僕、桜田JUNの生活は
大部分を幼なじみである柏葉巴に依存して生きている
元は僕の高校進学と共に姉が地方の大学に進学が決まった際に
「巴ちゃん。JUN君の事お願いね?」
と言ったのが始まりだ
それ以来、真面目な柏葉は姉の言葉に従い僕の世話を焼いてくれている
だからこそ時々
いや、常にか
僕は考えていた
この時間は
こうやって柏葉が僕の為に何かしてくれる時間は
彼女にとって『有意義な』時間なのかと

だから僕は
聞かなければならない
彼女に
僕の為に多くの時間を割いている彼女に
僕の為に時間を割いて良いのかと


「なあ、柏葉。」
リビングに掃除機をかけていた柏葉に声をかける
すると柏葉は律儀に掃除機を止めてこちらを向いた
「何?桜田君。」
……掃除機かけながら聞いてくれた方が楽なのに。色々と
「お前さ、他にやる事無いの?」
「やる事って?」
ああ、柏葉が首を傾げて聞いてくる
柏葉は級友にはクールなイメージで通ってるから
きっとこんな子供っぽい動作をする彼女を知っているのは僕だけだろうな
出来る事なら誰にも見せたくない
そんな独占欲が鎌首を上げる
「いや、だから自分の為に時間使うとかさ。」
「…部活は楽しんでやってるけど?」
「いや、そうじゃなくて。」
「……。」
「僕の事は放って置いて自分も為に時間使った方が良いんじゃないか?」
だって柏葉も只の高校生
こんな風に毎日のように僕に構うんじゃなくて自分の為に使えばと
「……桜田君は。」
「ん?」
「桜田君にとって私は迷惑?もしそうなら言って。もう、桜田君の家に来たりしないから。」
柏葉が俯いてしまう
違う!そうじゃない!
「そんな事は無い!感謝することはあっても柏葉の事を迷惑だなんて思った事は一度も無い。…でも僕は。」
「……でも?」
でも僕は
「それでも僕は、僕の為に柏葉が自分の時間を蔑ろにするのは間違ってるって思うんだ。だから」
これは本心


彼女の時間は僕だけの為にあってはいけない
僕は今までずっと柏葉に助けてもらって来た
高校に入ってからもそうだし
中学生の時も
僕が不登校になった時も
柏葉はずっと僕の所に来てくれた
他にも閉じ篭った僕の所に来てくれた奴はいるけど
でも柏葉は
多くは語らなかったけど
ずっと僕の傍に居てくれた
ただ実直に僕の傍にいてくれた
だから、そんな彼女に僕は
きっと救われたんだ
「私は。」
ああ、柏葉が僕を見てる
僕はこの眼と
「私はこの時間を無為だ何て思ったことは無い。」
意思の強そうな
「私にとってはこうやって桜田君と居る時間は何よりも大事だし。何よりも。何よりもずっと大事にしたい時間だから。」
この眼と
「だから、もし、桜田君が嫌じゃないなら。私は。」
黒くて細くて
「私はずっとこうやって貴方の傍に居たい。」
触ると気持ちよさそうな髪が


ああ、僕は
「なあ、柏葉。」
だから僕は
「僕はいつも思ってたんだ。」
目を見て
「柏葉に触れたい。」
近づきたい
「柏葉を抱き締めたい。」
触れたい
「柏葉の髪の毛を触りたい。」
感じたい
「柏葉にキスしたい。」
ああ、何でもっと前から
「柏葉とずっと一緒に居たい。」
こうしたかった


多分僕の言葉なんて意味無い
言葉なんて無くても
柏葉は
僕の言葉を聞かなくても

近付いてたらこうやって

二人で指を絡めて

柏葉の頭の重みが胸に響いて


「僕はずっと柏葉に頼ってきた。」
吐露する心情は
「うん。」
凄く子供じみた
「だから多分、これからも頼るし。迷惑かけると思う。」
でも、ずっと
「うん。」
心の何処かで思ってた
「でも、もし。」
ああ、幼い頃のママゴトのままに
「うん。」
きっと二人の役割は決まっていて
「許されるなら。」
どちらが言わなくても
「うん。」
意識しなくても
「僕と一緒に居てくれないか?」
お互いの気持ちは
「はい。喜んで。」
決まっていたんだ。きっと


躊躇無い柏葉の言葉に冷静になると
ああ、僕は今凄い事を言ってしまった
これはきっと悠久の誓い
もっと、良いシチュエーションで
出来るならもっとロマンチックな場所で
女性として最高に幸せな思い出に

でも、そんな事はどうでも良い
ただ唇に感じる柏葉の存在に

ああ、プロポーズとファーストキスが一緒になってしまった

何て少しずれた事を考えていた


『巴はJUNの嫁なようです』に続く

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最終更新:2006年12月31日 22:00