤くなってもじもじとしていた。
「ぁっの……、えっと………」
おずおずと、おっかなびっくりコチラの額に手を伸ばしてくる翠星石。
「……だ、だだ、大丈夫……ですぅ?」
ぴた、とヒヤリとした手が熱を持った僕の額に当てられた。
翠星石は、本当に林檎みたいに真っ赤になっていた。


~・~・~・~・~
「ごめん、心配かけた。僕は大丈夫だよ」
出来るだけ、優しく言えたと思う。
「………」
急に顔を伏せて押し黙る翠星石。
「…ど、どうかした?」
急に心配になってきた。
「………ひっ……っく………」
よく見ると、翠星石の肩が小刻みに震えていた。
少し焦る。
「どうしたんだよ、なんで泣くんだよ?」
必死に嗚咽を飲み込むように、翠星石は言葉を紡ぐ。
「…ひっ…くっ……ジュンの心配なんか……ひっく……してなかった……っく…………ですぅっ……」
見ると、顔を赤くし、涙でぐちゃぐちゃになりながらも、気丈にコチラを睨みつけている翠星石の顔があった。
でも…どちらかというと、睨むというより泣くまいと必死になってるように見える。
こんな時、どうしていいかわからないけど……。
「ひぁっ…!?」
僕は、翠星石を抱き寄せた。
「っ……ふぅぅ…っく………ジュンの……バカ野郎、ですぅ……」
翠星石が思い切り泣けるように、胸を貸してあげる事ぐらいしか思いつかなかった。


~・~・~・~・~
~おまけ2~
何分ぐらいそうしていただろうか。翠星石がようやく落ち着いてきた頃…。
バタバタバタバタ…。
「ジュン君っ!麦茶、買って来たよ!!」
息を切らして、アイツが帰ってきた。
「家に買い置きしてたのが切れちゃってて、大変だったよぉ」
「家に無いのは知ってた」
人払いしたんだ。そのくらい気付け。
「えぇっ!そんなぁ!?………って、二人とも、随分仲良しになったのね~」
驚いた顔から一変、若い男女を優しく見守る母親のような顔に。
「っ!?これは違うんだ!」
「っ!?これは違うですぅ!」
バッと、お互い離れる。
見事に翠星石と声がハモった。
「いいんだよ~もっとくっついても。お姉ちゃん、応援するからっ」
「っ、何言ってんだ!まったく!!」
ベッドから立ち上がり、ドアから出る。
「へ?ジュン君、どこ行くの!熱があるんだから寝てなきゃだめだよぉ!?」
「 ト イ レ だ っ 」
ガチャンと乱暴にドアを閉めた。


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……ガチャン。
玄関のドアを開ける。
トイレというのは実は嘘で、本当は確認に行きたかっただけなのだ。
「お、ちゃんと生き残ったか……」
ボロ切れのような有り様のバリケードの奥に、白い花を確認した。
雨粒が花弁にのって、太陽の光にキラキラ反射していた。
「よしよし……」
満足顔で、玄関に戻る。
「……ん?」
玄関のインターホンの前に、何か落ちてる?
近づいて拾い上げると、漆を塗ったように艶やかな黒色の……羽だった。
何だ、コレ。
カラスの羽だろうか……。にしては、凄く綺麗だし……。
なんにせよ、捨てるのは勿体無いと思い、胸ポケットに黒い羽を入れた。
ガチャン
玄関を開ける。
「……?」
誰かに笑われたような気がして振り返る。
誰も居ない。
……気のせいか。
僕はドアを閉めた。
ガチャン。
…………
「ふふっ………」
黒い羽が、舞った。
(多分……完?)

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