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あの人が似合うと誉めてくれた皆紅の着物を着て、暗い道を歩く。
濃く深い霧が着物を濡らすが、私は気にすることもなく目的の場所へと歩き続ける。あの人への手向けの白い山査子の花を持って…
しばらく歩いていると、あの人の声が頭に蘇ってくる。

全く…貴女は困った主人だ…

私は…一生貴女に忠義を尽くします。

忘れようとしても忘れられない、とても優しい声。
ワガママばかり言っていた自分をいつも受け入れてくれたあの人…もう一度逢いたい…
身分の違いにより、かつては伝えられなかったこの気持ちを聞いてほしい。
しかし、あの人はもうこの世にはいない…

そのことを思い出すと、涙が溢れてきた。次から次へと溢れる涙は、乾く間もない。
こんなもの…とうの昔に枯れ果ててしまったものと思っていたのに…
いけない…忘れようとすれば忘れようとするほどあの人が記憶に蘇ってきてしまう…




ふと見ると、あのときのままの笑顔で立っているあの人がいた。
それは幻影だと知りつつも、あの人に再び逢えた嬉しさからその胸に飛び込んだが、それには触れることもできずにあの人の影は空しく散ってしまった…

さざめく時の葉は色褪せ、叶わぬ恋に散る。
もう…あの人には二度と逢えぬ運命…
煩う胸に咲き、刹那に鮮やぐ紅い花は、哀れなこの身を笑う。
やがてこの身を枯らすまで……


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